朝鮮の核問題の平和的解決のために

2013.04.04

*安保理決議2094採択後、朝鮮半島情勢はますます軍事緊張の度合いを強めており、一触即発の不測の事態が深刻に懸念される情勢になっています。朝鮮の再三の警告内容から判断すれば、朝鮮のこのような「超強硬」姿勢は完全に想定内のことであるのに、米韓はもとより、中国までが極度に緊張を深めているのは、私にとってはある意味理解不能なことです。やはり、米韓のみならず中国も朝鮮の出方について高をくくっていた、という厳しい批判は免れないところです。
私は、最近あるメディアの誘いに応じて短文を書きましたが、その内容は、その後の事態の展開踏まえても時期遅れになっていると思いませんので、ここに紹介しておきます。一言で尽くせば、「中国よ、朝鮮を難詰しても始まらないぞ。目の色を変えてアメリカにもの申せ」ということです(4月4日記)。

 朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)の核問題の帰趨如何は今後の北東アジア情勢を左右する。北東アジアの平和と安定を希求するものである限り、この問題の平和的解決を目指すべきであることに同意するはずである。問題の平和的解決のカギは何か。私は大きく言って3つのポイントがあると考える。一つは、朝鮮の核・ミサイル政策にすべての問題があるとする「常識」のウソをしっかり捉え、「北朝鮮脅威論」の虚構を明らかにし、小国・朝鮮という実像を正確に認識すること、第二は、朝鮮の核問題の根源はアメリカの戦後一貫した対朝鮮政策にあることを正確に捉え、同政策の転換に私たちの問題意識を集中させること、そして第三に、覇権を求めない「新型大国」のあり方及び民主的な国際関係構築を標榜する中国が対朝鮮半島政策を正すことである。

<朝鮮に関する「常識」を正し、実像に即した認識を持つ>

 朝鮮を「諸悪の根源」とする一般的なイメージを作り出している「常識」には様々なものがある。もっとも一般人の耳目に入り込んでいるのが「朝鮮の核ミサイルは日本(あるいは米日)に対する脅威」という「常識」だ。「朝鮮の核ミサイルが飛んできたらどうする?」と安倍首相に真顔で問われれば、誰もが「コワい」「日米安保は必要」となる現実がある。
しかし、小国・朝鮮が無謀に核ミサイルで攻撃を仕掛ければ、次の瞬間に軍事超大国・アメリカの報復攻撃で朝鮮は地上から消える。そのことは、朝鮮自身を含め、誰もが知っていることだから、そういうシナリオはあり得ない。
朝鮮が必死に核ミサイルを開発するのは、前後60年以上アメリカの先制核攻撃の威嚇、脅威におびえ続けてきた同国が、アメリカが戦争を仕掛けるのを思いとどまらせるためのギリギリの自己防衛手段だ。
以上の軍事的イロハさえわきまえれば、上記安倍首相の問いかけはためにするウソということが分かり、この「常識」の化けの皮もはがれる。実は、2月に訪米した安倍首相は、いまや「中国脅威論」を前面に打ち出し、虚構に過ぎない「朝鮮脅威論」をひっそりと引っ込めた。
 もう一つ「北朝鮮の核ミサイル開発は安保理決議違反」という「常識」も実にすんなりと受け入れられている。「安保理決議が禁止する核ミサイル開発を朝鮮が強行するなどもってのほか」、だから「懲罰すべし」となる。
 しかし、人工衛星打ち上げは、朝鮮が宇宙条約(国際法)公認の宇宙の平和利用という万国に例外、制限なしに認められた権利を行使しているに過ぎない。条約は、宇宙の軍事利用を禁止しているが、宇宙の平和利用のために軍事技術・手段を使うことを否定しない(衛星打ち上げ用ロケットは確かにミサイルにもなるが、それは例えば米日韓にしても同じことだ)。真の問題はむしろ、アメリカが安保理決議を「動員」し、朝鮮の「弾道ミサイル技術を使った打ち上げ」を押さえ込もうとすることだ。
なぜならば、国際条約で認められる国家の国際法上の権利を安保理(アメリカ以下の大国)が思いのままに制限し、禁止できることを認めてしまったら、国際社会は大国の意のままになってしまう。国連(安保理)は「正義の味方」とする「国連信仰」が根強く、しかも小国・朝鮮を「脅威」扱いしなければ気が済まない日本では、このような根幹的なことが軽々に見過ごされているが、時代を2世紀前のウィーン体制に逆戻りさせることを認めてはならない。これは、21世紀の国際社会のあり方という根本に直結する問題であり、私たちはこの「常識」の誤りを深刻に認識しなければならない。

