尖閣問題:日中軍事衝突の可能性と構造的対決要因
(中国側の報道及び分析)

2012.12.25

*12月13日に中国国家海洋局所属の航空機が尖閣の領空空域に入ったのに続き、22日及び24日にも同様の行動がありました(領空には進入せず)。これに航空自衛隊の戦闘機がスクランブルで対応してきたことに対して、中国においては、海上では海上保安庁の巡視船によって対応してきたのに、空域では自衛隊の戦闘機による軍事対応を行っているということに対して危機感を高めています。
12月24日付の環球時報は「日本が中国側の航空機墜落を招致するならば、必ずそれに見合った報復に逢う」と題する社評を掲載しました。また中国社会科学院は同日、『2013年国際情勢白書』を発表しましたが、この中では釣魚島をめぐって日中間に武力衝突が起こる可能性を指摘した上で、そのような深刻な事態をもたらした根本原因として3つのポイントを挙げています。
 人民日報及び新華社の日本語版を検索しても、以上の2つの日本語訳が出ていないようなので、内容の深刻さに鑑み、以下に訳出して紹介します(12月25日記)。

<環球時報社評>

 …中国政府は、釣魚島情勢のドミノ的反応に対して事前の対策を周到に準備しておく必要がある。中国の民衆は、国家の本当の軍事力に対して理解が十分ではなく、「小日本」を軽蔑する感情が拡大しつつある。特に、中国人の深層心理においては日本に対する恨みが積み重なっており、それらが徹底的に激発されるならば、排山倒海のエネルギーとなるに違いない。
 もしも中国の公務執行中の航空機が釣魚島上空で日本の自衛隊戦闘機と対峙したときに「墜落」でもしたら、中国世論はどんなケースであれ堪え忍ぶことはできない。世論は一切を顧みず中国政府に対して報復行動を要求するだろう。そのときには、日本がわびを入れるとか、航空機を弁償するとかでは済まず、中国社会は日本の航空機が同様に「墜落」することを要求するだろう。
 日本が今後再び釣魚島海域で中国人をつかまえ、中国船を拘留するとなっても、もはや事態は昔とは違うのであり、中国の世論はそれを受け入れないだろう。中国政府は既に釣魚島海域において巡視し、法を執行する構えを常態化しており、中国人がこの海域で下手な目にあえば、中国政府として穏便にことを処理することは極めて難しくなっている。
 中国政府は釣魚島防衛の主動的な力となっており、日本が再び釣魚島で勝手なことをしでかすならば、日本が相手にするのはもはや中国民間の釣魚島防衛人士ではなく、中国の国家的信用及びプライドそのものに対する挑戦ということだ。(そのときに)中国政府が仮に後退するようなことがあれば、必ずや天下の笑いものになる。前に向かって進むとすれば、取りも直さず中日軍事力の直接衝突である。
 この2つの選択の中で、前に向かうことのみが中国政府の唯一の選択だ。どのように前に向かうか、どの程度まで前に向かうか、日本の増長気炎を叩くとともにアジア太平洋地域の平和と安定を維持するために、中国政府は真剣に研究し、事前に詳細な対策を講じる必要がある。
 中国政府としては、あらかじめ釣魚島における様々な危機爆発のシナリオを想定し、日本が支払うべき「対等な代価」について確固たる原則を定め、かつ、周到なプランを作っておくべきだと我々は考える。我々はこの原則を公表し、日本に誤解させないようにするとともに、アメリカにも知らしめるべきだ。とりわけ日本のすべての国民に対しては、日本が釣魚島の海と空で中国側に与える如何なる損失についても、日本側に同等の代価としてはね返り、日本は絶対に中国側の報復と懲罰を逃れられないということをハッキリさせるべきである。
 中国側が1機の航空機を失えば、必ず日本にも1機の航空機を「陪葬」させる。中国側の1艘の船が沈めば、日本にも同じような1艘を「陪葬」させる。中国の海空軍力が一時的に力が及ばないとすれば、中国のロケット部隊が出動してお手伝いする。この「対等」原則については交渉の余地はなく、アメリカが手を突っ込むとしても事情は変わり得ない。
 中国はさらに、様々なチャンネルを通じてこの原則を中国社会にも知らしめ、中国の民衆が中国政府の釣魚島主権を防衛する決心を信じ、同時に戦略及び戦術を設計することの重要性について理解するようにするべきである。…
 この「対等」原則の権威性を樹立することにより、中国の釣魚島戦略の透明性を実現し、外部が中国の行動は確固かつ断固としていることについて確信し、幻想をもたないようにさせることができ、同時に、中国の行動が底なしということではなく、中国が必要に応じて報復的な軍事行動を取ることをもって、中国は全面戦争を決心したと思うような誤読を避けることができる。
 もちろん、日本は中国の報復に対して反報復を行う可能性があり、中日間の相互報復の繰り返しを導き、情勢のエスカレーションを導き、最終的に大規模戦争となる可能性はある。もしも本当にそういうことになるならば、それは中華民族が日本と隣国であるということの宿命であり、我々としては他の選択はなく、アメリカが東アジアのために設計したこの災難に日本と一緒に向かうだけである。そのときにおける我々の決心とは、日本が支払う代価が中国のそれより必ず大きなものとなるようにするということだ。

