朝鮮の核問題と中国

2013.01.20

*1月19日付の朝日新聞(夕刊)は、「(国連安保理が)北朝鮮に対する制裁を強化する決議案を来週中にも採択する見通しとなった。米国と中国が大筋で合意した。複数の安保理関係者が明らかにした」と報道しました。また、同日付の中国新聞社HPも、韓国連合通信社の報道として、「多くの消息筋は18日、安保理は近く公式会合を開催して、朝鮮が衛星を打ち上げたことに対する制裁決議案に署名すると述べた」、「観測によれば、米中両国は協議内容に関して他の常任理事国及び非常任理事国の意見を聴取し、そのプロセス終了後に安保理の公式会合を召集して決議案を締結する」、「この決議案は朝鮮の衛星打ち上げに対する第2次制裁となる」と報道しました。
 私は2012年末にコラム「朝鮮の人工衛星打ち上げと中国」を書きました。このコラム掲載後、私自身今もって半信半疑のアクセスがありました(12月14日から18日にかけてのアクセス数が11000以上.通常はせいぜい100前後ですから、この数字は驚異的でした)。
私がこのコラムで指摘したことは、中国は、2009年の朝鮮の人工衛星打ち上げの時のヨミの誤り(朝鮮は、安保理決議はもちろん、議長声明が出されても対抗措置を取る(核実験を行う)と警告していたのですが、中国は議長声明発出に同意してしまい、朝鮮は警告どおりに核実験を行った)を認識しているので、2012年12月の朝鮮の人工衛星打ち上げに対して米日韓が安保理決議を主張しても、朝鮮の核実験強行を導かないために拒否権行使を辞さないだろう、という判断でした。
私のこの判断の今一つの拠りどころは、打ち上げ成功にかかわる朝鮮外務省スポークスマンの発言(「われわれは、すべての関係側が理性と冷静を堅持して、事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う」)でした。私はコラムで、「要するに、米日韓主導による安保理によって強硬な制裁措置が講じられるようなことがなければ、朝鮮としては「不本意」な「誰も望まない方向」に走ることはない(つまり、核実験を今すぐ行うということはない)、というメッセージを発していることは明らか」だと判断したのです。これだけ明確なメッセージを中国が読み誤るはずはない、と私は考えたのでした。
しかし、冒頭に述べた朝日新聞及び中国日報HP(が引用する韓国連合通信社)の報道内容が正しいとすれば、中国政府は、朝鮮に対する新たな安保理制裁決議採択に同意したことになります。そうであるとすれば、私が上記コラムで示した判断は誤っていることになるわけで、非常に多くの方がアクセスしてくださったのですから、私としてはできる限り正確なフォロー・アップを行うことが皆様に対する最小限の義務と責任の果たし方であると認識しています。
まだ、新聞社ないしは通信社の報道だけであり、中国政府の公式な立場が示されるに至っているわけではありませんので、ここではまず、私が示した判断内容については皆様に責任を持ってフォロー・アップすることをお約束する次第です。
以上のことと関係があるのかどうかはまったく不明なのですが、この数日間において、朝鮮の核問題にかかわるいくつかの注目すべき内容の文章に接しています。その内容については皆様に紹介する必要があると思い、翻訳しつつあったのですが、そのときに上記報道に接しましたので、私の判断に関するフォロー・アップという意味合いからも、これらの文章を皆様に紹介する必要が増したと思っています(1月20日記)。

