尖閣「国有化」後の中国の対日観(7)

2012.10.12

*10月11日の中国のメディアにおいても、対日関係の文章・記事が数多く見られました。私が注目したのは、10日付の共同通信が報道した、日本政府が対中妥協案を研究しているという記事(この記事についての中国側の紹介記事及び中国外交部の反応については昨日(11日)のコラムで紹介しました)に対して、日本政府の意図を懐疑的、否定的に捉えるものがいくつか現れたこと(肯定的に受けとめるものはゼロ)、及び、日本は国家として今後一体どういう方向に向かおうとしているのかを問い、今の対米追随の右傾化路線に警鐘を鳴らす論調が現れたことです(昨11日のコラムで紹介した華益文の文章も、日本は分かれ道に立っていると指摘していましたが、11日に現れた2つの文章はさらに突っ込んだ内容です)。
私自身、日本は日米軍事同盟をひた走る路線には未来はなく、日本国憲法に立脚する平和大国をめざすことによってのみ将来への明るい展望が開けるという立場であり、このコラムでも折に触れて私自身の考え方を述べてきましたが、中国が問いかけるのも、日本がこの二つの道のいずれを選ぶのか、というものです。
自らは軍事大国への道をひた走りながら、日本に対して日米軍事同盟路線から決別しろ、と要求するのは、中国の手前勝手なもので一顧だにする価値はないと切り捨てるのは、保守政治家及びその支持者ばかりでないことを、私は理解しています。最近、小さな集会でお話ししたときにつくづく感じたのですが、多くのマス・メディアの報道・論調によって対中イメージを膨らませるしかない国民のなかにも、中国に対してはマイナス・イメージしか抱けず、中国の増大する軍事力を前にしては、日本の安全をアメリカとの同盟関係に依拠ずる以外にない、と信じ込まされている人は決して少なくないのです。そのことが、数々の世論調査の結果で示されているように、憲法も日米安保もという考えの人が国民の2/3を占めるという現実を生んでいるのでしょう。しかし、私たちが忘れてはならない事実は、中国の軍事力強化努力は、優れて変質強化が進み、中国を狙い撃ちする性格をますます強めている日米軍事同盟に対抗するための防衛的な性格のものであるということです。中国の軍事的脅威を言う前に、まずは強者である日米軍事力の削減、軍事同盟の解消を私たちは考えるべきなのです。
もっと基本的に言えば、国際的相互依存の不可逆的進行という21世紀国際社会を規定する要素一つだけを取っても、日中軍事衝突という選択はあり得ないし、あってはならない(それと同じ意味で朝鮮半島有事はあり得ないし、あってはならない)以上、私は、日本が軍事力に依拠しない平和大国として立国する現実の条件が存在していることを確信しています。そういう私の立場(中国の軍事力増大は日米軍事同盟に対抗するための防衛的性格のものであり、かつ、日本の将来展望は平和大国以外にない)からしますと、中国の問いかけは決して手前勝手なものとして片づけることのできない内容が込められているし、私たちとしては謙虚に読んでみることが必要だと確信するわけです(10月12日記)。

