韓国大統領の竹島(独島)訪問

2012.08.16

*石原東京都知事の尖閣購入及び野田首相の国有化の発言をきっかけに日中関係が険悪化する中、ロシアのメドベージェフ首相が7月3日に国後島を訪れた(2010年11月1日にも大統領として同島訪問)のに続いて、8月10日には韓国の李明博大統領が竹島を訪れるという事態に立ちいたっています。日本外交は正に四面楚歌といって過言ではないでしょう。
 李明博大統領の行動に対しては、「竹島への訪問 大統領の分別なき行い」(8月11日付朝日新聞社説)、「大統領竹島入り 日韓関係を悪化させる暴挙だ」(8月11日付読売新聞社説)、「韓国大統領の竹島訪問の愚」(8月12日付日経新聞社説)、「李大統領竹島入り 暴挙許さぬ対抗措置とれ」(8月11日付産経新聞主張)など、いわゆる主要全国紙はおしなべて李明博大統領の行動を一方的に難詰する論調(毎日新聞社説は例によって意味不明な文章)でした。主だった地方紙についても、中日新聞・東京新聞「大統領竹島訪問 日韓の未来志向壊した」(8月12日付社説)、北海道新聞「韓国大統領 関係悪化招く竹島上陸」(8月12日付社説)、信濃毎日新聞「竹島入り 大統領の姿勢を危ぶむ」(8月11日付社説)、中国新聞「李大統領竹島入り 強硬姿勢 容認できない」(8月11日付社説)、西日本新聞「李大統領竹島へ 「未来志向」を放棄したか」(8月11日付社説)など、問題によっては主要全国紙とは一線を画す論調を掲げることが多い有力な地方紙も、李明博批判で歩調を揃えています。
 このような論調一色な日本国内の状況に私としては重大な懸念を覚えざるを得ません。私たちの国際感覚は確かなのでしょうか。そういう問題意識からの一文です(8月16日記)。

<ひとり正論を掲げた沖縄タイムス社説>

 全国紙、地方紙を問わず、李明博大統領の行動を一方的に批判する論調一色の中で、わずかに沖縄タイムスが「李大統領竹島訪問 歴史問題に不満表明か」(8月12日付社説)において、次のように書いています。後で紹介する韓国二大紙の社説を見れば、沖縄タイムス社説が的確に韓国側の問題意識を捉えたものであることが理解されるはずです。こういう論調が沖縄タイムス一紙にしか現れないという状況そのものが取りも直さず、私たち日本人の国際問題・外交問題を見る目(他者感覚の欠落の深刻さ)を反映していると思います。

…日韓関係への配慮から、韓国はこれまで、大統領の竹島訪問を慎重に避けてきた。知日派として知られる李大統領が、日韓関係を台無しにすることを承知で、あえて竹島上陸を強行したのはなぜか。竹島上陸は韓国の立場からみても得策とはいえない。(中略)
李大統領は竹島訪問に先立って、同島から約90キロ離れた鬱陸島(ウルルンド)を訪問し、住民らと昼食を共にした際、「従軍慰安婦問題を提起したのに、日本はまだ心からの謝罪表明をしていない。残念だ」と日本の対応を批判したという。
 李大統領の竹島訪問には、慰安婦問題の解決を迫る意思表示という側面もあったのではないか。
 韓国の憲法裁判所は2011年8月、慰安婦問題で韓国政府が日本側と個人請求権をめぐる交渉をしないのは基本権の侵害にあたる、と違憲の判断を示した。この判決を契機に韓国では、慰安婦問題が再燃し、日本大使館前で抗議行動が続いている。
 11年12月、京都で開かれた日韓首脳会談で、李大統領は初めて慰安婦問題を取り上げ、「優先的解決」を求めた。
 1965年の国交正常化の際、請求権協定を交わしており、法的には解決済み、というのが政府の公式見解である。李大統領がいら立ちを募らせていたのは間違いない。
 竹島が閣議決定によって島根県に編入されたのは1905年。この年に日本政府はソウルに統監府を置き、いわゆる統監政治を始める。日本政府による竹島編入と、日本による朝鮮半島植民地化の動きが、韓国の人々にとっては、重なって見えるのだという。
 韓国にとって竹島問題が「歴史問題」としての性格を帯びるのは、このような歴史的背景があるからだ。竹島問題と慰安婦問題は、「歴史問題」というキーワードを通してつながっている。
 8月15日は、韓国にとって、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」にあたる。時あたかも、日本の国内政治は、消費増税政局に没頭し外の動きが見えない状態。政府は足元を見られたのである。対抗措置だけでなく、日本外交の敗北を真摯(しんし)に反省する姿勢が求められる。

