朝鮮の人工衛星打ち上げと中国

2012.12.16

*12月12日の朝鮮の人工衛星打ち上げは、中国にとっても突然だったようです。その一端を示すのは、その日の朝に中国新聞社HPが、中央電視台「環球視線」(Global Watch)の「朝鮮の衛星打ち上げ引き延ばしは各方面の推測を招いている」という題目の、専門家二人とのインタビューの12月11日完成台本を午前6時28分に載せていることからも分かります。
ただし、この記事の中で、同電視台平壌駐在記者・趙曙光が次のような現地報告をしていることは注目されます。つまり、現地の感触では朝鮮が打ち上げを延期するという感じを得ていなかったことが窺われるのです。

「今日(11日)、朝鮮のメディアは、朝鮮がすでに運搬ロケットを発射台から話して修理を行った可能性があると報道した。しかし今までのところ、我々が前方で了解している状況では、朝鮮側はこの報道について確認を与えておらず、朝鮮側は今までどおり沈黙を守っており、衛星の打ち上げ準備工作の如何なる細かいことも明らかにしていない。今日の朝鮮の主要メディアにおいても、衛星に関することは一言も目にしておらず、朝鮮国内は少なくとも表面的には極めて平静であり、国際社会の高度の緊張と関心とは一種のコントラストを呈している。」(強調は浅井)

しかし、中国全体としてはやはり寝耳に水だったことはほぼ間違いないようで、そのことは後で紹介する13日付の環球時報社評のなかば取り乱した観すらある文章からも理解できます。しかし、私たちにとっての最大の関心は、今後米日韓が朝鮮に対して厳しい制裁を課すべく、国連安保理において強硬な決議を採択するように働きかけるのは間違いないところですが、これに対して中国(及びロシア)がどのように対応するかということだと思います。その結果如何によっては、2009年の時のような、朝鮮の人工衛星打ち上げ→安保理主席声明(決議採択)→朝鮮の核実験→安保理決議採択というエスカレーションが再演される危険性もあるわけです。
この危険性は、朝鮮の核開発上の必要性という要素を考慮に入れるとき、決して杞憂ではありません。というのは、今回朝鮮が衛星打ち上げに成功したことは運搬手段における大きな成果であるとは言え、実戦用の核ミサイルを現実のものとする上では核弾頭の小型化、弾頭の大気圏再突入後のコントロール確保という課題があり、特に前者の課題の実現・克服のためにはこれまでの2回の核実験だけでは到底足りず、朝鮮としてはさらに何回かの核実験をして小型化に必要なデータを蓄積する必要が客観的にあるとされているからです。
私は以前に2009年の時のエスカレーションがどのようにして起こってしまったのかを、中国側の報道に基づいて検証したことがあります(2012年コラム「中国の対朝鮮半島政策-2009年当時の事件の推移と中国側対応-」)。そのときのポイントは、朝鮮外務省が衛星打ち上げ前の段階で、「安保理が議長声明を出すならば、朝鮮は…核の無能力化について‥原状回復する」と警告的な表明を行っていたにもかかわらず、中国は、議長声明程度であれば朝鮮も激しい反発をすることはないだろう、となかば高をくくって議長声明に同調し、その結果有言実行で核実験を強行した朝鮮に痛い目にあわされた苦い経験があるということです。
今回においても、12日の衛星打ち上げ後に朝鮮外務省スポークスマンは、朝鮮中央通信社記者の質問に答える形で極めて興味深い発言を行っています。2009年の苦い経験から教訓を汲んでいる中国がこの朝鮮外務省スポークスマンの発言内容にこめられている意味に気づかないはずはなく、したがって、朝鮮が第3回の核実験を行う事態にならないように安保理で行動するであろうこと(米日韓の制裁強化の安保理決議採択をめざす動きに対しては拒否権行使をいとわないということ)は間違いないだろうと思いますし、後で紹介するようにそのことを公言する研究者の発言も出ています。最後に紹介する鐘声の文章に見られるように、中国が2009年の過ちを繰り返さなければ、朝鮮が人工衛星打ち上げに続けて第3回核実験を強行するという事態はとりあえず回避できるのではないか、というのが現時点での私の判断です。
ただし、既に述べたように、朝鮮としては核弾頭小型化という要請は常にあるわけですから、中国が必要なデータを供給するというような極端なことでもないかぎり、常に核実験を行う必要性を感じており、国際情勢を睨みながら第3回核実験のタイミングを考えていくということは、私たちとしては覚悟しておかなければならないでしょう。この最悪の事態を回避するためには、朝鮮が核開発に突き進まなくても済む事態、つまり米朝平和協定締結、米朝国交正常化を視野に入れた国際的な取り組みが不可欠であり、そのためにも6者協議を再起動させることが不可欠であるとする中国外交部スポークスマン及び鐘声の指摘に私もまったく同感です(12月16日記)。

