緊張の朝鮮半島情勢
-対決から対話へ-

2013.04.27

*一触即発の朝鮮半島情勢でしたが、ケリー国務長官の韓国及び中国訪問を契機に、対決から対話へという動きがようやく出て来ました。ある新聞に寄稿した原稿を紹介します。字数の制約があったために意を尽くせない箇所も多々あるのですが、大筋はつかめると思います(4月27日記)。

 昨年(2012)12月12日の朝鮮による人工衛星打ち上げ以後悪化を深めた朝鮮半島情勢は、一触即発の軍事緊張のなかで推移してきた.この息詰まる緊張は、アメリカのケリー国務長官の韓国及び中国訪問を通じて、いわゆる9.19合意に基づく6者協議再開、即ち対決から対話へと軌道修正を図ったことにより、ひとまず最悪の事態を回避しようとしているが、今後の情勢はなお予断を許さない。朝鮮半島における戦争勃発を回避し、平和と安定を実現するには、何をどうすることが求められているか。今回の軍事緊張の原因を明らかにし、事態打開のために向きあうべき課題を提起することが小稿の目的である。

<軍事緊張の原因>

 今回の軍事緊張を引き起こした直接の原因は、朝鮮が宇宙条約ですべての国家に無条件で認められている宇宙の平和利用の権利に基づいて人工衛星を打ち上げ、成功したことに対して、国連安保理が人工衛星打ち上げと認めず、「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射もこれ以上しないことを要求」する決議2087を採択したことにあった。朝鮮は打ち上げに際し、「すべての関係側が理性と冷静を堅持して、事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う」(外務省スポークスマン発言)と警告を発していたのだが、安保理がその警告を無視して同決議を採択したことに対して、「元々は計画になかった」(同)第3回核実験で対抗したのだった。そしてB-2戦略核爆撃機なども動員した米韓軍事演習が行われ、朝鮮は「先制核打撃」を公言して一歩も引かず、一触即発の事態に突入したのだ。
 しかし、今回の事態は突発的に起こったのではない。朝鮮戦争にまで遡る、より根深い構造的原因があることを認識しなければならない。
 まず、朝鮮は政権成立当初から一貫してアメリカによる核攻撃・戦争の脅威にさらされてきた。アメリカの核恫喝から如何にして身を守るかは、今日に至るまで朝鮮の安全保障上のもっとも深刻な課題である。
 次に、ソ連が崩壊して米ソ冷戦構造が終結し、中国が改革開放政策に乗り出して米中関係が改善に向かった1990年代以後の国際環境の変化は、朝鮮の安全保障環境を悪化させた。その表れが1993年から94年にかけてクリントン政権が持ち出した朝鮮のいわゆる「核疑惑」であり、朝鮮は同政権による戦争の脅威にさらされた(1994年の米朝枠組み合意によって打開)。
 第三は、2002年にブッシュ政権は朝鮮のいわゆる「ウラン濃縮疑惑」持ち出し、朝鮮を「ならず者国家」と決めつけた。朝鮮は、「ならず者国家」と決めつけられたイラクが侵略され、蹂躙されるのを目の当たりにして危機感を強いられた。
第四は、以上の危機を打開するために中国がイニシアティヴを取って6者協議が開始され、その最大の成果が2005年の9.19合意だが、ブッシュ政権が同合意直後に朝鮮によるいわゆるマネー・ローンダリングを提起して事態が暗転した。朝鮮のミサイル連続発射実験(2006年)を安保理決議1695が非難し、これに対して朝鮮が第1回核実験に踏み切ると安保理決議1718が対朝鮮制裁を行って緊張は激化した。ちなみに、このパターンは、2009年の朝鮮の人工衛星打ち上げの際に繰り返されたから、昨年末の人工衛星打ち上げを発端とする今回は3回目になる。
 以上から、今回を含む朝鮮半島における軍事的緊張の原因は次の諸要素からなることが分かる。
第一、朝鮮が一貫してアメリカによる核の脅威にさらされてきたこと。
第二、それに対する朝鮮の国家としての生存を図るための必死の対抗策が核計画であり、ミサイル計画であること。
第三、朝鮮は核計画の一環としてNPTの認める原子力平和利用の権利を行使して原発建設に乗り出したこと。
第四、また朝鮮はミサイル計画の一環として宇宙条約の認める宇宙の平和利用の権利を行使して人工衛星打ち上げを進めてきたこと。
第五、しかしアメリカ(及び安保理)は、朝鮮の原発及び人工衛星の軍事的性格を強調し、NPT及び宇宙条約を無視して、朝鮮のすべての計画を押さえ込もうとしてきたこと。

<事態打開のための課題>

 以上のように朝鮮半島における軍事緊張の原因を踏まえれば、今後の事態打開のために関係諸国が向きあうべき課題は明らかとなる。今後の半島情勢は、9.19合意に基づく6者協議再開を目ざして、主催国・中国による朝鮮及び米韓日との調整を軸にして展開するだろう。したがって、9.19合意が以上の軍事緊張の原因を取り除くことに対して有効な内容を備えているかどうかを見極めることが一つのポイントとなる。また朝鮮は、2005年以後の情勢の変化を背景に、6者協議再開に応じるためにクリアするべき条件を提起することもほぼ確実だから、その内容を可能な限り見極めることも今一つのポイントになる。
 9.19合意の最重要ポイントは、「朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」(朝鮮による核兵器及び既存の核計画の放棄とアメリカによる朝鮮に対する侵略・攻撃の放棄)を目標とすることを一致して確認(第1項)し、「行動対行動」(双務性)の原則に従って段階的に措置を積み上げていくことに合意した(第5項)ことだ。米韓がこの目標及び双務性を確認することが、朝鮮が6者協議再開に応じる大前提になる。また、9.19合意は米朝及び日朝の国交正常化についても約束(第2項)しており、朝鮮は米日の確認を求めるだろう。
 朝鮮が6者協議再開に応じるための不可欠の前提条件として提起するのは次の諸点だろう。
第一、朝鮮を核保有国として扱うこと(2005年当時との最大の変化に関する承認)。
第二、朝鮮の非核化がその原子力平和利用(原発、ウラン濃縮等)の権利を否定しないことの確認(9.19合意第1項関連)。
第三、宇宙の平和利用(人工衛星打ち上げ)に関する朝鮮の国際法上の権利確認及びこの権利(及びミサイル発射の権利)を否定し、対朝制裁を課した安保理決議の無効確認、
また朝鮮は、2006年以後の中国の言動(特に累次安保理決議に同調したこと)には強い不満がある。朴槿恵政権との関係重視の姿勢を隠さない習近平政権に対する警戒感も働くに違いない。したがって、6者協議を主催する中国が誠実かつ公正にその役割を担うことについての確約も求めるだろう。
以上のいずれも米韓日露あるいは中国にとってすんなりと呑める内容ではないから、6者協議再開には厳しい紆余曲折が不可避だろう。しかし、昨年末以来の経緯は、対決は破滅以外ないこと、対話(つまり6者協議)のみが事態打開の可能性を提供することを明らかにした。6ヵ国が過去の行きがかりにこだわらず、英知を発揮して朝鮮半島に平和と安定への道を切り開くことを期待したい。

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