中国の対朝鮮半島政策(変化の兆し)

2013.04.14

*ケリー国務長官の訪中に向けて、中国では米中関係に関する総合的な検討が行われ、その重要な一環(ケリーとの話し合いにおける3大テーマの一つ)として対朝鮮半島政策の見直しが進められたことを窺わせる重要な文章が人民日報・環球時報、中国ネット(国務院系列)に相次いで発表されました。恐らくそういう作業を受けてのことだと思われますが、4月7日に習近平主席が、またその前日の6日には王毅外交部長が極めて意味深長な発言を行って注目を集めました(同じように意味深長な発言としては、4月13日にケリーと会見した李国強首相が「地域の平和安定を維持することに対して、関係各国はすべて責任を負い、結果を引き受けなければならない。朝鮮半島及びこの地域でことを挑発し、引き起こすことは各国の利益を損ない、自分の上に石を落とすことにほかならない(強調は浅井。以下同じ)」と述べています)。
 私は前回のコラムで、「安保理で拒否権を持つ中国の朝鮮核ミサイル問題に関する一連の対応は明らかに間違っている。朝鮮半島情勢をこれ以上悪化させないために、そして朝鮮半島ひいては北東アジアに平和と安定をもたらすためには、中国がアメリカの権力政治むきだしの対朝鮮政策を正面から批判する立場を確立し、堅持する以外にない」と指摘しました。4月6日以後の政府要人の発言及び主要メディアに掲載された文章は、中国が朝鮮に対して率直に本心をぶつけると同時に、アメリカに対しても、従前以上に歯に衣着せないでもの申す姿勢を鮮明にしようとしている様子を窺わせるものです。そういう意味では、私としては「良い方向への第一歩」と評価できるものだと思います。
 他方、朝鮮に対する「率直な物言い」に関しては、下記華益文文章の「国連安保理決議に違反して核実験や弾道ミサイル技術を使った発射を行ってもよい理由は1つもない」という指摘にみられるように、安保理における中国の間違った対応(米韓との同調優先)が朝鮮を今日まで追い込んできたという重大な事実に対する反省がまったく窺われません。そうである以上、中朝国境地域住民の不安感の存在ひいては中国人の伝統的対朝好感の急速な流失に関する中国側指摘(下記丁剛文章)はそのとおりであるとしても、朝鮮としては「はい、そうですね」という受け止めにはなりにくいでしょう。
中国の党政府が公然とした自己批判を行うことはあり得ないことであるとしても、下記宋栄華文章が指摘しているように、中国が「朝鮮の平和的発展を保証する」、「その中には原子力及び宇宙空間の平和利用の権利が含まれる。朝鮮の合理的な要求に対しては誠心誠意で支持する」ということについて中国が態度をハッキリさせ、そのことに朝鮮が得心してはじめて、中国の朝鮮に対する「率直な物言い」に朝鮮が耳を傾ける可能性が出てくるのだと思います。
以上を断った上で、最近の中国側言論内容を紹介しておきます(4月14日記)。

1.中国指導者の発言

<4月7日の習近平主席演説(関連部分)>

 朝鮮半島情勢に関する意味合いが込められているのは強調部分なのですが、どういう全体的枠組み、脈絡においてその部分が言及されているかを理解する必要があると思います。

 人類には地球しかなく、各国は一つの世界に共存している。共に発展することが持続的発展の重要な基礎であり、各国人民の長期的及び根本的な利益に合致する。我々は一つの地球村に生活しているのであり、運命共同体意識をしっかりと確立し、時代の潮流に即して正確に方向性をつかみ、同じ船で助け合い、アジア及び世界の発展を絶え間なく新しいステージに推し進めるべきだ(として4つの課題を挙げる。その二番目として)
 第二、心を合わせて平和を守り、共に発展することを促進するために安全保障を提供する。平和は人民の恒久的願望だ。平和はあたかも空気及び陽光の如くであり、裨益しているときは何も感じないが、失えば取り戻すことが難しい。平和なくしては発展を語る余地がない。国家は大小、強弱、貧富にかかわらず、すべてが平和の擁護者及び促進者でなければならない…。国際社会は総合的安全保障、共通の安全保障及び協力的安全保障という理念を唱えることによって、我々の地球村を共に発展するための大舞台にするべきであり、お互いに争う競技場にするべきではなく、ましてや自分の私利のために地域ひいては世界をかき乱してはならない。各国の往来は頻繁であるから、衝突は避けられないが、カギは対話協議及び平和的交渉を通じて矛盾対立をうまく解決し、相互の関係の大局を発展させることを守ることだ

