尖閣問題に対する米ロの立場(中国側見方)-その一(ロシア)-

2012.11.06

*11月2日付の中国青年報は、尖閣問題に関する日中間の争いに関するロシアの各界の見解を紹介、分析する長文の文章(ロシア問題について同紙でよく書く関健斌署名。原題は不明)を掲載しました。また、11月5日付の中国新聞社HPは、雑誌『現代国際研究』をソースとする廉徳瑰署名のこれまた長文の「アメリカの釣魚島問題における曖昧な政策を分析する」と題する文章を掲載しました。米ロ両国が尖閣問題に関して日中いずれの側にも立たない政策をとっていることの内実に関する中国側の見方を示すものとして私には極めて興味深いものでした。このコラムを訪れてくださる方にも読んでおいていただきたいので紹介します。ただし、いずれも長いので、今回はまずロシアの立場に関する中国側の分析を紹介します(11月6日記)。

<関健斌文章>

 関健斌が文中で引用するロシアの固有名詞の名称は中国語音での表記または意味をとったものなので、ロシアの内政・メディア事情に疎い私には正確な名称を判断することはできません。したがって、A紙、B誌、C氏…という形で紹介することになることをあらかじめお断りしておきます。

 数日前(浅井注:日本外務省の発表では、10月22日-25日)に日本を訪問したロシアのパトルシェフ・ロシア連邦安全保障会議書記は東京で、ロシアは釣魚島紛争で「いずれの側にも立たない」と表明した。彼は、「日中の島嶼紛争問題は露日会談で取り上げられた。ロシアがいずれかの側に立つことはあり得ない。両国はバイで交渉すべきであり、我々は、対話を通じて問題を解決することを支持する」と述べた。
 これは、最近においてロシアのハイレベルが中日の釣魚島問題で始めて公式に立場を示したものである。この態度表明は直ちにロシア・メディアの注目するところとなり、多くのメディアが「ロシアは中日紛争においていずれの側をも支持するつもりはない」という趣旨のタイトルで報道した。それでは、現在の中日間の釣魚島問題に関するロシアの本当の考え方は何であろうか。ロシア政府筋の慎重な態度表明、ロシアのメディアの関心の高さ、ロシアの学者の突っ込んだ分析及びロシア民衆の一般的な見方から、我々はその一端を窺えるようである。ロシアのA紙HPに掲載された文章のタイトルを借りれば、「最善なのは介入しないことだ」。多くの学者は、ロシア政府はこの問題では「礼儀をもって傍観する」ことが最善の選択であると提案している。
○ロシア的「中立」とアメリカ的「中立」との違い
 一貫して「介入好き」で「存在感を示すことを重視する」ロシアが中日の釣魚島問題ではことのほか細心かつ慎重なのはなぜだろうか。これは中露戦略パートナーシップと関係があり、露日関係の最近の微妙な変化とも関係があり、更にはロシア自身の国家的利益と関係がある。
 中日間で今回の釣魚島紛争が発生して以来、ロシアの指導部と外務省は、公の場では進んでこの問題に言及したことがなく、パトルシェフの東京での発言は「権威ある態度表明」と言うべきである。ロシアの国際問題専門家は本紙(中国青年報)記者の質問に対し、「釣魚島問題においてロシアがとっている中立の立場は、アメリカ人がいう中立の立場とは異なる。アメリカの釣魚島問題での立場は「ニセの中立」であり、日米安保条約の存在からして、アメリカは実は日本の側に立っている。ロシア人がいう中立は、間違いなく日本側に立つことはあり得ないということだ」と強調した。本紙記者はさらに「ロシアが日本側に立たないということは、中国側に立つということと同じではないか」と追及したが、相手は笑って答えなかった。