1.中国の核政策について論じた文章

1月15日付の環球時報は、龍興春(北京外国語大学)「中国の核政策、ハッキリ語って差し支えなし」を掲載しました。龍興春がいかなる人物であるかはつまびらかではありませんが、その指摘にはいくつかの注目を要する内容が含まれています。中国政府の立場を反映しているとは直ちには考えられませんが、石原慎太郎の核保有発言や、朝鮮半島の核情勢に鑑み、中国内部で中国の核政策のあり方をめぐって真剣かつ突っ込んだ検討が行われていることを窺わせる文章であることは間違いないと思います。この文章のよう注目点としては次の諸点があると思います。
◯「大国間の戦争を防止するもっとも有効な手段」としての核抑止政策(したがって中国の核政策)に対して肯定的位置付けを行っていること
◯中国の核政策の原則として、「戦略的に明晰で、戦術的には曖昧」を提起していること
◯中国の核政策における看板である核の先制不使用に関し、「非核兵器国であっても、核兵器を持ち込み、あるいは中国に対して核攻撃を行うために他国に基地を提供するならば、このような国家はもはや非核兵器国ではなく、中国の核報復の対象となる」ことを主張していること。この主張は明らかに、非核三原則の「持ち込み」を取っ払う動きを強めている日本、アメリカの核基地としての役割を担っている日本を念頭においたものだと考えるべきでしょう。つまり、核先制不使用政策は日本に対しては適用されるべきではない、としているのです。
◯中国が近隣国に対して「核の傘」を提供する(拡大核抑止政策をとる)問題を考えるよう問題提起していること。「中国の周辺の国家の中には、外からの軍事的脅威に直面して、核兵器の開発によって国家の安全を保証しようとするものもいる。中国が信頼性ある核の傘を提供することができるならば、国際的核不拡散システムの正当性を高め、関係する国家の核計画放棄を促し、周辺の核にかかわる紛争を和らげることができるだろう」という指摘は、明らかに朝鮮を念頭においたものです。
私が2012年12月に書いた上記コラムで、12月13日付環球時報社評を紹介し、その中で、「中国が朝鮮に対して外からの軍事進攻を受けない保障を提供し、かつ、その保障が高度な信頼性を持つようにし、朝鮮の国家的な安全保障に対して核兵器と同等更にはそれ以上の機能を発揮するようにすること」を提起していることに注意喚起しました。その際には、「読みようによっては中国が朝鮮に対して「核の傘」(拡大核抑止力)を提供するということを考えているようにも受けとめられるものです。まさか、とは思いますが、朝鮮の核武装が日本の核武装の呼び水になることをもっとも警戒している中国としては、朝鮮の核武装を阻止するためには「毒サラ」的なことも考えないという保証はないわけで、それだけ中国が朝鮮半島の核問題に神経を研ぎ澄ませていることが分かります」と書いたのですが、正に「まさか」と私が思ったことはまさかではないことを、龍興春の文章が明らかにしているのです。
 誇り高い朝鮮が中国の「核の傘」を受け入れることはまずもって考えられないと思うのですが、中国のなかでは、日本の核武装への引き金となりかねない朝鮮の核武装を阻止するためのあらゆる可能性が検討される状況があることは確認しておく必要があると思います。ただし、後で紹介する文章に見られるように、中国は朝鮮の核武装を対米・対日政策の一環として利用するべきだとする主張も公然となされており、核をめぐる中国国内の状況は百家争鳴であると思われます。

