尖閣「国有化」後の中国の対日観(5)

2012.09.25

*週末は急に凪が来たように静かだった中国の対日論調でしたが、週明けの9月24日は一転しておびただしい量の(洪水のような)文章が現れました。大きな流れとしては、今回の対日闘争が長期戦になることを覚悟して、息の長い粘り強い努力が必要であるとして、中国国民にその覚悟を呼びかけ、また、感情に押し流されるようなことがあってはならないことを戒めるものが目立ちました。また、野田首相が国連演説で領土問題を取り上げるという日本側の報道に対して厳しく断罪するものもありました。さらに中国側では、日本政治の右傾化の進行を警戒する論調が出てきたことは前にも紹介しましたが、自民党総裁選挙における石破、安倍、石原発言などを捉え、また、橋下大阪市長の言動も紹介して、今後、民主党政権が崩壊しても日中関係を改善する良い条件はないとする(したがって、その意味でも対日闘争は長期戦になると判断する)論調も出ています。さらに、アメリカのパネッタ国防長官の訪中における尖閣問題をめぐっての中米間のやりとりを取り上げたものもありました。以下では、主なものを紹介します(9月25日記)。

<中国人に長期戦覚悟を呼びかける文章>

 9月24日付の人民日報HPは次の文章を掲載しています(恐らく25日付の人民日報に掲載されるものだと思われます)。

 …当面の情勢は、中日国交正常化40周年記念の様相を真っ黒に塗り替えたかのようだ。中日関係の戦略的な逆転の流れはこの数年間一貫して積み重ねられてきたが、釣魚島危機は恐らく、両国の1970年代からの戦後友好時代の「最後の一本の稲」を圧倒してしまった可能性が高い。…
 中国は元々釣魚島問題で日本と道理を話そうとしてきたのだが、現在はもはや中日間では道理を語る余地はなく、釣魚島問題は、中日間のむきだしの実力対抗へと展開しつつある。多分中国は、釣魚島問題ではいかなる幻想も抱くべきではなく、実力で中日間のこの領土紛争を最終的に解決する決心を下す必要がある。
 中国は数日前から釣魚島に絶えず法執行船を派遣しているが、この措置は常態化するべきであり、中国の法執行船が釣魚島海域に常駐するようにしなければならない。中国の法執行範囲は、釣魚島12カイリ内まで伸ばし、最終的には中国警察の合法的上陸を実現するべきだ。
 平和的な方法で以上のすべてを実現することが中国にとっての最重要目標であるべきだが、そのようにすることに対しては激しい摩擦を導く可能性があり、中国側としては十分な準備が必要だ。このことが全面的な中日間の対決をもたらす可能性があるが、成算をもって臨み、決して尻込みしない。
 中日間ではすでに、釣魚島に関して「狭い道で遭遇した」勇気を比較する情勢が作られており、釣魚島の争いは、事実上領土紛争の域を超え、中日間の戦略問題、国家及び民族の意志の力比べに変じている。両国の釣魚島に対する態度の中には、領土紛争以外の感情及び思惑が大量に蓄積されている。
 日本と実力で対抗するということは闘う意志(「闘気」)ではなく、闘う力(「闘力」)ということであり、闘力には当然闘う智恵(「闘智」)が含まれる。中国は、焦りを避けるとともに、ためらって手をこまねることも避けなければならず、失策は釣魚島に対する実際の支配という具体的なチャンスを変えてしまう可能性がある。
 我々は、これが長期かつ複雑な闘争であり、我々に一定の犠牲をもたらす可能性があることを認識しなければならない。日本と世論闘争をするに当たり、中国人は共同の敵に立ち向かうことは簡単だが、一部の中国人が中日協力の減退で経済的な損害を被ることになれば、我々内部で実際の分裂を生むこともあり得る。これは厳粛な問題だ。
 長期闘争は主として爆発力ではなく堅持能力に依拠する。中日が対決から大規模戦争に向かう可能性は、内部的に損失を受けて耐えきれなくなり、団結が緩んで内ゲバになり、最終的に譲歩を迫られる可能性よりもはるかに小さい。正確に言えば、中日の釣魚島をめぐる争いは、それぞれの社会の本当の団結(の争い)なのだ。
 日本との長期の争いにおいては、中国社会のそれぞれが自らの職責を全うすることが極めて重要だ。外交、法執行部門は今日の闘争の第一線にあり、軍隊は堅固な後ろ盾となるべきだが、今後の国家の毎回の闘争において、中国の全社会が呼びかけに応じて立ち上がり、日常生活までが浮ついてしまうようなことになれば、国家全体が闘い疲れということに早晩なりかねない。
 対日闘争は闘い抜き、正常な経済協力もやはりやることはやる。釣魚島は実力の対抗ではあるが、中国が最終的に勝利する保障は我々の実力が不断に増大することだ。…中日間で軍事衝突が発生するとしても、中国社会が正常な秩序を維持することができることがカギとなる。…