<4月6日の王毅外交部長発言(潘基文国連事務局長との電話会談)>

 王毅外交部長と潘基文国連事務総長との電話会談は事務総長の要請に基づいて行われたことが理解できる文章ですが、その中での「中国の玄関先で騒ぎを起すことは認めない」という王毅の発言が内外で注目を集めました。上記の習近平の「自分の私利のために地域ひいては世界をかき乱してはならない」とする発言と同じく、いわゆる西側メディアでは、主に朝鮮批判の発言と受けとめられましたが、それは明らかに偏っており、下記の中国側文章が指摘するように、中国は朝鮮に対しても「率直な物言い」をするとともに、米日韓に対しても歯に衣着せぬ物言いをしているのです。

 4月6日夜、王毅外交部長は潘基文国連事務局長との求めに応じて電話会談を行った。
 潘基文は、朝鮮半島情勢が緊張を増していることに対して関心と憂慮を表明し、情勢が速やかに沈静し、制御不能を回避することを希望した。国連は中国及び関係方面と意思疎通を保つことを願っている。
 王毅は次のように述べた。中国は、朝鮮半島の当面の緊張した事態に対して深刻な関心を表明する。我が方の立場は非常に明確であり、情勢が如何に変化しようとも、対話を通じて問題を解決することを堅持し、半島の非核化を推進することを堅持し、半島の平和と安定を維持することを堅持する。朝鮮半島は中国のお隣である。我々は、この地域におけるいかなる一方の側による挑発的な言動にも反対であり、中国の玄関先で騒ぎを起すことは認めない。中国は関係国が冷静と自制を保つことを促し、情勢緩和を推進する。中国は6者会談プロセスの回復を呼びかけ、問題を再び対話の軌道に戻させる。

2.主要論調

 以下では私が注目した6つの文章を紹介します。

<宋栄華文章>

 宋栄華については、中国公共外交協会秘書長、外交学院客員教授と紹介されています。私は正直初にお目にかかる人物ですし、この文章が載ったのは4月12日付の広州日報という地方紙であることも考慮しなければなりません.しかし中国の検索ネット「百度」に拠れば、中国公共外交協会という組織は、2012円12月31日に成立した全国規模の非営利組織であり、外相経験者の李肇星を会長にし、発会式には当時の楊潔篪外相も出席して祝辞を述べたと紹介されていますので、この文章の内容は公式的立場を踏まえたものであることは間違いないと思います。
 なお文中にある「数年に及ぶ困難な交渉で達成した協定が大したこともない事件で決定的に壊れてしまう」という指摘は、6者協議で実現した2005年9月19日のいわゆる9.19合意のことです。この合意が達成された直後に、アメリカのブッシュ政権が朝鮮のマネー・ローンダリング問題を持ち出して事態が暗礁に乗り上げ、朝鮮は翌2006年に第1回の核実験強行に至ったのでした。朝鮮の核実験強行は優れてアメリカの「大したこともない事件」引き起こしがなければ防げたわけです。
ついでに言えば、第2回及び第3回の核実験強行は、朝鮮の人工衛星打ち上げをとがめる安保理決議採択に対する朝鮮の反発として起こったものですから、中国が決議採択を食い止めていたならば、朝鮮半島情勢はこれほど悪化していなかったのです。
もちろん、米朝直接交渉を狙う朝鮮としては、その有力な手段として核開発を進めるという政策があることはもちろんです。しかし、これまでのコラムで指摘してきたとおり、そして今回紹介する中国側文章も認めるように、そういう政策はアメリカの強硬な対朝鮮政策が原因であるわけですから、アメリカの対朝鮮政策を正さない限り、朝鮮の核政策を思いとどまらせることは不可能なのです。
宋栄華文章は、朝鮮の原子力及び宇宙の平和利用の権利を承認し、核開発だけを思いとどまらせようとしており、朝鮮に対して厳しい論調が目立つ中国の言論のなかでは貴重なものだと思います。