 過去の米ソ対峙の歴史的経験から見れば、核兵器は両大国の戦争発生を阻止するのにカギとなる役割を果たした。今日においては大国間には経済的に高度な相互依存があるが、核抑止は今もなお大国間の戦争を防止するもっとも有効な手段である。中国の核政策の明晰性及び実行可能性が増大し、核政策の信頼性が高まることによってのみ、中国の核抑止の有効性を担保することが可能になる。
 2005年に国防大学教授の朱成虎少将は、中米両国が台湾問題で軍事衝突するとなれば、「中国には核兵器を使用する以外の選択はない」と述べたことがある。彼のこの見方はアメリカと核戦争をするということではなく、核政策を明晰化することにより、相手側に対して中国のボトム・ラインがどこにあるかを知らしめ、それによって中米関係の戦略的安定性を高めることにあった。
 中国の核政策は、「戦略的に明晰で、戦術的には曖昧」ということを実現するべきである。(核兵器を)使用するかしないか、いかなる状況下で使用するか、ということは戦略レベルの問題であり、完全に明晰にすることができる。如何に使用するか、どのような範囲で使用するか、どれぐらいの量の核兵器を使用するか、運搬手段は潜水艦か、航空機か、それともミサイルかといった問題は戦術問題に属し、曖昧にしておかなければならない。
 中国は、「いかなる時でも、いかなる状況においても核兵器を先制使用しないという政策を遵守する」。実際において、我々の核兵器使用に関する政策は、他国を攻撃するに当たって核兵器を使用しないということに限られており、自国を防衛するためには(核兵器を)使用することができるということだ。かつてアメリカの軍事専門家が三峡ダムを攻撃することを提案したことがあるが、本当に三峡ダムを爆撃して破壊するとなれば、その破壊は数発の核兵器よりもはるかに大きい。したがって、「敵方が三峡ダムを爆撃して破壊することは核攻撃と同じと見なす」と宣言し、必ず核兵器を使用して報復することを明らかにするべきである。核兵器を先制使用するかしないかの前提を明確にすることは、いかなる外国であっても中国本土に対していかなる形式の軍事的打撃を与えることをも控えざるを得なくさせるため(に必要)である。
 中国は、非核兵器国及び非核地帯に対しては核兵器を使用せず、使用するという威嚇を行わないことを無条件で約束している。しかし、非核兵器国であっても、核兵器を持ち込み、あるいは中国に対して核攻撃を行うために他国に基地を提供するならば、このような国家はもはや非核兵器国ではなく、中国の核報復の対象となる。さらに、アメリカなどの核兵器国は一貫して「戦術核兵器」を開発しており、核兵器を使える兵器にしようとしている。中国が戦術核兵器の攻撃を受ける場合、中国は核兵器で報復するのか。戦術核兵器と戦略核兵器の間の境界はどこにあるのか。
 もっとも考慮に値する問題は、中国は核の傘を提供することができるかどうかという問題である。中国の周辺の国家の中には、外からの軍事的脅威に直面して、核兵器の開発によって国家の安全を保証しようとするものもいる。中国が信頼性ある核の傘を提供することができるならば、国際的核不拡散システムの正当性を高め、関係する国家の核計画放棄を促し、周辺の核にかかわる紛争を和らげることができるだろう。隣国が核攻撃を受ける場合、その災難の影響は中国に波及し、中国の周辺における平和と安定という大局をも破壊するものであり、核の傘は、外部勢力が中国周辺に戦争を押しつけることを阻止することができる。
 時代の発展に伴って我が核政策に改善を加え、中国は核兵器を使用しないという基本原則を変えない下で核政策の信頼性及び実行可能性を高め、より積極的姿勢で世界平和を守っていこう。