 10月24日、ロシアのB通信社は、釣魚島問題に関する李輝・駐ロシア中国大使とのインタビューを報道した。記者が「釣魚島地域の情勢が日増しに緊張していることに鑑み、中国はこの情勢に関してロシアと協議を進めるつもりはあるのかどうか。中国側はこの問題に関するロシアの立場をどのように評価しているか」と質問したのに対して、李大使は、「中露は戦略的協力のパートナーであり、あらゆる領域での交流及び協議を行うメカニズムを各レベルで設けており、国際及び地域問題において密接な意思疎通及び協調を維持している」と回答した。李大使はさらに進んで、「中露は共に第二次大戦の戦勝国であり、その勝利の成果を擁護する点では共通の利益と一致した立場がある。2010年9月、両国元首が北京で発表した「第二次大戦終結65周年共同声明」では、大戦の歴史を改ざんし、ナチ及び軍国主義分子及びその仲間を美化することを中露両国が断固非難すること、国連憲章その他の国際的文献が定めた結論を改ざんすることにも断固反対することを強調した」と指摘した。李大使は最後に、「国際及び地域情勢の進展に従い、同声明はますますその重要性と切迫性を明らかにしている。中露双方は、これを引き続き確実なものとするべきである」と強調した。
 李大使の態度表明に対して、ロシアのメディアの中には、「中国はロシアを釣魚島紛争に引っ張りたい」ということだと「深読み」しつつ、ロシアはこのことに「かかわる」のを避けるのがベストだと提案するものもあった。C誌編集長は、李大使のこの回答を評論して「中国の友達は、ロシアがこの問題で中国の側に立つことを非常に希望しているし、両国の協力に関する共同声明などの文献に借りて反日統一戦線を結成しようと努力している」と指摘した。
 同編集長は、「ロシアはどんなことがあってもそうするべきではない。なぜならば、露日間の島嶼紛争と中日間の島嶼紛争は同じタイプのものであり、しかもロシアは南千島群島(日本のいう「北方4島」)紛争において、日本が釣魚島紛争において置かれている立場と同じであるからだ。…(露日の)違いは、ロシアは第二次大戦の結果に基づいて南千島群島を支配しているということだけだ。中国が日本の島嶼主権に疑義を唱えていることと日本がロシアの島嶼主権に疑義を唱えていることの性質は類似している。したがって、仮に中国側を支持すれば、ロシアは石を持ち上げて自分の足を打つのと変わらなくなる」という認識を示した。同編集長はさらに「この問題はつまるところ、力及び利益を衡量する基礎の上で解決する必要がある」とも述べた。
◯ロシア民衆の見解は「百家争鳴」
 同編集長の分析は「一つの意見」に過ぎないけれども、彼の見方はロシアの少なくない専門家の見方を代表しており、多かれ少なかれ政府筋の本当の考え方を露呈してもいる。
 ロシア民衆はこの問題についてどのような見方をしているだろうか。A紙HPがこの紛争に関して発表した「介入しないのが最善」と題する文章に載った書き込みには、ロシアのインターネット利用者の興味深い反応がいくつかあった。
 ある者は、「ロシアにおいては中日間の紛争に介入しようとする者は誰もいないが、日本に対しては警戒を保つべきだ。日本人はドイツ人と違い、自分たちがかつて犯した失敗について謝らないだけでなく、むしろ悔しがっている。日本がすべての隣国との間に領土紛争があるのは必ずしも偶然ではない。したがって、我々は太平洋艦隊を強化するべきだ」と述べた。
 またある者は、「正式に態度を表明するときには、我々は当然ながらいずれか一方を公然と支持することはできない。しかしロシア側は、この機会を利用して、南千島群島問題について日本に対する圧力を引き続き強め、そうすることで側面的に中国を支持するべきである」とコメントしている。
 さらにまた別の者は、「我々は中国と戦略的パートナーシップがあるのか、それとも日本との間でそうなのか。私が注意喚起したいのは、中国はアフハジア及び南オセアチの独立を承認してはいないが、ロシアを支持してはいる。したがって、我々は中国を支持することで見返りを行うべきであり、しからざれば、「パートナー」と言えるだろうか」と主張している。
◯日本は頻りにロシアに「秋波を送っている」