 (王毅の「中国の玄関先で騒ぎを起すことは認めない」という)態度表明は、中国が半島で戦争が爆発し、衝突が起こることを許さないとする中国の厳粛な立場を明確にしたものだ。
中国の国際環境が変化し、改善するに伴い、朝鮮は既に中国にとっての戦略的防壁としての役割を失ったのであり、中国は朝鮮半島の出来事にあまりかかわる必要はないと主張するものさえいる。しかし王毅の態度表明は、時代は違うとはいえ、中国は引き続き旗幟鮮明に朝鮮半島で戦争が勃発することに反対するという強烈なシグナルを発するものだ
城門が焼失すれば、災いは養魚池に及ぶ。戦争は、東北アジアの力関係を変化させ、中国の周辺環境にも深刻な影響を与え、特に中国・東北3省の発展に影響を及ぼす。朝鮮半島の不戦不乱を維持することは中国の朝鮮半島政策における主要な目標だ
掌一つでは音は鳴らないという諺がある。朝鮮半島情勢が今日の段階まで至ったのは、客観的に言えば、米朝の相互不信、相互非妥協と直接の関係があり、双方がともに責任を有する。互いの敵対及び懐疑の感情は根が深く、双方の接触及び交流は曲折を極めているので、席を共にするということは往々にして極めて困難で、数年に及ぶ困難な交渉で達成した協定が大したこともない事件で決定的に壊れてしまう。したがって、戦争の勃発を防ぐためには、中国としては半島の各方面、特に米朝に対する働きかけをする必要がある。
アメリカに対しては、利害を説き明かし、きめ細かな働きかけを行い、必要に応じて「中国の玄関先で騒ぎを起すことは認めない」ことの意味を明らかにし、アメリカが軍事力あるいは軍事力の威嚇によって半島問題を解決しようとする意図を断つ。さらにアメリカに対して、朝鮮の事態への対処を口実にして中国に対する軍事的配置を強めるというやり口を放棄するように忠告する。
朝鮮に対しても、「保」と「圧」の働きかけを強める必要がある。保とは、朝鮮の安全保障を保つということ、朝鮮の平和的発展を保証するということであり、その中には原子力及び宇宙空間の平和利用の権利が含まれる朝鮮の合理的な要求に対しては誠心誠意で支持する圧とは、朝鮮が挑発的言動を放棄するように圧力をかけること、国際社会と協力するように圧力をかけること、核兵器開発計画を放棄するように圧力をかけることだ。「保」と「圧」とは相互に関連しており、補い合う関係に立つ。
当面の情勢からみれば、朝米間ですぐさま戦争が起きることはないだろうが、深刻に対立している状態を緩和させることも確かに容易ではない。朝鮮の指導者は年若く血気盛んであり、無謀なことを敢えてしかねない。アメリカの実力は抜きんでており、現在の世界における唯一の超大国だから、小国との間で簡単に引き分けとして兵を引くはずがない。したがって、中国一国の力だけで半島の事態のさらなる悪化を「阻止」することは至難である。米朝両国を含む各国のすべての平和愛好勢力を連合させ、中国と共に米朝に対する働きかけを行わなければならない。

<華益文「朝鮮半島問題:4カ国へそれぞれ一言」>

この文章は日本でも紹介されたもので、4月10日付「人民網日本語版」に載ったものをそのまま紹介します。原文は同日付人民日報海外版コラム「望海楼」として掲載されました。華益文については前のコラムでも紹介したことがありますが、国際問題専門家ということです。
前にもコラムで指摘しましたように、朝鮮半島問題では環球時報の社説が頻繁に現れるのですが、人民日報のもっとも権威がある鐘声文章はトンと見かけません。その人民日報が、この華益文文章を出し、また、後で紹介するように、人民日報ではなく環球時報で、高級記者・丁剛の文章を出すということは、私にとってはナゾです。あるいは、人民日報国際部における見解統一ができないために鐘声文章として結実させ得ないでいるのではないかという推測の余地もあると思うのですが、ここではこれ以上深入りしません。

