安保理決議2094と朝鮮半島情勢

2013.03.19

*朝鮮の第3回核実験に対して安保理決議2094が採択されました。私は、朝鮮の人工得一声打ち上げから今回の安保理決議にいたす拡大的悪循環のプロセスは避け得たはずだと考えています。それが避けられなかったことには多くの原因があることは間違いありませんが、その中の一つの大きな要素として中国の政策のあり方を考える必要があるという思いを強めています。それは単に中国の政策を「なじる」ということではなく、中国が朝鮮の核問題に関する判断及び政策を抜本的に見直すことにより、今後も起こるであろう累次の問題に対して中国が対応を誤らないことが危機の拡大・深化を防ぐ上で決定的な重要性をもつと思うからです。
 そういう観点で、環球時報社説を材料にして考えた結果を紹介します(3月19日記)。

1.避けられたはずの朝鮮の第3回核実験とその後の緊張激化

 私は基本的に、国家としての存立が脅かされない保証を獲得しない限り、朝鮮が核・ミサイル計画を放棄することはない、逆にいえば、アメリカが現在の対朝鮮政策を根本的に改め、米朝国交正常化に応じれば、朝鮮は核・ミサイル計画を放棄することに応じると判断しています。そのことを確認した上でのこととして、安保理決議2087の採択がなかったならば2月12日の朝鮮による第3回核実験強行は避けられたし、朝鮮半島ひいては東北アジア情勢の緊張激化という事態も避けることができたはずであったということを強調したいのです。
つまり、米韓の対朝強硬一本槍の安保理決議採択方針と、これまでの累次の対朝鮮制裁安保理決議に同調してきてしまった中国が、その行きがかりもあって米韓の方針に再び応じてしまったことが朝鮮の第3回核実験を招いてしまったということです。もっと端的に言えば、仮に中国が朝鮮の人工衛星打ち上げ及びその権利には非がない(その点について、中国の専門家の間でもかなり広い理解があったことを、私は以前のコラムで紹介しました)ことを当初から踏まえた対応をしていたならば、そして、より根本的なこととして、朝鮮半島情勢の緊張原因がアメリカの対朝鮮政策にあることを踏まえた原則的な姿勢を堅持してきたならば、朝鮮の第3回核実験を含めた朝鮮半島情勢の今日におけるような悪化を防ぐことはできたと思うのです。
私がそう判断する根拠は、これまでのコラムでも指摘してきたとおり、朝鮮側の正式見解に込められていたメッセージです。私は、昨年(2012年)のコラム「朝鮮の人工衛星打ち上げと中国」(12月16日記)で、朝鮮外務省スポークスマンの発言に注目して、次のように指摘しました。

 私が注目したのはその次のくだりです。「対決によっては如何なる問題も解決することができない」という言い方は極めて穏やかですし、そこから「すべての関係者が理性と冷静を堅持」することを呼びかけ、「事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う」と述べているのは、私の貧しい記憶に基づく限り、これまでになかったような内容です。要するに、米日韓主導による安保理によって強硬な制裁措置が講じられるようなことがなければ、朝鮮としては「不本意」な「誰も望まない方向」に走ることはない(つまり、核実験を今すぐ行うということはない)、というメッセージを発していることは明らかだと思われます。逆にいえば、もし中国が米日韓に同調するようなヘマをすれば、朝鮮が第3回核実験に走ることはあるというメッセージでもあると思います。

 事実としては、既に述べたとおり、米韓が強硬に安保理決議を作ることを主張し、中国がこれに同調してしまったために安保理決議2087が採択され、それに反発した朝鮮は第3回核実験を強行することになったのです。
しかし、私が上記コラムで示した判断が間違いでなかったことを示す朝鮮側公式見解はその後も少なくないです。
代表的なものとして例えば、2月12日の核実験を受けた朝鮮外務省スポークスマン談話に「もともと、われわれには核実験を必ず行うべき必要も計画もなかった」(強調は浅井。以下同じ)という発言があります。また、3月5日の朝鮮人民軍最高司令部スポークスマン声明にも「米国とその追随勢力は、…「制裁決議」を採択(した)…状況で、われわれがやむを得ず国の安全と自主権を守るための実際の対応措置の一環として、…自衛的な第3回地下核実験を…断行した」という発言もあります。これらの発言から明らかなことは、安保理決議が行われなかったならば、朝鮮がこの時点で核実験を行う意思・予定・計画はなかったということなのです。
もちろん、米日韓の対朝鮮強硬政策が変わらない限り、朝鮮が核開発計画そのものを放棄する意思はありえないわけですから、将来的に核実験を行うことは朝鮮の政策のなかに当然組み込まれています。しかし、さしあたっての核実験を思いとどまらせれば、6者協議を含めた外交チャンネルを再起動する展望につながり、その成り行き如何によっては、朝鮮が核実験を行うことを思いとどまり続け、朝鮮半島の非核化のなかで朝鮮の非核化を実現する道筋も出てくるわけです。中国が積極的にイニシアティヴを発揮して起動した6者協議も正にそういう好循環プロセスによる朝鮮半島非核化を目ざしていたはずです。
 実は、核実験を行った直後においても、朝鮮は安保理がさらなる決議を採択して朝鮮をいっそう追い詰めることがないようにというメッセージを発していました。上記朝鮮外務省スポークスマン談話は、次のような意味深長な発言を行っていたのです。

今回の核実験は、われわれが最大限の自制力を発揮した1次的な対応措置である。
米国があくまでも敵対的に出ながら情勢を複雑にするなら、より度合いの強い2次、3次の対応で連続措置を講じざるを得なくなるであろう。
敵対勢力がけん伝する臨検だの、海上封鎖だのというものはすなわち、戦争行為とされ、その本拠地に対するわれわれの無慈悲な報復打撃を誘発させることになるであろう。
米国は、今でもわれわれの衛星打ち上げの権利を尊重して緩和と安定の局面を開くか、そうでなければ対朝鮮敵視政策をあくまで追求して情勢爆発に向けた現在の誤った道を引き続き歩むかという両者択一をすべきであろう。

