オバマ大統領再選と国際関係

2012.11.13

* オバマ大統領再選が国際関係に対して持つ意味について短文の寄稿を求められて書いたものを紹介します。まったく内向きの議論に終始した今回の大統領選でしたので、私自身はあまり関心が湧かなかったというのが率直なところで、長文の文章を書くだけの中身は見つからず、この短さで十分でした(11月13日記)。

 アメリカ大統領選でオバマ大統領が再選された。オバマ再選はこれからの世界にとって如何なる意味を持つだろうか。結論から言えば、オバマがよほど思いきった政策転換を行わない限り、今後4年間に世界情勢が大きく好転換するとは考えにくい。それほどに過去4年間のオバマ政権の対外政策における実績は厳しい評価を免れないからであり、しかも今回の大統領選挙において、オバマはなんら新たな政策を示すことがなかったからだ。
 まず、オバマは「核のない世界」というビジョンをひっさげて2009年に政権に就いた(それによってノーベル平和賞を授与された!)が、この4年間、彼は核軍縮において何の実績も挙げることがなかったし、今回の選挙では核軍縮にはほとんど触れることすらなかった。むしろ明らかになったことは、オバマの主要な関心は核不拡散に限られ、その強硬な対イラン及び対朝鮮アプローチは両国の反発を招くだけで、なんら奏功しないままだった。また、福島第一原発の深刻な事態があったにもかかわらず、オバマ・アメリカは原発推進政策(それが実は世界的核拡散の主要原因であるにもかかわらず)をかえって積極的に推進する政策をとってきた。しかし、第2期オバマ政権がこれまでの貧しい実績を反省して思いきった核政策の転換を行うことを窺わせる材料は何もない。
 次に、リーマンショック(2008年9月)を引き金に起こった世界金融危機に対しても、オバマ政権は対応に追われるだけで、この危機の根本原因である新自由主義市場経済システムに対してはメスを入れる姿勢も示さないままで打ち過ぎた。しかも、アメリカ経済の先行きに大きく影を落とす連邦財政危機(過度の赤字国債依存体質)に対して、オバマ政権はなんら有効な抜本的政策を講じることもできなかった。この深刻な事態は、本来アメリカの国内通貨であるドルが相変わらず圧倒的な国際通貨であり続けていられる(このこと自体何時までも維持できるはずはない)ことによって辛うじて維持されているのだが、今次選挙戦においても、オバマは根本的にメスを入れる決意も示さないままだった。この二つの根本的な問題に対してオバマ政権が手をこまねいている限り、ただでさえ危機を深めている世界経済が好転する可能性はほぼゼロと言わざるを得ないだろう。
 第三に、第1期オバマ政権は、世界経済で気を吐くアジア太平洋経済におけるプレゼンス増大をめざして「アジア回帰」戦略を打ち出したが、突出したのは台頭する大国・中国を牽制しようとする、相変わらずの権力政治の発想に基づく軍事プレゼンスの強化であり、この地域の軍事的緊張を増大させた。特にアメリカの支持を当てにしたフィリピン、ヴェトナム及び日本と中国との間の領土問題の先鋭化は、東アジア情勢に深刻な不安定要因を持ち込むことになっている。この軍事的緊張は、オバマ政権がいまや時代遅れである権力政治の発想を捨て去り、21世紀の国際環境(国際的相互依存の不可逆的進行の下で、軍事力が国際問題を解決する手段ではもはやあり得なくなっていること)に即した脱権力政治に転換しない限り、抜本的に解消することは期待できない。しかし、この点についても、大統領選挙期間中にオバマが思いきった考え方を打ち出すことはなかった。
 最後に、日本とのかかわりで言えば、オバマ政権同様2009年に登場した民主党政権は、オバマ政権のアジア回帰戦略に積極的に呼応し、日米軍事同盟の変質強化に邁進し、中国と露骨に対抗する政策をとってきた(尖閣問題、オスプレイ配備、弾道ミサイル防衛推進、さらに島嶼防衛の日米軍事演習などはその一環)。しかもその稚拙極まる対中・韓・露外交は、これら3国との領土問題を際立たせる結果になってきた。日本政治全体の右傾化の際限ない進行とあいまって、日本外交自体も深刻な試練・挑戦に直面している。しかし、第2期オバマ政権が対日政策に新機軸で臨んでくる可能性は極めて乏しい。こういう米日両国の対外政策が変わらない限り、今後の東アジア情勢の展望は引き続き厳しいだろう。

RSS