  中国の王毅外交部長(外相)は6日、国連の潘基文事務総長との電話会談で、朝鮮半島情勢の緊張に深刻な懸念を表明するとともに、「中国の玄関先で騒ぎを起すことは認めない」と述べた。
 この発言がどの国を指しているのかにメディアは特に注目している。その解釈は人によって異なるだろう。だが朝鮮半島情勢が緊張の度を高める中、地域の平和・安定の大局および中国の国益を守る観点から、朝鮮半島問題の各当事国を一喝する必要がある
 ■朝鮮へ 情勢判断を誤るな
  朝鮮には軍備と科学技術を強化し、自国の安全保障に対して理に適った懸念を抱くだけの理由が百もある。だが国連安保理決議に違反して核実験や弾道ミサイル技術を使った発射を行ってもよい理由は1つもない朝鮮は昨年以降の朝鮮半島情勢の相互エスカレートに対して、逃れることのできない責任を負っている。朝鮮には自国の特殊な国情、政治的必要、政策選択、政治言語スタイルがある。これは朝鮮の内政であり、外国に干渉の権利はない。だが朝鮮の選択と言動が朝鮮半島の摩擦を激化させ、地域の平和と安定に影響を与えた場合、国際問題に変化する。こうなると朝鮮の勝手にさせるわけにはいかなくなる。朝鮮半島情勢も朝鮮の構想や期待に沿って推移するとは限らない。
 ■米国へ 火に油を注ぐな
 米国は朝鮮半島問題に関する安保理決議という「天子の宝剣」を持ち、核不拡散など安全保障問題上も理に適った懸念を抱いているが、国連決議を超えた一方的な対朝制裁・圧力は正反対の結果をもたらすだけだ米国が数十年来朝鮮に対して制裁や圧力を加え、孤立させてきたことも、朝鮮半島の摩擦の根源の1つだ。1990年代以降、歴代米政権の対朝政策は接触と隔絶の間で揺れてきた。これは朝鮮に米国の誠意に対する疑念を抱かせ、合意に違反する口実を与えた。米国は総合国力と軍事的プレゼンスにおいて朝鮮を遥かに上回る超大国で、強い立場にある。力を誇示するいかなる行動も朝鮮半島情勢の緊張を高めるだけだ
 ■韓国へ 焦点を見失うな
 韓国は38度線を隔てて朝鮮と向かい合っている。同盟国である米国が「保護の傘」を提供しているものの、安全保障は非常にもろい。南北の地理的位置と軍事配備の特徴から、朝鮮半島でいかなる衝突や戦争が起きても、韓国は最大の被害者の1つとなる。南北双方はかつて接触や交流を増やした時期があり、韓国の新政権も以前は李明博政権とは違いのある対朝政策を実行する意欲を繰り返し表明していた。朝鮮半島問題の主要当事国の1つである韓国は、朝鮮や米国につられて騒ぐのではなく、朝鮮半島情勢の緊張の火種を取り去る役割を果たすべきだ
 ■日本へ 他国の危機につけ込みうまい汁を吸おうとするな
  朝鮮が衛星やミサイルを試験発射するたびに、日本は鳴り物入りでいわゆる「迎撃」に向けた配備をする。これは機に乗じて軍備を調整・増加する行動である面が大きい。過去の6カ国協議において日本は足を引っ張り、ごく一部の問題にこだわり続けることがあった近視眼的戦略に基づき、朝鮮の「脅威」を口実に自らの軍備の発展と安全保障戦略の調整を図るこうした行動は、地域情勢に複雑な要素を増やすだけだ
 朝鮮半島で戦乱が生じることはどの国の利益にもならない。騒ぎを起こし戦乱を引き起こせば、地域の平和・安定が打撃をこうむり、地域の協力・ウィンウィンが損なわれ、騒ぎを起したどちらの側の小さな算盤勘定も水泡に帰す。
  朝鮮半島情勢はまだ一触即発のレベルには達していないが、すでに地域の平和・安定を損なっている。中国の玄関先で騒ぎを起すことは断じて認めないとは、つまり朝鮮半島情勢の悪循環を制止し、いずれの側がいざこざを引き起すことにも反対し、人為的に緊張の雰囲気をつくりあげることに反対し、武力による問題解決を囃し立てることに反対するということだ。朝鮮半島情勢の緊張を高めるいかなる言動も強く非難され、反対されるべきだ。
 中国の玄関先で騒ぎを起すことを認めないと強調することは、決して中国版「モンロー主義」ではない。中国は勢力圏をつくらない。朝鮮半島問題における中国の出発点は地域の平和・安定の維持であり、事態そのものの是非曲直に照らして自らの立場と行動を決定している。現在、朝鮮半島の平和・安定は決して希望がないわけではない。関係各国が冷静になり、自制し、情勢の一刻も早い緩和を促し、事態の立て直しに向けて環境を整えることが当面の急務だ。

