朝鮮問題:安保理決議2087と中朝関係

2013.01.28

*朝鮮が2012年12月12日に人工衛星を打ち上げたことに対して1月22日に安保理決議2087が採択され、これに対抗して朝鮮は第3回核実験を行う姿勢を明確にしています。安保理決議が採択されれば朝鮮が核実験に踏み切る行動に出ることは、これまでのコラムで書いたとおり当然予想されることで、このような展開はいわば想定内のことです。
私が予想していなかったのは、中国が朝鮮の核実験を導く安保理決議採択に同意したことでした。つまり、「安保理決議→朝鮮の核実験」という連鎖反応が起こらないようにするため、中国はあくまで安保理決議をめざす米日韓の動きを阻止する(拒否権行使も辞さない構えで米日韓を断念に追い込む)と判断していたのですが、その判断は間違っていたということです。
 決議2087の内容及びこの決議に関する中国政府関係者の発言、人民日報の鐘声文章及び環球時報社説、更には中国専門家の発言などを検討することにより、私の判断の間違いを生んだ原因について、私なりにいろいろ考えるところがありました。私が判断を間違えた最大の原因は、中国の総合的判断において、韓国・朴槿恵政権の登場及び第2期オバマ政権の船出という新しい国際的要因に対する配慮という要素が私の予想を超えて非常に重く働いたということにあるようです。まずは自分自身の判断の間違いについて、皆様にお詫びします。
 その上でということで、今後もさらなる展開が待ち受けているこの問題を考えていくためにも、今回の中国側の総合的判断の所在(中身)を吟味しておきたいと思います。また、朝鮮が予想どおり第3回核実験を行う意図を表明したことに対して中国はどう反応しているかについても見ておきたいと思います。さらに、中国の今回の対応について、私としてはいくつかの点で重大な(と私には思える)問題点が含まれていると思いますので、それらの点についても私が疑問に感じることを指摘しておきたいと思います(1月28日記)。

1. 安保理決議2087の内容と中国政府の努力の形跡

<安保理決議の内容>

 決議の文章を読んで、いくつかの点に注目しました。それらの点の多くは、確かに中国政府が朝鮮を一方的に追い込まないようにするために努力した跡を窺わせるものです。
 まず、これがもっとも重要な点なのですが、この決議は国連憲章第7章に基づく(したがって加盟国である朝鮮に対する拘束力を持つ)ものではないということです。この決議が根拠とする朝鮮の第1回核実験に対して採択された2006年の決議1718も、第2回核実験に対して採択された2009年の決議1874も憲章第7章に基づくものです。この点で、決議2087と決議1718及び1874との間には、拘束力の有無という点で決定的な違いがあります。米日韓は第7章に基づく決議の採択をめざしていたのですから、そういう決議にならなかったということは、中国の努力の結果以外の何ものでもないことは明らかです。
 次に、その違いがどういう規定内容の違いを生んでいるかということです。
まず決議2087では、朝鮮の衛星打ち上げを「非難する」(第1項)、これ以上の打ち上げを行わないことを「要求する」(第2項)、決議1718及び1874に基づく義務に従うことを「要求する」(第3項)となっています。非難及び要求に留まっているのです。
これに対して決議1718は、朝鮮が弾道ミサイル関連のすべての活動を停止しなければならないと「決定する」(第5項)、すべての核兵器及び現存の核計画を放棄しなければならないと「決定する」(第6項)、他のすべての大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画を放棄しなければならないと「決定する」(第7項)と定めています。また決議1874は、弾道ミサイル関連のすべての活動を停止しなければならないと「決定する」(第3項)と定めています。 国連憲章においては、安保理が憲章第7章に基づいて決定したことについては国連加盟国としては遵守しなければならず、その違反に対しては、安保理は様々な制裁を課すことができるという仕組みになっています。今回の決議2087にはそういう決定事項が含まれていません。これは明らかに、中国が強い制裁を求めていた米日韓の圧力をはねつけたことを示しています。
第三に、確かに今回の決議には新たな制裁内容が含まれていますが、それは従来の制裁内容を量的に拡大した程度のものに留まり、米日韓が当初めざしていた制裁内容からは大きく距たっています。これまた、中国の努力抜きにはなかったことであることが容易に理解できます。
第四に、決議の前文では、国際法の規定に基づき、すべての国家が宇宙の平和利用の自由をもっていることを明記しています。これも、朝鮮の立場に対する中国の考慮が反映した結果と言えるでしょう。
ただし第五に、今回の決議には、「朝鮮によるさらなる打ち上げまたは核実験が行われる場合には、重大な行動を取る決意を表明する」(第19項)という文言が入っています。2006年の第1回核実験及び2009年の第2回核実験に対して安保理が拘束力ある決議を行っていることに鑑みても、この規定が空警告ではないことが理解されます。中国としても、前2回の核実験に対して安保理決議採択に同調したわけですから、第3回核実験が行われる場合に決議採択に反対することは至難でしょう。そういうこれまでの経緯を考えれば、米日韓としてはこの第19項の規定を設けることを強硬に主張したことは容易に理解できますし、中国は決議2087の採択に同意してしまった以上、この決議にかかる文言の規定を盛り込むことを拒否するわけにはいかなかったのでしょう。しかし、客観的に言えば、この規定は朝鮮の核実験後のさらなる地雷原であることも明らかです。ということは、中国が決議2087採択に同意したという最初のステップ自体の当否が改めて問われるということでしょう。この点については、最後でもう一度考えます。

<中国政府の説明>

 中国政府の立場表明及び決議に関する発言としては、1月23日に行われた外交部の秦剛報道官の記者の質問に答えた発言と、その前日(1月22日)に、同決議採択後に駐国連代表部の李保東大使が内外記者に対して行った談話の二つがあります。
 秦剛発言は次のようなものでした。