 つまり、朝鮮は、米韓主導の安保理が朝鮮の核実験に対してさらなる制裁決議を採択する可能性を予想しながらも、アメリカが「われわれの衛星打ち上げの権利を尊重して緩和と安定の局面を開く」ことに応じるならば、朝鮮としても「より度合いの強い2次、3次の対応で連続措置」を講じないというメッセージを発していたのです。
 しかし、このメッセージも米韓によって完全に無視され、米韓は安保理によるさらなる決議採択につき進みました。それに対して朝鮮は、米韓が"人工衛星打ち上げ→安保理決議→核実験"という悪循環を招いたという「教訓をくみ取る代わりに、むしろより悪らつに、より執ように、より強い「制裁」をもたらそうとあがいている」、つまり朝鮮外務省スポークスマンが指摘した「両者択一」中の「現在の誤った道を引き続き歩む」ことによって「情勢を複雑にする」方向を選択したと判断し、「より度合いの強い2次、3次の対応」として、上記3月5日の朝鮮人民軍最高司令部代弁人声明で、アメリカによる核威嚇に対抗して「多種化された朝鮮式の精密核打撃手段で真っ向から立ち向かう」、米韓軍事演習が開始される3月11日を期しての朝鮮停戦協定の完全白紙化、板門店代表部活動全面中止の3点を予告しました。これも、アメリカに対して崖っぷちで立ち止まってほしい、朝鮮としては事態の悪化を望んでいない、というギリギリのメッセージだったと私は判断します。
 しかし3月7日に安保理決議2094が採択されることでそういう望みも絶たれた朝鮮は、同日の朝鮮外務省スポークスマン声明で、「外交的解決のチャンスは消え去り、軍事的対応だけが残った」として、「米国が核戦争の導火線に火をつけようとする以上、…侵略者の本拠地に対する核先制打撃の権利を行使することになる」と宣言し、核先制攻撃の権利行使を公言しました。そして、3月11日を期しての朝鮮停戦協定完全白紙化という上記朝鮮人民軍最高司令部代弁人声明について、「その時刻から朝鮮革命武力が停戦協定の拘束から完全に脱して任意の瞬間に、任意の対象に対する自衛的な軍事行動を取ることになるということを意味する」という説明を加えました。また、3月8日付の朝鲜祖国和平统一委员会声明は、やはり3月11日を期して、朝韓間の相互不可侵合意、朝鮮半島非核化共同宣言、朝韓間の板門店連絡チャンネルの廃棄もしくは閉鎖を宣言しました。
 さらに3月13日付の朝鮮中央通信は、「新たに発足したかいらい政権の国防部長官に内定されているキム・ビョングァンもやはり、もはやわれわれの全面対決戦に「心理戦を含んで北の政権の交替や政権崩壊」で対応するとむやみに言い散らしている」、「青瓦台の裏部屋をまたもや占めて巻き起こす毒気を帯びたスカートの風」として、朴槿恵を名指しすることは避けながらも、安保理決議2094の採択を推進した同政権に対する攻撃を始めて行いました。
 朝鮮が「核先制攻撃」の可能性に言及したのは、上記朝鮮外務省スポークスマン声明の前でした。3月6日付の中国新聞社ネットは、同日付の朝鮮中央通信社論評「反米大戦の最後の勝利のための決定的措置」を紹介する記事において、「朝鮮中央通信社は、朝鮮人民軍の将官の話を紹介する形で、…敵が「先制攻撃」を行う兆候を発見したならば、より早くより正確な朝鮮式先制核攻撃によって対応する」と述べたと報じました。
 ただし、私が朝鮮中央通信の日本語版に当たったかぎりでは、以上の記事内容は不正確でした。朝鮮中央通信論評のなかにはそのようなくだりはありません。ただ、同日付の朝鮮中央通信記事「朝鮮式の精密核打撃で米帝とかいらい逆賊一味を一掃しよう」で、軍の将官ではなく、「チョンリマ製鋼連合企業所作業班長のパク・チョル氏」が「好戦狂らが本当に口に出した通りに「先制打撃」を加えようと身動きさえすれば、それよりもっと迅速かつ正確に、それに比べようもなく威力ある朝鮮式の核先制打撃が無慈悲に加えられるだろう」と発言したと「核先制打撃」に言及したと紹介しているのです。
 しかし正式な発言としては、安保理が決議を採択する直前の3月7日付で発表された朝鮮外務省スポークスマン声明です。声明は「委任によって」とした上で、「米国が核戦争の導火線に火をつけようとする以上、朝鮮革命武力は国の最高の利益を守るために侵略者の本拠地に対する核先制打撃の権利を行使することになるであろう」と明確に述べました(ただし、安保理決議2094採択に対して出された9日付の外務省スポークスマン声明においては「核先制攻撃」についての言及はありませんでした)。
 ほかに朝鮮の核政策についての考え方を示すものとしては、3月6日付の労働新聞の署名文章があります。私が調べた限りでは、朝鮮中央通信の日本語版ではその要旨しか紹介されておらず、中国側報道にもよらざるを得ないのですが、「核保有国になったので、朝鮮は固まり切った核列強中心の世界政治構図に破裂口をあけ、「唯一超大国」と自称する米国にも堂々と立ち向かえることになった」、「朝鮮は世界政治に重大な影響を及ぼし、自主的な世界秩序を構築していく強大国として毅然と浮上し、反帝・反米対決戦もさらに力強く展開できる」、「われわれの核抑止力は、共和国だけでない全朝鮮領土を保護し、北にいようと南にいようと全朝鮮民族を守り、輝かす民族共同の富である」、「いかなる束縛も受けず、好きなときに好きな場所で、思いのままいかなる対象に対しても打撃を加え、祖国統一の大事業を完成させることは朝鮮の一貫して変わらぬ立場だ」と述べました。
 また3月14日付の「核独占時代は終焉を告げた」と題する朝鮮中央通信社論評も、「力がなければ自ら主権を放棄して奴隷にならなければならない現世界で、核抑止力は何とも代えられない自主権守護の最も強固な霊剣である」、「第3回核実験の成功により、われわれは共和国を圧殺しようと狂奔する者に対しては誰であれ、地球のどこにいても無慈悲な打撃を加えて国の自主権と安全をしっかりと守ることのできる強力な物理的手段をより高い水準で備えられるようになった」と核抑止力を誇示しています。
朝鮮が「核先制攻撃」に言及したことの意味については、別のコラムとして取り上げて考えるつもりですので、これ以上深入りしません。ここでは、米韓主導で、中国が同調してしまった結果としての安保理決議2094の採択が、朝鮮の激越な核先制攻撃発言まで引き出してしまったという悪循環の連鎖の恐ろしさを強調しておきます。 本論に戻って確認しておきたい重要なポイントがあります。それは、同論評が、アメリカの戦後一貫した朝鮮に対する核恫喝政策こそが「われわれをしてやむを得ず戦争を防止し、自分の制度、自分の運命を守るために核兵器をつくらざるを得なくした」と指摘することを忘れていないことです。
被害者意識にコチコチに固まっている朝鮮の核政策を改めさせることは確かに困難です。しかし、アメリカの対朝鮮政策が根本から変わりさえすれば、つまり、朝鮮がアメリカの軍事的脅威から解放されれば、朝鮮が核固執政策を改める展望が出てくるということは、以上の論評の指摘からももう一度確認できると、私は強く思います。朝鮮半島の非核化ひいては東北アジア情勢の平和と安定の実現は決して不可能ではない、そのためには中国が自らのこれまでの対朝鮮政策に横たわっているいくつかの誤りを根本的に見直し、正すことが先決である、と私は確信します。

2.中国の対朝鮮政策の検討

 中国の言論状況は、対朝鮮政策のあり方をめぐって、ネット世論も含めますと、正に百家争鳴の観を呈しています。「共産党の独裁」をイメージされる方にとっては恐らく信じられないような活発な言論空間が現れています。中国、特に中国政治に対する理解、認識を深めるためにも、こうした世論状況を認識することは意味があると思いますので、機会を見てこのコラムで紹介したいと思っています。しかし今回は、中国政府の本音部分を相当程度に反映していると見られる環球時報の社説を材料にして、中国の対朝鮮政策について見てみようと思います(ちなみにこの間、私には意外なのですが、朝鮮問題を扱った人民日報の鐘声の文章はありません)。
 私が環球時報社説に関して注目したいのは2点あります。一つは、中国の対朝鮮政策の元になっている情勢分析は確かかどうかということです。私が外交実務体験から得た一つの重要な教訓は、情勢分析における政治的リアリズムの必要性ということです。つまり、政策的な結論が先にあって、そういう政策を正当化するための恣意的な情勢「分析」ではいけないということなのです。そうではなく、いくら不都合であってもあくまで冷静かつ客観的に情勢分析を行う基礎の上にこそ、誤りのない政策を打ち出すことができるのです。既に述べたように、私は中国の対朝鮮政策には明らかに誤りがあると思っているのですが、その誤りが恣意的な情勢分析の誤りに起因するのかどうかを検証しておきたいと思うのです。
 もう一つは、対朝鮮政策の中身そのものにどのような誤りがあるかを検証することです。その中身をなるべく具体的に整理することにより中国の対朝鮮外交に対して反省と転換を促したいということです。
 そういう観点から環球時報社説を見ますと、情勢分析に関しても、政策についても豊富な判断材料を提供していることが分かります。長くなりますので、素材としての社説の内容はコラムの最後に<参考>としてつけておきます。興味と時間のある方は最後まで読んでいただければ嬉しいです。
 環球時報社説は、安保理決議2094採択の前の段階では、2月16日付「朝鮮半島は急を告げる 中国はさらに戦略的忍耐心が必要」(以下「社説①」)、同17日付「朝鮮の核、中国はおびえも幻想も焦りも禁物」(以下「社説②」)、同18日付「中国の制裁参与 朝鮮が踏まえるべき度合い」(以下「社説③」)と3日連続で社説を掲載するという異例の対応をしたほか、朴槿恵が大統領に就任した翌日の同26日付で「朴槿恵が半島の緊張緩和にチャンスをもたらすことを期待」(以下「社説④」)を掲載し、決議採択直前の3月6日付で「朝米韓はすべからく相手側を脅しあげる幻想は放棄すべし」(以下「社説⑤」)を、決議採択翌日の3月8日付で「朝鮮が理性的に決議を見ることを期待」(以下「社説⑥」)を、そして3月13日付でいわば一連の朝鮮問題に関する社説の締めとも言うべき「半島、中国は動態の中で現行政策を維持すべし」(以下「社説⑦」)を発表しています。

<情勢分析の妥当性>

 環球時報社説に示された情勢分析に関しては、朝鮮の核政策に関する部分を除けば、私は基本的に首肯できる内容であると判断します。いくつかの要素に分けて見てみます。

○基本情勢認識

 朝鮮半島情勢が今日危機的状況にあること、及び今日の事態をもたらした責任は朝鮮のみならず米韓も等しく(更にはより多く)担っているという以下の指摘は、米韓及び朝鮮の双方に等しく目を配らなければならない立場の中国という点を勘案すれば、バランスのとれた、妥当なものだと思います。

-情勢は、一歩一歩とエスカレートし、双方それぞれが方向転換するスペースは次第にゼロに近づいており、もともとは動きうる余地のあった戦略的コントロールの局面が針一本も通さないまでになってしまっている。このような時になると、平和及び戦争に関する重大な選択権限が最高指導層から流れ出て、全局を把握せず、ひいては経験も不足している年若い将兵の手元にまで落ちてきてしまう。これこそが朝鮮半島の真の危険である。
 仮に朝鮮半島で重大な軍事衝突が本当に爆発すれば、全員が敗者になる。人口及び経済がかくも密集している地域で戦争が起これば、21世紀(という時代)はいずれの側に対しても「勝利」という褒賞を与えるはずがない。社説⑤
-朝鮮半島はあまりに多くの爆発的要素を蓄積しており、朝鮮の核問題はいまや大地雷だ。朝鮮は責任がある。しかし、米日韓も絶対的優勢の力のあるもう一方の当事者として、少なくとも半分の責任がある。米日韓が何ものも変えないで、中国が重大な変更を行うことによって情勢を突破するカケを行うことを要求するのは、確かな見込みもなければ、極めて不合理でもある。社説③
-朝鮮にせよ米韓にせよ、全員が現在の危機的な情勢に対して責任を負っているということを認識するべきだ。それぞれの政策はすべて大変な失敗だ。アメリカは朝鮮が核弾頭と長距離ミサイルを獲得することを望まなかったが、朝鮮は持ってしまった。韓国は自らの安全が盤石となることを希望したが、危機は続出して止まない。朝鮮は核実験をしたが、国家は貧しく、ますます孤立している。
 米韓及び朝鮮は、相手側を脅しあげるという考えを捨てるべきだ。なぜならば、誰も自分から開戦しようとは本気で考えておらず、相手側から見れば、自分たちがやっていることは虚勢を張り上げている役者に過ぎないのだから。社説⑤

