尖閣「国有化」後の中国の対日観(9)

2012.10.19

*10月18日及び19日付の人民日報は、鐘声の文章を連日掲げました。18日付の文章「第二次大戦の歴史をひっくり返すことは許さない」には「三論:釣魚島問題の真相」、19日付の文章「サンフランシスコ平和条約を何をもって拠りどころとするか」には「四論:釣魚島問題の真相」と副題がつけられています。鐘声の文章につきましては、コラム「尖閣「国有化」後の中国の対日観(2)」で「日本は理性を回復しなければならない」、「同(5)」で「国連は日本が国際秩序に挑戦する舞台ではない」、「同(8)」で「しらを切ると呼ぶ行為」と紹介してきました(鐘声は、対日関係に限らず、中国が当面する重要な国際問題及び中国の対外関係について、短いですが重要な発言をする人物ですが、これほど頻繁かつ連続して対日関係について発言するのは異例です。それだけ中国が尖閣問題、日本及び日中関係を重視し、深刻に見ているということだと思います)。
内容的に見ますと、「国連は日本が国際秩序に挑戦する舞台ではない」が「一論」、「しらを切ると呼ぶ行為」が「二論」になる(「日本は理性を回復しなければならない」は総論的なもの)のでしょうか。そういうふうに見直してみますと、鐘声は、カイロ宣言及びポツダム宣言の国際文書の法的有効性(一論)、日本側の「無主先占」の主張が通らないこと(二論)、カイロ宣言及びポツダム宣言を政治的文書で法的効力はないとする日本の外務省の主張に対する批判・反駁(三論)、日本側が根拠とするサンフランシスコ対日平和条約の問題点(四論)について、系統的に取り上げてきていることを確認できます。そういう枠組みにおいて、今回紹介する「三論」及び「四論」を読んでください。
鐘声はまた、18日付の人民日報に「邪悪な参拝」と題する文章も載せており、これは安倍自民党総裁などの靖国参拝問題を批判したものです。安倍晋三や民主党閣僚の靖国参拝も、中国メディアがこぞって取り上げている問題です。ただし、自民党が次の総選挙で勝利し、安倍が政権を取ったときに日中関係がどうなるかについては、二、三かの論者が、かつて彼が2006年に政権を取った際に速やかに訪中して、小泉政権における冷却しきった日中関係を修復するように動いたことを想起し、尖閣問題で今は勇ましいことを主張しているものの、安倍政権登場を機に、尖閣問題及び日中関係が打開される可能性はあるのではないか、という希望的観測を述べていることも事実です。もちろん今回紹介しますように、18日付の環球時報社評「安倍は中日戦略的大局をひっくり返すことはできない」のように、極めて厳しい見方が基調であることは確認しておく必要があります(野田首相以下は「政治屋」(政客)とレッテルを貼られていますが、安倍についてもそのようにレッテル貼りが行われているのは、やはり対安倍不信感の方が強いことの表れでしょう)。
日本が右傾化を強めているのはいかなる原因、背景によるものであるかということについての論考が現れるようになったのも最近の一つの特徴だと思います。18日付の環球時報HPをソースとする徐焔「対日関係に対処するには大著作が必要だ」の内容は興味深いものです(私自身は、この文章が指摘するような「戦略」が戦後の自民党政治にあったとは思えませんし、ましてやそれをアメリカに隠し続けてきたなどとは到底思えません。中国人は、自分が戦略的に物事を考えるので、日本にもそういう大戦略があるはずだと思い込む傾向があるのですが、徐焔もそういう人物なのでしょう)。また、日本が尖閣問題で対中強硬姿勢を改めない背景にはアメリカの庇護があるという中国側の判断については、これまでにも紹介してきましたが、「アメリカはなぜ日本の右傾化の危険性に思いが至らないのか」という問題意識に答えようとする試みが、18日付文匯報所掲の上海国際問題研究院博士・陳友駿の文章です(原題不明)。