 2012年12月12日に朝鮮が衛星を打ち上げた後、中国は何度も、国際社会が広く関心を表明する状況があった中で、朝鮮が打ち上げを行ったことに対して遺憾の意を表した。同時に中国は、安保理の反応は慎重かつ適度のものであるべきであり、半島の平和安定の大局を維持することに有利で、情勢が逐次エスカレートすることを避けるべきであると考えてきた。以上の立場に基づいて、中国は安保理の協議に建設的に参与してきた。

 「建設的に参与してきた」という発言に明らかなように、中国は米日韓が積極的に推進した安保理での決議採択に向けた協議に対して、端から否定的、消極的な姿勢を取るという立場を取ったのではないことが理解されます。

 安保理決議2087は各国が繰り返し協議した結果である。この決議は、朝鮮の衛星打ち上げ問題に関する国際社会の立場を表明するものであるとともに、対話交渉を通じて平和的に半島問題を解決することを希望し、6者協議の再開を呼びかけるなど積極的かつ肯定的なメッセージを発出したものであり、総じてバランスのとれたものだ。
 我々は、関係国が半島の平和安定を守る大局から出発して、冷静及び自制を保ち、情勢のエスカレーションをもたらすいかなる行動をも回避することを希望する。このことは関係国の利益に合致する。

 中国の当初の立場で私が重要だと思っていたのは、「安保理の反応は慎重かつ適度のものであるべき」とある中の「慎重かつ適度」という文言に反映されている、朝鮮の第3回核実験への引き金となることが明らかな安保理決議採択そのものに対する中国の慎重姿勢だったのですが、決議2087に関しての秦剛の発言からはこの文言は消えており、「バランスのとれたもの」という表現に変えられていることに留意する必要があると思います。つまり、中国は当初決議採択そのものに慎重という立場で米中間との協議に臨んだはずなのですが、協議の過程で決議採択そのものはやむを得ないという判断になっていき、むしろ決議の内容を米日韓と朝鮮との間でバランスのとれたものにしていこうとした、という立場及び判断上のシフトがうかがえると思うのです。
 しかし、このような中国の立場及び判断のシフトは、米日韓にとっては歓迎すべきものであったことは当然ですが、そのことは取りも直さず朝鮮にとっては受け入れがたいものであり、このシフトを行った時点で、中国としては朝鮮の核実験という事態を招くことは当然覚悟したはずです。しかし中国としてはなお朝鮮の自制を求めたかったわけで、「冷静及び自制を保ち、情勢のエスカレーションをもたらすいかなる行動をも回避することを希望する」というくだりは、文言上は関係国すべてに向けられてはいますが、優れて朝鮮に向けられた、核実験に踏み切らないようにというメッセージであることは間違いないでしょう。

 朝鮮の衛星打ち上げ事件は、半島問題を根本的に解決することの緊要性と必要性とを再度浮かび上がらせた。中国は一貫して、対話協議を通じて矛盾を解決し、関係国の関心を全面的にかつバランスよく解決し、平和的に半島の関係する問題を解決し、半島の非核化及び半島ひいては東北アジア地域の長期にわたる安定を実現することを主張してきた。6者協議は、この目標の実現を推し進める有効なメカニズムである。中国は、国際社会とともに6者協議プロセスを推進し、半島及び東北アジア地域の平和と安定を守るために積極的に努力することを願っている。

 米日韓が朝鮮の一方的な非核化を押しつけようとしているのに対して、中国は、朝鮮がそのような要求に応じることはあり得ず、朝鮮の非核化は朝鮮半島非核化という枠組みの一環として進める以外に展望は開けないないと認識しています。また中国は、そういう非核化を実現するための前提条件(あるいは同時並行的に満たされるべき条件)は米朝、米韓、朝日関係の正常化であるという判断・認識に立っています。この点では中朝の認識・立場は一致しています。その点が「関係国の関心を全面的にかつバランスよく解決し、平和的に半島の関係する問題を解決し、半島の非核化及び半島ひいては東北アジア地域の長期にわたる安定を実現すること」という文言に込められています。そして、そういう包括的かつ多岐にわたる問題を扱うためのメカニズムとして6者協議の有効性を強調しているわけです。
 李保東大使の発言は決議2087の内容及びその意義について説明するものでした。

 安保理の最初の草案中には多くの制裁の内容と措置が含まれていた。中国は、このような措置は情勢緩和にとっても外交努力を行う上でも好ましくなく、朝鮮の経済民生及び各国の朝鮮との正常な貿易交流をも阻害するものであると考えた。1ヶ月以上にわたる密度の濃い協議を経て、今回採択された決議においてはこれらの内容はもはや含まれていない。

 決議の内容について中国政府関係者がこのように立ち入って説明するのは珍しいことだと思います。李保東の発言は、アメリカが出してきた決議の当初の案文には米日韓の主張する強硬な制裁内容が含まれていたことを確認するものです。興味深いのは、そういう制裁は「朝鮮の経済民生及び各国の朝鮮との正常な貿易交流をも阻害するものである」として斥けていることです。後で紹介する専門家の発言に徴しても、中国と米日韓との間では中朝貿易を制裁内容にどの程度まで含ませるかで激しいやりとりがあったことを窺うことができるのですが、李保東の貿易問題へのことさらな言及はそういう背景の存在をうかがわせます。特に朝鮮にとって死活的重要性をもっている中朝貿易が制裁決議によって影響されることを許さないという立場を中国が明確にしていることは、朝鮮が核実験を行った暁に再び浮上するであろう制裁決議を考える上でも注目しておく必要があるでしょう(ただし、これも後で紹介する環球時報社説では、朝鮮の出方次第では、中国は中朝貿易を減らす覚悟だというくだりがありますので、今後の展開は予断を許しません)。