○朝鮮半島の緊張原因

 以上のとおり、今日の朝鮮半島危機については米韓及び朝鮮がともに責任があるというのが中国の判断ですが、しかし、そういう今日の緊張を作り出したのは朝鮮ではなく米日韓だと、社説は控えめな表現ながら、以下のように明確に指摘しています。私はこの指摘は極めて正しいと思います。

-米韓がなんでもすぐ朝鮮に対する合同軍事演習を行うことは間違っていると指摘しなければならない。両国の力を合わせれば朝鮮の何倍になるかは計り知れないのであって、両国は合同軍事演習に対する朝鮮の気持ち及びそのことがもたらす実際の結果について考慮するべきだ。あるいは両国は朝鮮を脅しあげようと考えているのだろうが、かくも長年にわたって脅し続けた結果が朝鮮の核実験だったのだ。仮に米韓がまったく考えを変えようとせず、ひたすら朝鮮をして恐怖によって変わらせるということを考えているのであれば、両国としてはさらにまずい今後の状況に対して準備することだ。社説⑤
-朝鮮は小国であるのに、朝鮮自身も外部世界も間違って大国扱いしている。米日韓は朝鮮の脅威を誇張して、朝鮮に対する抑止を不断にエスカレートさせ、朝鮮をおびえさせている。社説②

○米韓の政策的誤り

 米韓は強硬一点ばりで、安保理決議で物事を動かすことができるかの如く考えているけれども、それは方向違いであり、「米日韓が朝鮮の安全保障上の要求を考慮し、抜本的に対朝政策を変更するか、半島の停戦メカニズムを平和メカニズムに向けて変えることを推し進めることができるか否かということこそが、朝鮮が安全観を改め、進んで核計画を放棄する決定的な外部要因なのだ」とする社説の以下の指摘は極めて正鵠を射ていると思います。

-米韓の世論では様々な予測が飛んでおり、新決議が効果を発揮することができるかどうかのカギは中国が「協力するかどうか」だとしている。中国が朝鮮の最大貿易パートナーであるので、真剣に決議の内容を実行することは確かに非常に重要だ。しかし、制裁決議の効果そのものが限られているし、より大きな戦略的効果を発揮させようとするならば、よりカギとなる協力を行うべきは米日韓である。米日韓が朝鮮の安全保障上の要求を考慮し、抜本的に対朝政策を変更するか、半島の停戦メカニズムを平和メカニズムに向けて変えることを推し進めることができるか否かということこそが、朝鮮が安全観を改め、進んで核計画を放棄する決定的な外部要因なのだ。社説⑥

○朝鮮の核の「脅威性」

 「朝鮮の核は脅威」というのがアメリカ、日本における「常識」になっていますが、そのような「常識」にはなんらの根拠もないとする社説の以下の指摘こそが極めて常識的なものです。

-朝鮮の核兵器が周辺諸国に対して攻撃的な戦略的脅威となることはありえず、外部世界による朝鮮に対する攻撃及び転覆を威嚇によって阻止することはあるいはできるとしても、朝鮮をして東北アジアにおける攻撃的国家にさせるにはまったく不十分だ。朝鮮はこの地域において相変わらずもっとも弱い存在であり、朝鮮が核兵器を持つか持たないかと関係なく、もっとも弱い存在ということは変わらない。社説②

○朝鮮の核保有

 私が中国の情勢分析のなかで、「朝鮮が核兵器を持つのは何が何でも反対」という政策が先にあるために分析の目を曇らせることになっていると感じるのは、朝鮮の核保有について、朝鮮には朝鮮なりの理由があるという事情をことさらに無視している点であると思います。政治的リアリズムの立場に立てば、弱者(朝鮮)が圧倒的強者(アメリカ)に対して自国を防衛するギリギリの選択として、途方もない破壊力を持つ核兵器の威力に着目するのは、1964年の中国自身の経験に徴するだけでも、決してあり得ないものではないのです。その結果、国際的に孤立が増すことは朝鮮として覚悟の上ですし、「大国のみが支払い能力を持つ」としてもなけなしのカネをつぎ込まざるを得ない(大躍進の疲弊から脱していなかった1960年代前半の中国もそうだった)し、朝鮮としてもまさか対米日韓軍事的優位を追求するということでもないのです。朝鮮の核保有は、米日韓の厳然として存在する軍事的脅威に対する絶望的な自衛手段という位置づけです。この点を理解し、認識しようとしない(いや、内々では認識しているはずですが、それを認めると政策そのものを根本的に変えざるを得ないので伏してしまう)というところに、私は中国の情勢分析における最大の問題を見るのです。実は、上記の社説②における、「朝鮮の核兵器が…外部世界による朝鮮に対する攻撃及び転覆を威嚇によって阻止することはあるいはできる」というくだりは、朝鮮の核保有に少なくとも一定の根拠があることを中国自身も認めている証左ではないでしょうか。

-事実上、朝鮮が核保有の道を進めば進むほど、孤立を増すだけだ。社説②
-平壌は大国のみが支払い能力を持つ戦略的な安全保障の道具(注:核兵器)を追求し、米日韓と正面からぶつかっているが、このような国家戦略の道は曲がりくねっていて進めば進むほど狭くなるばかりだ。社説②
-過去数年の成り行きが示しているとおり、朝鮮の力に新たに核という要素が加わっても米韓日との対決において優位を占めるには足りず、朝鮮の極端なやり方が戦略的な新局面を切り拓くこともできず、核保有は戦略的改善をもたらさないで逆にその苦境を増している。社説⑥

○安保理決議2087に対抗して強硬措置を打ち出した朝鮮

 私が1.で既に詳しく紹介しましたように、朝鮮は、事態が拡大的に悪循環することを望んでいなかったのは間違いないことで、盛んにメッセージを発していたわけですが、米韓は聞く耳を持たなかったということであり、そのために朝鮮としては予告した強硬措置を「有言実行」せざるを得なかったというのが事実関係でしょう。
以下の社説⑤には、「まだ制裁決議に対して投票を行ったわけではない」という興味あるくだりがありますが、仮に朝鮮が3月11日付での強硬措置を予告・警告しなかったならば、中国は米韓の動きに抵抗して、決議2094採択を阻止する覚悟があったのか、と問うことは無意味だと思いません。恐らくそのつもりだったのに、朝鮮の予告・警告があったために、中国の動きうる余地をなくした、とまでは中国も言えないでしょう。要するに、朝鮮の核保有に関する出発点の分析において政治的リアリズムを欠いた中国は、自分の問題を棚に上げて、朝鮮の行動は「やり過ぎ」という批判することになっているという批判は免れないと思うのです。

-朝鮮の今回の反応(浅井注:米韓合同軍事演習の3月11日を期して諸々の対抗措置を取ることを明らかにした朝鮮の対応のこと。上述1.参照)は明らかにやり過ぎということも指摘する必要がある。米韓は始めて合同軍事演習をしたということではなく、今年の規模が最大ということでもないのに、平壌が突然に対決を停戦協定廃棄のレベルにエスカレートしたということは、双方のこれまでの報復連鎖の尺度に対応するものであるとしても、やはり常軌を逸しているものだ。社説⑤
-朝鮮もあるいは米韓を脅しあげようとしているのかもしれない。安保理は朝鮮の第3回核実験について会議を行ってきたが、まだ制裁決議に対して投票を行ったわけではない。朝鮮の激しい行動に対しては、投票前にアメリカなどに対して圧力をかけようとしているのではないかという疑念が持たれている。しかし、平壌は次のような問題を考えるべきだ。即ち、米韓が朝鮮を脅しあげられないのに、朝鮮は米韓を脅しあげられるというのか。しかも今回の情勢のエスカレーションの後、朝鮮の置かれる状況は恐らく米韓よりもさらに不利となるだろう。社説⑤