<鐘声「第二次大戦の歴史をひっくり返すことは許さない」>

 中国には、「信こそは国の宝であり、民の依るところである」という古い言いまわしがある。国家が国際社会に立脚し、他国の尊重と信任を勝ち取るためには、信用を重んじて約束を守り、行いは公明正大でなければならない。誰もが知っているように、カイロ宣言及びポツダム宣言に基づいて、釣魚島及び付属島嶼は「日本が窃取した中国の領土」として中国に返還されなければならない。しかし、日本は最近、カイロ宣言及びポツダム宣言は連合国が一方的に発表した政治宣言であり、国際法の効力を欠いているという謬論を投げ出してきている。日本のかかる言は荒唐無稽の極みであり、世人をして愕然とさせる。
 カイロ宣言及びポツダム宣言は、第二次大戦後の国際秩序を作り上げる法律的基礎である。1945年8月1日、日本政府は自ら連合国に照会の文書を発出し、ポツダム宣言の規定を受け入れた。8月15日、天皇は、対外的に終戦詔書を発表し、「米英中ソ4ヵ国の共同宣言を受け入れる」と述べた。9月2日、全世界は、東京湾のアメリカの戦艦「ミズーリ」号において、重光外相が天皇及び政府を代表し、梅津陸軍参謀総長が軍側を代表して、米中英ソその他の戦勝国代表と投降書に署名し、日本側はその投降書において明確に「1945年7月26日に米中英がポツダムで宣言し、後にソ連が参加した宣言の条項を受け入れる」(原文:「昭和20年7月26日米英支各国政府ノ首班カポツタムニ於テ発シ後ニソ連邦ガ参加シタル宣言ノ掲クル諸条項ヲ受諾」)と約束したのを見届けた。既成事実は戻せず、証拠は確実で動かしがたい。聞くが、もしも日本が言うようにカイロ宣言及びポツダム宣言が一方的な行為であり拘束力がないというのであれば、日本が投降書に署名したことを何と解釈するのか。また連合国は何故にこれをもって戦争を終結したのか。カイロ宣言及びポツダム宣言は、当時連合国が対日戦争を終結させる前提であったし、戦後国際社会特にアジア諸国にとって日本が国際社会に復帰することを受け入れる前提でもあった。日本が今のように公然とカイロ宣言及びポツダム宣言に疑義をはさむというのは、世界の反ファシズム戦争勝利の成果を否定し、戦後国際秩序に挑戦することを企むのと同じだ。
 日本が釣魚島問題で事件を挑発するのは偶然ではなく、根本の原因は日本の右翼が相変わらずのさばって、日本国内で歴史をひっくり返そうという雰囲気を作り出してきたことにある。…日本は戦後一貫して深刻に侵略の歴史を反省することを願わず、徹底的に軍国主義を清算することを願わなかった。近年では、南京大虐殺、慰安婦などの戦争時の暴行を否認し、村山談話を否定する輩が後を絶たず、日本政府は積極的に平和憲法、非核三原則等を改めようと図っている。日本の政界の要人は頻繁に靖国神社を参拝しており、何と元首相で自民党総裁の安倍晋三までが公然と参拝に赴いた。これらのことは、日本政治が右傾していることのシグナルではないと言うのか。アジア及び世界の人民の警戒を呼び起こすにはこれでも足りないとでも言うのか。1970年にドイツのブラント首相は、ポーランドを訪問してユダヤ人の受難記念碑の前で跪き、第二次大戦の被害者に謝罪した。跪いたのはブラントであり、立ち上がったのはドイツ民族である。ところが日本の政界では、このような贖罪の表明を行ったものはかつてなく、逆に公然と第二次大戦の侵略の歴史を改ざんし消し去ろうとしているのであり、これこそが、日本が今日に至るまでアジア及び世界の人民の前で真に頭を上げ得ないでいることの問題の所在なのだ。
 日本は一再ならず「普通の国家」の道を歩みたいと称しているが、日本はまず普通の国家としての精神構造を備えるべきであり、軍国主義の毒の残りを徹底的に洗い流し、実際の行動によって各国の信任を勝ち取るべきである。日本が戦後確かに経済的奇跡を成し遂げたことは否定できないが、経済的に成功したことと政治的に「普通」であることとは同じではない。日本の釣魚島問題での立ち居振る舞いは、日本は平和的発展の道を歩もうとしているのか、それとも軍国主義の前轍を踏もうとしているのかについて疑問を持たせずにはすまない。このことを、アジア近隣諸国は刮目して待っているし、世界も刮目して待っている。