 半島情勢は今正にカギとなる十字路にあり、チャンスとチャレンジとが並存している。中国は、関係国とともにチャンスを捉え、交渉及び対話を通じ、速やかに6者協議を復活させることを通じて、関係国の関心をバランスよく解決することを希望する。
 (記者の質問に答えて)国際社会にとっての急務は情勢の悪化及び緊張のエスカレーションを防止することだ。中国は最初から、安保理決議あるいは制裁のみでは問題を解決できないのであり、対話及び外交こそが半島問題を解決する根本的方法であることを強調してきた。新年が始まった今、関係国が誠意を示し、前向きな態度を取り、半島の平和安定の大局に着眼し、誤解を解き、相互信頼を増進し、互いの関係を改善することを希望する。そうすれば情勢は良い方向に向かって発展するだろう。このことがまた、この決議が関係国に伝えている明確かつ重要なメッセージなのだ。

 以上の李保東の発言は、今回の決議の意義は、米日韓と朝鮮との間の緊張と対立を激化させることにあるのではなく、反対に、対話と外交による問題解決を呼びかけることにあるのだという中国の認識を強調することにあると思います。李保東としては、「今回の決議→核実験→制裁決議→緊張激化」という事態のエスカレーションを念頭におきながら、しかしそうした事態を起こさせないためにも6者協議を再起動させることが重要なのだ、と指摘したかったのではないかと思われます。

2. 朝鮮の反発と中国の対応

<朝鮮の反発>

 1月22日に安保理決議2078が採択された翌23日から25日にかけて、朝鮮外務省(23日)、朝鮮国防委員会(24日)、祖国平和統一委員会(祖平統 25日)が立て続けに声明を発表しました。長いので、それぞれの注目すべき文章を抜き書きしておきます。
なお、この文章を書いているさなかに、金正恩が最近行われた会議において、「朝鮮が「実質的で高い強度の重大措置」を採用して対応するとし、関係部門に具体的任務を指示したという朝鮮中央通信社の報道(1月27日付)に接しました。
ちなみにこの報道では、「関係国は問題を公正に解決し、事態の悪化を防止するために努力を傾けたが、彼らの能力には明らかに限りがある。世界の非核化を実現しない限り、朝鮮半島を非核化することは不可能だという道理もきわめて明確である」という文言も含まれているそうです(原文を確認できていないので、この記事を伝えた中国新聞社HPに拠っています)。これは、後で紹介する環球時報社説が、決議2087の内容について中国が朝鮮の立場を考えて大変な努力をしたのに、朝鮮国防委員会の声明(環球時報社説が問題にしたのは、後で紹介しますように、国防委員会声明が「世界の公正な秩序を立てるうえで先頭に立つべき諸大国まで気を確かに持てず、米国の専横と強権に押さえられて守るべき初歩的な原則もためらうことなく放棄している」と、名指しは避けながらも中国を批判したこと)はそれを評価していないとし、朝鮮がそういう気持ちならば中国としても今後は考えがある、という感情的なまでの反応を示したことに対して敏感に反応したものである可能性があります。あまり本筋論とは関係がありませんが、このような中朝間のやりとりは珍しいと思いますので、記録に留めておく価値があると思います。

◯朝鮮外務省の声明
-「決議」は、平和的衛星の打ち上げをあえて不法化し、わが国の経済発展と国防力強化を阻害するための「制裁」強化を狙っ‥ている。
-衛星を打ち上げるには、弾道ミサイル技術を利用する方法しかないということを誰よりもよく知っており、そのような衛星の打ち上げを‥行う国々がわれわれの衛星打ち上げが「弾道ミサイル技術を利用した打ち上げ」であるため、問題視されると言い張るのは自己欺まんと2重基準の極致である。
-問題の本質は、米国が敵視する国の衛星キャリア・ロケットは自分らを脅かす長距離弾道ミサイルに転換されかねないので、平和的な衛星打ち上げも行ってはいけないという米国の白昼強盗さながらの論理に‥ある。
-‥「決議」‥も、国連安全保障理事会が普遍的な国際法に違反し、われわれの武装解除と制度転覆を追求する米国の敵視政策に盲従した結果によって招かれた所産である。…
-宇宙の平和的利用に関する普遍的な国際法に準じて自主的かつ合法的な平和的衛星の打ち上げの権利を引き続き堂々と行使していくであろう。…
-世界の非核化が実現される前には朝鮮半島の非核化も不可能だという最終結論を下した。
米国の増大する対朝鮮敵視政策によって、自主権尊重と平等の原則に基づいた6者会談、9・19共同声明は死滅し、朝鮮半島の非核化は終えんを告げた。
今後、朝鮮半島と地域の平和と安定を保障するための対話はあっても、朝鮮半島の非核化を論議する対話はないであろう。
-われわれは‥核抑止力を含む自衛的な軍事力を質量的に拡大、強化する任意の物理的対応措置を取ることになるであろう。…
◯朝鮮国防委員会の声明
-…米国は年を越して‥とうとう国連安全保障理事会を発動してわれわれに対する新たな制裁決議をつくり上げ た。…
-世界の公正な秩序を立てるうえで先頭に立つべき諸大国まで気を確かに持てず、米国の専横と強権に押さえられて守るべき初歩的な原則もためらうことなく放棄している。…
-衛星の打ち上げは、われわれの正々堂々たる自主的権利であり、国際法的に公認されている合法的な主権行使である。…
-‥6者会談も、9・19共同声明もこれ以上、存在しないということを世界に宣布する。…
-…反米対決戦の新たな段階であるこの全面対決戦で、われわれが引き続き打ち上げることになる各種の衛星と長距離ロケットも、われわれが行うことになる高い水準の核実験も朝鮮人民の不倶戴天の敵である米国を狙うことになるということを隠さない。…
◯祖国平和統一委員会の声明
-…特に我慢できないのは、南朝鮮のかいらい一味が今回の「決議」つくり上げの先頭に立ってのさばったことである。…
-かいらい一味は今回、西海に落ちたわれわれの運搬ロケット「銀河3」の残骸物をすくって見て、高い境地に至ったわれわれの技術力に戦りつしている。…
-南朝鮮のかいらい保守一味が米国と共に反共和国核・ミサイル騒動にいっそう重大に執着している状況のもとで、今後、北南間にこれ以上非核化論議はないであろう。これに関連して、1992年に採択された「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の完全白紙化、全面無効化を宣布する。…
-南朝鮮のかいらい逆賊一味が反共和国敵対政策に執着し続ける限り、われわれは誰とも絶対に相手にしないであろう。歴史的教訓が示しているのは、反共和国対決を追求する連中を相手にしてみても、解決されるものがなく、むしろ北南関係がさらに悪化するだけであるということである。南朝鮮のかいらい一味は、同族対決政策を放棄しない限り、われわれと対座する考えをしてはいけない。