<韓国紙社説>

韓国の二大紙とされる中央日報及び朝鮮日報は、李明博大統領の行動を支持し、非は日本側にあるとする社説を掲げました。
8月11日付の中央日報の「李明博大統領の独島訪問、日本が自ら招いた」と題する社説は、次のように指摘しています(強調は浅井。以下同じ)。

李大統領は独島をめぐる最近の日本の動きが放置できないラインを越えたと判断したようだ。日本が新しい教科書で独島領有権主張を強化し、防衛白書で「竹島は日本の領土」という主張を8年間繰り返したほか、韓国の外交白書の「独島は韓国の領土」という記述に今年初めて抗議するなど、意図的に状況を悪化させてきたと判断したのだ。これを受け、独島に対する実効的支配を強化し、外交的対応は程度を調節してきた従来の方針を攻撃的に変えたのだ「避けられない選択」といえる。結局、今回のことは日本が自ら招いた側面が強い
 李大統領が今なぜ独島を訪問しなければならなかったのかと疑問を提起する見方も一部ある。しかし隣国の領土に根拠なく欲を出し、声を徐々に高めている過程があったことを考えれば、こうした見方には同意しがたい。それよりも日本は独島に対する自国の誤った領有権主張が、韓日関係の未来志向的発展に根本的な障害となっていることに気づかなければならない。さらに慰安婦問題など過去の歴史に対する真の反省と是正の意志がなければ、韓日関係の円満な発展は期待するのが難しい
 独島はすべての歴史的事実に照らし、大韓民国の領土であることを否定する方法はない。さらに私たちが実効的に支配している。それでも日本が領有権主張を繰り返すのは、韓国との関係を強化しようとする意志が弱いのではないかという疑問を抱かせる。日本は一日も早く独島に対する空しい欲を捨てなければならない。
 今回の件で一部の日本メディアは韓日関係が回復しにくい局面に入ったと誇張している。実際、一部の右翼勢力がこうした雰囲気に便乗し、とんでもないことをする可能性もある。韓国政府はいかなる状況になっても、独島が韓国の領土という点はあらゆる方法を動員し、堂々と明らかにしなければならない。同時に日本側に無理な動きがあれば、慎重ながらも断固たる対処で状況を掌握する必要がある。

 また、やはり8月11日付の朝鮮日報の「李明博大統領の独島訪問」と題する社説は、次のように述べました。

 韓国政府はこれまで両国の友好関係に配慮し、独島問題に対しては「静かな外交」という方針を貫いてきた。この方針の根底には、「日本による独島領有権の主張は根拠が弱いため、日本はこの地域を紛争化することで、国際的な関心を高めようとしている」との判断がある。ところが日本は数年前から政府と国会が一部の極右勢力と手を握り、独島問題に対して様々な方面から攻勢を強めてきた。またその一方で日本は、憲法改正によって再武装と核兵器保有の道を開く意向もにじませている。日本は現在実効支配している釣魚島(尖閣諸島)周辺で、中国と一触即発の危機に直面しているほか、ロシアとは北方四島の領有権をめぐって今なお対立を続けるなど、東アジアにおいて時代錯誤的かつ反平和的なトラブルメーカーの国となっている。李大統領による独島訪問は、「日本国内での動きにくぎを刺しておくべき」との判断に基づくものと考えられる。日本は過去100年間に隣国に対して犯した罪過に対し、徹底した反省をするどころか、時には口だけの反省の言葉さえ覆し、従軍性奴隷問題や歴史わい曲問題では完全に賊反荷杖(盗人猛々しいの意)の態度で居直っている。これに対しては韓国の国民すべてが憤りを感じており、この点も李大統領による今回の独島訪問を後押ししたと解釈される。(中略)
 帝国主義と民族主義が結合した「旧日本」の国家戦略は、内政の行き詰まりによる国民の不満を外部に発散するため、周辺国との緊張を高めようとするもので、最近の日本政府による動きを見ると、このような過去のケースが思い起こされる。しかし日本は対外政策の原動力として、一時的には民族主義を活用できるかもしれないが、一度たがが外れると、周辺地域全体の平和を破壊する冒険主義に走ってしまうだろう。日本はこのような歴史の教訓を常に直視しなければならない