<鐘声「サンフランシスコ平和条約を何をもって拠りどころとするか」>

 今回の釣魚島紛争において、日本は一方で第二次大戦後の国際秩序を確定したカイロ宣言、ポツダム宣言などを回避しようとし、他方では1951年のサンフランシスコ平和条約を頻りに持ち出して、釣魚島は同条約第2条が規定する日本が放棄した領土には含まれず、同条約第3条の規定に従ってアメリカに管轄され、日米沖縄返還協定にしたがって日本の領土に返還されたと言い張っている。
 しかし、同条約は日本を助けることはできない。まず、誰もが知っているように、同条約は、冷戦という特殊な背景のもとで、アメリカなどが日本と結んだ片面講和条約であり、世界の反ファシズム戦争の勝利に大きな貢献を行い、犠牲を払ったソ連、中国などを排除したものであり、しかも、同条約の多くの内容はカイロ宣言及びポツダム宣言の趣旨と合致していない。(1951年9月18日の周恩来外相の声明を紹介して)同条約は中国に対してはいかなる拘束力をも持たず、中日双方が戦後の領土帰属問題を解決する法律的基礎とはまったくならない。日本が中国に対して拘束力がないことを明確に知りながら同条約を証拠とするのは、手段としてまったく無力であり、やり方についても自らを欺き他者を欺くものだ。
 次に、仮に同条約の規定を根拠とするとしても、釣魚島が日本に属するという結論は得られない。第一、同条約第2条「日本は台湾、澎湖に対する権利、権原及び請求権を放棄する」で言う台湾には当然釣魚島が含まれる。第二、同条約第3条が(アメリカの)管轄範囲としているのは、北緯29度以南の南西諸島(琉球群島及び大東群島を含む)と大雑把に言っているだけで、その具体的な地理的範囲を明確にしておらず、釣魚島についてはなおさら何も言っていない。しかるに釣魚島は、歴史的にも地理的にも未だかつて琉球群島の一部であったことはなく、したがって同条約第3条の管轄範囲には入っていない。第三、アメリカの琉球民政府は、1953年に勝手に釣魚島を琉球人民政府の管轄区域に編入し、後に沖縄返還協定を通じて同島の施政権を日本に「返還」したが、このことについては、同条約中にいかなる法律的根拠もない。
 第三に、同条約締結後の情勢の展開が釣魚島の主権に関する紛争の存在を証明している。1971年、アメリカは沖縄返還協定に基づいて琉球群島及び釣魚島の施政権を日本に返還した際、アメリカは中日間の領土領有権紛争に対していかなる一方にも味方しないことを公に声明した。近年においても、アメリカは度々、アメリカが当時返還したのは施政権であり、釣魚島の最終的帰属問題では立場をとらないことを明らかにしている。中国政府は日米間で勝手に受け渡しを行うことに断固反対しており、このこともある意味、日本の言う「釣魚島の主権に関して紛争は存在しない」という謬論が成り立たないことを明らかにするものだ。そうでなければ、アメリカの施政権に関する言葉と「中立維持」の言葉はどういうことなのか(分からないではないか)。
 最近、玄葉外相はフランスのフィガロ紙上での文章で、日本は責任を負う国家だと述べた。しかし、釣魚島問題の突出及び日本の振る舞いからは、玄葉外相の言葉に疑念を持たずにはすまない。他国の領土を窃取しておいて返そうとしない国家、カイロ宣言及びポツダム宣言を尊重しない国家、アジア太平洋が乱れないことのみを恐れ、しばしばことを挑発する国家が責任を負う国家であろうか。日本が本当に「普通の国家」になって、国際社会の尊重とアジア隣国の信任を勝ち得たいというのであれば、過去の罪行を悔い改め、歴史的責任に向かい合い、速やかに「島を盗み取る」誤った行為をただすことだ。