朝鮮外務省声明は「任意の物理的対応措置を取ることになる」という曖昧な表現でしたが、朝鮮国防委員会声明は「われわれが行うことになる高い水準の核実験」と核実験を行うことを明確に表明しています。
これに対して祖国平和統一委員会の声明は、「南朝鮮のかいらい一味」を批判・攻撃の対象としています。直接的には李明博政権を指していますが、朴槿恵政権に対する警告の意味が込められていることも明らかだと思います。

<中国の対応>

 1月23日に朝鮮国防委員会の声明が核実験を明言したことに対して、翌24日付の人民日報は鐘声の文章「半島情勢は知恵と勇気を呼びかけている」を掲載し、また25日付の環球時報は社説「朝鮮核危機、中国はいずれか一方の顔色をうかがう必要もない」を出して中国の考えを明らかにしました。二つの文章はともに、朝鮮半島の核危機という深刻な状況を前にして、米日韓及び朝鮮の双方に対して自制と理性とを呼びかけるとともに、問題解決には対話と外交しかないことを指摘するものです。
ただし、二つの文章には違いも見られます。鐘声文章は、米日韓及び朝鮮に対して冷静な呼びかけを行うことに力点を置いていて、あくまで理性的です。これに対して環球時報社説は、そのタイトルに示されているように、米日韓及び朝鮮のいずれに対しても中国は顔色をうかがうことはしない、あまり勝手な自己主張をするならば中国としても考えがあるぞ、という突き放した姿勢を示しているのです。
つまり、今回の決議採択までの過程で、中国は米韓及び朝鮮の双方の身勝手な(と中国が受けとめる)主張にとことん付き合わされて、うんざりしている感じが手に取るように伝わってくる内容です。当初は中国として決議採択なしでことを収めようとした(それは朝鮮の要求に合致していた)と思うのです。しかし、米韓の要求、特に先のコラムでも紹介しましたが、朴槿恵を訪問した中国特使の張志軍が、朴槿恵の朝鮮に対する強い姿勢に接したこと(1月20日付のコラム「朝鮮の核問題と中国」で紹介した、1月17日付『青年参考』記事において言及されている「1月10日に中国政府の張志軍特使と会見したとき、彼女は、朝鮮の核兵器開発を絶対に許さないし、朝鮮がはじめる新たな挑発に対しては手をゆるめずに厳しく対処すると明言した」という朴槿恵の対朝姿勢)などで、中国としては第2期オバマ政権及び朴槿恵政権の意向も考慮した対応を考えるようになっていったと思われるのです。しかし、そのことが朝鮮の怒りを招き、中国としては、中国が行ってきた仲介の労は、「労多くして益少なし」という思いに駆られた、という感じです。中国のホンネをうかがう上では環球時報社説の方が正直な気持ちが反映していると思います。

<鐘声文章>

 安保理決議2087は朝鮮の強烈な反発を引き起こし、朝鮮半島の緊張した情勢は再び急激にエスカレートするリスクに直面している。半島情勢が複雑で険しい様は、急坂にある巨石が如くであり、如何に強大な力をもってしても平和安定を象徴する頂に押し上げることは不可能であるのみならず、動かないようにすることさえできない状況だ。厳しい現実はこのことを今一度証明している。
 巨石が深淵に突き進んだらいかなる災難が醸成されるか、誰の眼にも明らかだ。このカギとなるときに際して、我々は次の原則的立場を強調する。即ち、安保理決議の権威は尊重されるべきであり、関係国は冷静さを保たなければならず、軽率な行動は必ずや情勢の緊張を増大するということだ。
 朝鮮半島は悪循環に耐えられない。このことは、朝鮮半島情勢を考える際に必ず備えておくべき基本的理性である。ところが、ある時期以来、関係国は方向を見失い、「自らに有利な」変化を作り出す衝動を抑えようとせず、微妙な進行過程において相手側を攻撃し、圧倒して、主導権を握ろうとするようになった。
 関係国はこのことに対して真剣に反省するべきである。徹底した反省をせず、必要とされる自省と自責が欠けている限り、必要な共通認識は達成すべくもなく、そうなれば情勢がさらに悪化することを阻止することもできない。常識から明らかな如く、落下する巨石はとてつもない衝撃力を持つのみならず、加速度をも伴う。関係国は正に冷戦を行い、頭を冷やすべきだ。
 半島を非核化し、関係国間の正常化を実現し、東北アジアの平和メカニズムを構築することは、朝鮮半島の平和安定を作り上げる上での重要事項である。半島の安全保障情勢の悪化を阻止するためには症状と病根をともに治療し、対話と協議を通じて関係国の関心をバランスよく解決することが不可欠だ。6者協議は、これに寄与する代替不可能な場である。この場における対話が中断した後、関係国の動きの振幅はますます大きくなり、半島の平和安定を脅かす衝撃はますます強くなり、一度は軍事衝突まで爆発した。  中国は、6者協議の重要な当事者として、朝鮮半島の非核化及び長期安定を実現するため、大局を重んじ、速やかに6者協議を再起動することを確固として主張し、大量かつきめ細かな仕事を行ってきた。責任を負う大国としての中国の役割については衆目の一致するところであり、尊重されて当然であるだけではなく、関係国の積極的な反応を得て然るべきである。
 …2011年以来、本紙(人民日報)は、朝鮮半島情勢に着目したいくつかの「鐘声」文章を発表してきた。残念なことは、関係国のメディアは、如何にして対抗を除去するかを検討するのではなく、相手側がいかなる挑発を考えているかを推測し、積極的に相手側をやっつけることを煽っている。
 感情にまかせて瞬間を支配することは簡単なことだが、その結果大きな困難を引き起こして収拾がつかなくなったときはどう対処するというのか。この問題を真剣に考え、知恵を出し、勇気を持って決断するべき時である。