<鐘声「国連は日本が国際秩序に挑戦する舞台ではない」>

 24日付の人民日報は、鐘声署名の「国連は日本が国際秩序に挑戦する舞台ではない」と題する文章を掲げました。明らかに野田首相の国連総会演説を念頭においたものと思われます。なお、手前味噌になりますが、鐘声文章の内容は、私がこのコラムで記した「領土問題を考える視点」が中国側から見ても的外れでないことを裏付けていると思います。

 領土帰属問題は、戦後国際秩序の核心であり、礎石である。日本は、一方で世界反ファシズム戦争の勝利の成果を公然と否定し、戦後国際秩序に挑戦するとともに、他方では、国連の演壇でこざかしく振る舞って黒白を混ぜ返そうとしているが、自分で石を持ち上げておいて自分の足を砕くようなものだ。
 「島買い上げ」の茶番以来、日本は誤りを認めないどころか、多国間の外交機会を通じて中国の領土主権を侵犯している悪辣な行動を言い訳しようと夢想している。…
 国連の歴史を知る人であれば誰でも、国連の成立及び関連する原則の確定が、「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」(憲章前文)という願望に源があり、人類社会の戦争に対する反省を反映しており、これが第二次大戦後の国際秩序再建の礎石であることを知っている。…
 日本は、カイロ宣言及びポツダム宣言は連合国の一方的な宣言であり、国際法としての効力が欠けていると言い張っている。しかし、これは日本側の詭弁であるに過ぎない。事実は、カイロ宣言及びポツダム宣言は米中英3国首脳により達成された…形式的にも内容的にも国際条約の地位を備えたものだ。強調する必要があるのは、1945年8月10日の日本の口上書、8月14日の天皇の投降詔書、及び9月2日に署名された日本の投降書のいずれにおいても、ポツダム宣言を受諾することが明記されており、同宣言は連合国と日本との間の協定になり、日本の投降書は国連条約集にも収録されたということだ。つまり、カイロ宣言及びポツダム宣言は、連合国と日本との間の戦争状態を終結させ、アジア太平洋の戦後国際秩序構築の法律的基礎になっただけでなく、戦後において連合国と日本とが一連の多国間及び二国間の平和条約を締結するための正当性及び合法性を提供したのであり、その国際法上の効力は疑いの余地がない。
 日本は、サンフランシスコ平和条約及び沖縄返還協定によって釣魚島が日本に属するとでたらめをいっているが、これもまた人目をごまかす今一つのカードであり、やはり根拠がないものだ。中国は戦勝国であったにもかかわらず、サンフランシスコ平和条約から排除され、同条約は中国には拘束力がなく、中国に対していかなる権利義務をも創設しない。中国が参加していない状況のもとでは、同条約における中国領土にかかわるいかなる規定もすべて不法かつ無効だ。…注目すべきは、アメリカが沖縄返還協定署名後に行った声明で、釣魚島主権紛争で中立の立場を表明したことであり、その後も関係する紛争は中日双方で解決すべきだと表明しており、このこともまた、サンフランシスコ平和条約にせよ沖縄返還協定にせよ、釣魚島が日本に属するという法律的な根拠を構成しないことを証明している。
 …サンフランシスコ平和条約は中国、ソ連などの非締約国には拘束力がないのであるから、これらの諸国と日本との間での戦争状態の終結及び戦後問題は、二国間の協定によって解決されなければならない。日本はその後、ソ連、韓国などの非締約国と関連する二国間の法律文書を締結し、中国とも中日共同声明及び中日平和友好条約を結んで、二国間関係の正常化を実現した。これらの法律文書は、カイロ宣言及びポツダム宣言の枠組みのもとで作られた、アジア太平洋戦後国際秩序の分かつことのできない構成要素である。日本側は、中日共同声明において、「ポツダム宣言第8項を遵守」することを明確に約束し、日平和友好条約も「共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきこと」を確認した。日本に対しては、カイロ宣言及びポツダム宣言が中日間の戦後問題を解決することに適用される双方の約束であり、固く遵守すべきことを忠告する必要がある。
 …釣魚島問題における日本の行いは、中日共同声明及び中日平和友好条約における中国側に対する約束に背くだけでなく、カイロ宣言及びポツダム宣言が確立した戦後の領土問題解決の基本原則を根本からくつがえし、世界の反ファシズム戦争の勝利の成果を否定し、戦後国際秩序に公然と挑戦するものであり、必ずやアジア太平洋ひいては全世界の平和を愛する国家及び人民の高度の警戒を引き起こすに違いない。

