米国防長官訪中(中国の対米姿勢)

2012.09.20

*9月17日に訪中したアメリカのパネッタ国防長官は、18日に梁光烈国防相と会談したのに加え、19日には次期国家主席が確実視されている習近平副主席と会談しました。
20日付の朝鮮日報日本語版によりますと、習近平は、「日本国内の一部の政治勢力は隣国やアジア・太平洋地域の国々に残した戦争の傷痕について、反省するどころかさらに悪化させ、『釣魚島国有化』という茶番劇を演出している」と述べた(この点は日本国内でも報道されました)ほか、「日本の軍国主義は81年前の満州事変で中国に甚大な被害を招き、米国を含むアジア・太平洋諸国にも大きな傷痕を残した」、尖閣「国有化」の茶番劇は「カイロ宣言やポツダム宣言の国際法的効力に公然と疑問を投げ掛けるもので、第2次世界大戦以降に樹立された戦後秩序に対する挑戦。国際社会は、反ファシズム戦争勝利の成果を否定しようとするこうした日本の企てを決して容認しないだろう」とし、アメリカにも「言動に慎重を期してほしい。釣魚島の主権争いに介入し、矛盾を激化させ、局面を複雑にしてはならない」と警告したということです。
以上の習近平発言の背景を理解する上で、9月19日付の環球時報社評及び同日付の人民日報海外版(同紙の特約評論員で中国現代国際関係研究所副研究員の田文林署名文章)は、パネッタ訪中に対する中国側立場・姿勢を示すものとして参考になると思いますので紹介します。日本国内の貧相を極める対米論調と比較して、中国側の酸いも甘いも噛みつくした論調には、私などはやはり「すごみ」を感じないわけにはいきません。
また、日本国内では、保守政治屋の勇ましい発言がある一方、多くの国民には事態の深刻さに対する緊張感が欠落している(と私には見えて仕方がない)という状況があるのですが、中国側では本当に深刻な情勢認識(国民に犠牲の覚悟を促し、アメリカにも一歩も引かないというまなじりを決した対応をする)があることを是非読みとっていただきたいと思います(9月20日記)。

<環球時報社評「口先だけの中国ではアメリカの「中立」を勧奨することはできない」>

 …アメリカは中日間で明らかに偏った立場を取っており、中国周辺での他の中国関連の紛争においても、アメリカは一貫して中国と対立する側を公然とあるいは秘かに支持している。現下の問題は、日本に肩入れする道をアメリカが実際に何処まで進むかという問題だ。
 少なくとも今日に至るまで、アメリカが公然と日本を支持することにはためらいがある。それは第一に、日本は間違いなく理がなく、アメリカが日本を公に支持することには法理上の無理があるからだ。第二に、日本は当面損をしているわけではないので、アメリカが緊急に手を差し伸べる必要はない。第三、中国はすでに力がある国家で、アメリカとしては米中関係を考慮しなければならないし、中日が本当に戦争を始めることにより、アメリカとして巻き込まれるかどうかの戦略的難題に逢着することを避けたいからだ。
 我々は、アメリカが中日間でどれぐらい偏るかということはアメリカの戦略的考慮によるもので、中国として、アメリカが真の「中立」を維持することを説得することに成功するとは考えない。中国はそのような幻想を持つべきではない。
 しかし中国は、行動を通じてアメリカが中日間の中間に傾くように促し、戦略的に天秤にかけて、釣魚島問題では中立を維持する方がアメリカの利益に合致することを認識させるべきである。
 (即ち)中国は、パネッタの今次訪中の機会に、アメリカに対して中国の釣魚島防衛の断固とした決意及び日本の挑発に対して中国が断固と対抗する既定の政策を理解させるべきである。口先だけでアメリカに言うのではまったくダメで、中国側は今後の中日衝突において行動をもって証明し、中国は有言実行であることを確信させる必要がある。
 …日本が情勢をエスカレートさせるならば、中国は断固として付き合う。もしもアメリカがその影響力を使って日本を押さえず、日本が引き続き中国を挑発することを放任するのであれば、釣魚島には軍事衝突のリスクが出現することになるが、みんなで一緒に(そのリスクを)背負うこととしよう。
 日本はアメリカが日米安保条約を釣魚島に適用すると称しているが、中国としては、アメリカ側にそれはどういうことかと解釈を求めるよりも、アメリカ側に次のように態度を表明する方がよい。即ち、日本の軍事力にせよ、いかなる国家の軍事力にせよ、中国は釣魚島に出現するものをすべて絶対に受け入れず、必ず軍事力を出動させてこれに対決する。
 中国は今日に至るまで、戦争という手段で釣魚島紛争を解決することを考えたことはないが、外部勢力が戦争によって中国の釣魚島主権防衛という現行政策を阻止しようとするのであれば、中国は間違いなくその挑戦を受ける。
 日本は釣魚島を支配しており、米日が望みさえすれば、切れるカードは多いだろう。中国としては、いかなる変化に対しても変化しないことで対処し、何回かの断固とした行動をもって我々の決意を信じさせることによってのみ、主導権を奪回することができる。
 釣魚島を防衛するということは必ずや何らかの犠牲を意味する。大きいか小さいかはともかくとして、絶対にゼロではあり得ない。中国人はこのことに対して精神的な準備をもたなければならない。この犠牲は、我々が釣魚島紛争で置かれている実際の状況を改善するとともに、中国の世界におけるこれからの威厳のために堅固な基礎を築くだろう。
 釣魚島問題でいかなる政策をとるかということは、アメリカの核心的な国家利益からは遠く距たっている。したがって、アメリカが実際に取る態度には大きな伸縮性があるわけで、中国の態度が断固としているかどうかは、アメリカの態度決定に対して重要な影響を及ぼす。
 アメリカが最近中日に釣魚島問題の「平和的解決」を要求し、釣魚島主権に対しては「立場を取らない」と述べているということは、釣魚島「紛争」に対する承認という意味が込められている。…アメリカのこの態度も、実際上は中国が迫ったことによるものだ。
 アメリカが何を言い、何をするかは確かに重要だが、中国周辺のことについてアメリカはますます決定的要素でなくなっており、我々は、自らの態度がより重要であることに自信を持つべきである。