(参考)この文章で確認されたように、「鐘声」は人民日報社の立場を示すものです。中国のネット「百度」によれば次のような説明があります。
「鐘声」は人民日報の国際評論の署名。2008年11月、人民日報は「鐘声」をペン・ネームとする国際評論を開始した。この署名評論は、正面から中国の国際問題及び中国に関連する問題についての立場及び主調を明らかにすることを主眼としており、スタイルとして迅速に反応し、鋭くかつ明確であるという特徴を備える。「鐘声」というペン・ネームは、国際部記者及び編集委員が、重要な国際問題及び中国に関係する問題に対して、中国自身の声を発出したいという希望に基づくものだ。中国の権威ある媒体として、人民ニッポには、重要な国際問題及び中国に関係する問題に対して自らの見解を発表するとともに、国際社会の誤った非難に対して反駁する義務がある。「鐘声」文章の作成に参与しているのは、人民日報国際部の編集委員と記者であり、どの文章も、多くの議論を経て作成されており、したがって集団的知恵の結晶である。

<環球時報社説>

 朝鮮は安保理決議に対して激しく反応し、「高い水準の核実験」を行うことを宣言した。恐らくこれは朝鮮の「分別を失った言葉」ではなく、朝鮮が新たな核実験の準備を確かに進めていると韓国側は報道している。
 …中国は決議案に対して大量の修正を行う努力を行った後で賛成票を投じた。しかし見るところ朝鮮は評価していないようで、(国防委員会の)声明では、中国を名指しはしないが、「世界の公正な秩序を立てるうえで先頭に立つべき大国まで、米国の専横と強権に押さえられて、守るべき初歩的な原則もためらうことなく放棄するまでに愚かなことをした」(浅井注:朝鮮中央通信社が伝えた日本語とは若干異なる表現です)と述べている。
 中国は深刻な両難の局面に入り込んでおり、半島非核化の目標はますます遠ざかっているだけではなく、朝鮮と韓日米との間で外交上のバランスを取ることすらほとんど不可能になっている。事態は既にとことん悪くなっているのだが、中国としては逆に気持ちを軽くし、半島の戦略的効果に対する自らの期待度を低くし、実事求是の態度でやってくる問題に応対し、もはや絶対的な目標を追求するのではなく、資源投下と戦略的収益との最適なバランスを追求することにしよう。
 中国は、半島の核問題に対して「症状も根本もともに直す」という錦の御旗を掲げて半島の非核化を追及し続けることが、半島問題における道徳的高みであり、関係国の身勝手な主張に対して中国が動きうるための余地(を確保する所以)でもある。中国は、米日のように半島における衝突の当事者となることはできないし、完全に埒外に身を置くという幻想もするべきではなく、双方の間でうまく立ち回るのだ。ある程度巻き込まれて一方更には双方の恨みを買うとしても、平然と受け入れる必要がある。このようにすることによって、我々は一定の戦略上の気楽さを取り戻すことができるし、いずれの側からの極端な要求によって縛られる必要もなくなり、具体的な衝突に対してより明確な原則的枠組みを設定することができるようになる。…
 例えば、中国が朝鮮に対して行っている援助の現在の規模は中朝友好を体現したものであると同時に、我々の朝鮮半島情勢に対する一種の態度という意味をも含んでいる。安保理における朝鮮にかかわる決議に関する中国の役割及び立場はハッキリしている。もしも朝鮮が新たな核実験を行いあるいは『衛星』を打ち上げるならば、中国はいささかもためらうことなく対朝援助を削減するべきだ。もしも韓日米が安保理をして朝鮮に対する極端な制裁を取らせようとするのであれば、中国は断固制止し、案文を変えるように彼らに迫るべきだ。
 朝鮮は「怒る」かもしれないが、それは朝鮮の勝手だ。我々としては、中朝友好が傷つくことを心配するあまりに何もしないということであってはならない。韓日米は中国を大いに非難するかもしれないが、それは彼等の勝手に任せる。我々には彼らのご機嫌を取る義務はないし、ご機嫌の取りようもない。…
 中国は大国であり、朝鮮半島とつながってもいる。このことが我々の戦略的利益の複雑にして多元的な性格を決定している。我々はどんなにしても、半島の双方の間で一方の側に立つということはできないのだ。紛争が混乱してしまったときには、中国としては自国の利益を最大限に守る必要があり、他のいずれの側の利益を守るということではないのだ。この点について半島のいずれの側も納得できないというのであれば、彼らをしてゆっくり考えさせよう。
 中国は半島の安定を望んではいるが、半島に本当に「大乱」が起こったとしても大したことはない、というのが中国の立場におけるボトム・ラインであるべきだ。中国の抵抗力は朝韓いずれよりも大きいし、日本よりも大きく、アメリカと比較しても小さいとは限らない。したがって、中国は半島情勢の平和促進者であり、東北アジア地域の平和安定に対して大国としての責任を負っているが、混乱を恐れる名簿において、中国は決してトップに名前があるのではない。
 …中国は大いに乱れる東アジアに身を置くことを運命づけられているが、幸運なことにこの地域の国家の中では最強である。どこかが乱に陥るとしても、まずはその国が乱れるわけで、中国の足元にまで水が押し寄せてくるときには、他の国々の首にまで水が来ているだろう。中国としては心を静め、忍耐心を保つことだ。