<中国ネット「ケリー国務長官訪中に際して突っ込んで意思疎通を行うべき3大核心議題」>

この文章は、4月12日付で掲載されたものです。中国ネットは、国務院ニュース弁公室及び国家インターネット情報弁公室が指導するものですので、この文章も少なくとも半公的な見解と見て良いでしょう。ケリーの訪中に際して中国側が提起する問題として、中米が新型大国関係を構築するという問題、アメリカが中国の核心的利益を尊重することができるかどうかという問題及び朝鮮半島の平和と安定の問題をあげています。中国がまなじりを決してアメリカにもの申そうとしていることを窺うことができますので、朝鮮半島部分以外の箇所も紹介しておきます。

 最初は、中米が新型大国関係を構築するという問題だ。中米新型大国関係を構築することは、オバマ政権第1期における両国ハイ・レベルでの戦略的共通認識として確定されており、中国の前中央指導集団が残した重要な外交的財産でもある。中国の新指導集団及びオバマ新政権メンバーは既に、中米新型大国関係の発展に力を尽くすことを幾度も表明している。いま行うべきことは、この共通認識に確実かつ豊富な理論的及び実践的な内実を与え、双方が誠実に実行することである…。
 第二は、アメリカが中国の核心的利益を尊重することができるかどうかという問題だ。この問題は、昨年9月にクリントン国務長官が訪中した際に中国の指導者が提起したもっとも重要な問題であり、中国の関心についてしっかりした回答を得るに至っていない。中日の釣魚島紛争において、アメリカは引き続き日本のいわゆる「実効支配の権利」に肩を持つのか。南海(南シナ海)問題において、アジア太平洋戦略の根本的調整に名を借りてさらなる波風を起こそうとするのか。台湾問題において、アメリカは政治及び安全保障の領域で両岸関係の平和的発展推進に対していかなる態度を取るのか。これらの問題はすべて中米戦略的相互信頼の根本にかかわり、アメリカは中国に対して誠意ある対応を行うべきである。
 第三は、朝鮮半島の平和と安定の問題だ。朝鮮半島危機は、今日の世界におけるもっとも危険で、爆発する可能性がある焦点の問題であり、中米間に横たわっている共通の挑戦である。中米は、朝鮮半島の将来に対してそれぞれの考えがあり、戦略的意図においても本質的な違いがあるが、半島の非核化及び東北アジアの根本的な平和と安定を必要とする点においては共通しているアメリカは下心を持って朝鮮の核問題を扱っており、半島の緊張情勢の螺旋的エスカレーションについて逃れられない責任を負っている。アメリカは、朝鮮に対する不必要な刺激をやめ、傲慢な態度を取り下げて朝鮮と話し合いを開始するべきだ。中国は同時に、アメリカが東北アジアで勢いを借りて推し進めているミサイル防衛システムの建設、地域における大幅な軍拡に対しても重大な関心を持っている。
 アメリカは、中国を引っ張り込んで朝鮮を懲らしめることを期待するべきではなく、今回のケリー訪中を通じて「中米が共同して朝鮮の後始末を執り行う」などというシグナルを対外的に発するというような幻想を持つべきではなおさらない。(以下省略)