<パネッタ訪中における米中のやりとり>

 9月24日付の「観察者網」という名前のHPは、同HPの専属コラムニストで四川大学南アジア研究所修士課程の彭念という人物による「アメリカは釣魚島問題で綱渡りしている」という文章を掲載しました。そこには、パネッタ訪中時の米中間のやりとりに関する興味深い指摘(特に強調部分)が含まれています。パネッタ訪中に関する内部文書が主要メディアに渡っており、彭念はそれを読んだものと思われます(一般の大学院生が目を通せるようなものではあり得ず、観察者網のコラムニストとして閲覧できたのでしょう)。この文章を掲載した環球時報HPは、この文章の見解が彭念個人のものであり、同社の立場を反映したものではないと断っていますので、私たちとしても一定の留保をつけて読むべきなのですが、パネッタ訪中に関する部分はやはり興味深いものがあります。

 アメリカのパネッタ国防長官が訪中したとき、彼は、日米安保条約ではもとよりアメリカが日本の安全を防衛する義務があると規定しているが、アメリカはだからといって日本がやりたいことをやらせることはあり得ないと指摘した。パネッタはさらに、彼が訪日したときに日本側に対して「彼らは平和的に紛争を解決する義務がある」と明確に告げ、これがアメリカの立場だとも述べた。領土紛争において誰が正しく誰が間違っているかについては、アメリカは立場を取らない。
 パネッタの話は、中日が釣魚島紛争において互いに譲らない立場が釣魚島情勢を激化させているということをアメリカがすでに意識するに至っており、したがって、どっちつかずの声明で当面の緊張情勢を緩和させたいと希望したことを反映している。即ち、一方ではアメリカは、日本が一方的に過激な措置を取って釣魚島情勢を激化させないように警告し、他方では中国に対してもアメリカが偏ってはおらず、日本の行動を束縛するように努力していることを表明することにより、中国も現在の強硬な立場を改め、譲歩の政策をとるべきだとしたのだ。もしも中国が強硬な立場を堅持するのであれば、アメリカは条約に従って義務を履行する、ということだ。…
 中国の強硬な態度により、釣魚島情勢を緩和させ、釣魚島紛争を長期にわたって膠着状態に保とうというアメリカの希望は空振りに終わった。そこでアメリカとしては、さらに強硬な措置を講じて中国に譲歩を迫る必要があると考えた。9月22日、アメリカと日本はグアムで模擬島嶼防衛の合同軍事演習を行った。…しかし事実として、アメリカのこの行動は釣魚島の緊張情勢を緩和できなかったどころか、さらに中国を刺激し、釣魚島情勢をさらに悪化させた。…
 釣魚島紛争が爆発して以来、アメリカは公然とあるいは暗々裡に介入し、中日間の緊張状態を維持させたいと試みてきた。しかし、中日関係は極めて複雑であり、その中には割り切ることの難しい歴史的怨念も混ざっている。アメリカが自らは聡明だと思う手段をもってしてはこの種の低強度の緊張情勢をコントロールすることはできない。アメリカの釣魚島でのやり口はあたかも綱渡りのようなもので、これには注意力を高度に集中させることと技術の熟練が必要で、どの一つを欠いてもダメだ。アメリカは、自分の外交テクニックは熟練していると思っているが、問題は、少しでも注意力を怠ると、アメリカは綱から落っこちてしまうということであり、これがアメリカとして真剣に考えるべき問題だ。

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