○中朝関係の性格

 中朝関係の性格に関する環球時報の以下の分析は極めて興味深いし、無理もありません。

-朝鮮が中国の戦略的な防壁だと言うのであれば、朝鮮にとっての中国の方がもっとそうだ。中朝が戦略的に協調するのは互利的であり、朝鮮にとってさらに利益がある。社説①
-中朝の友好及び特殊な関係を維持することは我が朝鮮半島政策の基本の一つだ。半島非核化もまた我々の確固とした原則だ。この二つが現在衝突しており、矛盾があるが、この矛盾を作り出したのは絶対に我々ではなく、我々だけの力ではこの矛盾を解消するすべはない。社説①
-中朝友好は韓国の国家安全保障に対して実際的な損害をもたらすはずはなく、いわゆる損害なるものは、朝鮮に対して衝突して感情が高ぶったときの憶測である。…韓国は、韓米同盟の協力性を中国に対して要求するべきではなく、中国の和解調停は、半島が緊張しつつも爆発を避けている上でのカギとなる重石であり、他方韓国の安定は地域全体の安定の一部に過ぎない。社説④
-中国の置かれた位置は極めて気まずいもので、朝鮮にせよ韓米にせよ誰も中国のアドバイスを聞こうとしない。しかも双方はいずれも中国に対して求めるものがある。朝鮮は中国が「友だち」らしく振る舞い、その間違った核政策のためにカネを払うことに甘んじることを希望している。それに対して韓米は、中国が「本当のモラル」を発揮し、朝鮮を制裁する同盟に加わることを期待している。
 中国は左でもなく右でもなく、あたかも中立のようだが、20世紀の朝鮮戦争は我々の役回りをある程度固定したのであって、誰も中国が「中立」であることを評価しない。中国は半島における衝突から超然とすることもなかったし、衝突に対して効果的に介入することもなく、半島には兵士は一人としておらず、中朝関係の強度は韓米軍事同盟よりはるかに低い。
 朝鮮は中国の戦略的障壁である、という言い方は総体としては過去のものとはなっていないが、疑問符も徐々に増えている。朝鮮は直接中国と国境を接しており、中国と敵対するかあるいは反対方向に敵対するかは、中国が戦略的スペースを維持することに対して重要な影響がある。朝鮮が韓米に対して強硬であることにより、ワシントンは地縁外交上北京に助けを求めることを迫られてきた。朝鮮が面倒であることにより、アメリカは戦略上の関心を中国に集中するのではなく、分散させられている。しかし、半島をめぐって中国が遭遇する面倒はますます多くなっており、時には朝鮮の行動はアメリカ以上に中国にとって耐えがたいものになっている。
 中国の国際的役割は50余年前とは様変わりしているし、中朝の特殊な関係も朝鮮戦争後のある時期に「真空期」にあったこともあり、中国はもはや朝鮮戦争のすべての戦略的果実を継承するのが難しくなっている。中国の今日の対朝鮮政策は今日の地縁的情勢及び中国の国家利益を出発点とするべきであるという考え方は誤ってはいない。
 中朝関係は「牢固とした」友人ではないが、なんと言っても友人ではある。また、中国は東北アジアに公然の敵はおらず、このことは中国の独特の戦略的地位だ。公然の敵はいないが、半島情勢に影響を及ぼす強力なテコも持っておらず、中国は半島情勢によって極めて受け身的に引っ張られつつ動いているわけで、中国の地縁的情勢に対して総合的な評価を行うことは極めて難しい。
 急激に半島政策を変更することは中国にとって不利だが、半島情勢が変化するときに中国がいかなる調整もしないとすれば、そのこと自体がもともとある戦略構造に向かい合う上で後れを取るということになる。中国は自分自身の考え方をよくよく整理する必要があるのかもしれない。社説⑦

<政策の批判的検討>

 中国の対朝鮮・朝鮮半島政策についても、環球時報社説は豊富な内容を持っていますので、いくつかの要素に分けて検討します。

○朝鮮の核保有に対する反対

 中国が朝鮮の核兵器保有に反対するのは、朝鮮半島非核化を含む核拡散防止という原則的立場からです。その立場のもとにあるのは、朝鮮の核保有は日本(及び韓国)の核保有を導きかねず、そうなってしまうと東北アジア情勢そのものが極めて不安定化するという警戒感です。私は、そういう中国の政策的判断は正しいと思います。しかし、それが故に何が何でも朝鮮の行動には反対するというのでは、朝鮮としては納得いかないでしょう。
というのは、朝鮮の核政策を生んだのはアメリカの核恫喝を含む対朝鮮政策にあるということは中国も情勢分析においてわきまえていることだからです。この情勢分析を踏まえれば、朝鮮の非核化を導くためには、アメリカの対朝鮮政策を含む朝鮮半島全体の非核化という枠組みを堅持することが中国外交の忘れてならないスタンスであるはずです。
したがって、「朝鮮は間違ったことを行ったのであるから…相応の代価を支払うべき…で、中国は朝鮮を制裁することを支持した」と言うのは、あまりにも感情的な対応であり、戦略的大局的政策判断からはほど遠いと批判しなければならないと思います。
しかも社説⑦では、「朝鮮制裁決議に賛成票を投じたが、これは政策的連続性による臨機応変の行動」と認めているのです。つまり、中国が過去の朝鮮制裁の安保理決議に賛成してきたことを踏まえたものであるということです。このくだりは、過去に賛成したことが全面的に正しい政策的選択ではなかったことを暗に認めたものとするのは私の深読みに過ぎないでしょうか。

-もしも核兵器があれば本当に安全だと思うとしたら、それは幼稚だ。社説①
-国際社会は朝鮮の核活動を阻止することができなかったが、半島非核化原則を放棄することはできないのであって、そのことから引き出される含意とは、外部(世界)は永遠に朝鮮が核兵器国であることを承認せず、朝鮮に発言権を与えないということだ。社説②
-事実上、朝鮮が核保有の道を進めば進むほど、孤立を増すだけだ。平壌がそうすることは中国の利益を損なってきたので、米日韓とグルになって朝鮮を袋小路に追い込むことはないが、核によって作り出されたその国際的孤立を解消するために手伝う義務もなく、朝鮮は担うべきは自分で担うべきだ。社説②
-北京はさらに平壌に対し、再び戦略ロケットを発射し、新たな核実験を行うならば、我々はさらに対朝援助を減少するだろうし、この態度は確固として変わらないことを告げるべきだ。社説②
-朝鮮は間違ったことを行ったのであるから励ましを得るべきではなく、相応の代価を支払うべきだ。したがって中国は朝鮮を制裁することを支持した。社説⑥
-中国は朝鮮制裁決議に賛成票を投じたが、これは政策的連続性による臨機応変の行動だ。社説⑦

○問題解決の方向性

 情勢分析が正しいところに立脚する政策は正しい内容が伴うことは、以下の社説の指摘から明らかです。即ち、朝鮮半島情勢の今日をもたらした原因がアメリカ(米日韓)の対朝鮮政策にあることを踏まえれば、朝鮮問題解決の方向性というのはアメリカ(米日韓)のこれまでの対朝敵対政策を改めるということのほかはないのです。こういう正しい政策を提起しうる中国が、朝鮮の核保有に関してだけおかしくなるのも、やはり情勢分析にゆがみがあるからにほかなりません。

-制裁だけで朝鮮の核保有を阻止できないのであり、米韓日は、制裁を通じて平壌を圧服するという幻想は捨てるべきであり、朝鮮の戦略的な安全欠落感を弛めるために努力するべきだ。そうしてのみ、半島の持続的な安定という正道が実現する。
 平壌は、理性的に安保理の新決議を見て、非理性的な行動で対決の新しいエスカレーションを促すことを回避するべきだ。社説⑥
-朝鮮問題は軟着陸させなければならず、各国は朝鮮を小国として改めて見直し、朝鮮が東北アジアの繁栄に加わることを心から助け、朝鮮政権が平穏裏に移行することを確保したいとする関心に配慮するべきである。米日韓は、朝鮮政権を転覆させるという気持ちを徹底的に捨てるべきだ。この条件があれば、朝鮮もまた安心して平和な小国になるべきだ。
 中国は東北アジア情勢の発展方向を主導することはできないが、立場は明確にし続けるべきだ。どの国が中国と協力するかしないかによって、中国のその国に対する具体的な態度も決まってくるだろう。社説②

○今日の情勢をもたらしたことに対する中国の政策的責任

 中朝友好と朝鮮半島非核化という中国の対朝鮮・朝鮮半島政策が衝突を起こしている責任は「絶対に我々」ではないとする社説の以下の主張は、そう言いたい中国の気持ちは分からないではないけれども、しかし、以上に見てきたことを踏まえるならば、やはり、中国自身がもう一度胸に手を当てて考え直す必要がある、と私は思います。

-中朝の友好及び特殊な関係を維持することは我が朝鮮半島政策の基本の一つだ。半島非核化もまた我々の確固とした原則だ。この二つが現在衝突しており、矛盾があるが、この矛盾を作り出したのは絶対に我々ではなく、我々だけの力ではこの矛盾を解消するすべはない。我々は戦略的な忍耐力を維持し、情勢の推移とともに穏健に前へ進む必要がある。社説①