<朝鮮外務省スポークスマンの発言>

 12日平壌発の朝鮮中央通信は、人工衛星「光明星3」号2号機の打ち上げが成功裏に行われたことに関して、朝鮮外務省スポークスマンが朝鮮中央通信社記者の質問に対して次のように答えたと報道しました。

「われわれが今回行った成功裏の衛星の打ち上げは、金正日総書記の遺訓であり、経済建設と人民生活向上のための科学技術発展計画による平和的な事業である。 …
ところが、敵対勢力はわれわれの平和的な衛星の打ち上げに対して国連安全保障理事会「決議違反」だの、何のと言って、不当に問題視しようとする不純な兆しを見せている。
宇宙の平和的利用権利は、国際社会の総意が反映された普遍的な国際法によって公認されているもので、国連安全保障理事会がそれに反してああしろ、こうしろと言える問題ではない。
われわれの衛星の打ち上げだけをあくまでも軍事目的の長距離ミサイルの発射、「挑発」、情勢緊張の要因に見ようとするのは、われわれを敵視するところから出る観点である。
米国は、去る4月の衛星の打ち上げの時も、敵対的な過剰反応を見せてわれわれをして核問題を全面的に再検討せざるを得なくしたことがある。
敵視観念は誰にも役に立たず、対決によってはいかなる問題も解決することができない。
われわれは、すべての関係側が理性と冷静を堅持して、事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う。
われわれは、誰が何と言っても、合法的な衛星打ち上げの権利を引き続き行使し、宇宙を征服して国の経済建設と人民生活の向上に積極的に寄与するであろう。」(強調は浅井)

 2010年4月の衛星打ち上げの時に、アメリカが「過剰反応を見せてわれわれをして核問題を全面的に再検討せざるを得なくしたことがある」というくだりは恐らく、アメリカが人道援助の約束を履行しなかったことを指していると思われます。ただ、そのことによって「核問題を全面的に再検討せざるを得なくなった」というスポークスマン発言の趣旨は、私にはよく理解できていません。
 それはともかく、私が注目したのはその次のくだりです。「対決によっては如何なる問題も解決することができない」という言い方は極めて穏やかですし、そこから「すべての関係者が理性と冷静を堅持」することを呼びかけ、「事態が不本意ながら誰も望まない方向に広がらないようになることを願う」と述べているのは、私の貧しい記憶に基づく限り、これまでになかったような内容です。要するに、米日韓主導による安保理によって強硬な制裁措置が講じられるようなことがなければ、朝鮮としては「不本意」な「誰も望まない方向」に走ることはない(つまり、核実験を今すぐ行うということはない)、というメッセージを発していることは明らかだと思われます。逆にいえば、もし中国が米日韓に同調するようなヘマをすれば、朝鮮が第3回核実験に走ることはあるというメッセージでもあると思います。