<アメリカの対朝鮮政策にこそ問題の根源がある>

 「北朝鮮はコワい・けしからん」という一般的受け止めが虚構であることが分かれば、真の問題の所在は朝鮮ではなく、そういう虚構を何が何でも振りかざすアメリカ(米日韓)にあることが分かる。
もう一度繰り返す。小国・朝鮮がアメリカ(あるいは日本や韓国)に戦争をふっかけることはあり得ない。仮にふっかけたら、次の瞬間に朝鮮は地上から消えてなくなることを金正恩以下の朝鮮指導部は知り尽くしている。だから、ハリネズミ(朝鮮)が全身で毛を逆立てる(核ミサイル開発を行う)ことを止めさせようと思ったら、猛獣(アメリカ)が対朝鮮政策を根本的に改めるしかない。朝鮮自身、アメリカが停戦協定を平和協定に換え、国交正常化に応じ、朝鮮半島非核化が国際的に合意されれば、核開発を放棄する用意があると明言している(ただし人工衛星打ち上げなどの宇宙の平和利用の権利は手放さない)。米朝敵対関係が解消すれば、北東アジアの平和と安定の展望が大きく開けてくる。だから私たちは、アメリカの朝鮮政策を改めさせることに全力を傾けなければならない。

<中国はアメリカの政策を正す先頭に立て>

しかし、権力政治に凝り固まっているアメリカが自発的に対朝鮮政策を改めるのは百年河清を待つに等しい。そのアメリカが安保理決議を振り回して、朝鮮に高圧的に臨むことに対し、安保理常任理事国の中国が中途半端な対応で臨んできたことが朝鮮核問題を複雑化させ、深刻化させてきた。
中国の朝鮮半島情勢に関する基本認識は正確で誤りはない。即ち中国は、朝鮮核問題の根源はアメリカの対朝鮮政策にあり、小国・朝鮮の核ミサイル開発は超大国・アメリカの脅威に対抗するためのやむを得ざる選択であり、朝鮮の核問題を解決し、北東アジアに平和と安定を実現するためには、アメリカが対朝鮮敵視政策を根本的に改めることが不可欠と明確に認識している。また、孤立を深める朝鮮が絶望的な行動に出ないようにするため、伝統的な中朝友好関係を今後も維持することが重要とも認識している。
しかし同時に自国の安全保障を最重視する中国は、地続きの朝鮮半島の非核化実現を強く望み、その不可分の一環として朝鮮の核ミサイル開発に断固反対している。この立場と、中米及び中韓関係が取り返しのつかない事態に陥ることを避けたいとする考慮とが、安保理決議に対する中国の中途半端な対応を生み、結果的に安保理決議2094採択に至る朝鮮半島及び北東アジア情勢の深刻化を招く重要な一因になってきた。
実はそのことを中国も認識している節がある。即ち、人民日報系列の環球時報3月13日付社説は、「中国は朝鮮制裁決議(2094)に賛成票を投じたが、これは政策的連続性による臨機応変の行動だ」(強調は浅井)と述べた。
「政策的連続性」とは、2006年7月の安保理決議1695(朝鮮の弾道ミサイル発射を非難し、その弾道ミサイル計画関連活動中止を要求)、同年10月の決議1718(10月9日の核実験を非難し、さらなる核実験及び弾道ミサイル発射をしないことを要求)、2009年6月の決議1874(5月25日の核実験を非難し、弾道ミサイル関連のすべての活動停止を決定)、2013年1月の決議2087(弾道ミサイル技術を使った打ち上げを非難)という一連の決議に中国が賛成してきたことを指す。その上で「臨機応変」として本年3月の決議2094に賛成票を投じたというのだ。
中国の対応の躓きの発端は、初動を誤り、2006年に決議1695に賛成したことだ。ブッシュ政権が朝鮮のマネー・ローンダリング問題を公にしたことに朝鮮が反発、6者協議が中断するなかで朝鮮がミサイル発射実験を行ったことに対して、中国は当初安保理決議採択に慎重姿勢だったが、最終的に同意してしまった。その結果、「決議1695→核実験→決議1718」とエスカレートした。初動で躓いた中国は爾後、決議内容・表現を穏やかにするという条件闘争しかできなくなった。
2009年に登場したオバマ政権は、4月の朝鮮による人工衛星打ち上げに強硬姿勢で臨み、これを「ミサイル発射」として非難する安保理議長声明づくりを主導し、中国はこれを阻止しなかった。反発した朝鮮は第2回核実験を行い、再び「議長声明→核実験→決議1874」とエスカレートした。このパターンが2012年12月の朝鮮の人工衛星打ち上げ以後再三にわたって繰り返されたのだ。
中国が対米(対韓)関係を重視するのは理解できる。しかし、覇権を求めない新型大国を標榜する中国は、ゼロ・サムの権力政治ではなく、ウィン・ウィンの脱権力政治(国際関係の民主化)、新国際政治経済秩序の構築を目指すことを外交の基本に据えている。その一環として国際法重視姿勢も明確にしている。
この原則的立場及び朝鮮半島情勢に関する基本認識に基づけば、安保理で拒否権を持つ中国の朝鮮核ミサイル問題に関する一連の対応は明らかに間違っている。朝鮮半島情勢をこれ以上悪化させないために、そして朝鮮半島ひいては北東アジアに平和と安定をもたらすためには、中国がアメリカの権力政治むきだしの対朝鮮政策を正面から批判する立場を確立し、堅持する以外にない。
その結果、一時的に中米関係は緊張するだろう。しかし、その試練に耐えてこそ、中国の新国際政治経済秩序構想がホンモノであることが国際的に理解され、中国外交に対する国際的信頼を獲得することにつながるはずだ。中国外交にとって、朝鮮核問題こそ正にリトマス試験紙であり、正念場である。

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