○対朝「懲罰」とその歩留まり

 中国が朝鮮に対して制裁(「懲罰」)を行う(その限りで米韓に同調する)という政策自体も、以上の私の批判的立場からは疑問符をつけざるを得ないです。ただし、その制裁の歩留まりとして、「アメリカが主導する対朝鮮制裁の積極的協力者となることは絶対にあってはならない」、「米日韓とグルになって海上及び陸上で朝鮮を封鎖することはありえず、安保理が対朝鮮決議に朝鮮の政権に対する脅威となる激しい内容を含めることには反対する」、「米日韓が朝鮮に対して直接軍事攻撃しないこと、日韓が核兵器を開発しないこと、これらすべてが中国の以上のバランスを維持する上での前提」、「「懲罰」の中身は米日韓の対朝鮮制裁の増分を越えるべきではない」というラインを明示していることは、やはり中国の情勢分析の基本が正しいことに由来するものであることは確認するべきでしょう。

-朝鮮が中国の戦略的な防壁だと言うのであれば、朝鮮にとっての中国の方がもっとそうだ。中朝が戦略的に協調するのは互利的であり、朝鮮にとってさらに利益がある。重大な分岐に逢着したときには、双方の利益の最大公約数を探し求めるしかない。朝鮮が知らぬ存ぜぬで中国の戦略的スペースを損ない、中国・東北地方の安全と安定とを直接破壊するとなっては、中国としても少しは強硬に対応することになる。社説①
-中国が朝鮮を「懲罰」するのは、仲のいい友だちの間での警告であり、朝鮮をして中国と付き合う上でのボトム・ラインを知らしめるということでなければならない。しかし我々は、米日韓の陣営に加わって、アメリカが主導する対朝鮮制裁の積極的協力者となることは絶対にあってはならない。そのようなことをすれば、朝鮮をして米日韓の敵から中国の敵にしてしまうに等しく、戦略上愚かの極みであり、我々がかくも長年にわたって中朝関係において苦心惨憺してきた努力を一朝にして壊してしまうことになる。社説①
-中国・東北地方が核に汚染されない限り、朝鮮の核問題に関して中国の動きうるスペースは十分に大きく、真っ先に慌てふためくのは我々ではないはずだ。したがって、朝鮮の第3回核実験が東北地方に影響を及ぼしていない状況のもとでは、以上のボトム・ラインを死守することが朝鮮半島の核問題に対応する中国の「核」であるべきだ。社説①
-中国は、朝鮮の第3回核実験に対する反応として対朝援助を減らすべきだ。我々は朝鮮の核実験に反対であり、その反対は行動を通じて表明しなければならない。平壌が如何に喜ばないにせよ、我々はやはりそうするべきだ。社説②
-しかし、中国は引き続き朝鮮の友人だ。これはうそ偽りではなく、中国は米日韓とグルになって海上及び陸上で朝鮮を封鎖することはありえず、安保理が対朝鮮決議に朝鮮の政権に対する脅威となる激しい内容を含めることには反対するということを意味する。中国は朝鮮が核保有することには反対だが、朝鮮に対する態度を180度ひっくり返すということはあり得ない。社説②
-中国・東北地方の環境的安全、米日韓が朝鮮に対して直接軍事攻撃しないこと、日韓が核兵器を開発しないこと、これらすべてが中国の以上のバランスを維持する上での前提だ。社説②
-米日韓は中国が対朝鮮政策を変更することを強烈に望み、中国に対して絶え間なく圧力を行使している。朝鮮の核活動は中国の利益を犯しているので、中国が朝鮮に対して一定の「懲罰」を与えることは必要だ。カギは、中国が朝鮮を「懲罰」する度合いあるいは境界はどこにあるかということだ。社説③
-我々は、中国は朝鮮を「懲罰」するべきだが、この「懲罰」の中身は米日韓の対朝鮮制裁の増分を越えるべきではないと考える。つまり、中国の対朝援助の減少は米日韓の対朝制裁強化を上回らないようにして、朝鮮及び世界世論の注意を引きつけないようにするということだ。これが、朝鮮に対する国際制裁に中国が参与するに当たってのボトム・ラインであるべきだ。社説③

○中国の外交的能力

 日本国内では、中国が朝鮮に対して大きな影響力を持っているという受けとめ方が結構強いのですが、私は、以下に示されているように、中国の対朝鮮影響力は極めて限定的であると思いますし、中国がその点を認識していることは、核問題ではともかく、全体として中国は冷静であることを示すものだと思います。

-核問題は極めて複雑であり、中国が単独でこのこま結びを解くだけの力はない。国際社会は中国にそのようなことを要求するべきではないし、中国自身もこのような気持ちはない。我々の能力はこの程度のものであり、半島非核化及び朝鮮の安全保障に対して力に見合った責任を担う必要がある。朝鮮と米日韓の敵対は我々が作り出したものではなく、問題の最終的解決については、彼らが互いに緊張を緩和し、ブレークスルーを実現する必要がある。社説②
-中国が全面的に米日韓の制裁に加わったとしても、朝鮮の核保有を阻止できるとは限らない。他方、中国の態度が急激に変化するとなれば、情勢全体におけるもっとも突出した変数になり、情勢の中で蓄積されるエネルギーを引き寄せ、我が身で背負うことになる。
 中国はこのようなことを避けるべきだ。これは米日韓の利益には非常に合致するが、少なくとも一定の時間、中国をして朝鮮の最大の敵にしかねない。かつての中ソ及び中越間で何が起こったかを考えてみよう。中国と米日韓がグルになれば、中朝間ではいかなることも起こりうる。
 中国は朝鮮の盟友とはとても言えないが、いかなる時においてもこの国家の敵に自ら進んでなるべきではなく、朝鮮が核の敷居にあるときは特にそうである。…
 しかし、中国としては朝鮮の核活動に対する反対を行動に表さなければならず、そうしないと、朝鮮は何をしても中国は朝鮮の側に立つと考えるだろうし、中国は朝鮮を怖がっていると誤解する可能性もある。国際社会も、中国が朝鮮を何が何でも庇護するということを受け入れることはできない。社説③
-中国は朝鮮核問題の調停者であることを堅持するべきであり、調停によって事態が動くか動かないかにかかわらず、一方の側に加わって他方と対抗するということはしない。中国が朝鮮と盟友になるということはむずかしいが、米日韓の盟友になるのはさらに不可能だ。中国はズルズルと米日韓によって泥沼に引きずり込まれるようなことがあってはならない。社説③

○中朝関係のあり方

 中朝関係に関する以下の指摘は、なかなかお目にかかれないような正直なホンネの吐露として極めて興味深いものです。

-中国が賛成票を投じたことに対して、朝鮮はなおのこと理解するべきだ。朝鮮の核保有に反対ということは中国社会の普遍的な態度であり、しかも、平壌が核問題であまりに中国の利益を無視し、中国の外交及び安全保障に対して難題を提起したという受け止めだ。この賛成票によって対応した中国人の偽りない感情が再度朝鮮側によって無視されないことを希望する。
 東北アジア地縁政治の現在の情勢が中国に賛成票を投じることを求めた。半島問題は朝鮮の独り相撲ではなく、多くの変数がからむインタラクティブなプロセスだ。中国は全局の安定に対して責任を担っており、関係国の態度の間で最大公約数を可能な限り求める必要がある。
 中国の朝鮮に対する友好姿勢は一度として変化したことはなく、外交面でそうであるだけではなく、民間も同様だ。中朝友好を維持することと平壌の核政策に断固反対することとは、中国人においてはなお、調和不可能なほどに対立するものではない。平壌が中国の民意におけるこの複雑さに積極的な行動で応えること、中国民間の朝鮮に対するさらなる好感を獲得すること、両国関係の大局を守ることを希望する。
 中朝関係の「友好」の含意については、中朝が共同して定義するべきだ。それは、平壌の一方的意向だけで決められるものではない。中国はこの原則を堅持するべきで、平壌が不満であるとしても、時間の推移とともに朝鮮も習慣となり、受け入れるだろう。社説⑥
-中国は朝鮮と米韓日の間で関わり合い、極力情勢の脆弱な安定を維持し、骨折り損のくたびれもうけがしばしばだ。しかし中国としても、心を砕いてまで誰かのご機嫌を取るという必要もないのだ。中国の朝鮮核問題における独特の役割は、半世紀以上にわたって形作られてきたものであり、中国にとってプロもコンもあるが、中国が即刻放棄しなければならないほどには悪くはなっていない。関係国の間で中国が戦略的に動くスペースは相対的に大きいと言えるのであって、最悪の状況のもとであっても、東北アジアで真っ先にこけるのは絶対に中国ではない。
 正にそうであるが故に、各国は中国による調停を大切にし、中国が「間に挟まって」いることの様々な困難を理解するべきだ。中国の半島政策は、細かいところではいずれの側にとってとても満足できないものかもしれないが、中国の調停の大方向は関係国それぞれの利益と合致しうるものだ。それだけで十分である。社説⑥

○韓国外交に対する期待

 李明博政権の時期にかなり煮え湯を飲まされた中国は、中国にも詳しい(と中国が判断する)朴槿恵大統領の登場にかなり期待を寄せていることが窺えるのが、社説の以下の指摘です。中国の力だけでは物事を動かせないが、韓国もアメリカべったりでなくなれば、朝鮮半島情勢打開の可能性が広がると見ていることは明らかです。