<社会科学院白書>

 …日本側の頑固で強硬な立場に鑑み、そして中国の国家領土主権防衛の決心が非常に断固としたものである以上、釣魚島危機がさらにエスカレートして衝突が爆発するまでになるリスクを排除することはできない。今回、中日の釣魚島紛争が激化し、中日関係が大幅に悪化した根本原因は、野田政権による釣魚島のいわゆる「国有化」政策という冒険と失策にあった。しかし、もう一歩考えを推し進めると、近年、釣魚島問題で中日両国間において爆発した一連の摩擦及び対立は、中日関係が継続的に緊張し、低迷に陥り、困難から抜け出せなくなって来たことの一つの縮図でしかないことを見出すことは難しいことではない。このような局面を作り出した原因は多岐にわたる。
◯東アジアの権力関係において中日の地位が逆転したことがもっとも重要な構造的要素である。
 「日強中弱」の構造に慣れきってきた日本は、今になっても中国が急速に台頭している事実を受け入れることができないでいる。日本は、中国の国力が大幅に上昇し、影響力が不断に拡大していることに対してますます不安と心配を募らせており、このような焦りは対外戦略における日米同盟の不断な強化及び対中戦略的牽制となって現れているし、軍事上、中国を主要な防衛対象及び潜在的脅威と見なすことになっているし、外交上、中国を積極的に封じ込め、牽制する押さえ込みネットワークを作る動きになっている。…
◯アメリカの戦略調整は、一貫して日本の安全保障戦略に影響を及ぼす最大の外部的要素である。
 アメリカが不断に強化する「アジア回帰」戦略は、この地域における日本の安全保障戦略及び外交政策において「パルス式」の反応を激発したことは間違いない。日本人の中では、アメリカの新戦略が日本に積極的なシグナルを伝えたのであり、それは即ち、アメリカがアジア太平洋地域で覇権を維持しようとすれば、政治上、経済上、軍事上更には外交上、日本の密接な協調協力が必要だということだ。
 したがって、アメリカの戦略における日米同盟の地位は過去の如何なる時期にもまして重要であり、かつ、代わりがきかないものであって、日本としては、この機会を積極的に利用して自らの実力を拡大する必要があるのであり、一方ではアメリカとグルになって中国を抑止することであり、他方では米日共同で指導するアジア太平洋地域の秩序を大いに促すということだ。様々な事象が示すように、アメリカがアジア太平洋戦略を調整した後、右傾化が日々著しい日本は、中国との間で政治的に疎遠、軍事的に警戒、外交的に封じ込め、戦略的に抑止、経済的に利用という方向に向かって急速にかつ極端にまで歩みを進めてきている。
◯中日関係が次第に悪化してきたことと日本の日増しに深刻化する右傾化とは無関係ではない。
 現在、中国の台頭及び経済での追い越しに対する日本国内の政治エリートたちの反応は、まったく度を失っている。日本政治の舞台の中心を占め、首相の座をうかがう政治屋たちはすべて、アメリカのアジア回帰の機会を利用して、日本が普通の国家及び軍事政治大国に向けた歩みを早めることを主張している。…

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