 韓国主要二紙の社説に共通するのは、これまで日本との関係を重視してきた李明博大統領のこのような行動を招いたのは日本自身の韓国に対する独善的なこれまでの行動に原因と責任があるとし、そのような日本側の振る舞いの根底に、いわゆる従軍慰安婦問題について頑なな姿勢をとる日本側の誤った歴史認識・人権感覚の欠落があることを指摘し、日本側のこうした動きの背景に右傾化を強める日本政治の危険性を見ていることです。
 私は、日韓のマスコミ世論の間に存在する認識のギャップ(恐らく、この問題に関する日韓両国の世論の間のギャップも似通ったものでしょう)のあまりの大きさに慄然とする思いです。すでに紹介した日本の新聞社説の中で、韓国側の主張・指摘とかみ合っているのは沖縄タイムス社説のみという状況に、私は日韓関係の危機の根深さを感じないわけにはいきません。そして、私たちが天動説的な独りよがりの見方(何か問題が起これば、悪いのは自分ではあり得ず、責任は相手側にあるとする見方)を徹底的に自己検証し、他者感覚を研ぎ澄まし、自らを客観的に見つめる目を養うことが何よりも必要だと思います。そのためにも、韓国二大紙社説の内容を熟読玩味する必要があると思います。

<問題の元凶であるアメリカの救いがたさ>

日韓関係の深刻な危機が露呈したことにもっとも危機感を抱いているのはアメリカ政府であることは間違いないでしょう。私は、アメリカ政府がいかなる態度を示すかに関心があるし、注目もしていますが、アメリカの独善的な国際観、それに基づくアプローチにはつける薬がないと思わざるを得ません。
アメリカ国務省スポークスマンは定例記者会見で、①李大統領の竹島(独島)訪問については韓国側からの事前通報はなかった(しかし、訪問のことについて事前に知っていただろうという追及にも、その点をいずれかに確認する情報を持っていないと回答)、②領土紛争については如何なる立場も取らず、「アメリカの二つの強力な同盟国が協力してコンセンサスを通じて解決することを希望する」(以上8月13日)、③(韓国、ロシア及び中国が日本との領土紛争で協力するという報道があるが、アメリカ政府は引き続きサンフランシスコ平和条約に関する立場を維持するのかという質問に対して)「質問の趣旨が分からないが、日韓間の紛争については両同盟国の間でアメリカは特定の立場を取らず、両同盟国が協力して解決することを慫慂する」(以上8月14日)と述べるだけでした。
これに対して、8月15日に公表された「米日同盟 アジアにおける安定の根拠」("The U.S.-Japan Alliance  Anchoring Stability in Asia" 以下「第三アーミテージ報告」)には、米日韓三国の戦略的関係の重要性を、次のように強調的に取り上げている箇所があります(この報告そのものについては改めてコラムで取り上げる予定をしています)。