<中国外交部の公式見解>

 前のコラム(「朝鮮の人工衛星打ち上げ発表と中国」)で紹介しましたように、中国外交部の秦剛スポークスマンは12月2日に、「中国側は、朝鮮側が人工衛星を打ち上げると発表したことに関心を表明するとともに、関係国の反応にも留意している。朝鮮は宇宙を平和利用する権利を有するが、この権利は安保理の関連決議等の制約を受ける。関係国が半島の平和と安定に有利なことを行い、冷静に対処し、情勢が段階的にエスカレートすることを避けるように希望する」と述べました。また朝鮮の人工衛星打ち上げを受けて12日、外交部の洪磊スポークスマンは、「中国側は、国際社会がおしなべて関心を表明している下で、朝鮮側が衛星打ち上げを実施したことに遺憾を表明する。朝鮮は、国連加盟国として安保理の関連する決議を遵守する義務を有する。中国側としては、安保理の関連する反応は慎重かつ適度である必要があり、半島の平和と安定という大局を守り、情勢が段階的にエスカレートすることを避けることに有利であるべきだと考える」と述べました。同スポークスマンはさらに13日の定例記者会見で、朝鮮が衛星を打ち上げたことによって、6者協議再開の重要性及び緊迫性が如実に示されたとも述べました。
 私としては、上記発言における「朝鮮は宇宙を平和利用する権利を有するが、この権利は安保理の関連決議等の制約を受ける」、「朝鮮は、国連加盟国として安保理の関連する決議を遵守する義務を有する」という認識には引っかかりを感じます。というのは、宇宙の平和利用の権利は宇宙条約に基づく主権国家にとってもっとも基本的な権利であり、その権利を安保理が「制約」する決議を行う権限を有しているとは(条約にその旨の規定があるならばともかく、そういう規定はないわけですから)考えられないからです。したがって宇宙条約上の権利を「制約」する内容の安保理決議を行ったとしても、それは極端に言えば無効だし、朝鮮が国連加盟国であるからという理由だけで、関連決議を「遵守する義務がある」ということにはならないと思います。
 実は、私の以上の疑問に対して答えている文章がありました。12日付の新華社HPが掲載した新華社世界問題研究センターの高浩栄研究員署名文章「朝鮮半島の安定をもって重きと為す」がそれです。この文章は、安保理決議1874が「弾道ミサイル技術を利用した一切の打ち上げ活動」を朝鮮に禁止した決議を行ったのは、「2006年と2009年に朝鮮が世界各国の反対を顧みず頑として第1回及び第2回の核実験を行ったことが国際社会の強烈な反対を引き起こしたことに原因がある」と説き起こします。そして、「朝鮮が既に2回の核実験を行った状況の下では、朝鮮が衛星打ち上げに名を借りて弾道ミサイル技術を発展させることを人々が憂慮するのはまったく正常なことであり、したがって、朝鮮が安保理決議を履行し、このような打ち上げ活動を停止することを要求するのは理にかなっている」と述べて、「朝鮮の衛星打ち上げが国連安保理の関連決議の制約を受ける原因は正にここにある」と外交部スポークスマンの発言の正当性を主張しているのです。
 注意深く読めば、高浩栄は間接的に、核実験と結びつかない衛星打ち上げであれば問題はない、としていることは読み取れます。その証拠に、彼は続けて次のように言うのです。

 「朝鮮は、主権国家として平和的な宇宙空間開発を行うことは世界公認の奪うことのできない権利である。…宇宙空間発展の技術を国民経済発展のために用いることは完全に理解できる。朝鮮が衛星を打ち上げる活動をまるごと「挑発」と決めつける言説は公平妥当を欠く。しかし、…この世界ですべての国家が勝手気ままに行動し、情勢や他者の心配及び疑いをまったく顧みないならば、世界は乱れるだけで自らにとっても良いところはない。したがって、朝鮮が自らの権利を行使しようとするのであれば、国際ルール、地域情勢を考慮しなければならず、同時に思いをめぐらして権利行使のための条件を作り出さなければならない(として、そのための最善の方法が6者協議をなるべく早く再開することだと結ぶ)。」

 以上から明らかになることは、外交部スポークスマンが朝鮮の宇宙の平和利用の権利が「制約」されるとしたのは法的な意味においてではなく、優れて政治的な意味においてであるということです。そうであるとすれば、私が「引っかかった」点もとりあえずは解消します。しかし、外交部スポークスマンの発言は明らかに舌足らずであると言うべきでしょう。さらに言えば、朝鮮と同じように核兵器開発について疑念が持たれているイランの衛星打ち上げに際して安保理はなんらの行動も取らなかったわけです(核兵器国の人工衛星打ち上げは言うに及ばず)。やはり国際的な二重基準の横行に対しては、朝鮮としては到底納得できないでしょうし、国際民主関係の確立を標榜する中国外交であるならば、さらに厳密な言論を心掛けるべきではないのか、と私は思います。

