尖閣「国有化」後の中国の対日観(11)

2012.10.27

*10月27日付の新華社HPは、前日(26日)に外交部のアジア担当副部長(次官)である張志軍が行った内外記者(日本からは朝日新聞社)に対するブリーフィングにおける発言を紹介しました。内容そのものは新しい要素がないのですが、中国政府の立場をまとめているものとして重要だと思いますので紹介します。同じく27日付の環球時報は、日本政府が巡視船を前倒しで建造することを閣議決定し、尖閣の事態に備えようとしていることに対して社評「日本が釣魚島でいくらばくちを打ってもすべては水切り遊びだ」を出しました。海上での実力が今のところは日本の方が優勢であることを認めつつ、中国が絶対に後に引かないことを強調しています。
 アメリカが慌ただしく動いていることについても、中国メディアは短いですが詳細にフォローしています。10月23日にサンフランシスコで、第4回アジア太平洋事務協議が行われ、崔天凱次官とキャンベル国務次官補が協議を行いました。この事務協議については、2011年5月に行われた中米第3回戦略及び経済対話において設置され、2011年6月に第1期協議がハワイで、また、第2回協議は同年10月に北京で、第3回協議は本年3月にアメリカのメリーランド州アンナポリスで開催された、と中国新聞社HP(10月24日付)は伝えています。非常に密に(半年に一度の割合)米中協議が行われていることが分かります。
またキャンベル国務次官補は、24日-26日に東京を訪問し、外務省の河相事務次官と協議、26日-27日にはソウルで韓国外務省副部長等と会合すると、国務省が公式に発表しました(同上ソース)。
石原都知事の突然の辞任表明は、中国メディアでも注目されていることは、人民日報、新華社、中国日報、中国放送HP、南方日報、人民日報HP、文匯報、京華時報、解放日報、中国青年報などが軒並み論評を行っていることに窺われるところです。ただし中国外交部の洪磊スポークスマンは、25日の記者会見でそのことについて問われて、「この問題には批評しない」とのみ答えました。
上記環球時評社評のほかに、軍事関係の記事において注目される内容のものもいくつかありました。中国の軍事力増強に対する世界的関心に答えようとした26日付環球時評社評「中国の上層部の(人事)調整はなぜ世界を引きつけるか」、中国艦船の動きに対する日本メディアの報道を批判的に論評した海軍インフォメーション専門家委員会主任の尹卓少将発言をキャリーした24日付の『国際在綫』をソースとする「日本は、中国艦船が沖縄を「威嚇」と騒ぐ 専門家、日本側は理由もなく騒ぎ立てているとする」、自衛隊の軍事演習を警戒的に捉えた24日付の人民日報HPをソースとする『人民日報海外版日本月刊』編集長の蒋豊「日本への辛口批評:自衛隊は軍事演習で羽を広げている」、海上自衛隊の尖閣有事を想定した机上演習を批判した25日付人民日報海岸版掲載の国防部国際報道局の孟彦(副局長)及び周勇(幹事)「日本の机上演習の「狂騒」を警戒」などです。
このほか、尖閣問題にかかわる日中の法律の整備状況を比較して論じた、雑誌『行政管理改革』に掲載された長文の論文「釣魚島問題における中日の法律の力比べ」が、24日付の人民日報HPに掲載されましたが、専門的に過ぎますので紹介だけにしておきます(10月27日記)。