<環球時報社評「安倍は中日戦略的大局をひっくり返すことはできない」>

 …安倍晋三は、利益を見出せばすぐ奪い、圧力に面したらすぐ引っ込むなど、見込みのない日本の政治屋のあの連中を一身に集めた人物だ。…選挙政治が生みだした典型的なオポチュニストの政治屋である。安倍は繰り返し野田首相が靖国神社を参拝しないことを批判する…ので、彼が再び首相になると、靖国参拝問題が危険な懸念として中日関係を見舞う可能性がある。
 しかし、このことは中国にとってこわいことか。明らかにそうではない。中日間では靖国をめぐって激しい闘争を経てきて、日本はこの闘争における「負け組」だ。時を隔てて、中国は当時よりも強大かつ成熟しており、仮に日本が元の立ち場で再び中国に挑戦したとしても、「負けを転じて勝ちと為す」希望はまったくない。…
 歴史をめぐる闘争は、日本がもっとも勝ち目がない対外的衝突である。なぜならば、アジア諸国に対するあの侵略は永久にひっくり返すことはできず、靖国神社に位牌が納められているA級戦犯の悪名はとどろいており、そういう彼らとつながっていることは、日本自らをますますクロにすることであり、彼らがそうしたいのならどうぞ勝手にということだ。…
 中国は日本と友好を発展させることを願っているが、日本と対立することは中国にとって必ずしも悪いことではない。今の中国にとり、日本は「大きくもなく小さくもない」国家だ。日本は、アメリカのように強大で中国に重傷を負わせるほどではない。しかし、日本はまた、フィリピンのように、小さすぎて中国社会に団結する理由を提供するに足りないというほどでもない。侵略を美化する日本と闘うことになれば、中国社会は間違いなく精神が奮い立ち、皆が一致団結するというものだ。中国がどこかの国家と衝突することが定められているとするならば、日本は相対的にもっとも合格であり、しかも中国の戦略的脅威としては比較的小さい国家だ。
 中国は実際上、既に対日関係の戦略的主導権を獲得しており、中日関係がさらに友好的になるか逆にさらに対立するかということの影響は、日本よりも中国にとっての方が小さい。安倍晋三ははしゃいでいるけれども、中日間の戦略的大局という掌から飛び出すことのできない孫悟空なのだ。