<共同通信報道の日本政府の「動き」に対する中国側反応>

○環球時報の一つの記事においては、10日、環球時報の記者が日本政府は本当に妥協を考えているのかと質問したのに対して、外務省員が、政府内部で妥協案を研究していることを否定したこと、しかし同時に自分の名前を明らかにしてはならないと強調したことを伝えています。
○11日未明の中国中央テレビ局HPが掲載した10日放映の「日本、「妥協」案を研究」という番組において、清華大学現代国際関係研究院副院長の劉江永教授は、この案が引き延ばし策であるか、「アドバルーン」で探りを入れようとするものかについては、さらに観察する必要があると述べました。
○11日付環球時報社評「日本に「妥協」の動き現れる 中国、徐々に主導権握る」においては、「我々は、日本が現在、釣魚島問題で中国側に実質的な妥協を行う可能性はまったくなく、中国世論はこれに期待を抱くべきではないと考える。日本のいわゆる「妥協」は表面的なものに過ぎず、その目的は、釣魚島の衝突の激しさをコントロールして日本経済が被る損失を避けようとするものだ」と断定的に述べています。ただしこの社評が言わんとすることは、「しかし、これが「妥協の姿勢」に過ぎないとしても、当面の中日関係の重要な動向でもある。それ(日本側の姿勢)は、釣魚島をめぐる中国の断固とした闘争が効果を現したことを示しており、日本の増長した鼻息がへし折られ、中国が対日闘争において受け身から主動に変わっている(ことを示している)」という判断を示すことにあります。
○11日付の人民日報HPは、10日付の配信記事として、中国国際問題研究所の曲星所長に対する取材記事を掲載していますが、日本政府の「妥協」案に関する質問に対し、同所長は、「このいわゆる「妥協」にはいかなる実際上の意味もなく、現在の国際世論が日本にとってきわめて不利なもとでの時間稼ぎであり、極めて欺瞞的なものだ」、「(日本側が)元々の立場を堅持するということは、日本が実質問題では妥協しないということを説明している。中国の主張に対して関心を払うというのであれば、もっとも現実的なことは、中国側の関心に応え、主権紛争の存在を承認し、交渉で問題を解決する軌道に戻ることだ」と述べました。
○解放日報の「言葉の遊戯は通らない」と題する記事は、「遺憾なことは、東京の今回の「回答」は話しが題目から離れている、あるいは、言葉の遊戯をしている、ということだ」、「このように言葉を弄んで、何の誠意を語ろうというのか」と厳しく批判しています。この記事はさらに、「実は、日本が言葉を弄んでこざかしく振る舞うということはよくあることで目新しいことではない。特に自らの不名誉な歴史に「化粧を施す」ことにおいてそうである」として、国交正常化時の田中首相の言葉遣い及び歴史教科書における南京大虐殺に関する記述の問題を例に挙げています。

<日本の針路を問いかける文章>

 日本の針路を問いかける文章としては、中国新聞週刊HPをソースとする章文「アジアへの憂慮」及び環球時報HPをソースとする鮑盛鋼「日本が再び戦略判断を誤れば、取り返しのつかない災難を生みだすことになる」を紹介しておきます。章文は「中国新聞週刊」の主筆という紹介がありますが、鮑盛鋼については不詳です。

 