<丁剛「朝鮮は中国民衆の気持ちを考慮しなければならない」>

「高級記者」というのは記者の職称のなかの最高位で、大学でいえば教授に相当するものだそうです。鐘声文章の起草などにも当然参加する人物だと思いますが、この文章は4月12日付の環球時報に掲載されました。
朝鮮の核実験が中国東北地方の住民生活に深刻な影響を及ぼしていること、また朝鮮の言動が中国人の対朝鮮感情を離反させていることについての指摘は、そのとおりだろうと思います。しかし、そういう中国人の対朝感情の変化は、中国メディアの朝鮮報道に影響された結果であることは間違いないところです。つまり、中国の安保理での間違った対応を「正しいもの」として前提としているわけですから、中国人の対朝感情が悪化するのは当然です。
それは、日本国内の対朝鮮感情の作られ方と似ています。つまり、日本のメディアが「これでもか、これでもか」とばかり朝鮮を悪者扱いする報道をしているのですから、日本人の対朝感情が底なしで悪化しているのです。中国メディアが心掛けるべきは、中国の安保理での間違った対応をまずは直視することでしょう。
そういうことを断った上で、丁剛文章を紹介しておきます。

 一人の中国人として、筆者が現在の朝鮮半島の緊張した情勢から連想する最初の問題は…中国・東北地方の発展が影響を受けないかどうか、国境地帯で生活する中国民衆がどう考えるだろうかということだ。
 朝鮮の戦争威嚇の目標は主として韓国とアメリカだが、中国に影響する一面もある。戦争が始まってしまえば、その規模がどれほどのものであれ、中国は完全に部外者たることはできないのであり、東北地方の中国民衆は影響を受けざるを得ない。朝鮮が現在既に核兵器を手にしているからなおさらそうである。
 民衆は戦略云々を考えることはあり得ないし、朝鮮が核兵器を持つべきか否かについてもあずかり知らぬところだが、民衆が日々を送るに際して考えることは安寧であり、朝鮮が核実験を行ったことはこの安寧を破壊した。朝鮮が核実験を行う限り、中国の環境保全部門は観測報告を公表せざるを得ない。なぜならば、核実験地点が中国からわずか100キロあまりという近さだからだ。…幸いなことはこれまでのところはまだ汚染が起こっていないということだ。しかし、中国の環境保全部門がこうしたことを行うということが、朝鮮の核武装は中国民衆にとってリスクがあるということを側面的に証明している。
 …朝鮮が戦争動員をかけるたびに、我々も万一の事態を防備するための準備を行わなければならず、そのためにかける費用も決して少なくない金額だ。ましてや、このような「戦争の懸念」のもとで中国民衆はどうして安心して生活することができるだろうか。朝鮮の直近の核実験により、吉林省延辺州の8県市の住民は震え上がった。この10年ないし20年の間で、中国国境地域でかくも大きな動静はかつてないことだ。中国民衆で流れに身を任せる気持ちのある者はいないだろう。
 朝鮮には核兵器を利用してアメリカと韓国に対して言い値をふっかける自由はある朝鮮が誰に向かって核兵器の照準を定めるかは朝鮮の問題だ。中国も朝鮮半島を全面的に掌握しようとは思わないし、朝鮮が中国の掌中のカードではないことは早くから明らかにしている。しかし、中国と朝鮮の関係は、米韓日ロとは異なるのであり、朝鮮としてはこうしたことをやるに当たっては中国民衆の気持ちを考慮するべきであり、中国としても基本的な知る権利及び戦争を制止する権利があって然るべきである
 朝鮮はかつて中国のアドバイスを聞かずに核兵器を保有したが、これは置いておこう。しかし、将来どう核兵器を弄ぶかということについては、中国としてはおとなしく引きずられるわけにはいかない。朝鮮としては、いかなることにも限度というものがあるという道理をわきまえるべきだ。朝鮮は中国の隣国として、特に中国が数十万人の生命でその生存を守った国家として、中国民衆にかくも大きなコストを負担させるということは、情においても理においても道理が通らない。中国は、東北地方全体の発展を朝鮮の核兵器に縛り付けることもあり得ないし、いかなるものがアジアにおいて混乱を作り出すことも許さない。朝鮮に対して、ある程度のところまで行ったら場を収めるべきだとハッキリ言うことは、なんら度が過ぎたということではない