-韓国は、実力主義の角度からの思考だけで対朝外交を考えることはできず、中国がそのようにすることを偏屈に要求するべきでもない。韓国は、米日韓という「小グループ」のなかで地縁的に朝鮮及び中国にもっとも近い国家として、半島及び大陸に対する理解を総動員し、東北アジア安定を促進する新しい力となるべきだ。社説④
-朴槿恵の就任が韓国の対外戦略を考え直す機会になることを希望する。韓国は、朝鮮の安全を着想することから自らの安全にとっての新しい道を切り開く必要がある。韓国世論は一途に平壌政権にレッテルを貼り、悪魔化しているが、朴槿恵はかつて自ら朝鮮に赴き、その指導者とも直接接触したことがあるので、韓国における対朝鮮観を打破するために貢献するべきだ。朴槿恵就任に当たり、彼女の政治的知恵と指導力を信じたいと思う。社説④

○中国の今後の対朝政策

 社説⑦の以下のくだりは、中国としては対朝政策を極端に変更する場合のマイナス面が大きすぎるために、結局、消去法で現行政策を維持していく以外にないのだ、という苦しい胸の内を正直に白状しているものです。このような正直な内容も、極めて機微な朝鮮問題であるだけにあまりお目にかからない、それだけに貴重なものと言えます。

-中国は半島情勢に対してもっと効果的に影響を及ぼすテコを必要としているのか否か。あるいは、中国は正真正銘の「中立」に進み、主要なエネルギーを半島の動揺によって左右されないか左右されることが少ない能力の建設に振り向ける必要があるのだろうか。
 仮に前者を選択するとすれば、中朝関係をさらに強化することがもっとも現実的だ。この選択においては、朝鮮が二度といざこざを起こさないことをコミットし、中国は、朝鮮が求める安全保障を提供することが必要となる。その中には、朝鮮が攻撃されたときには出兵して朝鮮を援助する義務を公に明らかにし、中朝協力を軍事レベルまで回復し、朝鮮の政権に完全な安全感を与えることが含まれる。しかしこのようにすることは取りも直さず半島が再び冷静構造に戻るということであり、アジア太平洋情勢に対する影響は言わずとも明らかだ。しかも朝鮮という極めて敏感な国家がこのような救世主を望むだろうか。
 第二の選択をするとすれば、中国が朝鮮に対する戦略を再定義するということを意味し、それがもたらす変動の衝撃はさらに大きく、朝韓ともに適応できないだろうから、このような「ほったらかし」はほとんど操作不能であろう。
 中国の唯一可能な選択は、事態が動くなかで、やはり現行政策を維持するということであるように見える。その原因の一つは、半島情勢に対して中国が「言ったらそれで決まり」というほどには強くなっていないということがあり、中国は現実には相変わらず半島問題の「小株主」に過ぎず、半島に影響を与え、ねじを巻くに足る資源には限りがあり、こうしろああしろと言う能力を持っていない。
 中国は朝鮮制裁決議に賛成票を投じたが、これは政策的連続性による臨機応変の行動だ。いまアメリカは原潜を半島周辺に展開しようとしており、中国はこれにも反対する必要がある。中国はもっと主動的に、思いきって半島の出来事を処理するべきであり、このような転換は中国の国力で十分に支えることができる。
 中国は朝鮮半島のごたごたでひどい目にあってきたが、それは受け入れる必要がある。しかし、半島で戦争が起こらない限り、国家の利益を実現できるチャンスも同時にあるだろう。中国としてはそういうチャンスをせいぜい利用して、巻き込まれることに伴う損失を埋め合わせる必要がある。これが我々の現実主義の態度であるべきだ。社説⑦

<参考:環球時報社説内容>

 既に紹介しましたが、もう一度確認しておけば、環球時報社説は全部で7つあります。即ち、安保理決議2094採択の前の段階では、2月16日付「朝鮮半島は急を告げる 中国はさらに戦略的忍耐心が必要」、同17日付「朝鮮の核、中国はおびえも幻想も焦りも禁物」、同18日付「中国の制裁参与 朝鮮が踏まえるべき度合い」と3日連続で社説を掲載するという異例の対応をしたほか、朴槿恵が大統領に就任した翌日の同26日付で「朴槿恵が半島の緊張緩和にチャンスをもたらすことを期待」を掲載し、決議採択直前の3月6日付で「朝米韓はすべからく相手側を脅しあげる幻想は放棄すべし」を、決議採択翌日の3月8日付で「朝鮮が理性的に決議を見ることを期待」を、そして3月13日付でいわば一連の朝鮮問題に関する社説の締めとも言うべき「半島、中国は動態の中で現行政策を維持すべし」を発表しています。

<2月16日付>
 もしも核兵器があれば本当に安全だと思うとしたら、それは幼稚だ。…
 朝鮮が中国の戦略的な防壁だと言うのであれば、朝鮮にとっての中国の方がもっとそうだ。中朝が戦略的に協調するのは互利的であり、朝鮮にとってさらに利益がある。重大な分岐に逢着したときには、双方の利益の最大公約数を探し求めるしかない。朝鮮が知らぬ存ぜぬで中国の戦略的スペースを損ない、中国・東北地方の安全と安定とを直接破壊するとなっては、中国としても少しは強硬に対応することになる。…
 中国が朝鮮を「懲罰」するのは、仲のいい友だちの間での警告であり、朝鮮をして中国と付き合う上でのボトム・ラインを知らしめるということでなければならない。しかし我々は、米日韓の陣営に加わって、アメリカが主導する対朝鮮制裁の積極的協力者となることは絶対にあってはならない。そのようなことをすれば、朝鮮をして米日韓の敵から中国の敵にしてしまうに等しく、戦略上愚かの極みであり、我々がかくも長年にわたって中朝関係において苦心惨憺してきた努力を一朝にして壊してしまうことになる。…
 中朝の友好及び特殊な関係を維持することは我が朝鮮半島政策の基本の一つだ。半島非核化もまた我々の確固とした原則だ。この二つが現在衝突しており、矛盾があるが、この矛盾を作り出したのは絶対に我々ではなく、我々だけの力ではこの矛盾を解消するすべはない。我々は戦略的な忍耐力を維持し、情勢の推移とともに穏健に前へ進む必要がある。…
 中国・東北地方が核に汚染されない限り、朝鮮の核問題に関して中国の動きうるスペースは十分に大きく、真っ先に慌てふためくのは我々ではないはずだ。したがって、朝鮮の第3回核実験が東北地方に影響を及ぼしていない状況のもとでは、以上のボトム・ラインを死守することが朝鮮半島の核問題に対応する中国の「核」であるべきだ。

<2月17日付>
 中国は、朝鮮の第3回核実験に対する反応として対朝援助を減らすべきだ。我々は朝鮮の核実験に反対であり、その反対は行動を通じて表明しなければならない。平壌が如何に喜ばないにせよ、我々はやはりそうするべきだ。…  北京はさらに平壌に対し、再び戦略ロケットを発射し、新たな核実験を行うならば、我々はさらに対朝援助を減少するだろうし、この態度は確固として変わらないことを告げるべきだ。
 しかし、中国は引き続き朝鮮の友人だ。これはうそ偽りではなく、中国は米日韓とグルになって海上及び陸上で朝鮮を封鎖することはありえず、安保理が対朝鮮決議に朝鮮の政権に対する脅威となる激しい内容を含めることには反対するということを意味する。中国は朝鮮が核保有することには反対だが、朝鮮に対する態度を180度ひっくり返すということはあり得ない。…
 核問題は極めて複雑であり、中国が単独でこのこま結びを解くだけの力はない。国際社会は中国にそのようなことを要求するべきではないし、中国自身もこのような気持ちはない。我々の能力はこの程度のものであり、半島非核化及び朝鮮の安全保障に対して力に見合った責任を担う必要がある。朝鮮と米日韓の敵対は我々が作り出したものではなく、問題の最終的解決については、彼らが互いに緊張を緩和し、ブレークスルーを実現する必要がある。  …中国・東北地方の環境的安全、米日韓が朝鮮に対して直接軍事攻撃しないこと、日韓が核兵器を開発しないこと、これらすべてが中国の以上のバランスを維持する上での前提だ。
 国際社会は朝鮮の核活動を阻止することができなかったが、半島非核化原則を放棄することはできないのであって、そのことから引き出される含意とは、外部(世界)は永遠に朝鮮が核兵器国であることを承認せず、朝鮮に発言権を与えないということだ。朝鮮の核兵器が周辺諸国に対して攻撃的な戦略的脅威となることはありえず、外部世界による朝鮮に対する攻撃及び転覆を威嚇によって阻止することはあるいはできるとしても、朝鮮をして東北アジアにおける攻撃的国家にさせるにはまったく不十分だ。朝鮮はこの地域において相変わらずもっとも弱い存在であり、朝鮮が核兵器を持つか持たないかと関係なく、もっとも弱い存在ということは変わらない。
 事実上、朝鮮が核保有の道を進めば進むほど、孤立を増すだけだ。平壌がそうすることは中国の利益を損なってきたので、米日韓とグルになって朝鮮を袋小路に追い込むことはないが、核によって作り出されたその国際的孤立を解消するために手伝う義務もなく、朝鮮は担うべきは自分で担うべきだ。
 朝鮮は小国であるのに、朝鮮自身も外部世界も間違って大国扱いしている。米日韓は朝鮮の脅威を誇張して、朝鮮に対する抑止を不断にエスカレートさせ、朝鮮をおびえさせている。平壌は大国のみが支払い能力を持つ戦略的な安全保障の道具(注:核兵器)を追求し、米日韓と正面からぶつかっているが、このような国家戦略の道は曲がりくねっていて進めば進むほど狭くなるばかりだ。
 朝鮮問題は軟着陸させなければならず、各国は朝鮮を小国として改めて見直し、朝鮮が東北アジアの繁栄に加わることを心から助け、朝鮮政権が平穏裏に移行することを確保したいとする関心に配慮するべきである。米日韓は、朝鮮政権を転覆させるという気持ちを徹底的に捨てるべきだ。この条件があれば、朝鮮もまた安心して平和な小国になるべきだ。
 中国は東北アジア情勢の発展方向を主導することはできないが、立場は明確にし続けるべきだ。どの国が中国と協力するかしないかによって、中国のその国に対する具体的な態度も決まってくるだろう。