2.朝鮮の核武装がらみの朝鮮半島情勢と中国の立場

 朝鮮の核武装政策は今後の朝鮮半島情勢を左右する最大の要素ですが、この問題を取り上げている次の3つの文章を紹介します。

<陳光文「朝鮮の核実験が東北アジアを攪乱するのを中国は楽観視する」>

この文章は、中国国務院(中国政府)直属の中国網(HP)に1月16日付で掲載されたものです。作者の陳光文は、ネットの「百度」で検索しましたところ、軍事問題コラムニストということで、「陳光文軍情観察」と題するブログで論陣を張っている人物のようです。自己紹介によれば、後で紹介する中国共産主義青年団の『中国青年報』系の『青年参考』や環球時報、法制日報など主要メディアにも登場する人物であり、この文章は1月14日付の本人のブログ記事を中国網が16日付で掲載したものであることから見ても、私が知らないだけで、中国の軍事問題に詳しい方にとっては「ああ、彼か」ということかもしれません。
その内容は、上で紹介した龍興春とは正反対で、朝鮮が進めている核ミサイル開発を押さえ込む必要はなく、それどころか、中国は対米対日外交上これを利用するべきだとする激しい内容のものです。中国政府がこのような政策を公式にエンドースするはずはありませんが、中国網が掲載したということは、中国国内における百家争鳴状況を知る材料にはなるでしょう。
また、私が書いたコラムにおける判断の妥当性について考える上でも、陳光文は重要な指摘を行っています。つまり、韓国側の報道を引用する形をとってはいますが、「朝鮮は光明星3号衛星の打ち上げを進めているときに、ほぼ同時に核実験の準備を進めていた」、「朝鮮は既に中国に対して核実験を行う旨を通報した」と断定的に述べていることです。つまり、朝鮮の第3回核実験は既定路線であり(そのこと自体は私も異論があるわけではなく、私は、外交カードの手持ちが少ない朝鮮としては、核実験を純軍事的必要に基づいて行うのではなく、外交上のカードとして大切にしながら、実験のタイミングを図る立場だと考えているのです)、そして既に実験を行う旨を中国に通報している(この点が私の判断と非常に異なることです。私は、安保理決議などが行われたら、それに対する対抗措置として朝鮮は核実験を行うということであり、中国の働きかけが奏功して安保理決議などが採択されなければ、朝鮮はとりあえず核実験を次の機会(?)まで伸ばすだろう、と判断しています)。
ただし、陳光文の文章にも、私の判断と通じる認識は示されています。「もしも阻止力が大きすぎるとなれば、朝鮮が今回の核実験を停止する可能性はある」としている箇所がそれです。
しかし、韓国側報道が示した1月20日という期限が過ぎても、安保理が決議を採択する(ということは、中国が拒否権を発動しない)となれば、ほぼ間違いなく朝鮮は核実験に踏み切るでしょうから、中国政府の判断、対応に関する私の分析結果は間違っていたことになることは変わりがありません。その点は今後さらに責任を持ってフォローすることをお約束しておきます。
陳光文の文章でもう一点注目する必要があるのは、尖閣問題と絡めて朝鮮の核・ミサイル政策を利用するという提起をしていることです。このような視点は、次に紹介する張璉瑰の文章とともに、中国側が尖閣問題についてありとあらゆる事柄を考えていることを示しています。正直言って、私には陳光文の文章も張璉瑰の文章も「ついていけない」という気持ちです。しかし、戦略的発想を常とする中国人は、私たち日本人も同じように戦略的発想で尖閣問題を考えるに違いないと思い込む人が少なくないのです(私はかつて北京で勤務していたときに、そういう場面に度々遭遇し、その都度、中国人の日本人に対する買いかぶり方に苦笑を禁じえませんでした)。

