中国の対外政策とアメリカ・日本-その二-

2012.10.31

*前回タイトルだけ紹介した10月30日付の環球時報HP掲載の呉祖栄「アメリカはアジアで踏みとどまるべきだ」及び同日付の新華社HP掲載の、銭文栄(新華社世界問題研究センター研究員)「キッシンジャーの「瓶の蓋論」から「トラを山へ放つ」まで 日本軍国主義の再起」を紹介します(10月31日記)。

<呉祖栄「アメリカはアジアで踏みとどまるべきだ」>

 アメリカの「アジア回帰」戦略が実行されて2年あまり、アジアにもたらした悪い結果は日増しに明らかになっており、アメリカは真剣に考え直し、政策を徹底的に改めるべき時だ。
○アメリカがアジアで「漁夫の利」を得ようとしても叶うとは限らない
 アメリカは軍事先行策でアジアに回帰し、アジアで緊張を作り出しているが、漁夫の利を得られるとは限らない。軍事先行はアメリカのアジア回帰戦略の一大特徴であり、その主なポイントは、元々ある軍事同盟の強化、新軍事基地の建設、前進的軍事プレゼンスの増大、各種軍事演習の連続的実行、最新鋭の軍事装備の配備などだ。アメリカの外交行動及び日増しに増加する照準を定めた軍事活動は、各国に誤ったシグナルを送り、これらの国々では如何なる状況のもとでもアメリカの後押しが得られるという錯覚を生みだし、領土紛争や海洋権益などの問題で勝手気ままに中国に対して面倒を起こしている。大多数の国々は、切迫した現実的な軍事的脅威がないので、アメリカに従って軍拡を行う気持ちはないし、ましてや中米間でいずれかの側に立つことは望んでおらず、アメリカが中国を囲い込み、抑止するためにアジアに回帰することに公然と反対しているが、オーストラリアはアメリカが新軍事基地を建設し、常駐の軍事力を増派することを許可し、徐々にアメリカの戦車に縛り付けられようとしているし、フィリピンは、アメリカの誤ったリードのもとで絶え間なく中比海洋領土紛争を引き起こし、中比関係を傷つけているし、さらに重大なことは、日本軍国主義の残余勢力及び極右勢力が結託し、アメリカの連携及び支持のもと、平和憲法改正を企て、軍拡路線を歩み、戦後国際秩序に挑戦し、カイロ宣言及びポツダム宣言の国際法上の効力に疑問符をつけ、世界反ファシズム戦争の勝利の成果を否定していることだ。中日関係も、これによって深刻な困難と挑戦に遭遇している。
 アメリカのアジア回帰戦略が実施される前と比べると、アジアの平静な局面は既に壊され、軍事活動が増加し、情勢は緊張しかつ不安定になり、既に地域の経済貿易の発展を阻害しはじめ、グローバルな経済復興に影響している。アメリカは表面的には、中国と日本、フィリピンなどの国々とを離間させることを実現し、東アジア経済一体化のプロセスを遅滞させるという戦略目標を実現したかのようだが、実際には不名誉な役回りを担っているのであって、必ずや自らの戦略的利益を損ない、自身の経済的復興に累を及ぼし、戦略上もさらに多くの新たな問題を自らに引き寄せることになるだろう。
 アメリカの高官は、日米安保条約が釣魚島に適用されると何度も強調している。このような言辞は、日本軍国主義の残余勢力及び極右政治勢力の野心を助長し、東アジアの平和を破壊する以外には、如何なる役割ないしは価値もないというべきである。釣魚島及び付属島嶼は古くから中国の神聖な領土である。日米安保条約が釣魚島に適用されるからといって何ができるというのか。適用されないとしてまたどうだというのだ。それはただただ米日間のことに過ぎず、第三者の利益を傷つけることはできないし、仮に第三者の利益を傷つけるとすれば、その結果は自身にはね返るだけだ。
○アジア回帰及び中国狙いの謀略は袋小路の一条のみ
 アメリカは、冷戦思考を主軸に、イデオロギーで線を画す古いモデルでアジアに回帰しているが、既に時代遅れで効き目もないものの、アジア情勢に緊張を作り出す重要原因ではある。経済のグローバル化の大波と国際金融危機の衝撃のもと、国際的な枠組みは重大な変革を経験しており、アジアもその例外ではない。アメリカの…古いモデルは、既に多くの深刻な誤りを犯しているのであって、その誤りとは、アメリカとアジア各国の間及びアジア各国間の経済及び安全保障領域の共同の利益を無視していること、冷戦イデオロギーによって冷戦期に形成した軍事同盟を強化する行動はアジア各国経済が融合する趨勢とはまったく相容れず、激しい衝突と深刻な結果を生みだすことを予見できていないこと、第二次大戦の枢軸国と戦勝国とが目先の利益を追求するあまりにアジアの歴史的遺留問題を処理する責任を外してしまうことを導いていることなどである。
 アジア回帰及び中国狙いの謀略は袋小路一条のみと言える。アメリカは、口先ではアジア回帰戦略の実行の過程では中国などの新興諸国と協力を強めていくと言っているが、その実際の行動ではまったく巨大なコントラストを呈しており、深刻な結果を生みだしている。(中米間の二国間軍事協力について述べた上で)しかし、アメリカがアジアで行っている多くの大規模なマルチの軍事交流活動において中国を排除するアレンジのやり方は国際社会のより重視するところとなっており、特にアメリカが中国と周辺諸国との不一致に手を突っ込み、兵力配置を増強し、日本と手を組んで日米軍事同盟を強化するという一連の軍事行動は、さらに明々白々にアメリカの中国を囲い込み、抑止するという真の意図を暴露しており、いわゆる「バランス回復」として覆い隠そうとしてももはや人を信じさせることはできない。日本軍国主義の残余勢力は正にアメリカの中国抑止の計画を利用して、アメリカを悪事に引っ張り込み、それによって再起しようと狙っている。日本が真珠湾を奇襲した事件は、中日が交戦していた状況下で発生したものだ。歴史は鏡と同じで、中日関係が悪化すれば、アメリカは直ちに危機に面し、火中の栗を拾おうとするとその害は自らに及ぶということ、中日が和すればアメリカも平和的に利益を得ることができることを教えている。アメリカのアジア回帰戦略が中国を抑止するためであるならば、アメリカは、暗黒への途を歩んでいく可能性が大きく、なんら良い結末はないだろう。
 言行を一致させ、根本的に中国抑止戦略を放棄し、実際の行動をもって中国との間で新しい形の大国関係を構築し、アジアの人民と心を合わせることのみが、アメリカのアジア回帰戦略が成功する唯一の出口である。(中国の経済力について述べた上で)アメリカがアジアに回帰して中国と協力しても、アジアのすべての問題を解決できるわけではないが、アジアの平和と繁栄のために新しい動力となることはできるし、重要な保障を提供することもできる。しかし、中米が争い、対抗することは、アジアに災難をもたらすだけである。アメリカは中国の核心的利益を尊重し、中国を信任して寛容となり、中国と責任を分担し、小異を残して大同につき、平和共存することによってはじめて、そのアジア回帰戦略は手ひどい失敗を免れることができるだろう。