<張志軍ブリーフィング(新華社報道文)>

 張志軍は次のように述べた、釣魚島は元々問題ではなかったし、主権紛争も存在していなかった。1895年に日本が不法にかすめ取り、無理矢理占拠したために問題となり、紛争となったのだ。歴史的にも法理的にも、釣魚島は中国の固有の領土である。
 1972年に中日が国交正常化したとき、双方は「釣魚島問題は置いておいて、後の解決を待つ」ことで了解と共通認識を達成した。今回、日本政府は中国側の断固とした反対を顧みず、釣魚島「購入」を宣言し、中国の領土主権を深刻に侵犯し、中日関係に国交正常化40年来でもっとも深刻な衝撃をもたらした。
 彼は次のように述べた。日本には、中国の領土についていかなる形の「売買」も行う権理はなく、釣魚島の一寸の土地一滴の水も、一草一木も商売することは許されない。日本がいかなる形の「島購入」を行っても、すべて中国の領土主権に対する深刻な侵犯である。今回の「島購入」の茶番劇は、日本の右翼勢力がことさらに引き起こしたものであり、日本政府は、これらの勢力が中国の領土主権を侵犯し、中日関係を破壊する行動を制止しなかったのみならず、自ら出てきて「島を購入」した。右翼がやりたいと思ったこと、成し遂げようと思ったことを、最終的には日本政府が自ら行ったのだ。
 彼は次のように述べた。日本側の不法な「島購入」の行動に対し、中国側は最初から断固として反対する態度を表明した。しかし、日本政府は中国側の警告に聞く耳を持たず、相変わらず勝手に行動し、中国の領土主権を侵犯する深刻なエスカレーションの足取りを邁進し、中国両岸すべて及び内外十数億の中国人の強烈な義憤を引き起こした。日本側は形勢を読み誤り、中国政府及び人民の国家領土主権擁護の意志と決意とを過小評価した。如何なる外からの脅威も圧力も、中国政府及び人民の国家領土主権を擁護する意志を動揺させることはできない。
 張志軍は次のように指摘した。日本の右翼勢力の危険な政治的傾向はかつてアジアに巨大な災難を持ち込んだ。もしもこれを制止せず、その気炎をさらに助長し、日本をして危険な道をますます遠くまで歩ませるならば、その展開によって歴史の悲劇が再演する可能性がないとは言えず、これはアジアひいては世界を災難に追い込むだけでなく、最終的には日本自身に災害を及ぼすだろう。
 張志軍は次のように強調した。日本国内においては今に至るまで、あの戦争の性格についての認識が一貫して覆い隠されており、少なくない政治的人物が意気揚々と、罪悪感及び羞恥心ゼロで靖国神社を参拝し、アジアの被害国人民の感情をまったく顧みることもない。日本がこのように振る舞って、どうしてアジア人民の寛大な許しを得ることができようか。隣国はどうして日本に安心できようか。もしも日本が歴史と真正面から向きあい、深刻に反省し、前非を痛切に改めないのであれば、仮に経済的に再び発展したとしても、道義的、精神的に永遠に屹立することはできない。
 張志軍は次のように述べた。中日間では、各種のチャンネル及び形式を通じて釣魚島問題に関する接触と協議が維持されている。双方は既に9月25日に北京で両国の次官クラスの釣魚島問題協議を起動させた。中国側は、日本との各レベルでの接触協議において、釣魚島問題に関する中国政府の厳正な立場と国家領土主権を守る断固とした意思を表明し、日本側に対し、情勢を見極め、幻想を放棄し、現実を直視し、実際行動によって誤りを正し、そうしてのみ両国関係を正常な軌道に戻すことができることを促した。
 張志軍は次のように表明した。中国はかねてから対話交渉を通じて平和的に国際紛争を解決することを主張してきた。中国は自ら事をしでかすことはあり得ないが、事を恐れるものではない。我々は、日本を含むすべての国々と友好善隣を願うが、我々には原則があり、ボトム・ラインがあるのであって、国家領土主権にわたる問題において譲歩はあり得ない。平和共存5原則の第1条は、「主権及び領土保全の相互尊重」である。釣魚島問題に関し、我々は対話を通じて関連する問題を妥当に処理することを希望し、情勢がコントロールできなくなることを希望しないが、これは中国側によって決まるものではない。日本側は、中国側の厳正な立場と重大な関心に真剣に対処し、中国の領土主権を傷つける一切の行動を停止するべきである。
 張志軍は最後に次のように述べた。中国は、一貫して独立自主の平和外交政策を行っており、隣人と好をなし、隣人を伴いとなす善隣友好政策を堅持し、平和的発展の道を断固として歩み、地域の平和、安定及び発展のために巨大な貢献を行ってきたし、アジア及び世界の平和発展のためにさらに積極的な役割を発揮するだろう。しかし、仮に誰かが領土主権問題で中国側のボトム・ラインに挑戦してくるならば、我々には退路はなく、必ずや有力な反応を行い、平和と発展の道を穏やかに歩む上での邪魔及び障碍を排除することは間違いない。

