尖閣問題とアメリカ -中国の視点-

2012.07.24

*今回は、尖閣問題に関するアメリカの政策に対する中国側の見方を整理しておきます。この問題が中国メディアにおいて公然と取り上げられることになったのは、野田首相の尖閣「国有化」発言を契機とした中国側の対米警戒感の高まりの一環においてであることは、オバマ政権の「アジア回帰戦略」の性格に関する中国側関心の所在(対中指向戦略としての意味合い)として前のコラムで取り上げました。今回は、尖閣問題にしぼった中国側視点を見ようとする試みです(7月24日記)。

<嚆矢となった広州日報>

尖閣問題にかかわるアメリカの政策的狙いをテーマとして取り上げたのは、私の目に入った記事の中では、前のコラムでも紹介した7月13日付広州日報「アメリカが釣魚島問題に「踏み」込むのは「どんな魚を釣る」ことなのか?」(注:前のコラムで紹介したときには、中国新聞社がつけたタイトルを訳しましたが、その後、新華社に原タイトルが載っていましたので、ここではそれに拠っています。)が最初でした。この記事は、「釣魚島問題において、アメリカは過去においていかなる役割を演じたか、現在における政策目標は何か」という問題に関して、中国人民大学国際関係学院副院長の金燦栄教授、清華大学アメリカ研究センター中米関係シニア・リサーチ・フェローの陶文釗教授、中国人民大学国際関係学院東アジア研究センター主任の黄大慧教授とのインタビューをまとめたものです。その小見出しは、前のコラムで紹介しましたように、「敏感な時期にアメリカが日本の背後に 日本は中国牽制の最高の相棒」「その実はブッシュの政策 オバマは継続しているのみ」「アメリカは故意に釣魚島の「主権の帰属」を曖昧にしている 中日間の釣魚島紛争はアメリカ人が一手にでっちあげた」「アメリカは故意に中日間に地雷を埋めた」「日本はますます強硬になっている アメリカは選択しなければならない」となっています。なお、この記事は冒頭で、「専門家の意見は本紙の立場を代表するものではない」と断っていますが、これから見るように、随所に記者・党建軍の判断や見方をちりばめていますし、3人の学者(及び党建軍)の見解は、後で見ますように、中国国内で支配的な見方と軌を一にしています。
何故アメリカはかくもセンシティヴなタイミングで公然と日本を「支持する」のか、という疑問について、三者ともに、アメリカの動きはそのアジア回帰戦略の中で理解するべきだと答えています。そして具体的に、陶文釗「その目的は中国を牽制し、制約することだ」、金燦栄「アジアに回帰するために、アメリカとしては中日間の釣魚島をめぐる紛争というこの機会を利用し、同盟国・日本との関係を強化するべく、釣魚島問題で日本側に立とうとした」、黄大慧「アメリカにとっては、中国を牽制するためには、日本はもっとも力のあるパートナーである」と述べています。ただし、尖閣を日米安保条約の適用範囲に入れることについてはブッシュ政権時代に日米間で一致があり、オバマ政権はこの政策を継承しているのだという認識も(誰の発言であるかを明示することなく)つけ加えられています。
しかし、三者とも、アメリカとしては釣魚島問題で中国と真っ向から衝突することを望んではおらず、日本に無理矢理引っ張り込まれることを恐れているという見方を示しました。この判断の根拠になっているのは、前のコラムで紹介した、7月9日にアメリカ国務省高官が行った発言です。つまり日米安保第5条が尖閣に適用されるとしつつ、高官が尖閣帰属問題ではアメリカは特定の立場に立たないとした点です。具体的には、陶文釗「中米関係は非常に緊密で、利益関係も相当に広範囲であるから、アメリカは直接の衝突を望んでいない」、金燦栄「アメリカは日中間に一定の緊張した情勢が持続されることを望む一方、緊張がエスカレートしてアメリカが衝突に引っ張り込まれることも希望していない」、黄大慧「中米間には広範囲の共通の利益があり、経済、地域の安全保障などの領域で、アメリカは中国の協力を必要としている」と発言しています。この点に関しては、クリントン国務長官が、日本の国有化方針には考慮が欠けていると述べたとされていることが、アメリカも尖閣紛争がエスカレートして制御不能になることを抑えようとしている例証として挙げられています。
しかし、今日の尖閣紛争の背後には一貫してアメリカの影があったし、今後もアメリカ・ファクターを避けては通れないという認識、ある意味において、尖閣問題はアメリカがでっちあげてきたものだ、という認識が示されています。具体的には、1945年の日本投降以後、カイロ宣言及びポツダム宣言の規定に基づいて、釣魚島は中国・台湾の付属島嶼として中国に返還されるべき筋だったが、アメリカは、沖縄に対する信託統治及び1951年のサンフランシスコ対日平和条約に基づいて釣魚島を沖縄に編入し、これに対して中国政府は当時声明を発表して、同条約は中華人民共和家国が参加していないから不法かつ無効だと述べたということ、その後の20年間、釣魚島及びその近海域はアメリカの射撃訓練場となり、1971年に日米間に沖縄返還協定が署名された際に、アメリカが釣魚島などの島嶼を一括して日本に引き渡したことに対しても、中国政府は強烈な抗議を行い、アメリカ政府は、沖縄の施政権を日本政府に返還することは釣魚島の主権問題にはいかなる影響も生みださないと述べたことが紹介されています。
これらの一連の事実関係からは、「表面的には、アメリカは釣魚島の主権問題で中立的立場をとっているかのごとくだが、事実上は、言葉を弄んでいるだけで、釣魚島を日本の管轄に引き渡すことを通じて、アメリカは中日間に地雷、釘を埋め込んだのだ」としています。即ち、アメリカはこれによって日本をがっちりとアメリカに縛り付け、中日両国が接近することを阻止し、同時にその東アジアでの影響力を保持することができるということだ、あるいは、「釣魚島問題について、アメリカは早々と長い糸を流して針を付け、東アジアにおける影響力と中日関係操縦を釣ろうとした」と解釈しているのです。この点に関しては、陶文釗の「北方4島問題においては、アメリカは公然と日本の領土だと述べつつ、北方4島は日米安保条約の適用範囲には属さないとも述べている。これは、釣魚島問題におけるその立場と鮮明な対比をなしている」という発言を引用しています。
そしてこの記事では、アメリカが主権問題に関しては立場を明らかにしないが、尖閣を日米安保の適用範囲に入れるという態度は、「間違いなく日本に軍事的な傘を提供し、日本が釣魚島問題でますます強硬な政策をとるうえでの刺激になっている」という判断が紹介されています。しかしこの記事では同時に、「釣魚島問題に関して、アメリカは引き続き日本の政策に重要な影響を与え、釣魚島問題を引き続き操作し、紛争のエスカレーションをコントロールできるのだが、アメリカにとって、これは同時に非常に危険なゲームでもある。軽視できない問題は、日本国内の右翼勢力の台頭につれて、日本の釣魚島などの領土紛争問題における立場はますます強硬となり、アメリカの軍事的支持に対する期待もますます高くなるわけで、日本が釣魚島問題で強硬な振る舞いを取って衝突が引き起こされるとなると、アメリカは極めて難しい選択を迫られる立場に陥るだろう」という対米警告をも行っているのです。