<2月18日付>
 米日韓は中国が対朝鮮政策を変更することを強烈に望み、中国に対して絶え間なく圧力を行使している。朝鮮の核活動は中国の利益を犯しているので、中国が朝鮮に対して一定の「懲罰」を与えることは必要だ。カギは、中国が朝鮮を「懲罰」する度合いあるいは境界はどこにあるかということだ。
 中国が全面的に米日韓の制裁に加わったとしても、朝鮮の核保有を阻止できるとは限らない。他方、中国の態度が急激に変化するとなれば、情勢全体におけるもっとも突出した変数になり、情勢の中で蓄積されるエネルギーを引き寄せ、我が身で背負うことになる。
 中国はこのようなことを避けるべきだ。これは米日韓の利益には非常に合致するが、少なくとも一定の時間、中国をして朝鮮の最大の敵にしかねない。かつての中ソ及び中越間で何が起こったかを考えてみよう。中国と米日韓がグルになれば、中朝間ではいかなることも起こりうる。
 中国は朝鮮の盟友とはとても言えないが、いかなる時においてもこの国家の敵に自ら進んでなるべきではなく、朝鮮が核の敷居にあるときは特にそうである。…
 しかし、中国としては朝鮮の核活動に対する反対を行動に表さなければならず、そうしないと、朝鮮は何をしても中国は朝鮮の側に立つと考えるだろうし、中国は朝鮮を怖がっていると誤解する可能性もある。国際社会も、中国が朝鮮を何が何でも庇護するということを受け入れることはできない。
 我々は、中国は朝鮮を「懲罰」するべきだが、この「懲罰」の中身は米日韓の対朝鮮制裁の増分を越えるべきではないと考える。つまり、中国の対朝援助の減少は米日韓の対朝制裁強化を上回らないようにして、朝鮮及び世界世論の注意を引きつけないようにするということだ。これが、朝鮮に対する国際制裁に中国が参与するに当たってのボトム・ラインであるべきだ。
 朝鮮半島はあまりに多くの爆発的要素を蓄積しており、朝鮮の核問題はいまや大地雷だ。朝鮮は責任がある。しかし、米日韓も絶対的優勢の力のあるもう一方の当事者として、少なくとも半分の責任がある。米日韓が何ものも変えないで、中国が重大な変更を行うことによって情勢を突破するカケを行うことを要求するのは、確かな見込みもなければ、極めて不合理でもある。
 中国は朝鮮核問題の調停者であることを堅持するべきであり、調停によって事態が動くか動かないかにかかわらず、一方の側に加わって他方と対抗するということはしない。中国が朝鮮と盟友になるということはむずかしいが、米日韓の盟友になるのはさらに不可能だ。中国はズルズルと米日韓によって泥沼に引きずり込まれるようなことがあってはならない。

<2月26日付>
 韓国は過去数年間、対中認識が常にぶれており、韓国世論は中韓の具体的不一致に対して不断に感情的な反応を示してきた。…
 中朝友好は韓国の国家安全保障に対して実際的な損害をもたらすはずはなく、いわゆる損害なるものは、朝鮮に対して衝突して感情が高ぶったときの憶測である。…韓国は、韓米同盟の協力性を中国に対して要求するべきではなく、中国の和解調停は、半島が緊張しつつも爆発を避けている上でのカギとなる重石であり、他方韓国の安定は地域全体の安定の一部に過ぎない。…
 韓国は、実力主義の角度からの思考だけで対朝外交を考えることはできず、中国がそのようにすることを偏屈に要求するべきでもない。韓国は、米日韓という「小グループ」のなかで地縁的に朝鮮及び中国にもっとも近い国家として、半島及び大陸に対する理解を総動員し、東北アジア安定を促進する新しい力となるべきだ。
 韓国の地縁的位置が朝鮮問題における利益は米日とは異なることを決定づけており、朝韓は硬く結びついているのであって、両国の安全はあたかもコインの両面であり、韓国が自らの安全は朝鮮の安全欠落を条件としていると考えるのであれば、それはあまりに無邪気なことである。
 朴槿恵の就任が韓国の対外戦略を考え直す機会になることを希望する。韓国は、朝鮮の安全を着想することから自らの安全にとっての新しい道を切り開く必要がある。韓国世論は一途に平壌政権にレッテルを貼り、悪魔化しているが、朴槿恵はかつて自ら朝鮮に赴き、その指導者とも直接接触したことがあるので、韓国における対朝鮮観を打破するために貢献するべきだ。朴槿恵就任に当たり、彼女の政治的知恵と指導力を信じたいと思う。

<3月6日付>
 …米韓がなんでもすぐ朝鮮に対する合同軍事演習を行うことは間違っていると指摘しなければならない。両国の力を合わせれば朝鮮の何倍になるかは計り知れないのであって、両国は合同軍事演習に対する朝鮮の気持ち及びそのことがもたらす実際の結果について考慮するべきだ。あるいは両国は朝鮮を脅しあげようと考えているのだろうが、かくも長年にわたって脅し続けた結果が朝鮮の核実験だったのだ。仮に米韓がまったく考えを変えようとせず、ひたすら朝鮮をして恐怖によって変わらせるということを考えているのであれば、両国としてはさらにまずい今後の状況に対して準備することだ。
 しかし、朝鮮の今回の反応(浅井注:米韓合同軍事演習の3月11日を期して諸々の対抗措置を取ることを明らかにした朝鮮の対応のこと。上述1.参照)は明らかにやり過ぎということも指摘する必要がある。米韓は始めて合同軍事演習をしたということではなく、今年の規模が最大ということでもないのに、平壌が突然に対決を停戦協定廃棄のレベルにエスカレートしたということは、双方のこれまでの報復連鎖の尺度に対応するものであるとしても、やはり常軌を逸しているものだ。
 朝鮮もあるいは米韓を脅しあげようとしているのかもしれない。安保理は朝鮮の第3回核実験について会議を行ってきたが、まだ制裁決議に対して投票を行ったわけではない。朝鮮の激しい行動に対しては、投票前にアメリカなどに対して圧力をかけようとしているのではないかという疑念が持たれている。しかし、平壌は次のような問題を考えるべきだ。即ち、米韓が朝鮮を脅しあげられないのに、朝鮮は米韓を脅しあげられるというのか。しかも今回の情勢のエスカレーションの後、朝鮮の置かれる状況は恐らく米韓よりもさらに不利となるだろう。
 朝鮮は「靴を履いたものは必ず裸足になることを嫌がる」ということを過信するべきではない。要するに、朝鮮が過激に反応しても、米韓という「靴を履いた」相手に「裸足になる」危機感を持たせることはできないということだ。…
 半島の緊張は、「一方の掌だけでは音は鳴らない」という中国の言葉どおりだ。朝鮮にせよ米韓にせよ、全員が現在の危機的な情勢に対して責任を負っているということを認識するべきだ。それぞれの政策はすべて大変な失敗だ。アメリカは朝鮮が核弾頭と長距離ミサイルを獲得することを望まなかったが、朝鮮は持ってしまった。韓国は自らの安全が盤石となることを希望したが、危機は続出して止まない。朝鮮は核実験をしたが、国家は貧しく、ますます孤立している。
 米韓及び朝鮮は、相手側を脅しあげるという考えを捨てるべきだ。なぜならば、誰も自分から開戦しようとは本気で考えておらず、相手側から見れば、自分たちがやっていることは虚勢を張り上げている役者に過ぎないのだから。
 しかしながら情勢は、一歩一歩とエスカレートし、双方それぞれが方向転換するスペースは次第にゼロに近づいており、もともとは動きうる余地のあった戦略的コントロールの局面が針一本も通さないまでになってしまっている。このような時になると、平和及び戦争に関する重大な選択権限が最高指導層から流れ出て、全局を把握せず、ひいては経験も不足している年若い将兵の手元にまで落ちてきてしまう。これこそが朝鮮半島の真の危険である。
 仮に朝鮮半島で重大な軍事衝突が本当に爆発すれば、全員が敗者になる。人口及び経済がかくも密集している地域で戦争が起これば、21世紀(という時代)はいずれの側に対しても「勝利」という褒賞は与えるはずがない。…