 朝鮮が2012年末に成功裏に衛星を打ち上げた後、国外メディアは、朝鮮の過去の例に基づき、引き続き第3回核実験を行うことになる可能性があると判断した。韓国の中央日報は12日、韓国が得た最新情報によれば、朝鮮は1月13日から20日の間に第3回核実験を行う可能性が高いと報道した。…韓国の情報から明らかなように、朝鮮は光明星3号衛星の打ち上げを進めているときに、ほぼ同時に核実験の準備を進めていた。そして衛星打ち上げに成功した後、核実験の準備のプロセスを早め、新年前までに以前洪水で損壊した一部施設を修復し、新たな核実験ための準備をすべて終えていた。…
 韓国の報道は、「在北京の朝鮮政府関係者は最近、朝鮮が1月13日から20日までの間に核実験を行う予定である」、「在北京の対朝鮮消息筋によれば、朝鮮の追加的な核実験の目的は核弾頭の小型化及び軽量化であり、第2期オバマ政権の登場に合わせたものである」と言及した。このことから明らかなように、朝鮮は既に中国に対して核実験を行う旨を通報したのであり、このことは朝鮮が中国(の立場)を尊重していることを示すとともに、従前の慣例に従っていることも示している。
 しかしながら、朝鮮の新たな核実験計画は間違いなく米日韓などの断固たる反対に直面すると見られる。また、このことは、朝鮮にとって国際世論の悪化などの負担をもたらすので、朝鮮としては非常に慎重になっている可能性がある。今回、朝鮮が事前に計画を中国に知らせ、中国を通じてこのニュースを広めた目的は、国際社会の反応を探ろうとした可能性が極めて高い。特に朝鮮がもっとも注目しているのは、新たに政権に就く日本の安倍首相及び韓国の朴槿恵大統領並びに第2期就任のオバマ大統領の対朝鮮政策のボトム・ラインは奈辺にあるかである。もしも阻止力が大きすぎるとなれば、朝鮮が今回の核実験を停止する可能性はあるが、(その場合にも)交渉を通じて西側国家のこれまでの制裁の解除及び新たな経済援助の約束を取り付けたいところであろう。
 朝鮮の隣国であり友好国である中国としては、朝鮮が新たな核実験を行うというニュースを真っ先に受け取ったことによってジレンマに陥る可能性が大きい。心理的には、朝鮮が核兵器を保有することは中国の安全にとって非常に不利であるから望まないところである。しかし同時に、朝鮮が衛星を打ち上げ、核実験を行うことによって東北アジア情勢を攪乱することは、中日間の白熱化している釣魚島をめぐる対決の情勢及び、アメリカの仲裁を装いながら日本の肩を持つ状況に対しては別の効果を持っているようでもある。
 アメリカは、釣魚島に日米安保条約の適用があると公然と明らかにしたのみならず、繰り返し世論的に日本の立場を支持し、さらに腹立たしいことに、中日の戦闘機が釣魚島に出現するという危急に際して、12機のF-22を嘉手納に再び派遣することを明らかにした。このことは、日本の意欲を大いに盛り上げているのみならず、日本の動きをますますエスカレートさせている。…
 こうした状況の下で、釣魚島紛争は既に中国にとって「単独対多数」という局面となっている。最近行われた中露の第8回戦略安全保障協議では大規模軍事演習を行うことを協議したが、ロシアにも中国に思うところがあり、中国のためにわざわざ米日を刺激しすぎることまでは考えておらず、中国が望むような局面が現れるのは難しい。この時に朝鮮の核問題が飛び出してきたというのは正に我が意を得たと言うべきである。一方では、朝鮮の核問題は釣魚島紛争よりもアメリカの関心を引きつけるし、他方では、米韓としては、朝鮮が軍事的冒険を犯すことに対して中国が影響力を及ぼすことを必要とするという中国に頼る状況がある中で、日本の挑発的行動を押さえ込むことになるだろう。加うるに、朝鮮のミサイル及び核兵器の実験プロセスをタイミングよく阻止できなければ、近い将来に朝鮮はアメリカ本土を攻撃する長距離核ミサイル能力を持つことになるのであって、それこそがアメリカのもっとも憂慮することなのだ。
 したがって、朝鮮の核実験が恫喝であれ探りを入れることであれ、これは正にグッド・タイミングであり、我が意を得たりということだ。釣魚島での対峙が収まらない状況の下では、中国としては朝鮮が核実験を行うという宣伝攻勢に歩調を合わせるとともに、朝鮮の核能力に関する宣伝が行き届くようにするべきである。米日が恐れを感じるようにすることによってのみ、釣魚島での両国の強硬なスクラムを阻止することができ、そうしてのみアメリカをして日本の増長した気炎を抑えつけるようにさせることができ、釣魚島の守勢に回っている局面を転換させることができる。
 以上の分析に基づけば、朝鮮が行おうとしている核実験に対しては、表では容認しつつ裏では制止するという政策を採用し、アメリカが中国に(朝鮮に対する)影響力を行使するように求めてくるようにするべきだ。同時に、中国はうまく立ち回って、この得がたいチャンスを利用し、釣魚島問題における米日の連合戦術を分断するべきである。

<張璉瑰「朝日関係好転の兆しで朝鮮が進んでジェスチャー 日本はこれに借りて中国に攻勢」>

作者の張璉瑰は中国共産党中央党校の教授です。この文章は、1月17日付の環球時報に掲載されました。日本が中国の外交的孤立を狙って朝鮮との国交正常化を進めている、とする張璉瑰の判断は「あり得ない」類のものだと思うのですが、どうでしょうか。その判断の当否は別として、「拉致」問題に血道を上げる日本の政治風土の中に、このような戦略的考慮が働く余地があるのであれば、日本外交にもまだ脈があるのだが、と私は皮肉を込めて考えるのですが。
それはともかく、中共中央党校教授という権威あるポジションにいる人物においてなおこのような考え方があるということは、私にとってある意味新鮮な(?)驚きでした。