3. 中国の専門家の見方

 中国の専門家の見方はこれまでのところそれほど数多くないのですが、主だったものを取り上げて紹介しておきます。

<高浩栄(新華社世界問題研究センター研究員)「朝鮮半島情勢、短期的には楽観せず(1月24日付新華社HP)>

 この文章は、朝鮮国防委員会の声明が出る前の段階で発表されたものです。特に朴槿恵政権の下での朝韓関係について示している見解が参考になります。

 …韓国大統領選挙後の朝鮮半島情勢は、国際社会が注目する一つの焦点になっている。現在の状況から見るとき、情勢についてはあまり楽観しない。…
 朝鮮と韓国はともに「新旧交代」期にある。これは数十年来なかった新しい状況だ。この新しい状況のために、朝韓関係は非常に脆弱な安定状態にある。このような状態を作り出している外部的要因はもちろん無視できない。アメリカの「アジア回帰」戦略は、東北アジア地域において低強度のしかしコントロールできる緊張を保つことを必要とし、韓国及び日本の力の助けを必要としている。…朝鮮は、李明博政権とは付き合わない立場を堅持しており、‥我が道を行くスタイルで衛星を打ち上げたのは、国内的要因が主要な理由だが、半島情勢を激化したし、アメリカに対して圧力を及ぼす意味もあった。
 2013年の半島情勢を展望すると、悲観もしないが、楽観もしない。あるいは、悲観的要素が楽観的要素を若干上廻る。
 朴槿恵の対朝鮮政策の基本的考え方は、一言で言えば、李明博政権の基本的枠組みと似ているが、同政権の政策よりはフレクシブルであるということだ。「枠組みが似ている」というのは、彼女が提起している南北信頼関係の構築が朝鮮の「核放棄」を前提条件にしているということで、これは李明博政権の「核放棄、開放、3000」という枠組みと基本的に同じということだ。…
 しかし、朴槿恵もフレクシブルな措置をいくつか提起している。例えば、何時でもどこでも朝鮮指導者と会見したい;平壌とソウルに「南北交流協力事務所」を設立する;ケソン工業区の国際化;地下資源の共同開発;国際金融機構への朝鮮加入に対する協力;朝鮮のインフラ施設への援助提供;朝鮮に対する人道主義援助提供等々。彼女の提起している基本原則と比較すれば、これらのフレクシブルな措置は枝葉的なもので、実行できるかについては両説ある。
 朝鮮は韓国の大統領選挙期間中に朴槿恵の対朝鮮政策に対して激しい批判を行った…。しかし、朝鮮は朴槿恵に対する期待を完全に失ったわけではない。…朝鮮は、朴槿恵の措置及び姿勢は長期的なものであると観察しており、その意図の真偽を判断するには慎重さが必要だと分析している。したがって、韓朝関係が緩和するのは長い時間となり、難しさも増すだろう。…
 朝鮮半島の難題を解くためのカギはやはり既に4年の長きにわたって中断している6者協議に戻ってくるだろう。これまでの事実が証明しているように、圧力と制裁は問題を解決できず、6者協議に代わりうる方法もない。…

<劉鳴(上海社会科学院国際関係研究所副所長)「「中国式バランス」は朝鮮核交渉を推進できるか」(1月24日付文匯報)>

 劉鳴の発言は安保理決議2078採択を踏まえたものです。彼の発言内容からは、中国政府が取ってきた対応内容について、劉鳴を含む専門家に対して詳しいブリーフが行われていることを窺うことができます。

 …注目すべきは、この4年来で最初の対朝鮮制裁範囲を拡大した安保理決議が新しい制裁措置を出していないことであり、これは過去1ヶ月以上にわたって中国が関係国と緊密な協議を行った結果である。この決議は、「中国式バランス」の朝鮮核問題交渉における具体化であり、中国自らの利益を堅持する立場に基づくものであると同時に、朝鮮の実際状況に対する考慮の下で行われた実際的な政策選択ということでもある。
 近年においては、朝鮮と日本及び韓国との関係が悪化するに従って朝日及び朝韓間の貿易がほとんど停滞している一方、朝中の国境貿易は発展している。国際的な他の制裁から見ると、貿易制裁、食糧制裁及びエネルギー制裁はもっとも「効果的」な制裁措置であるが、その破壊性も大きく、被制裁国の国民経済の大幅な悪化を容易にもたらし、ひいては政権も転覆させられるのであり、このようなことは、朝鮮と交易関係を安定的に発展させている中国としては好ましくないことだ。
そこで中国は今回、2009年の安保理制裁決議の「定点制裁」、即ち特定の組織に対する制裁を延長することを推進したのであり、2006年決議が要求した朝鮮の海上荷物をチェックする全面的制裁(浅井注:決議第8項)を退けたのである。(海上荷物のチェックという全面制裁は)海上での衝突を引き起こし、地域の安定を破壊しやすい。しかも今回の決議の内容及び中国がこの決議を支持したことにより、これまでの朝鮮に対する圧力を確保することになった。
今回の決議が採択された後、朝鮮はこれまでと同じように強硬な意思表示を行い、「朝鮮半島の非核化宣言の終結宣言」を出した。朝鮮核問題交渉に対する朝鮮のこれまでの態度表明は一貫しないもので、外圧が大きいときは激しい言辞を弄し、圧力が小さいときは比較的緩やかに反応する。…しかし、朝鮮は一貫して国家利益及び戦略的利益を重視しており、どのような態度表明を行うかということと関係なく、核兵器を保有することは朝鮮の非常に重要な戦略目標だ。…
しかし、朝鮮の今回の態度表明によって6者協議の窓口が閉じられたということを必ずしも意味しない。現在のところ、朝鮮核問題を解決する方法は二つだ。
一つは禁輸制裁を通じて朝鮮のミサイル及び核の技術発展を遅らせることだ。朝鮮のミサイル及び核技術の発展スピードは極めて緩やかだ。朝鮮が製造しているミサイルの射程距離はまずまずだが、精度は高くない。朝鮮は目下ミサイルの部品の80-85%を生産できるが、残りについては様々な手段で他国から合法的に取得している。(朝鮮には)ヒューマン・パワー及びコストが低いという長所はあるが、様々な制裁によってミサイル技術の発展はさらに遅らされるだろう。
今一つは朝鮮の対外開放を促し、朝鮮の指導者及び人民に外部世界を理解させ、国際貿易の方が軍事的発展よりも国家の発展を促すことを認識させることだ。この点は、中国が堅持している「バランスよく」朝鮮核問題を解決するという出発点と図らずも一致する。韓国の朴槿恵新政権は李明博よりも緩やかな対朝鮮政策を採用し、原則堅持と同時に観光及び貿易の発展を推し進める可能性がある。
 今回の決議には6者協議の進展を推し進めることに同意する内容があるが、これは、朝鮮に対して強硬な立場を堅持していたアメリカが最終段階で中国に「譲歩」したものだ。6者協議が年内に行われるかどうかは、朴槿恵大統領が年内に朝鮮との間でどのように動き合うか、第2期オバマ政権が対朝政策においてどのように韓国と協調するか、及び米朝関係の改善如何などの要素によって決まるだろう。