<アメリカによる尖閣支配及び日米安保条約第5条に関する解釈>

 7月16日付人民日報海外版は、清華大学現代国際関係研究院副院長の劉江永教授の新華社「日米に歴史の法理に関する補習させるべきだ」を掲載していますが、この文章において示された劉江永の指摘では、アメリカによる当初の尖閣支配及び日米安保条約第5条の解釈に関する点が注目されます。ちなみに、この文章については、新華社が日本語訳をネットに掲載しています。

〇アメリカの当初の尖閣支配
 ポツダム宣言に基づき、日本は、「満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人(注:劉江永は「中国」としています。)ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還」し、「暴力及貧慾ニ依リ日本国ノ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルヘシ」という1943年のカイロ宣言を履行するべきだった。しかし、中国の内戦が台湾海峡両岸の分裂をもたらしたことにより、アメリカは日本を占領した機会を利用して、1951年のサンフランシスコ対日条約により琉球(沖縄)に対する信託統治を行い、台湾及び琉球に軍隊を駐留させ、釣魚島付属島嶼をアメリカ軍の射撃場にした。これに対して中国政府は強く反対した。早くも1950年12月、当時の中国外交部長だった周恩来は声明を発表し、台湾及び澎湖列島はすでにカイロ宣言によって中国に返還することが決定されており、琉球諸島に関しては、「カイロ宣言もポツダム宣言も信託統治の決定を行ってはおらず、ましてやアメリカを管理当局と指定したなどということはない」と述べた。

 以上の劉江永の指摘の中で私には初見だったのは、1950年12月の周恩来の沖縄信託統治に関する言及部分でした。劉江永は引用形を取っていますので、間違いなく当時の周恩来の発言だったのだと理解されます。

〇日米安保条約第5条の適用範囲にかかわる解釈
 1960年に改定された日米安保条約第5条は、「日本国の施政の下にある領域における(in the territories under the administration of Japan)、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」と定めているが、その意味は、日本の施政下にある領域のみがアメリカの日本に提供する安全保障の対象である、ということだ。即ち、日米安保条約第5条を適用するためには二つの要件を満たす必要がある。一つは、日本の合法かつ合理的な「施政」のもとにあること、二つ目は日本の「領域」に属するということだ。
 1972年に至るまで、琉球の主権はアメリカのコントロールのもとにあった。ということは、アメリカは釣魚島の管轄権を琉球に組み入れていたのであり、「日本の施政の下にある領域」でもなかったわけで、したがって日米安保条約第5条も適用されなかった。
 1972年にアメリカが沖縄を返還する際、釣魚島の施政権を勝手に日本に帰属させたが、同時にこのことは将来における主権の帰属交渉には影響せず、当事国が交渉を通じて平和的にこの紛争を解決するべきだと声明した。いわんや、アメリカの立場について言えば、施政権は必ずしも主権ということではなく、アメリカは未だかつて日本が尖閣島の主権を有すると認めたことはないのであるから、釣魚島が日本の領土であることを未だかつて承認したことはないに等しく、したがって、日米安保条約第5条が適用される基本的要件を根本的に備えていない。
 以上より、日本は、日米の沖縄返還協定に基づいて釣魚島は日本の固有の領土であると勝手に主張し、アメリカは、日米安保条約が釣魚島に適用されると勝手に主張するが、これらはすべて道理及び法律的根拠を欠いた人だましの談である。