<中国識者の見解>

 中国のメディアでは各分野の専門家の見解も数多く紹介されています。朝鮮に対して厳しく批判するものもあります。例えば、13日付の新京報をソースとする記事で紹介された北京大学国際関係学院の朱鋒教授は、「朝鮮は国際社会の反対と警告を顧みず、頑として衛星を打ち上げ、東アジア情勢に非常に深刻な影響を生みだした」、「朝鮮のこの行動は、日本の右翼勢力の選挙活動においてさらに猖獗を極めさせる」と厳しく指摘しています(朝鮮の行動を日本の右傾化と結びつけて警戒する論者はきわめて多い)。
しかし、朝鮮の行動に理解を示すものもあります。例えば、12日付の人民日報HPは、中国社会科学院アジア太平洋及びグローバル戦略研究院の楊丹志の次のような醒めた見解を紹介しています。

「通常の道理に基づかないでカードを切るというのが朝鮮の一貫したやり方にあっている。主権国家として、朝鮮は今まで衛星打ち上げの権利を放棄すると約束したことはない。したがって、朝鮮が突然に衛星を打ち上げたからと言って特に驚きいぶかしむ必要はない。朝鮮の衛星打ち上げがかくも早く、かくも大きな調整を経て実現したことは、気まぐれな行動ということではあり得ない。国際社会の圧力に対して、朝鮮はある程度の耐える力を持っており、あり得る影響についてもあらかじめ判断している。2010年の「天安」号及び「延坪島砲撃」事件爆発の際、国際社会は戦争が一触即発だと考える状況があったが、半島情勢は制御不能にはならなかった。当時の状況は現在のそれと比較すれば優ることはあれ及ばないということではなかった。関係国はすべて戦争のコストを考えるわけで、戦争の確率は極めて低く、今回もそれと同じだ。半島情勢は制御不能にはならないだろう。ただ年末ということで、東北アジア情勢はさらに見通しがきかなくなったというだけに過ぎない。」

同日付の中国新聞社HPも、北京大学国際関係学院の王逸舟副院長及び清華大学当代国際関係研究院の劉江永副院長の見方を紹介していますが、いずれも次のように冷静です。

(王逸舟)
 朝鮮は宇宙の平和利用の権利を持っている。今回の打ち上げが成功したとすれば、朝鮮の宇宙技術が一定の進歩及び改善を示したということだ。仮に今回の打ち上げが成功したとしても、朝鮮としては成功した後の外交及び国際関係という大局を考慮し、交渉のテーブルに戻らなければならないわけで、それこそが中国政府の一貫した態度でもある。
(劉江永)
 今回の打ち上げは、朝鮮の宇宙技術開発の連続性を強調し、朝鮮が金正恩指導の下で宇宙の平和利用分野で成果を収めたということだ。朝鮮は、打ち上げ前に国際社会から来るべき圧力及び影響についてあらかじめ準備を行っていた。即ち、打ち上げ前に国際社会に対して比較的トランスペアレントな予告を行ったし、国際社会の反応に対しても準備していた。現在の状況から見れば、今回の打ち上げがこの地域に対して重大な損害を作り出したということはないし、関係国の反応も今のところは冷静と言える。

 注目すべきは、この記事の中で王逸舟が「中国は一貫して対話による問題解決の態度を堅持しており、制裁の要求には同意することはあり得ず、国連安保理の名義で朝鮮を制裁することは実現しないだろう。仮に朝鮮に対して制裁するとしても、アメリカあるいは日本などが単独で朝鮮に対して行う行動であり、それとても「イラン並みのレベルまで引き上げる」ことは不可能だろう」と明言していることです。

<環球時報社評>

 13日付の環球時報社評「朝鮮半島の激しい動きによって中国に災いが及ぶことは避けられない」の中身には、私は二つの点で非常に驚きました。一つは、朝鮮の打ち上げを止められない中国外交の力不足を赤裸々に認める内容であったということです。ここまで感情的な(?)文章は、環球時報(人民日報系列紙)の社説だけに本当に驚きました。
もう一つ刮目したのは、米日韓が激しい内容の安保理決議を推進しようとするならば、中国はそれを否決する(浅井注:拒否権を行使する)ということまで明記していることです。上記の王逸舟見解はあくまでも個人のレベルのものですが、環球時報社評となれば相当程度中国政府の立場を反映していると見るべきでしょう。
その内容をかいつまんで紹介しておきます。