 自らの国家利益と総合的な考慮から、ロシアが中日紛争において一方の側に明確に立つことがあり得ないのは当然であるが、目下積極的なアジア太平洋戦略を推進しているロシアが完全に「局外に立つ」こともまたあり得ない。この角度から言えば、ロシアは、中日紛争に介入する準備はないとしても、この問題を利用して自国のこの地域での影響力及び発言権を「最大化」することを実現しようと十分に準備している。しかも、ロシアがそうするのはたいしたエネルギーを用いる必要はないのであって、「勢いの赴くままに為す」だけで良いのである。
 細心な者ならば既に気がついているように、中日紛争が続いている間に、南千島問題でこの2年間極めて争いがあった露日関係に最近「転機」が現れている。ロシアの駐日大使の言を用いて表現すれば、「露日対話は明らかに活発になってきている。」(最近の日露間の具体的な交流を紹介)
 パトルシェフが今回訪日して野田首相と会見したときに、日露首脳会談の時に達成した合意のように、「両国は、安全保障その他の広範な分野で協力関係が不断に前進しており、両国間の信頼強化も促進されている」と述べた。野田佳彦も、「両国間の安全保障分野の協力関係は強化する必要があり、パトルシェフの訪日はこの協力メカニズムを開始する上で格好の機会となるべきだ」と表明した。(訪日の成果の具体例を紹介)
 ロシア科学院極東研究所日本問題研究センターの専門家Dは、中日釣魚島紛争の影響を受けて、日本の当面の関心は日露領土問題から「離れている」と認識している。彼によれば、「ロシアにとってこのような変化は望ましいし、日本がその関心を南千島群島から中国及び韓国との領土紛争に移すことも望ましい。しかし全体として見れば、ロシアとしてはこの地域の安定をさらに希望している。」
 プーチンが大統領に再度就任した後に、露日関係について日本側との積極的イニシアティヴを取るかということに関し、ロシアのメディアは、「東京は必死にロシアを引きつけ、中日紛争において日本を支持するように努力している」と称している。しかし明らかなことは、ロシアがそんなに簡単に引きつけられることはないということであり、特に日本に簡単に引きつけられるということはないということだ。もちろんロシアは日本側の熱心さ及び働きかけに対して冷淡すぎる対応もしないだろう。
 分析筋によれば、日本は四面楚歌の外交的困難が現れることを回避するため、露日間の北方4島問題では自らヒートダウンして、対日領土問題で中露韓が反日統一戦線を形成するのを回避しようとしている。日本のこのジェスチャーに対して、ロシアとしては一定限度で応えるだろうが、日本のことで中露関係の大局を破壊することは絶対にあり得ない。というのは、中露関係にとって不利であるだけでなく、ロシア自身の利益を守る上でもさらに不利であるからだ。
◯ロシアの態度が「真の超然」となりうるかどうか
 分析筋は、中国は中日釣魚島紛争において第三者が介入したり首を突っ込んだりすることを希望しないと指摘する。ある意味において、中国はアメリカがこの問題で「やたらとかき乱す」ことを希望しないし、ロシアその他の国家が中国を「支持する」ことも期待していないと指摘する。というのは、自国の核心的利益を擁護し、領土保全及び主権統一を解決するという類の原則的な問題に関しては、いかなる国家にとっても、本当に頼りになるのは自らの国家的実力及び外交的知恵だけだからだ。
 ロシア科学院極東研究所日本研究センターのE副主任は、中日間の領土紛争は時に緩和し時に緊張するということで数十年続いて来たと認識する。しかし、今日の中国と往年の中国とを比較すると、もはや同日には論じられず、政治、経済はもとより、軍事面でも既に巨大な進歩を獲得し、東アジア地域におけるパワー・バランスはとっくに変化が生じている。換言すれば、今日の中国と日本とは既に「立場を変えている」。