敏感な歴史的諸問題にアメリカ政府が判断を言い渡す立場にはないが、アメリカは、緊張を発散させ、両同盟国の関心を中核的な国家安全保障上の利益及び将来に向け直させるために外交的努力を全力で行わなければならない。同盟がその潜在脳力をフルに実現するためには、日本は、韓国との関係を複雑にしている歴史的諸問題に向きあうことが不可欠だ。我々は、これら問題の複雑な感情的及び国内政治的ダイナミズムを理解しているが、(韓国最高裁の決定及び日本政府によるアメリカにおける慰安婦碑建立をさせないためのロビイングは)感情をかき立てるだけで、韓日指導者及び両国民をして、両者が共有しかつ動かなければならないより広い戦略的な優先課題から遠ざけてしまう。
ソウルと東京は、現実政治のレンズを通して日韓の結びつきを再検証するべきだ歴史的な憎しみはいずれの国にとっても戦略的な脅威ではない。両国関係における経済的、政治的、安全保障上の資産を前提とした場合、この二つの民主国家がこれらの歴史的問題のために戦争に訴えることはない。しかし、北朝鮮の好戦性及び増大する中国の軍事力、能力及び自己主張の強さは、日韓両国に対するまごうことなき戦略的挑戦だ。…日韓両同盟国は、深々とした歴史的な食い違いを甦らせて国内政治的目的のためにナショナリズムの感情を利用する誘惑に抵抗するべきだ。米日韓は、歴史諸問題を扱う非公式なトラック2の努力を拡大するべきだ。そういうフォーラムはすでに存在しているが、参加者としては、歴史諸問題に関する共通の規範、原則及び相互作用にかかわるコンセンサス文書を積極的に作成し、そういうアイデアをそれぞれの政府に届けるべきだ。

この報告は、末尾の「勧告」の部分でも日本及びアメリカに対し次のように勧告しています。

〇対日勧告 同盟がその潜在脳力をフルに実現するため、日本は、韓国との関係を複雑にしている歴史的諸問題に立ち向かうべきだ。東京は、長期的かつ戦略的な展望の下で両国の結びつきを検討し、不当な政治的声明を出すことを避けるべきだ。東京とソウルは、三国間の防衛協力を高めるべく、懸案になっている秘密情報保護協定及び物品役務相互提供協定の締結に動くべきであり、米日韓の軍事的取り決めを継続するべきだ。

〇対米勧告 アメリカは、日韓間の敏感な歴史的諸問題について判断を示すべきではない。しかし、アメリカは、緊張を発散させ、両国の関心をその核というべき国家安全保障上の利益に向け直させるべく万全な外交努力を行うべきだ