<徐焔「対日関係に対処するには大著作が必要だ」>

 …日本との関係を処理することは、中国の対外政策において一貫して極めて重要な戦略的地位を占めてきた。…現下の国際的枠組みの下においては、どのように国家的利益を最大化するかということを基準にして対日関係を巧みに処理することについては、大著作、大いなる知恵が必要だ。
○中日の力量バランスの転換が相互間の見方を決定する
 中日関係を回顧するとき、密接な交流と骨髄に徹する憎しみ及び血みどろの戦いとの相互転換であり、その場合の内在的な決定要素は力量のバランス関係だ。西暦7世紀、倭国が勃興したての時に、唐と朝鮮半島の白江口で交戦し、倭人は失敗してからは喜んで「唐化」プロセスを開始し、今日日本国内各所で見られる漢字、中国様式の建築、唐式の服装はすべてこの学習の産物である。
 強気を尊敬して弱気を侮り、勝利者に学習することを願うというのは、日本人の昔からの特徴だ。第二次大戦で日本を打ち負かしたのはアメリカであり、多くの日本人はだからこそアメリカ人に敬服している。…
 中日関係は悠久であり、「中強日弱、日強中弱」を経て、近年やっと「両強並立」に入った。役回りの転換にしたがって、日本が中国に対する態度は、唐代-宋代:仰ぎ見る、元代-清代:対等に見る、甲午戦争(日清戦争)-抗米援朝(朝鮮戦争)期:見下すといういくつかの段階に分けられる。
 実事求是で言えば、中国の抗日戦争における勝利は、国際的な反ファシズム戦争という大背景のもとでのものであり、中国の戦場に限って言えば、戦争終結時には日強中弱の形勢にはまだ変化がなかった。戦後日本の当局ひいては主流的な見方では、アメリカに敗北したことは認めても、中国に敗れたことは認めなかった。アメリカが日本を占領した後、1948年に日本の賠償義務を免除することを発表しただけでなく、大量の経済援助を与えてその復興を助けたので、ソ連、イギリス、国民党当局としても賠償要求の放棄を発表せざるを得なかった(その後新中国もこの現実を認めるほかなかった)。
 新中国成立の1年後に朝鮮に敢えて出兵し、米軍との作戦で連戦連勝したことは、アメリカに打ち負かされたばかりの日本人を驚かせ、その対中観念を変えさせ、過去の「支那」という蔑称は「中国」に代えられた。しかし、アメリカの横やりのため、日本は1972年以前は台湾当局と国交を結び、ニクソン訪中の後になってやっと日本はアメリカの制限を打ち破って中国と国交を回復したのだった。
 アメリカは、老練な頭の良い覇権主義国家であり、日本を支配した後もそれを支え、改造してきた。日米安保条約をシンボルとする日米軍事同盟は、アメリカのアジアにおける軍事戦略の柱となり、今日に至るまで、中国の安全保障に対する重大な脅威となっている。
 毛沢東時代から始まって、中国の指導者は長年にわたり日本の中立化とアメリカの対日支配を弱めることに着眼してきた。そのため、中国側は、国交を樹立できないときは民間外交を行い、民によって官を促し、ついに1972年に国交を回復させた。改革開放の初期には、中国が導入した資金、技術及びマネジメントのエキスパティーズの多くは日本から来た。毛沢東、周恩来、鄧小平の採用した対日政策を回顧するとき、実に先々まで見通していたと言うことができる。
 1970年代から80年代における中日関係は比較的順調だったし、中米日が戦略的に連合してソ連に対抗するという戦略的な大背景もあった。…21世紀に入ってからは、中国の台頭及びGDP世界第2位ということに伴い、日本の主流的な観念は(このことに)適応できず、右翼はさらに刺激されて狂った状況を呈することになった。中国の多くの民衆も近年、改革開放初期の卑下を一掃し、日本や周辺諸国に対して十分な気力を持ち、プライドを高めるようになった。中日の世論調査において、両国で(相手に対する)嫌悪感が高まっているのは以上のことが主な原因である。
〇中米関係が中日関係に影響し、これを左右する
 十数年前、日本共産本部を訪れ、先方と日本の国内社会の性格について話したとき、日共は、戦争終結から今日に至るまで、日本は相変わらず独立国家ではなく、「アメリカ及び日本を壟断する財界によって統治されている」ことを特に強調した。仔細な考察に基づけば、確かに間違いではない。今の日本経済は基本的には自主(アメリカの影響が最大)であるが、政治的には半独立でアメリカには「ノー」と言えず、軍事的にはアメリカによって「保護」されている。…
 ソ連解体及び冷戦終結以後、米日は戦略上中国を味方にする必要がなくなり、1990年代中頃から再び「中国脅威論」を作り出した。この背景のもとで、1996年に日米は「安保条約新ガイドライン」を作成し、過去においてはソ連に向けていた戦略方針を中国に向けることになった。同じ年に自民党右派勢力の代表である橋本龍太郎が首相になり、中日関係はここから「政冷期」に入ったが、これはまさに日本の戦略的調整の結果であり、また、アメリカの東アジアにおける対中政策の変化の反映でもあった。…1990年代中期以後、中日間には再び「政冷経熱」状態が現れた。…
 現在中日間の領土紛争である釣魚島問題は、正にアメリカが1971年に沖縄を返還したときに故意に作り出し、残した矛盾である。毛沢東、周恩来、鄧小平などの第一世代は、この問題に対してまずは棚上げという方針を提出したが、これは正にアメリカによる中日間の矛盾を激化させようという企みを打ち破るためであり、当時の日本側の同意を得た。今日、民主党政権が釣魚島問題で騒いでいるのは、選挙での得票という内政上の必要もあるが、アメリカのアジア太平洋重視戦略とマッチするという外交的考慮にもよるものだ。このような、両国政府の元々の約束に違反するやり方に対しては、中国としてはもちろん道理も、利も、節度もある闘争を行うべきだが、同時に、アメリカが中日間で手にしているレバーをも見て取り、中日関係がアメリカによって左右されないようにする必要がある。
〇政治経済軍事の力を併用して中日関係の良好な発展をめざす
 世界の政治経済の変化により、中国としてはもはやイデオロギーによってではなく国家利益に基づいて国家関係を親しくするかどうかを決めるのであり、対日関係を処理する基準は国家利益を最大化することを追求するということである。
 冷戦終結及び経済のグローバル化の後、中日間の矛盾について、抗日戦争当時とは同日に論じることはできず、武力を通じて勝敗を争うことでは解決できない。両国は現在既に「両強並立」であり、軍事的実力では中国が日本より強く、経済ではそれぞれが長短をもっている(量では中国が日本より大きいが、質では日本の方が中国より強い)。さらに日米軍事同盟という要素を加えれば、双方が戦争したときは勝者はないと言うべきだ。ましてや中日間で戦争となれば、アメリカは必ず介入してくるだろうから、アジアひいては世界規模で災難に見舞われる。
 比較すれば、現在の日本の軍事能力は中国よりはるかに弱い(ただし、海空の個別的な精密装備では日本が優勢だ)し、国土面積では中国の1/30しかなく、打撃に対する抵抗力ははるかに及ばないわけで、戦争(という事態)にはさらに恐れている。…ましてや中国は大規模戦争を抑止する長距離打撃(核)抑止力を備えており(これこそが敗戦国・日本の備えていないものだ)、日本にはアメリカの支持があるとしても、軽率には中国に対して軍事的対抗策をとることはできない。…
 現在及び今後の戦略的な配置から見て、中国が強靱な発展態勢を保持し、政治経済軍事諸力を総合的に運用すれば、中日間での大規模な衝突の発生防止をおおむね確保することができるし、右翼及び反中勢力の挑発もコントロールできる範囲内に押さえることができる。…  中日関係の今後の展開を展望すれば、三つの可能性がある。第一、日本がアメリカとの同盟関係を深めて中国に対抗する。第二、中日が不即不離で、摩擦が絶えない。第三、中日が協力して両国、東アジアの繁栄を共同で促進する。
 中国の最大の利益から言えば、当然に第三の可能性を追求するべきだが、今の情勢の下では実現は極めて難しい。今現れているのはおおむね第二の可能性であり、最悪の可能性になることもあり得る。しかし、中国が戦略的に巧みに物事を進め、かつ、総合的な国力をさらに強めれば、中日関係の発展について悲観しすぎることはない。要するに、国際関係においては、すべては力の比較によって決まる。…