<環球時報社評「日本が釣魚島でいくらばくちを打ってもすべては水切り遊びだ」>

 (日本の巡視船増強などのエスカレーションに対して)今日の中国はこのことで危惧したりしない。何年か前に遡って、中国は「紛争棚上げ」原則を主張し、日本とごたごたすることに飽きていた。しかし、日本が釣魚島を「国有化」したことで釣魚島情勢の過去は葬られ、中国はまったく新しい態度で日本の挑発に対処することにする。日本人がもっとたくさんのばくちの掛け金を投じたいと思うのならば、どうぞご勝手に。我々は後には引かない。
 日本側は、今のところなお中国よりも優勢な海上の力量を持っているが、中日の実力比較が逆転する趨勢であることは明々白々で、釣魚島対峙がいったん固定して中日間の実力の対抗となれば、日本の敗勢についてはいささかの疑問もない。このことについて、中国社会は確信している。
 …日本が釣魚島をめぐって新たなエスカレーションの行動をとれば、中国は同等及びより強力な対抗行動でお返しする。中国のこの決意については、日本は随時検証することができよう。…
 日本は今後ことを行うのは慎重でなければならず、考えなしに軽率に動かないことだ。日本が釣魚島地域に(軍事力を)増派するならば、必ずや中国側の軍事力増強を招くだろう。日本の人員が再び勝手に島に上陸するならば、彼らは中国側のさらなる行動に備えるべきであり、中国の法執行者が島に上陸して国境を侵した日本人を逮捕する。日本側は、中国側がそんなことをするはずがないと思わないことだ。
 …今日において釣魚島について形成された局面は、中日両国の実力のバランスの反映である。このような変化は日本人が自ら招いたものだ。中国の実力が不断に越えていくに伴い、日本が再び不愉快なことを自ら探すならば、将来の釣魚島情勢は必ずやそのときの中日間の実力の新しいバランスを明らかにすることとなり、日本は負ければ負けるほどみじめになるだけだろう。
 中国は、必ずしも釣魚島のことで日本と戦争を始めようと思っているわけではないが、この平和的態度の背後にあるのは、中国人は現在日本人と釣魚島のために一戦を交えることをもはや恐れていないということである。中国人がやや「傲慢」になったか否かはともかく、我々は今、日本の実力についてさして眼中になく、必要なときには日本を抑えつける十分な能力があると自信を持っている。
 今後は、日本が前に突き進もうとすれば、中国は決して後退しない。中国人民が後退することを許さない。日本のメディアは最近、中国経済が中日衝突のために「日本よりも大きな損失を被っている」と不断に計算している。こういう宣伝は笑うべきである。日本のメディアの言っていることが本当かどうかは知らないが、我々の態度は、仮に本当だとしても我々は恨みもしないし後悔もしないということだ。
 日本に対しては深刻な教訓を与え、日本が1世紀以上にわたって中国に対して持ってきたお高くとまる姿勢、日本がどんなことをしても中国は堪え忍ぶという間違った判断を徹底的に改めさせなければならない。釣魚島は、この転換を完成するのにもっとも適当な場所だ。日本は既に道義で負けており、現在はまた気勢でも負けており、新しく何艘かの巡視船で形勢をひっくり返そうなどと思うのは実におめでたいことだ。それらの巡視船は結局のところ、日本の勢力の退潮というなかで水切り遊びをするだけのことだ。
 釣魚島において一歩一歩地歩を固めていくという中国のやり方は、既に段階的に勝利を収めている。中国の常時巡視及び12カイリ進入は非常に順調に実現しており、釣魚島地域で主権を行使する新局面を切り拓いており、将来に向けた進展のために突破口を開いた。我々は断固として進んでいく。このように断固として強大な中国に直面してのみ、日本はやっと少しはまともになるだろう。

<環球時評社評「中国の上層部の(人事)調整はなぜ世界を引きつけるか」>

 (中国軍部上層部の人事異動を切り口にして)中国の総合的軍事力は強くもあり弱くもあり、我々は「世界第2位」の地位にあると広範にみなされており、経済及び軍事的な規模は膨大だとされているが、西側特にアメリカのマークは厳しくなっており、アメリカの戦略的圧力に対抗することは相変わらず骨が折れることだ。
 中国の年間軍事費は、既にアメリカ以外のあらゆる国家をしのいでいるが、アメリカとの差は極めて際立っている。中国の武器体系と具体的な装備はアメリカの先進さにはるかに及ばない。中国の潜在的な衝突ポイントの背後にはすべてアメリカの影があるため、中国の軍事力は近年進展が突出しているとは言え、明らかに足りないことも事実だ。
 …中国の軍隊の影響が及ばないところはなく、巡視船から漁民更には外交官及び商人に至るまで、彼らの境遇が改善するかどうかは、長期的に見れば、中国の軍事費の投入と関係しないものはない。
 しかし、中国の軍事力を最終的にどのように用いるかということは、軍隊だけのことではなく、国家全体にとっても極めて挑戦的な課題である。中国の軍隊は不断にその抑止力を増大させるべきだが、アメリカがもっとも押さえ込みたいと思っているのも正に中国の抑止力である。周辺の摩擦がこの複雑な闘争においてどういう位置でどういう役割をもっているかということは、我々が大いに力を入れて戦略的に判断する必要がある。…
 中国の軍隊は長い間強度な秘密保持原則を実行してきたが、近年は時代に即して透明化のプロセスを切り拓いてきた。中国軍は、中国の民衆との間でその使命及び装備能力について交流し、中国外交にもっと直接に参与することによって、中国社会が軍事力の発展を持続的に支持するようにし、中国の国家としての実力に対する世界の認識を豊かにするべきである。
 中国社会には一定の対米恐怖感情が存在しているが、それは、両国の軍事力に差があることに原因があるとともに、ソフト・パワーに差があることの影響でもある。中国人が対米恐怖感を克服するためには、そのバックボーンとなるのはやはり軍隊である。中国軍は、西太平洋でアメリカ軍の介入を抑止する能力を必要としており、それは軍事予行演習や机上演習でアメリカ軍を圧倒するだけでなく、大衆の認識においても徐々に優勢的地位を形成する必要があり、こうしてのみ、アメリカに対する外交及び心理的な弱さを徹底的に改めることができる。
 これらのことが簡単ではないことはもちろんである。中国は軍事的なハード・パワーを不断に発展させる必要があるだけではなく、軍事的なソフト・パワーも必要であり、それには全民族の軍事的自信と見合った実事求是(で物事を見る態度)の向上が含まれる。我々はみだりにへりくだるべきではないが、盲目的に自大野郎になるべきでもなく、中国は、正確に自己を見極め、世界を評価する能力が必要である。…  …中国の台頭が平和を実現すれば、世界は再び大きな戦争に見舞われない可能性が出てくるのだ。

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