 正直言って、これらのくだりを読んだ時の私の率直な感想は、天動説のアメリカは何も分かっていない(分かろうとしない)し、もっぱらアメリカの利益のために動くことしか関心がないのだ、特にアメリカの目先の利益(アジア太平洋における軍事覇権確立及びそのことへの日韓引き込み)を優先するあまりに日本政治で進んでいる危険な右傾化に対する韓国側の深刻な問題意識を(恐らく故意に)見落としている、ということでした。そういうアメリカにとっては、日韓間の歴史的諸問題(特に領土問題といわゆる従軍慰安婦問題)も、とにかくやり過ごすための「共通の規範、原則及び相互作用にかかわるコンセンサス文書」を作って管理するべき対象でしかないのです。
しかしそもそも、竹島(独島)にせよ、北方4島にせよ、尖閣(釣魚島)にせよ、問題のタネをまいた元凶はアメリカです。つまり、カイロ宣言及びポツダム宣言において自らが主導権をとってとりまとめた領土問題にかかわる原則・方針を、その後の事情変更(米ソ冷戦の激化、中国での共産党政権成立)を理由に、ソ連、中国、朝鮮を抜きにして作った対日平和条約を作ることによって無視し、これら領土問題の火種を残し、最終的解決を引き延ばした(日韓、日露及び日中間に、アメリカが介入できる材料を忍び込ませた)のはアメリカ自身なのです。そういう歴史の「臭い部分」にはフタをして、「敏感な歴史的諸問題にアメリカ政府が判断を言い渡す立場にはない」といかにも他人ヅラするというのは、厚顔さの極みであり、無責任を極めます。
確かに第三アーミテージ報告は、日本が歴史問題にもっと真剣に立ち向かうことを要求してはいますが、しかし、それは、アメリカの戦略に支障が出るようになってほしくない、という考慮によるものであって、そこから出て来る処方箋はせいぜい、問題が大事にならないようにするための「共通の規範、原則及び相互作用にかかわるコンセンサス文書」を米日韓で作っておくということだけなのです。要するに「臭いものに蓋をしておく」仕組みを作るということです。
 アメリカが絶対に避けたい事態は、領土問題がエスカレートしていって、韓国政府が中国政府及びロシア政府とスクラムを組んで日本政府に対抗する事態に立ちいたることでしょう。このような事態は、日本及び韓国との軍事同盟を強化することによって中国を押さえ込むことを根幹とするアメリカの対アジア太平洋戦略の土台そのものを揺るがしかねないからです。第三アーミテージ報告にも間接的表現ではあれ認識されているように、もはや、かつての朝鮮戦争及びヴェトナム戦争を戦った時とは異なり、アメリカには単独でアジア太平洋地域において大規模な軍事作戦を展開する能力はありません。日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国の緊密な協力確保が、オバマ政権の中国を睨んだ「アジア回帰」戦略が成り立つための大前提なのです。
もちろん、その中でも死活的に重要なのが日本列島を作戦・兵站基地として確保することであり、日本の軍事力を総動員することであることはいうまでもありません。しかし、アメリカ政府にとっての頭痛のタネは、日本政治の貧困であり、当事者能力が欠落していることです。そういう状況の下で、野田・民主党政権が狭隘なナショナリズム感情に訴えやすい領土問題で「火遊び」することを、アメリカ政府が苦々しく思っていることは容易に理解できます。とは言え、そのような「火遊び」を公然と押さえにかかることは、「角を矯めて牛を殺す」ことになりかねません。ですから、第三アーミテージ報告におけるような中途半端な対日勧告しか出てこないのです。
米韓関係は、オバマ大統領と李明博大統領の「個人的信頼関係」に裏付けを得て過去4年間緊密に推移してきました。今こそレームダック化した李明博大統領ですし、韓国大統領選挙の結果次第ではアメリカ政府としても対韓戦略の練り直しを迫られるわけですが、独島に対する韓国側の主張を無視するという選択肢もアメリカ政府にはあり得ないのです。とは言え、韓国側主張に軍配を上げるわけにもいかない。したがって、現状維持で何とか韓国世論をなだめたい。
しかし、こういう弥縫策でいつまで事態を持ちこたえることができるでしょうか。第三アーミテージ報告が米日韓同盟を突出させて重視する方向性を打ち出しているだけに、逆にそういうアメリカの対アジア太平洋戦略の内在的・致命的な脆さを私は感じとるのです。

<中国側見方>

 領土問題をめぐる日韓関係の動きについては、中国のメディアも高い関心を払って見守っています。私は特に、8月15日付の羊城晩報をソースとする南京国際関係学院・王超の署名文章(中国新聞社HPでは「韓日関係 「氷と火がともに天に満ちる」状況を経て曲折の中で緩慢に発展」というタイトルで紹介)がアメリカもからんだ日韓関係の本質を見事に捉えていることに感心しました。以下に紹介しておきます。願わくば、こういう読み応えのある文章が日本においても現れることを。