○章文「アジアへの憂慮」
釣魚島の波風喧噪が多い日々は心が安まらない。中日両大国の古い傷口がまたもや裂けて血を流していることを見るとき、私は、両国のため、ひいてはアジアの前途のために深い憂慮に襲われている。二度にわたる世界大戦の苦しみをなめつくした欧州は、急激に覚醒し、戦争に別れを告げ、手をつないで共に歩む道へと歩んだ。1992年に統一通貨ユーロを発行し、1993年には正式にEUを成立させ、今日では欧州各国は政治、経済、往来において深く融合し、形式上の国境線はもはや曖昧になっている。…次の欧州融合は政治上の融合であることは予見できる。人類史上において、超大型の国家連合が出現し、旧ソ連とは異なり、平等協商、互利共勝(ウィンウィン)の基礎の上にこの国家連合は成り立つのだ。
振り返ってアジアを見ると、第二次大戦から60年以上が経つのに、相も変わらず同戦争が残した問題に苦しめられ、領土紛争は引きも切らず、イデオロギー的に対立し、戦争の暗雲は消えない。中日、中印、朝韓更には中国とASEAN諸国の間には、歴史の古いツケと現実の力比べがおしなべて存在している。
アジア人が未だに団結できず、依然と分裂しているために、アジアの事柄は実質的に非アジア人の手、つまりアメリカ人の手によって支配されている。私はいわゆる民族主義者でもないし、アジア主義者でもないし、ましてや反米ではない。今日の世界がこのように整然と秩序があるのは、アメリカが半世紀前にリーダーシップを発揮して功を成し遂げたからだ。このことは否定する必要はなく、また否定することもできない。
しかし、アジアの前途に関して言えば、外来者であるアメリカが完全に私利私欲なく、またタダで調停者となることはあり得ないことであり、(その介入が)元々複雑な情勢にさらに不安を添えることになる。今回の釣魚島事件について言えば、日本が再度にわたって挑発するのも、直接の原因は野田等の政治屋たちが国内の様々な圧力に応えるためということではあるが、深層にある根源としては、第二次大戦後のアメリカの(日本の保守政治に対する)庇護及び放任と関係があるのだ。
徹底的に軍国主義を清算できなかったことにより、日本政治からは右翼思想を消し去ることがなく、時とともに頑強になってきている。ドイツと日本の戦後の異なった様相を比較してみれば、我々は、アメリカが往年において(日本の保守勢力を)放任したことがアジアに如何に不安定な禍根を埋め込んだかを見出すことができる。第二次大戦後に国際社会によって返還することを決定された領土に関して、日本人は、一再ならず再三にわたってあらゆる手を尽くして盗み取ろうとしている。これを外から見れば、胆大妄為(大胆で無謀なことをする)、厚顔無恥と形容するほかないものだ。
何故かくも胆大妄為で厚顔無恥なのか。とどのつまりは、背後にアメリカの支持があり、日米安保条約という裏書きがあると日本が思っているからではないのか。
日本が己の過去を考えず、再び「戦端」を開こうとするので、中日関係はまたもや転換点を迎えようとしており、その前途は凶多くして吉少なしだ。過去と異なるのは、今日ではもはや日(本)強中(国)弱ではなくて双強相並び立っており、中強日弱へと向かいつつあることだ。このような状況のもとで、中国に対して以前と同じように日本人の挑発を堪え忍ぶように求めることは、政府から民間に至るまで、中国にとって決して容易なことではない。
ほかの角度から見ると、中国の体制は西側とは異なり、中米が真の友達になることは難しいので、アメリカが中国に対する抑止を放棄することはあり得ない。アメリカは、この目的を実現するため、引き続き日本その他の中国を恐れるアジアの国々を利用して中国に対して囲い込みを行うだろう。
となると中国政府としては、引き続き朝鮮を支持することを迫られ、アメリカに対抗することになる。この手は既にあまり効き目がないし、半世紀にわたって中国の大量の出費を強いてきたのだが、手持ちはやはりないよりはあった方が強い。
以上をまとめれば、中日関係は、釣魚島の波風を経て新たな時期に入っており、したがってアジアにも新しい局面を持ち込んでおり、以前よりもさらに不穏で険悪な世界ということになる。これは中日両国にとっての悲劇であり、アジアにとっての悲劇でもある。本来であれば、世界第2位と第3位の経済力という重みをもってすれば、中日の団結と協力によって、アジアを平和で繁栄する景勝の地にすることができるのであり、それは全人類に幸福をもたらすであろう。
もちろん、我々は、中国が今後5年ないし10年の内に体制を変革し、西側世界と民主的価値観を共有することによって外交的困難を緩和することを期待している。そして我々はそれ以上に、アメリカが責任あるアジアのバランサーとなり、火中の栗を拾うために東アジア情勢を制御できなくして火の海にしてしまうことがないように期待している。
最後に、日本政府及び人民に一言言わせてもらう。アジアの他の国々の古い傷口を刺激し続けないでほしい。一再ならず再三にわたって傷つけられる人間は理性を失いかねない。あなたたちは再び核爆弾のお出ましを希望しているわけではあるまい。自らとアジアの平和のために、挑発を続けることは止めにすべきだ。