<1月25日付解放日報記事>

 この記事は複数の専門家にインタビューした内容を紹介するもので、朝鮮の第3回核実験が行われる可能性及び6者協議再開の可能性などを扱っています。

第3回核実験の可能性及びタイミング
 2006年10月及び2009年5月に朝鮮は2回の核実験を行い、2回とも衛星打ち上げ後1-2ヶ月で行っている。2012年12月に朝鮮が光明星3号衛星を打ち上げたので、現在はまさに「慣例」的な核実験の「潜伏期間」に当たっている。…ある分析によれば、朝鮮は2月中に核実験を行うと見られている。なぜならば、この時期には多くのセンシティヴな事件があるからだ。2月12日はオバマの年頭教書演説日、2月16日は金正日誕生日、2月25日は朴槿恵の大統領就任日等々。
朝鮮は本当に核実験を行うか。分析筋の見方は必ずしも一致していないが、広範に共有されているのは、核実験は朝鮮の重要な戦略目標であり、自らの国家利益に基づいて核実験の時期を選択するだろうということだ。20年来、朝鮮半島における南北の実力は長期にわたってバランスが失われており、安全感の喪失が朝鮮をして「核保有」がその安全保障獲得の唯一の方法だと認識させている。法律的拘束力を伴う安全保障の約束を取り付けない限り、朝鮮が核兵器研究を放棄することは難しい。中共中央党校国際戦略研究所の張璉瑰教授はさらに、「核保有」はつとに朝鮮の憲法に書き込まれており、第3回核実験はタイミングの問題に過ぎないと指摘する。これに対して上海国際問題研究院アジア太平洋研究センターの龔克瑜副主任は、朝鮮国防委員会の声明は朝鮮のお決まりの態度表明で、過度に深読みすべきではないとする。
 しかし、いかなる政策決定も、プロとコンとの間の理性的な比較判断が必須であり、核実験は必ずや半島情勢をさらに緊張させ、複雑化する。復旦大学韓国朝鮮研究センターの石源華主任は、朝鮮はタイミングを選択するすべを心得ており、現在は必ずしも核実験を行うのに適当なタイミングではないと認識する。2012年末にはアジア太平洋の多くの国々で政権交代が行われた。韓国の次期大統領の朴槿恵は、朝鮮半島における「相互信頼プロセス」を推進することにコミットしたことがあり、その具体的内容についてはまだハッキリしていない。金正恩が元旦に発表した演説から判断すれば、朝鮮は、朴槿恵が南北相互信頼の具体的な「青写真」を示すことを待っている節がある。もしこのような時に核実験を行えば、韓国が対朝関係を変更する道をふさいでしまうに違いない。したがって、朝鮮はこの5年に一度という歴史的なチャンスを簡単に放棄することはないのであって、朴槿恵が就任した後で動くということでも遅くはないだろう。
6者協議の可能性
 朝鮮が退出を宣言したことにより、6者協議にも暗雲が漂っている。朝鮮核交渉の可能性は完全になくなったのか。朝鮮半島の平和安定の「カギ」は一体どこにあるのだろうか。
 歴史を振り返ると、朝鮮核問題交渉に対する朝鮮の態度は確固としたものではないようだ。2009年、朝鮮が衛星を打ち上げ、安保理が「非難」声明を出すと、朝鮮は6者協議を脱退すると宣言し、核施設を再起動させたが、その後は何度も後戻りしている。2012年7月、朝鮮の朴義春外相がカンボジアを訪問したとき、朝鮮は6者協議に復帰する準備を整えたと表明した。専門家は、朝鮮が6者協議に参加することを望むか否かは朝鮮の国益、社会の安定及び人道主義援助を獲得できるかどうかにかかっていると指摘する。龔克瑜は、関係国すべてがこの枠組みを維持する必要性を抱えていると指摘する。将来的に、6者協議は朝鮮半島の戦争状態終結、朝日国交樹立などの問題に向かい、更には東北アジアの安全保障メカニズムを樹立する場にすらなる可能性がある。
 「衛星打ち上げ-制裁-核実験-制裁」というように、近年における朝鮮と国際社会の関係は起伏を繰り返してきた。2010年には天安号事件、延坪島砲撃事件のあと、半島情勢は大いに緊張し、動揺が続いた。金正恩が政権に就いたはじめ、米朝関係は「活発な」状況を呈した。即ち、2012年2月には米朝第3次ハイレベル対話が成果を収めたし、朝鮮も頻りに新たなシグナルを出し、経済発展、民生改善を様々な政策のトップに置くだけでなく、外交姿勢もさらに積極的になった。ところが、昨年末に米韓は「気前よく」ミサイルの射程距離を拡大し、朝鮮は再び衛星を打ち上げ、半島情勢は再び谷底に陥った。事態の展開は正に「対決」方向に向かって加速しているかのように見える。石源華は、朝鮮核問題の障碍は米朝の対立にあり、アメリカが朝鮮に対する敵対姿勢を放棄してのみ、半島情勢が転回する可能性があり、そのことによってのみ、平壌が6者協議のテーブルに戻ることを促すことができると指摘する。