 韓日両国関係は、8月10日に韓国の李明博大統領が独島(日本名は竹島)に上陸したことによって、急激に悪化する状況を呈してきた。しかもその2日前には、米日韓はハワイ付近の海域で合同軍事演習を行い、三国間の軍事協力を強化しようとしていたのだ。さらにその前には、韓日ははじめての二国間軍事協力協定に署名し、朝鮮に関する軍事情報を共有する計画だった。長くもない時間のうちに、韓国と日本は「笑顔で相接する」から「眉を厳つくし、冷ややかに対応する」に変わり、両国関係は大変なことになり、波の峰から谷へと落っこちてしまった。
 事実をいえば、韓日関係は一貫して複雑であり、共通する利害で求め合う点もあれば、先鋭な矛盾の衝突ということもある関係だ。両国が軍事領域で接近したのは、一方では現実的な安全保障上の必要に基づくものだ。韓日両国は、朝鮮が自国の安全に対して深刻な脅威となっていると認識しており、特に朝鮮が、失敗したとは言え、衛星を打ち上げたことはさらに韓日両国の神経を刺激し、双方の軍事協力の足取りを早めることを促した。(両国の軍事的接近の)もう一つ(の要因)はアメリカが力を入れてそれを推し進めているということだ。韓日はともにアメリカの同盟国だが、米日韓の三角関係の発展は均衡が取れていない。米日及び米韓の関係は極めて緊密だが、韓日間ではどちらかといえば締まりがなく、それは特に軍事面で顕著だ。このことは、アメリカの戦略的構想とは極めて大きな隔たりがある。戦略的重心をアジア太平洋に移しつつあるアメリカは、韓日という「目下の仲間」が積極的に安保協力を強化し、アメリカが主導して作り上げようとするアジア太平洋の秩序においてより多くの責任を担い、さらに大きな役割を発揮することを切実に希望している。
 韓日が接近する意向を示したことはあるにせよ、両国間に長期にわたって存在する歴史的な感情、領土紛争等の問題によって双方がさらに接近することは妨げられてきた。日本が朝鮮半島に対して行った植民地統治は、現地の人民に深刻な災難を及ぼし、このことは消し去ることが難しい苦痛の記憶になっている。しかし、日本は歴史問題に関する認識において態度が一貫して曖昧であり、しかもたえまなしに侵略の歴史を否定する言論が現れる。韓日間では、歴史教科書、慰安婦などの問題でひっきりなしに矛盾と衝突が生まれている。このこともまた、韓国国内で常に強烈な反日感情が存在する状況を作り出しており、両国間に相互信頼、共通認識を真に達成することを困難にしているのだ。韓日間で軍事協定を締結するという秘密の計画がいったん公開されたとたん、韓国国内では強烈な反対の声が湧きおこり、署名は延期することを余儀なくされた。
 領土紛争は、韓日の矛盾を激化させるもう一つの火種である。20世紀の50年代以来、独島(あるいは竹島)の帰属問題をめぐって、韓日間には一貫して摩擦が絶えず、両国関係はしばしば緊張する事態になった。今回、韓国大統領が係争の島にはじめて上陸したのは、すでに存在していた紛争をさらに突出させ、凝固させたに過ぎない。しかも李明博が上陸時間をことさらに日本が第二次大戦で敗北した記念日である8月15日の前日に選んだことは、近い将来に予定されている国内の大統領選挙に向けてデモンストレーションを行って政権党の名誉を回復すると同時に、日本がその前に出した防衛白書が両国間に紛争がある島を明確に日本領土としたことに対する有力な反撃を行ったものでもある。
 近年における韓日関係を通観すると、動揺と起伏に充ち満ちている。今回の上陸事件が引き起こした韓日関係の冷却化及び一定期間は対立に陥るであろうことは、両国関係の展開過程における典型的表れということができる。両国の協力は、盟主であるアメリカの取り持ち、隣国という要素の働き、経済往来という支えによるものだが、振り払うことのできない歴史問題、領土紛争及びこれらから生まれる民族感情の懸隔、国家としての信頼欠如は、韓日間において乗り越えることの難しい溝である。
 このような現実的利益と歴史的感情のもつれ、二国間の矛盾と多国間の協力の並存という現状は、韓日関係が紆余曲折の中で緩やかなペースで発展し、時にふれ、突然冷却化し、突然に熱くなるという状況を生みだすことを決定づけている。一方では、アメリカ主導の同盟という枠組みの下で、両国の衝突はコントロールされるだろう。他方、双方に内在する摩擦は両国の協力に対する限界を作り出しており、アメリカが期待するような韓日全面協力への道のりは長いものになるだろうし、韓日同盟の形成などは議論にも上るまい。これこそが、アメリカがアジア太平洋で意図しているNATO式多国間同盟システムづくりが直面する客観的な数々の困難とチャレンジなのだ。

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