<3月8日付>
 …朝鮮は間違ったことを行ったのであるから励ましを得るべきではなく、相応の代価を支払うべきだ。したがって中国は朝鮮を制裁することを支持した。しかし、制裁だけで朝鮮の核保有を阻止できないのであり、米韓日は、制裁を通じて平壌を圧服するという幻想は捨てるべきであり、朝鮮の戦略的な安全欠落感を弛めるために努力するべきだ。そうしてのみ、半島の持続的な安定という正道が実現する。
 平壌は、理性的に安保理の新決議を見て、非理性的な行動で対決の新しいエスカレーションを促すことを回避するべきだ。過去数年の成り行きが示しているとおり、朝鮮の力に新たに核という要素が加わっても米韓日との対決において優位を占めるには足りず、朝鮮の極端なやり方が戦略的な新局面を切り拓くこともできず、核保有は戦略的改善をもたらさないで逆にその苦境を増している。
 中国が賛成票を投じたことに対して、朝鮮はなおのこと理解するべきだ。朝鮮の核保有に反対ということは中国社会の普遍的な態度であり、しかも、平壌が核問題であまりに中国の利益を無視し、中国の外交及び安全保障に対して難題を提起したという受け止めだ。この賛成票によって対応した中国人の偽りない感情が再度朝鮮側によって無視されないことを希望する。
 東北アジア地縁政治の現在の情勢が中国に賛成票を投じることを求めた。半島問題は朝鮮の独り相撲ではなく、多くの変数がからむインタラクティブなプロセスだ。中国は全局の安定に対して責任を担っており、関係国の態度の間で最大公約数を可能な限り求める必要がある。
 中国の朝鮮に対する友好姿勢は一度として変化したことはなく、外交面でそうであるだけではなく、民間も同様だ。中朝友好を維持することと平壌の核政策に断固反対することとは、中国人においてはなお、調和不可能なほどに対立するものではない。平壌が中国の民意におけるこの複雑さに積極的な行動で応えること、中国民間の朝鮮に対するさらなる好感を獲得すること、両国関係の大局を守ることを希望する。
 中朝関係の「友好」の含意については、中朝が共同して定義するべきだ。それは、平壌の一方的意向だけで決められるものではない。中国はこの原則を堅持するべきで、平壌が不満であるとしても、時間の推移とともに朝鮮も習慣となり、受け入れるだろう。
 米韓の世論では様々な予測が飛んでおり、新決議が効果を発揮することができるかどうかのカギは中国が「協力するかどうか」だとしている。中国が朝鮮の最大貿易パートナーであるので、真剣に決議の内容を実行することは確かに非常に重要だ。しかし、制裁決議の効果そのものが限られているし、より大きな戦略的効果を発揮させようとするならば、よりカギとなる協力を行うべきは米日韓である。米日韓が朝鮮の安全保障上の要求を考慮し、抜本的に対朝政策を変更するか、半島の停戦メカニズムを平和メカニズムに向けて変えることを推し進めることができるか否かということこそが、朝鮮が安全観を改め、進んで核計画を放棄する決定的な外務要因なのだ。
 中国は朝鮮と米韓日の間で関わり合い、極力情勢の脆弱な安定を維持し、骨折り損のくたびれもうけがしばしばだ。しかし中国としても、心を砕いてまで誰かのご機嫌を取るという必要もないのだ。中国の朝鮮核問題における独特の役割は、半世紀以上にわたって形作られてきたものであり、中国にとってプロもコンもあるが、中国が即刻放棄しなければならないほどには悪くはなっていない。関係国の間で中国が戦略的に動くスペースは相対的に大きいと言えるのであって、最悪の状況のもとであっても、東北アジアで真っ先にこけるのは絶対に中国ではない。
 正にそうであるが故に、各国は中国による調停を大切にし、中国が「間に挟まって」いることの様々な困難を理解するべきだ。中国の半島政策は、細かいところではいずれの側にとってとても満足できないものかもしれないが、中国の調停の大方向は関係国それぞれの利益と合致しうるものだ。それだけで十分である。

<3月13日付>
 …中国の置かれた位置は極めて気まずいもので、朝鮮にせよ韓米にせよ誰も中国のアドバイスを聞こうとしない。しかも双方はいずれも中国に対して求めるものがある。朝鮮は中国が「友だち」らしく振る舞い、その間違った核政策のためにカネを払うことに甘んじることを希望している。それに対して韓米は、中国が「本当のモラル」を発揮し、朝鮮を制裁する同盟に加わることを期待している。
 中国は左でもなく右でもなく、あたかも中立のようだが、20世紀の朝鮮戦争は我々の役回りをある程度固定したのであって、誰も中国が「中立」であることを評価しない。中国は半島における衝突から超然とすることもなかったし、衝突に対して効果的に介入することもなく、半島には兵士は一人としておらず、中朝関係の強度は韓米軍事同盟よりはるかに低い。
 朝鮮は中国の戦略的障壁である、という言い方は総体としては過去のものとはなっていないが、疑問符も徐々に増えている。朝鮮は直接中国と国境を接しており、中国と敵対するかあるいは反対方向に敵対するかは、中国が戦略的スペースを維持することに対して重要な影響がある。朝鮮が韓米に対して強硬であることにより、ワシントンは地縁外交上北京に助けを求めることを迫られてきた。朝鮮が面倒であることにより、アメリカは戦略上の関心を中国に集中するのではなく、分散させられている。しかし、半島をめぐって中国が遭遇する面倒はますます多くなっており、時には朝鮮の行動はアメリカ以上に中国にとって耐えがたいものになっている。
 中国の国際的役割は50余年前とは様変わりしているし、中朝の特殊な関係も朝鮮戦争後のある時期に「真空期」にあったこともあり、中国はもはや朝鮮戦争のすべての戦略的果実を継承するのが難しくなっている。中国の今日の対朝鮮政策は今日の地縁的情勢及び中国の国家利益を出発点とするべきであるという考え方は誤ってはいない。
 中朝関係は「牢固とした」友人ではないが、なんと言っても友人ではある。また、中国は東北アジアに公然の敵はおらず、このことは中国の独特の戦略的地位だ。公然の敵はいないが、半島情勢に影響を及ぼす強力なテコも持っておらず、中国は半島情勢によって極めて受け身的に引っ張られつつ動いているわけで、中国の地縁的情勢に対して総合的な評価を行うことは極めて難しい。
 急激に半島政策を変更することは中国にとって不利だが、半島情勢が変化するときに中国がいかなる調整もしないとすれば、そのこと自体がもともとある戦略構造に向かい合う上で後れを取るということになる。中国は自分自身の考え方をよくよく整理する必要があるのかもしれない。
 中国は半島情勢に対してもっと効果的に影響を及ぼすテコを必要としているのか否か。あるいは、中国は正真正銘の「中立」に進み、主要なエネルギーを半島の動揺によって左右されないか左右されることが少ない能力の建設に振り向ける必要があるのだろうか。
 仮に前者を選択するとすれば、中朝関係をさらに強化することがもっとも現実的だ。この選択においては、朝鮮が二度といざこざを起こさないことをコミットし、中国は、朝鮮が求める安全保障を提供することが必要となる。その中には、朝鮮が攻撃されたときには出兵して朝鮮を援助する義務を公に明らかにし、中朝協力を軍事レベルまで回復し、朝鮮の政権に完全な安全感を与えることが含まれる。しかしこのようにすることは取りも直さず半島が再び冷静構造に戻るということであり、アジア太平洋情勢に対する影響は言わずとも明らかだ。しかも朝鮮という極めて敏感な国家がこのような救世主を望むだろうか。
 第二の選択をするとすれば、中国が朝鮮に対する戦略を再定義するということを意味し、それがもたらす変動の衝撃はさらに大きく、朝韓ともに適応できないだろうから、このような「ほったらかし」はほとんど操作不能であろう。
 中国の唯一可能な選択は、事態が動くなかで、やはり現行政策を維持するということであるように見える。その原因の一つは、半島情勢に対して中国が「言ったらそれで決まり」というほどには強くなっていないということがあり、中国は現実には相変わらず半島問題の「小株主」に過ぎず、半島に影響を与え、ねじを巻くに足る資源には限りがあり、こうしろああしろと言う能力を持っていない。
 中国は朝鮮制裁決議に賛成票を投じたが、これは政策的連続性による臨機応変の行動だ。いまアメリカは原潜を半島周辺に展開しようとしており、中国はこれにも反対する必要がある。中国はもっと主動的に、思いきって半島の出来事を処理するべきであり、このような転換は中国の国力で十分に支えることができる。
 中国は朝鮮半島のごたごたでひどい目にあってきたが、それは受け入れる必要がある。しかし、半島で戦争が起こらない限り、国家の利益を実現できるチャンスも同時にあるだろう。中国としてはそういうチャンスをせいぜい利用して、巻き込まれることに伴う損失を埋め合わせる必要がある。これが我々の現実主義の態度であるべきだ。

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