 報道によれば、2012年12月に朝鮮は、非公式に日本に対して2013年2月に朝日政府間交渉を再開したいと表明した。日本側は、朝鮮のこの行動の意図が不明であるとして、今のところは回答していない。しかし、朝日双方の外交上の要請から見れば、遠からず朝日両政府の局長級交渉が再開するのは必然であるだけではなく、年内に朝日関係に一定のブレークスルー的な進展が現れる可能性は極めて高い。
 2012年を回顧すると、朝日韓の接触はかつてなく活発だった(として一連の事実関係を列挙)。2012年において二国間関係を改善するための相互の動きが頻繁だったということは、双方がこの点に関して切迫した要請があったことを反映している。
朝鮮からすれば、まず、朝日関係改善は朝鮮の核戦略における重要な構成要素である。核兵器国の地位を追求する朝鮮は二段階作戦をとっている。第一段階は難関を乗り越えて核兵器を保有することだ。朝鮮は2回の核実験を行うことによって核兵器国であることを宣言したわけで、第一段階は基本的に実現した。第二段階は、全方位外交により、国際社会をして核を保有した朝鮮と付き合うことに慣れさせ、核兵器国という地位を受け入れさせることである。朝鮮は既に米中露との関係を改善することについては大いにエネルギーを傾けてきており、朝日関係を改善することは朝鮮の核戦略における重要な構成要素である。
 次に、朝鮮は速やかに日本からの戦争賠償金を得たいと望んでいる。1990年代はじめに朝日が国交正常化交渉を行ったとき、日本が朝鮮に対して100億ドル以上の金額を支払うことで双方は既に合意していた(浅井注:私には初耳です)。2002年9月に小泉純一郎が訪朝した際にはこの金額の支払いについて双方はさらに協議した。ただし、核問題及び拉致問題で棚上げとなった。朝鮮は2回の核実験で国際社会の制裁に遭遇し、外貨が不足しているので、日本の戦争賠償金で先軍政治を支え、強勢大国を建設する必要性に駆られている。
 第三、2012年に日本は釣魚島及び独島問題で中韓両国との関係をこじらせてしまい、南千島群島問題でロシアとの関係も冷却化し、日本外交はかつてない苦境に陥っている。朝鮮は、このような状況の下で朝日国交正常化プロセスを推進することは極めて効率が高いと考えている。
 日本も切実な要請を抱えている。まず、日本においては、拉致問題は一貫して国民感情を刺激し、日本の社会政治情勢に影響を与える重要問題である。いかなる政治的人物にとってもまた政党にとっても、選挙で票を得ようとすれば、その早道は朝鮮と交渉し、拉致問題の解決で進展を得ることだ。
 次に、日本は領土紛争で中韓露との関係がすべて緊張している。日本が採用している戦術は、露韓との関係を緩和し、中国との対抗に全力を注ぐということだ。朝鮮は、一貫して中国の盟友と見なされており、日本が朝鮮との関係を大幅に改善できるならば、中国にとっては巨大な外交上の打撃となる。
 第三、朝鮮が核計画とミサイル計画を推進することは日本にとって直接の脅威だ。アメリカはこれらの問題で日本と立場が一致しているが、アメリカは既に朝鮮との間でスムーズな対話メカニズムを作り上げている。日本としては、アメリカが頭越しの外交を行い、単独で朝鮮と講和することを恐れている。日本は、自らの対朝対話メカニズムを作り上げて置き去りにされないことを狙っている。
 以上から、2013年のある時に突然日朝間の首脳会談が行われ、拉致問題などで双方が劇的な握手をする情景が現れるとしても、意外であると思うべきではない。