<人民日報海外版署名文章>

 …釣魚島の事態がここまで激化した直接の原因は日本の短視眼にあるのだが、アメリカが意識的無意識的に波瀾を助長したことも無関係ではない。…アメリカが中日間で物事を挑発し、「分割支配」をして…漁夫の利を得ようと考えるのであれば、それは計算違いだ。歴史的に、アメリカが中国を押さえようとしても、朝鮮戦争にせよヴェトナム戦争にせよ、勝ったためしがない。ましてや今の中国はとっくに「東アジアの病人」ではなくなっており、人の思いのままになるコマではさらにない。
 また、アジア太平洋の事柄は中東問題とは違うのだ。中東は「地縁破碎地帯」であり、地域の問題を主導する核心的な大国がなく、外部の大国が外交交渉に当たり、一方を引っ張って他方をやっつけることができる。そうであるにしても、アメリカは中東で常にやることが安定していないことは最近の事態(浅井注:イスラム冒瀆のインターネット配信に対する中東諸国での反米デモ)が示すとおりだ。アジア太平洋という地縁的版図においては、中国は紛れもない「核心的大国」である。中国は、自らの重大な利益にかかわる地域の問題について処理する意志も能力も持ち合わせている。
 釣魚島問題は中国の領土主権にかかわり、中国は寸歩たりとも譲らない。実力においても正義という点においても、日本は中国とは比べものにならない。この問題に関しては、その他の国家が物事を左右するチャンスはない。誰が日本の側に立とうとも勝算がないことは決まっている。これに反して、中米の間では協力できることが非常に多く、アメリカが中国と協力を強めることでさらに大きな利益を図ることができることを、アメリカも熟知しているところだ。
 日本が中国の釣魚島をなんとかしようとしているのは、表面的には領土争いだが、実際は軍国主義の幽霊が復活し、第二次大戦後に確立した国際秩序に挑戦し、これを打破しようと企んでいるのだ。日本が現行秩序を打破することは、中国に影響があるのみならず、アメリカにとっても好ましくないことである。理由は簡単だ。アメリカは、第二次大戦後のシステムを作ったのだし、そこから利益を得ているからだ。
 日本の右翼が…反ファシズム戦争勝利後に設けられた垣根を突破するのにまかせることは、あたかもお化けを放つが如きもので、それが将来何処に矛先を向けるのかは予想も難しい。日本は、アメリカと同じように海洋国家であり、地縁的構成からして相互間の吸引力よりも排除性の方が大きい。日本がいったん実力を強めれば、その野心は必ずや膨張し、真珠湾を奇襲し、アメリカ本土の安全を脅かす情景が再び現れないとは保障できない。
 それと比較した場合、(中国は)「陸に依って海に向かっている」陸海複合という地縁政治を特徴としているので、中国がユーラシア大陸から離れ、太平洋彼岸のアメリカを脅かすということはあり得ない。この意味からいえば、「太平洋は十分に広いので、中米両大国を受け入れることができる」という判断は、深い地縁政治的規則を包含している。
 パネッタの訪問及び日増しに複雑さを増す釣魚島情勢に直面して、複雑な地縁政治構成の中で、中国は相変わらず落ちついている。中国には「朋友来たればうまき酒あり、残忍非道の者来たれば迎えるに猟銃あり」という格好な歌がある。…いずこに行きいずこに向かうかは、関係する国家の取捨選択、行動を見よう。…

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