(参考)環球時報が4月10日から12日にかけて中朝国境地域3地点(遼寧省丹東市、吉林省延辺自治州、吉林省通化市)で行った民意調査結果(4月13日付同紙掲載)
-朝鮮半島情勢が「緊張している」とするもの26.2%、「やや緊張している」とするもの26.6%、「あまり緊張していない」とするもの15.3%、「緊張していな」とするもの25.9%。
-親戚または友人が朝鮮または韓国を訪問しているもののうち、「心配であり、速やかに帰国を希望するもの」が28.1%、「やや心配しており、様子を見てから決定する」が27.4%、「あまり心配いていない」が21.3%、「心配していない」が23.2%。
-「半島情勢でいちばん心配している変化」について、「朝鮮戦争が勃発すること」としたものが33.9%、「中朝国交で難民流出が起こること」としたものが29.8%、「アメリカなどの域外大国が半島の衝突に介入すること」としたものが28.6%、「朝鮮が第4回核実験を行うこと」としたものが24.8%(複数回答)。
-「朝鮮が核実験を行った後、居住地域が環境汚染することを心配したか否か」という問いに対して、「心配した」が57.1%、「やや心配した」が20.0%。
-「半島危機に対して中国はどう対処するべきか」という質問に対し、「中国は朝鮮の側に立って韓米が軽挙妄動しないことを要求するべきだ」としたものが26.2%、「朝鮮が自制を保つように措置を講じて要求するべきだ」としたものが23.2%、「局外に立って、自らの利益を守るのが最善」としたものが17.8%、「朝韓米3国に圧力を行使し、地域情勢のエスカレーションを避けるべきだ」としたものが15.1%、6者協議再開を含む平和的協議などの対処方針を提起したものが5.0%。

<馮創志「中国が朝鮮に警告することは米日とグルになることを意味するものに非ず」>

この文章は、4月12日付の中国ネットに「観点中国」として掲載されたものです。「観点中国」とは、検索ネット「百度」の紹介に拠りますと、「国内外のホットな事件に関して、中国のトップレベルの専門家の見解を集約し代表的な立場及び観点を示すもの」とされています。

 …4月10日付人民日報海外版が「こうなると朝鮮の勝手にさせるわけにはいかなくなる」という発言を行った。敏感な外国メディアは…中国の対朝鮮政策に変化が起きたとみなし、米日韓とグルになるのではないかとするものすらあった。…
 しかし、この文章を仔細に見れば、「こうなると朝鮮の勝手にさせるわけにはいかなくなる」と警告すると同時に、米韓日3国に対しても同様に名指しで警告しているのだ。例えば、この文章は、数十年来のアメリカの対朝鮮制裁、圧力、孤立化も同じく朝鮮半島の矛盾の根源の一つであり、アメリカが「力を誇示するいかなる行動も朝鮮半島情勢の緊張を高めるだけだ」と単刀直入に指摘している。…また(この文章は)日本に対して「他国の危機につけ込みうまい汁を吸おうとするな」と鋭く批判的に警告している。…(外国メディアが朝鮮の部分のみを取り上げて論じるのは)人民日報の朝鮮半島に関する立場に対する誤解誤読以外の何ものでもない。
 習近平国家主席は4月7日…の演説のなかで「私利私欲のために地域ひいては世界をかき乱してはならない」という強い口調の発言を行い、王毅外交部長は潘基文との電話会談において「中国の玄関先で騒ぎを起すことを認めない」という…発言を行った。(最近の朝鮮の言動の具体例を列挙した上で)このような言動は当然に朝鮮半島情勢の緊張を引き起こし、朝鮮半島情勢の安定を維持しようとする中国の働きかけに対する新たな障碍となっている。しかし、中国ハイ・レベルの以上の2つの厳正な発言は、米日韓同盟が軍事力を誇張することに対する警告でもあるのだ。関係国が6者協議に戻ることを要求するのは中国の一貫した立場であり、この中国の立場は公明正大なものであり、国連憲章の精神を体現してもいる。
 …複雑な朝鮮半島情勢に対する中国の態度は確固としたものであり、…安保理決議に違反するもの、常軌を逸した発言をするものは誰であろうと批判し、警告するのだ。中国の朝鮮半島に関するいかなる言動も、中国の核心的利益に基づいて考慮し、国連憲章と照らし合わせて行っている。…
 以上をまとめれば次の二言にまとめることができる。中国は朝鮮が勝手に振る舞わないように警告する。しかし中国はそれ以上に、米日などがチャンスに乗じて半島情勢をかき乱すことを防ぐ必要がある。

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