 「…情勢の進展は再度、東アジア各国の態度に中国が影響を及ぼす能力が極めて限られていることを明らかにしている。…中国は、(関係各国の動きの中で)斡旋者としての君子の役割を担うことを希望しているが、実際は誰もそれを買ってくれない。今の中国が当面しているのは、さらに進んで朝鮮を非難し、制裁するかどうかという問題で米日韓に呼応するかという難題だ。中国がどのように振る舞おうとも、関係国(すべて)を満足させる方法はなく、中国としては、どうすれば情勢を良くすることに手助けになるかにつき、明らかに極めて戸惑ってしまう。
 問題の根本にあるのは中国の国力がまだ十分に強くなく、周辺の情勢を形作る力がないということだ。これまでの中国は、朝鮮の核問題に対して「安定維持」的な受け身のやり方を採用してきたが、これはその実中国として仕方なしの選択だった。
 この出来上がってしまった中国の朝鮮政策の惰性を飛び出して新しい政策設計を行うべきか否かについて、中国の戦略家たちの間では意見が非常に分かれている。
 マルチの利益を有する大国としての中国は、朝鮮半島において同時にいくつかの目標を追求せざるを得ない。我々は朝鮮との伝統的な友好関係を維持する必要があるが、このことをもって日韓との関係を損なうわけにはいかず、さらにまた中国経済発展という大局が半島情勢の爆発というような情勢によってかき乱されないようにしなければならない。最終的には、これらの利益がすべて配慮できなくなったとしても、半島情勢の爆発が中国に向かってくることを許すわけにはいかない。
 我々としては、中国はこれらの目標について優先順位を作り、まずボトム・ラインを固めて最善を追求し、実際にはどこまで成し遂げるかでその状態を受け入れるということだと考える。
 中国の国家としての安全保障は、現時点では各国が中国の力と役割についてハッキリつかめず、信疑相半ばする段階であるのを、最終的には実力をさらに蓄えることによって乗り越えることができるかどうかにかかっている。…
 (しかしながら)現在直ちに中国が半島政策について革命的な調整を行えば、そのこと自体が不安定なエネルギーを生みだすこととなり、情勢に対して新たな衝撃となってしまうだろう。このような衝撃波の下では、中国にとっての目先の収穫は各国にとってより小さいであろうし、長期的な利益についていえば理論的なものでしかない。
 以上より、我々としては、中国は軽々に米日韓の要求に応じてさらなる対朝鮮制裁に同調する態度を取るべきではなく、三国が厳しい制裁決議を推進しようとするならば我々はそれを否決することを告げる必要があると提案したい。もちろん、朝鮮はその行動について一定の代価を支払うべきだが、その程合いについても、米日韓は中ロと相談しなければならない。
 朝鮮の行動は間違いなく中国の戦略的な安全保障を損なった。しかし、そのことが中国外交の「不首尾」に責任があるとすることは幼稚である。このような認識の基礎にあるのは、中国が朝鮮をコントロールできるという前提なのだが、それはまったく幻想に過ぎない。独立自主は朝鮮にとって何が何でも追求している目標であり、たとえそのために巨大な代価を支払ってでも、ということであり、しかもそうした何がなんでもということが誤った道に導いていることは明らかなことだ。
 中国としては、朝鮮の現政権が安全感を獲得できるような方面で手助けすることを試してみるべきだ。例えば、北京と平壌及び各国は、中国が朝鮮に対して外からの軍事進攻を受けない保障を提供し、かつ、その保障が高度な信頼性を持つようにし、朝鮮の国家的な安全保障に対して核兵器と同等更にはそれ以上の機能を発揮するようにすることを検討するということだ。
 半島問題は中国にとってきわめて厄介であり、同地域の情勢が危険になれば必ず災いは中国に及んで来る。これはある一つの「邪悪な力」がもたらすものではなく、複雑な絡み合いの働きによるものだ。中国としては乱にあって心を平静に保ち、沈着に対処するべきである。」

環球時報社評でもう一つ気になる点は、「中国が朝鮮に対して外からの軍事進攻を受けない保障を提供し、かつ、その保障が高度な信頼性を持つようにし、朝鮮の国家的な安全保障に対して核兵器と同等更にはそれ以上の機能を発揮するようにすること」を提起していることです。これは、読みようによっては中国が朝鮮に対して「核の傘」(拡大核抑止力)を提供するということを考えているようにも受けとめられるものです。まさか、とは思いますが、朝鮮の核武装が日本の核武装の呼び水になることをもっとも警戒している中国としては、朝鮮の核武装を阻止するためには「毒サラ」的なことも考えないという保証はないわけで、それだけ中国が朝鮮半島の核問題に神経を研ぎ澄ませていることが分かります。