 しかし別の見方もある。ロシア戦略発展モデル研究センターのF第一副主任は、ロシアがアジア太平洋の多国間の島をめぐる争いに巻き込まれるのは「避けられない」のであり、いずれの紛争(日中、日韓、南シナ海)においても自らの観点を持たなければならないと認識する。彼は、ロシアがアジア太平洋地域の経済及び政治の将来についてまったく関心を持たないというのはあり得ないと鋭く指摘する。なぜならば、仮にロシアが自らとは直接には関係しない問題について「避けて遠ざける」ならば、他の国々-中国であれ、韓国であれ、ヴェトナムであれ-もロシアのために「発言する」ということはあり得なくなるからだ。露中両国と日本の間にもほぼ同様の問題が存在しており、双方の立場については協議して一致させるべきだ。
 ロシア科学院極東研究所日本問題研究センターのG副主任は、日露、日中、日韓の間の衝突という二国間の問題は、二国間で解決するべきであり、この地域にはまだ地域的安全保障システムあるいは紛争予防メカニズムが存在していないので、二国間の交渉及び協議が相変わらず領土問題を解決する唯一の方法であり、いかなる形の「国際化」も、矛盾を深め、危機を深化させるだけである、と述べる。
 明らかなことは、別の角度から言えば、アジア太平洋地域の関連する問題について、ロシアが「絶対中立」ということはあまり可能ではないし、「完全に超然」ということはなおさらあり得ない。ロシアが自らの利益に対する考慮から、中日間の釣魚島紛争に対してきわめて明確に「一方の側に立つ」意思表明を行うということを考えないあるいは避けるということも、ロシアが自らに新たなお荷物を背負い込みたくないからなのだ。しかし一点だけはハッキリしている。即ち、露中両国は、国連憲章その他の国際文献が第二次大戦に対して出した結論を改ざんすることには断固として反対だということである。そして、中日間の釣魚島問題における日本の行動は、カイロ宣言及びポツダム宣言などの国際的法律文献の内容に対して見て見ぬフリをする行為である。
 この問題については、中日領土問題と露日領土問題とは似通っており、この問題が内包しているのは、単に歴史上の領土紛争という要素だけではなく、カギとなるのは第二次大戦を終結する法律的及び政治的な文献の有効性にかかわっているということである。戦後の国境線を改めることは許されず、第二次大戦と関係する国際秩序及び取り決めを転覆できないという原則は、ロシアにとってはさらに重要なことである。正にそうであるが故に、先頃、日本の南千島群島に対する要求に対して、モスクワは東京があの歴史から教訓をくみ取るべきだと強烈に提起したのであり、ロシアのラブロフ外相は、「他の国々が既に行ったこと-即ち第二次大戦の結果を承認すること-を日本が行わない限り、日本には出口はない」と述べた。
 分析筋は、アジア太平洋地域の地縁政治が深甚な変化を遂げつつあるとき、ロシアはあらゆる機会を利用してこの地域における自らのプレゼンスを強化しようとしていると指摘する。中日領土紛争における態度表明及び露日関係に対する調整は、正にこのことを表している。ロシアのある学者は本紙記者に対して、「アジア太平洋というと、我々はごく自然に中国のことを考える。しかし、アジア太平洋は中国だけではなく、ロシアもこの地域のその他の国々及び地域と関係を発展させなければならないのであり、そうしてのみロシアのアジア太平洋戦略を真に展開することができるのだ」と恨めしげに述べた。明らかにロシアは、日本に引っ張られて一緒になって中国と対抗することはあり得ないが、日本にこと借りて「中国とバランスをとる」ことはあり得る。ロシアの専門家によれば、アメリカが日米安保条約や他の国々との類似した安全保障の取り決めによって受けている制約と比較すると、ロシアは「より自由で、フレキシブル」であるので、この地域における外交的スペースと動きうる自由度はより大きいと考えている。この角度から言えば、ロシアが中日の釣魚島紛争で「超然とした態度」であるということは、正にロシアのこの地域における「参与の姿勢のあり方」を反映しているのである。

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