<陳友駿文章:「アメリカは何故に「無邪気に誤った判断」をするのか」の部分>

 アメリカが日本に対して戦略的に判断を誤る基本的原因としてはいくつかの淵源があるようだ。
 第一、第二次大戦終結後、アメリカが終始「戦勝国対敗戦国」という心理的優位を(日本に対して)持ち続けてきたことだ。…心理的な伝統的優位ということが、アメリカの対日戦略の主要な決定要因となってきた。
 第二、第二次大戦終結以来、日本政府は基本的にアメリカに対して一緒に進む、命には従うという戦略思想を堅守し、一度は軍事経済更には国内政治の主導権まで放棄したことがある。アメリカは日本の内政面で「権力の最大化」という優越感に浸りきってきたため、日本が胸底深くしまい込んだ対米及び対外戦略に対してマヒし、緩んでしまった。これもまた、日本が政治経済軍事において徐々に力を強めることに必要な発展の条件を作り出した。
 第三、近年の日本国内は確かにただならぬ矛盾の中にあり、経済的実力の地盤低下に加え政治情勢が混沌としており、「日本は没落しつつある」という強烈な印象を人々に与えやすい。このような背景のもと、アメリカは日本をコントロールし、束縛することをほとんど完全に自由化してしまい、しかも、国連PKO活動への参加要求、インド洋での対米軍給油活動促進、海賊取締の国際活動への参加要求など、日本が国際的影響力を強めるための格好の「仕事場」を次から次へと提供してきた。つまり、日本の国内経済の「失速」は、国際的地位における「権力掌握」を成功裏に勝ち取り、日米同盟関係の協力的要素をさらに強めるためにとりわけ恵まれた条件を作り出したのだ。
 日本における右翼勢力の台頭及び日本政治において吹き出した民族主義の「強い風」は、アメリカ政府が長年にわたって行ってきた日本に対する「現実を直視しない政策」「包容政策」と関係しないものはない。…釣魚島問題が急激に発酵してきた背景には、日本が長期にわたって隠してきた国家戦略の切っ先がついに姿を現したこと、また、アメリカが日本の国家戦略に対して「無邪気に判断を誤った」ことの二つが映し出されている。しかも、日本の外交政策の独立性及び自主性が日増しに増すにつれ、その中でアメリカ・ファクターが発揮する影響力は日増しに弱まっていく運命にある。以上から明らかなように、アメリカが自らの対日政策を改めて見つめ直し、日本の対米「依存関係」の真実性と信頼可能性とを詳細に検討することが待たれるところだ。

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