4. 中国政府の政策に対する疑問

 最後に、今回の安保理決議2087採択に臨んだ中国政府の対応を踏まえた、中国政府の政策に対する私の疑問点について4点指摘しておきたいと思います。これらの点に対して中国が納得できる説明を用意しない限り、中国がめざす大国主義でない、覇権主義ではなおさらない新型大国のあり方を、中国が実践し切れていないという疑問がつきまとうのではないでしょうか。

<決議2087を作ること自体の当否>

 何か自説を蒸し返すようで若干気が引けるのですが、私は中国が決議2087作成・採択に応じたことに納得がいきません。前のコラムで紹介したように、朝鮮は衛星打ち上げ成功に際し、「われわれは、すべての関係側が理性と冷静を堅持して、事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う」というメッセージを出しており、安保理が厳しい対応を取らなければ核実験を当面行わない(しかし、逆の場合には核実験を行う)という姿勢を示していたのです。朝鮮が核実験を行わないようにすることによって、米日韓が警戒する朝鮮の核ミサイル計画の進展を遅らせることができるわけですから、中国としては、そういう因果関係を米日韓に納得させる方がより戦略的な判断なのではないか、と思わざるを得ないわけです。
安保理決議に対する朝鮮外務省声明は、決議が「国連安全保障理事会が‥われわれの武装解除と制度転覆を追求する米国の敵視政策に盲従した結果によって招かれた所産」と批判して、それに対抗するためには核実験を行わざるを得ないという理屈づけにつながっていくわけですが、朝鮮がこういう対応を行うことはミエミエだったのです。中国が朝鮮の核実験阻止よりも重要ないかなる目的を設定したのかが見えません。

<朴槿恵政権就任まで決議採択を先延ばしできなかったのか>

 環球時報社説の内容から判断すると、中国は米日韓と朝鮮の間で板挟みに逢って苦労したことは理解できるのですが、朴槿恵新政権の対朝政策に中国が大きい期待感をもっていることを考えるとき、何も李明博政権末期に「慌てて」安保理決議を作る必要はないわけで、中国としては、既に1ヶ月以上粘ってきたのですから、さらにもう1ヶ月粘ることはできなかったのか、というのが私の素朴な疑問です。
 この疑問を解くカギは、朴槿恵を訪問した中国特使が朴槿恵の厳しい体調認識を持ち帰ったということだとは推定できます。つまり、朴槿恵が安保理決議の早急な採択を要求したという可能性です。中国としては、安保理決議採択に対して抵抗し続けることで、朴槿恵政権との良好な関係に悪影響が生じることを警戒した可能性です。
 そう理解することで、中国が決議2087に同意した事情は一応納得できます。しかし、朝鮮が核実験強行の正当化理由を与えないように動くことの方がやはり重要であり、その考えを朴槿恵に意を尽くして説明し、理解を求めることはできなかったのか、という疑問がどうしても残ります。
また、朴槿恵としても、核実験を強行してしまった後の金正恩指導部に対しては強硬姿勢で臨む以外にないわけで、その最悪の事態を避けることが外交的に動きうる余地を確保できたはずです。その点を指摘しているのが、既に紹介した復旦大学韓国朝鮮研究センターの石源華主任の発言ではないかと思います。

<安保理決議と宇宙条約>

 今回の決議だけにかかわる問題ではなく、私が以前から繰り返し指摘してきたことなのですが、宇宙条約というもっとも基本的な国際法で認められている朝鮮の「宇宙の平和利用」に関する権利を、安保理決議が制約することはできるのかという問題を、今回の決議2087に接して再度考えざるを得ませんでした。
 しかも今回の決議前文は、既に紹介したように、国際法の規定に基づき、すべての国家が宇宙の平和利用の自由をもっていることを明記しているのです。その権利を安保理が制約できるということは、国連憲章のいずれの規定にも根拠を求めることはできないのではないか、というのが私の基本的な疑問です。鐘声文章は、「安保理決議の権威は尊重されるべき」だとしていますが、その権威が尊重されるための前提は、安保理自体が基本的な国際法を自ら率先して遵守する姿勢を示すことなのではないでしょうか。安保理の権威を振りかざす中国には、中国自体が戒心する大国主義の臭いを感じないわけにはいきません。

<弾道ミサイル技術の利用>

 今回の安保理決議2087が前提としている考え方を忖度すると、朝鮮には確かに宇宙の平和利用の権利があることは認める、しかし、核ミサイル開発の一環でもある人工衛星打ち上げは認めるわけにはいかない、朝鮮が宇宙の平和利用するのは、弾道ミサイル技術を用いない方法に拠るべきだ、といういくつかのポイントに要約できるのではないでしょうか。
 しかし、今回の朝鮮外務省声明が鋭く指摘しているように、「衛星を打ち上げるには、弾道ミサイル技術を利用する方法しかない」わけです。例えば、日本の人工衛星打ち上げロケットにしても、国際的には弾道ミサイル能力として理解されています。
 しかも、他の国々については安保理は口を閉ざしているのに、なぜ朝鮮に対してだけはこういう要求をするのか、それは二重基準そのものではないか、とする朝鮮の指摘は無理がありません。そして、この点に対しては、これまでのところ、中国が説得力ある説明を行ったことを私は見たことがありません。

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