<銭文栄「キッシンジャーの「瓶の蓋論」から「トラを山へ放つ」まで 日本軍国主義の再起」>

 第二次大戦が終結した初期のアメリカの対日政策は、確かに日本を非軍国主義化することによってその再起を阻むことであった。駐日連合国軍最高司令官のマッカーサーは、アメリカの日本占領の最終目標は「日本が再びアメリカの脅威とならず、世界の平和及び安全に対して脅威とならないことを確保する」ことにあると宣言したことがあり、一連の具体策を採用したが、その中の最も主要なものは平和憲法を制定し、なかんずく第9条を設けたことだった。…1950年に日米安保条約を締結した時でさえ、アメリカの主要な目的は日本を冷戦のために利用することではあったが、相変わらず日本をコントロールする意図をも持っていた。この一連の施策は、後にキッシンジャーがアメリカの対日政策における「瓶の蓋論」と形容したものであり、パンドラの箱と同じで、軍国主義の亡霊を瓶の中に閉じこめておくものだった。
 しかしアメリカは、冷戦、反ソ、反共の必要のため、さらに今日においては中国その他の新興大国の台頭を抑止する必要のため、対日政策について不断に根本的な調整を進め、抑止から育成へと転換した。まずアメリカは、日本軍国主義の罪行を徹底的に清算しなかったばかりか、7名のA級戦犯を含む大量の戦犯を釈放し、さらにはA級戦犯だった岸信介を首相にし、1950年代から日本の再武装を開始した。正にアメリカの育成、放任及び黙認のもと、戦後60余年の間に、軍国主義の魂を身につけた右翼勢力及び彼らの日本政府内部の代理人が一貫してあらゆる手を尽くして平和憲法の制約を突破し、政治軍事大国への道を歩み、「普通の国家」になろうとしてきたのだ。日本でいう「普通の国家」とは、我々が一般的に理解する意味での「普通」ではなく、その意図するのは、侵略戦争の罪行を徹底的に否定し、第二次大戦後に日本が投降書において無条件で受け入れた、カイロ宣言及びポツダム宣言における日本に対する様々な規定と国際秩序とを否認することであった。いまや日本の右翼勢力は、既にキッシンジャーが言う「瓶の蓋」を空けてしまうまでに膨張し、一見「瓶の蓋」はなおあるように見えても、元々は瓶のなかにフタをされていた様々な軍国主義の亡霊は次々と躍り出てきてしまっており、残りは幾ばくもない。そのことについては以下を見よ。
-軍事力は猛スピードで膨張し、軍隊の装備ははるかに自衛の必要を越えている…
-海外派兵のタブーを突破し、自衛隊の足跡はアジア、中東及びアフリカに及んでいる…
-不断に自衛隊の地位を高め、いまや「国防軍」に昇格させることまで叫んでいる…
-日本の防衛戦力の定義変更。2011年に改定された防衛計画大綱は、戦略上の定義を「基礎的防衛力」から「動的防衛力」へと改めた。防衛研究所の定義によれば、「動的防衛力」とは、「日本の主権を防衛するだけでなく、日本の防衛力をアジア太平洋地域の安全環境において重要な役割を発揮させ、グローバルな安全保障環境においてさらに積極的な役割を担うことである」とされている。
-武器輸出三原則の放棄…
-非核三原則の改定による核武装への邁進準備…
-憲法第9条の歪曲解釈により、有名無実化すること…
 以上に列挙した事実により、「瓶の蓋論」は実際上破産したことは明らかである。数十年にわたり、アメリカの育成のもと、日本は既に再武装しただけではなく、軍国主義の魂を身につけた日本の右翼勢力並びに極端な民族主義及び国粋主義のイデオロギーは不断に膨張し、事実上、トラは山に放たれてしまっている。外交部の張志軍次官が最近警告したように、「このままでいくと、歴史の悲劇が再演されることは可能性がないとは言えず、そのことは、アジアひいては世界を災難に追い込むだけでなく、最終的には日本自身に災難を及ぼすだろう。」筆者の見るところ、アメリカ自身でさえもその累を免れることはできない。

(浅井注)張志軍次官の発言内容については、コラム「尖閣「国有化」後の中国の対日観(11)」で紹介しました。

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