<1月17日付『青年参考』記事「韓朝双方が「言葉は柔らかいが動きは硬い」 半島情勢いまだ変化せず」>

『青年参考』は、既に述べましたように、『中国青年報』傘下の週4回発行の国際情報紙です。以上の二つの文章に比べますと、この記事に出てくる林暁光(張璉瑰と同じく中共中央党校教授)の見方は極めて穏当でバランスがとれていると思います。上記2つの文章の激しさの「毒消し」という意味もこめて紹介します。
ちなみに、林暁光は朝鮮半島情勢の先行きに楽観的ではないのですが、それは「アメリカがこれからも(金正恩を)信頼しない態度を堅持するならば」、「アメリカが積極的にジェスチャーを示すことでもないかぎり」という前提が附されていることには注意してください。
私は、朝鮮問題で白紙状態にあった第1期オバマ政権は、李明博政権の対朝鮮強硬政策に同調する中で自らの強硬政策を固めていったのであり、朴槿恵政権に対してはそういう対朝鮮認識に基づいてアプローチするだろうが、朴槿恵政権の対朝鮮認識如何によっては、第2期オバマ政権(後がないので外交的成果を欲する)として対朝鮮認識を改める可能性はある、と考えています。そういう意味でこれからの朝鮮半島情勢を考える上では、朴槿恵政権の出方に注目する必要がある(中国も同じ考えだと思います)と思っています。その点で、林暁光が以上のような前提を附していることに留意する必要があると思うのです。つまり、林暁光の認識は確かに楽観的ではないのですが、事態が好転する可能性を排除しているわけではないということです。