<人民日報所掲の鐘声の文章>

環球時報社評の感情的な文章と比較すると、同じ13日付の人民日報所掲の鐘声「朝鮮半島は悪循環には耐えられない」は、次のように落ちついた、バランスのとれた、しかも実に説得力のある文章となっています。さすが鐘声、という感じでしょうか。中国政府のこれからのアプローチの大枠がここに示されていると思います。

「朝鮮半島情勢の悪化を阻止するためには末梢と根本とを兼ね備えた治療を行わなければならず、つまりは全面的かつ系統的に問題を解決することが求められる。 朝鮮が「光明星3号」衛星を打ち上げたことは、朝鮮半島の安全保障が困難な状況にあることを示す「お決まりの行動」が際立ったというに過ぎない。本年においては、朝鮮は既に1回衛星を打ち上げ、韓米は弾道ミサイルの射程及び積載重量を引き上げる……という衝撃波の周期がまた始まったわけで、脆弱な情勢は「平穏で恙ない」。
朝鮮半島情勢に関心を寄せる人であれば、ここには「変革」のエネルギーがまったく不足していないことを誰でもが知っている。道理は簡単で、ある一方あるいはいくつかの当事者にとってすれば、何も変わらないということこそが実はもっとも不利な変化を意味しているということだからだ。諸々の変化はある時点では大きな局面を打ち破るには足りないとしても、微妙な進展変化の過程は常に「主導性を確保する」機会を内包しているものだ(浅井注:これこそが弁証法!)。このような読みと自信が情勢の不断なる悪化ひいては悲劇的な結果が出現することに対する心配を取り除いている。
朝鮮半島にはどれぐらいの「安定した力」があり、「エッジボール」の境界はどの辺りにあるのだろうか。異なる気質、視角からは異なる思考、判断が生まれる。生死にかかわる力比べにおいては、「心理戦」で負けたいと思うものはおらず、自らの潜在力を極限まで発揮したくないようなものもいない。個別の「観客」は、他人の災いを喜ぶというよこしまな気持ちから波瀾を助長しようとするだろう。しかし、「戦略的相互不信」及び「対抗戦略」という基礎に基づく安全保障の局面は長続きすることは不可能だ。もっとも強固だと見えた「核の均衡」もまた両極対峙の冷戦を留めることはできなかった。朝鮮半島は悪循環に耐えられないということは、朝鮮半島の安全保障情勢を考えるときに必ず備えなければならない基本的理性である。
中国は、対話協議を通じて問題を解決することを支持し、情勢の緊張を導く可能性のある如何なる行為にも反対し、武装衝突の発生には断固として反対する。この原則的な立場は、国連安保理常任理事国が備えるべき責任であり、朝鮮半島近隣国が備えるべき配慮であり、朝鮮半島は悪循環には耐えられないことの強調でもある。これらの数点を理解すれば、中国が朝鮮の「光明星3号」打ち上げに対して行った態度表明、即ち、朝鮮は宇宙を平和利用する権利を有するし、国連安保理の関連決議を遵守する義務もあり、安保理のこれにかかわる反応は慎重かつ適度であることを要する、ということを理解するのは難しくない。
微妙、複雑、危険、これが朝鮮半島の安全保障をめぐる情勢の進展史におけるいくつかのキーワードである。理性の声は人々に次のことを戒める。カナメの時であればあるほど急を焦ってはならず、冷静と抑制を保ち、大局に着眼する必要がある。…
朝鮮半島の安全保障情勢が悪化するのを阻止するには末梢と根本とを兼ね備えた治療を行わなければならず、つまりは全面的かつ系統的に問題を解決することが求められる。半島の非核化を実現し、関係国家間の関係正常化を実現し、東北アジアの平和と安全のメカニズムを構築することは、朝鮮半島の平和と安定を作り出す重要な内容である。朝鮮半島の安全保障情勢が深刻な衝撃に見舞われるとき、我々は常にこの点を強調し、速やかに6者協議プロセスを再起動させることを呼びかけてきた。関係国が心を落ち着け、我々の心遣いと深い意味とを理解することを希望する。」

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