○鮑盛鋼「日本が再び戦略判断を誤れば、取り返しのつかない災難を生みだすことになる」
 日本はどこに行くのか。引き続きアメリカに付き従い、アメリカの手先となることに甘んじ、中国を抑止し、中国との関係を全面対決に向かわせようとするのか。それとも、中立を選択して自らの利益を最大にすることを確保するのか。これが現在日本の直面している選択だ。明らかなことは、前者を選択することは日本をさらに深い危機に向かわせ、同時に東アジア情勢を悪化させるということであり、後者を選択することこそが賢明であると言うべきである。
 アメリカのアジア回帰を頼りにすることは、一つには、中国の台頭を抑止し、外患を解消することができるし、二つには、日本のアジアに対する野心を実現し、内憂を解消し、20年にわたる経済的低迷から抜け出すことができるということで、一見するとこの選択は完全無欠のようだが、実際は日本の右翼はまさに日本をこの誤った方向に導こうとしているのであって、それは、政治的軍事的強国の道のほかなく、外患を招き入れ、内憂を増やし、日本をさらなる深刻な危機に陥れるだろう。第一に、日本は、アメリカのアジア回帰の意図及び実力を誤って理解し、計算している。…アメリカのアジア回帰に関しては、金融危機と経済衰退という背景のもと、この戦略「転向」の実現に必要な巨大な資源の裏付けを欠いており、このことがこの戦略の資源的有限性及び持久不能性を決定づけているのであって、アメリカとしては、日本その他のアジア諸国がアメリカにとっての圧力を分担し、自分は背後からいわゆる中立と距離を置いたバランスを図る政策を実行し、悪いことをそそのかそうとしているのだ。…明らかにアメリカは自分の利益を考えて日本その他の同盟国を利用して中国を牽制しようとしているのであり、自らの直接介入及びコスト増加は回避しようとしている。なぜならば、アメリカにはもはや勝利がない戦争を引き受ける力はないからだ。しかるに日本の考え及び行動は明らかに度が過ぎており、アメリカの全面的な介入及び支持なくして、日本は何ができるというのか。
 第二に、日本は自分の力を誤って評価しており、アメリカに付き従っていれば何でもできると思い、軍事力強化を加速させるだけでなく、至るところに出しゃばっており、そのことによって中国を怒らせただけではなく、ロシア及び韓国をも怒らせ、周辺諸国の対日警戒を引き起こし、対抗する行動をとらしめている。…
 最後に、日本はアジア諸国の中国に対する立場及び選択について誤った計算をしている。アメリカ及び日本がいくらアジア諸国と中国との関係について煽動し、挑発し、反中同盟を作り、中国を孤立させようと図っても、結局は米日が孤立する苦境に陥るだろう。…米日の優位性は軍事及び抑止戦略にあるが、この戦略は冷戦期からの継続であり、その核心的思想は攻撃的現実主義ということだが、中国は非対称的戦略を採用しており、それは十分に英気を養って疲れた敵兵の来攻を待ち、角を突き合わせることを避けるというものであり、時間が経てば、アジア諸国は自然に誰が脅威であるかを知ることになる。しかも、現在の中国は、世界経済の発展の牽引役であるだけでなく、アジア諸国の共同の発展及び繁栄の推進役でもあって、アジア諸国と中国の経済的発展は密接に関連しており、アジア諸国が必要としているのは地域の平和と安定、経済的な発展及び繁栄であり、果てしのない衝突及び動乱でもなければ、果てしのない軍事演習でもなく、アメリカの戦車に縛り付けられてアメリカの手先となり、アメリカの利益のために犠牲になるということでもないのだ。
 戦術的な誤りは修正することができるが、戦略上の判断の誤りは取り返しのつかない災難を生みだす。日本はどのような選択を行うべきか。このことは、日本自身の発展に影響するだけでなく、日本と周辺諸国特に中国との関係にも影響し、ひいては東アジア情勢の変化にも影響を及ぼす。事実上、第二次大戦が終結し、日本が投降書に署名したあの瞬間に、歴史は日本の選択を決定したのであり、日本は平和的発展の国家である以外はなかった…。日本がこの方向を違えようと企むならば、歴史は呵々大笑するだろう。なぜならば、日本はあるいは自分の歴史を忘れたかもしれないし、意図的に歴史を抹殺するかもしれないが、周辺諸国及び日本の侵略を被った国々は忘れることはないからだ。

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