 アメリカのIT関係高官(注:グーグル最高責任者)の訪朝を招請し、ドイツの専門家に経済改革に関して「助言」を求めると同時に、金正恩指導下の朝鮮は、外交特に韓朝関係においても過去とは異なる途を歩んでいるように見える。
 中央党校国際戦略研究センターの林暁光教授は、記者に対し、韓国で新しい指導者が登場するに際して、金正恩の「態度が穏やかで、姿勢が柔軟」であるということは、韓朝関係の改善ということを必ずしも意味せず、畢竟するにやはり朝鮮国内の現実的必要に基づくものであると述べた。
◯金正恩の態度が穏やかで姿勢が柔軟ということには特別な意味はない
 2013年1月1日に金正恩は19年来で初めての新年メッセージを発表した。韓国が喫驚したのは、金正恩のメッセージの中で韓国政府を譴責することがなく、しかも南北対抗の停止及び平壌とソウルとの協力を呼びかけたことである。
 この点に関して中央党校の林暁光教授は、朝鮮の態度軟化のもっとも直接の原因は、韓国で政権が変わり新指導者が登場するということは「強硬な対朝政策」が変わる可能性があるということもあるが、根本的には朝鮮国内の現実的必要に基づくものであると述べた。
 まず、金剛山の共同開発にしても、韓国による食糧及び薬品の援助にしても、韓朝関係の改善にしても、明らかに朝鮮にとっての経済的実益が多い。次に、金正恩が登場して以来、激しい内部の権力闘争及び軍関係者の闘争に直面しており、朝韓関係改善の友好的シグナルを発出して外交的得点を稼ぐことで視線をそらし、国内矛盾を緩和することができる。第三、アメリカの「アジア太平洋リバランス」戦略の推進に従い、日本がさらにアメリカに傾斜し、米日韓3国が同一戦線で朝鮮に対抗している。金正恩が3国の軍事一体化を打破しようとすれば、まずは韓国に対してジェスチャーを示し、矛盾を利用して分裂と仲間割れを進めるしかない。
 しかし林暁光は同時に、朝鮮の「態度が穏やかで、姿勢が柔軟」であるということは、簡単にそれに見合った政策をとるということを必ずしも意味するものではないと考えている。
 韓国連合通信社の報道によれば、匿名の韓国高官が、韓国政府は既に、朝鮮が1月13日から20日までの間に核実験を行う計画を持っているという情報を得ていると述べており、このことで米日韓3国は高度に緊張している。これまでのところ、朝鮮は引き続き沈黙を守っているが、半島情勢は相変わらず心配の種である。
 林暁光は、「朝鮮はルールに則らないで事を進め、国際社会との約束を何度も破っている」、「しかも権力が一人の手に集中しており、決まった規範や路線に則るということもないので、政策の予測困難性が極めて高い」と述べた。
◯朴槿恵:「両手」には「両手」、穏やかであるとともに威嚇もする
 金正恩が差し出してきたオリーブの枝を受けとめるか否かに関し、朴槿恵の態度は極めて慎重である。
 選挙期間中及び当選直後は、朴槿恵は何度も朝鮮に対して善意を表明し、李明博政権の強硬政策を変更し、「南北統一促進」をその外交安保政策の中心にすると述べただけでなく、朝鮮の指導者と直接面会し、実質的な対話を通じて軍事的対峙を緩和し、6者協議を再開することを希望しているとも表明した。
 しかし最近では、軍事問題において朴槿恵の態度は非常に強硬になっている。1月10日に中国政府の張志軍特使と会見したとき、彼女は、朝鮮の核兵器開発を絶対に許さないし、朝鮮がはじめる新たな挑発に対しては手をゆるめずに厳しく対処すると明言した。
 朝鮮が核問題で堅持している「こせこせした動き」に対処するため、彼女は相手の機先を制し、軍事手段によって朝鮮に対する「強力な抑止」を保持することを決定した。韓国国防部関係者が明らかにしたところによると、韓国は目下長距離ミサイルの配備を鋭意進めており、「やり遂げた」暁には、射程距離は800キロに達し、朝鮮全域をカバーすることができる。
 このように見ると、朴槿恵は「両手には両手」ということであり、バイの関係を改選しても良いが、(朝鮮の)核兵器開発はもってのほかということだ。
 中国太平洋経済協力委員会の呉正龍副会長は、その文章の中で、朴槿恵は「一つの極端から他の極端に向かう」ということではなく、李明博の「強硬政策」と盧武鉉の「太陽政策」との中間の第三の道を選択していると述べている。
 林暁光は、「朝韓双方が相手側の言を聴き、その行いを観ている」、「韓国としても朝鮮のすることを観察しており、そうしてのみさらなる政策を出せるということだ」と述べた。林暁光は次のように考えている。即ち、韓国にはアメリカの「核の傘」があるが、朝鮮は自らに頼るほかない。韓国が不断にミサイルの射程を伸ばしているのは朝鮮が不断に軍事力を拡張しているからだが、韓朝双方が終始相互抑止、報復の状態を維持している。その結果、朝韓間に時限爆弾が埋め込まれることになっているだけではなく、地域の平和も脅威を被っている。
◯きな臭さが減っても、朝韓関係が実質的に改善することは難しい
 金正恩も「痛烈で厳しい言葉を口にする」ことをしなくなったし、きな臭さが少なくなった朝韓双方だが、将来は一体どうなるのだろうか。
 林暁光の見方はこうだ。双方が善意を示し続けることができるならば、それほど厳しく対立してはいない問題においてブレークスルーがあり得る。例えば、南北離散家族の相互訪問、韓国による人道主義援助などだ。
 しかし軍事対峙の分野におけるブレークスルーの可能性は「あまり大きくない、金正恩が耳障りのいい新年メッセージを出したとか、朴槿恵が心を打つ言葉を口にしたとかいうことによって物事が変わるということではない」と林暁光は考えている。
 林暁光は次のように予測する。金正恩は執政初期の少なくとも数年間はこれまでどおり「先軍政治」を実行するだろう。というのは、このことは朝鮮の安全係数及び金王朝の執政基盤にかかわっているからだ。しかし国際関係では、金正恩は友好的シグナルを出し続け、低姿勢で対話を模索するだろう。
 しかし、アメリカがこれからも(金正恩を)信頼しない態度を堅持するならば、金正恩の努力が所期の効果を収めることは極めて難しく、難局を打開することも難しい。朝鮮が核実験を行うことを堅持するならば、アメリカは新しい制裁を持ち出し、朝鮮をさらに孤立させるだろう。こうして外部の圧力が大きくなればなるほど、朝鮮内部の統治はますます強化され、対外姿勢もますます強硬になっていくだろう。
 したがって、林暁光の見るところ、アメリカが積極的にジェスチャーを示すことでもないかぎり、「緩和と対峙」の現状が今後も続くだろう。アメリカが動くための前提は、「アジア・リバランス」戦略が収まるところに収まり、すべての布石が打たれて、アメリカが主動的に差し伸べるオリーブの枝を金正恩が拒絶しないと(アメリカ自身が)確信するということだ。そのときまでには引き続き長い過渡的時間が必要とされるだろう。

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