<中国政策科学研究会国家安全政策委員会「断固として中国の釣魚島諸島の主権を守る学術研究討論会」>

 中国が尖閣問題で本腰を入れてきたと実感させられたのは、7月17日付新華社が報道した、同月16日に北京で中国政策科学研究会国家安全政策委員会(私はこの組織の存在を知りませんでした。)が召集した「断固として中国の釣魚島諸島の主権を守る学術研究討論会」に関する記事でした。この討論会では、20名以上の国際法、国際問題、軍事問題の専門家が「アメリカが日米安保条約は釣魚島に適用があると公言したことに関して集中的に討論を行った」とあります。この記事の注目点を摘記しておきます。なお、この記事の日本語訳も新華社のネットに掲載されました(ただし、自動翻訳機にかけたままの訳という感じで、私の中国語読解力でも明らかに誤訳が多々散見されましたので、あまりお薦めできません)。

-会議參加者は、アメリカが釣魚島を日米安保条約の適用対象とする企ては、完全に不法であり、道理のない偽りであり、成り立たないと一致して認識した。
-1972年に、国際機構や国際法上のいかなる許可も得ず、アメリカは勝手に釣魚島の「行政権」を日本へ引き渡した。アメリカが釣魚島に日米安保条約が適用されると公言していることは、第二次世界大戦の勝利の成果を覆しているだけでなく、カイロ宣言やポツダム宣言等の国際文書にも違反し、同時に如何なる人間も他人の主権について勝手に授受する権利はないという国際法の常識、如何なる二国間条約も締約国のみに対して拘束力を持っており、第三者に対しては権利と義務を発生せず、第三者の利益を損なうべきでないとする国際法の基本原則にも違反していることは明らかだ。
-国際法専門家は、日米安保条約を具体的に分析した後、次のように指摘している。日米安保条約の「共通の防衛」に関する第5條は、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と強調しているが、英文本文(浅井注)によれば、アメリカは伏線を引いている。即ちアメリカとしては、これは一種の義務ではなく責任解除と解釈することが可能だ。

(浅井注)該当部分の英語は次のとおりです(強調は浅井。以下同じ)。
 "Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes."
 以上の英文からは、中国の国際法専門家が指摘するとおり、アメリカには日本防衛の義務があるわけではなく、アメリカの一方的な判断によっていかようにも動くことが可能であることが確認されます。

第5条はまた、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」行動を取ると強調している。アメリカの戦爭権限にかかわる法規定によると、対外戦爭については大統領と議会が共同で決定を下すとしている。これは即ち、アメリカの利益に基づいて、行動するかしないかを決定することを臨機応変に決定するという曖昧な空間をアメリカ側に残したものだ。過去の歴史から見ると、他の国がアメリカの使い走りすることはあっても、アメリカが他の国のために両肌脱いで戦いに臨み、火中の栗を拾った試しは一度としてない。このことを踏まえれば、アメリカが釣魚島問題は「日米安保条約第5条の適用範囲に属する」と一方では公言しながら、同時に釣魚島問題で「アメリカ側は最終的にどちらの立場につくかを述べない」、「関係国が平和な方式で解決することを期待する」と強調しているのは何故なのかを理解することは難しいことではない。
-釣魚島に日米安保条約が適用されるかどうかにかかわらず、またそれが真の適用か偽りの適用かにかかわらず、なにごとも中国政府や中国人民の釣魚島の主権を守る断固たる決心や意志を揺るがすことはない。いかなる強権の威嚇や脅しも徒労だ。中国人民は未だかつて鬼神を恐れたことはなく、邪悪を信じたこともないのであって、国家領土の主権と国家の尊厳を守る決心と意志は揺るぎないものだ。日本の野田政権には、形勢の判斷や計算を間違えることなく、中日友好関係の大局を保持し、地域の平和を保持する正しい方向にしっかり戻ることを忠告する。

〇7月18日付の新華社は、この討論会における発言録として、3回にわたって内容を紹介しましたが、その第1回においては、中国政策科学研究会国家安全政策委員会シニア・リサーチ・フェローであり、中国社会科学院名誉学部委員でもある国際法専門家の劉楠来の発言内容(概要)を掲載しています。その内容は次のとおりです。

 日米安保条約については大いに研究すべきであり、同条約が締結された当時の背景、条約締結の討論状況及び条約本文に対してしっかり分析を行い、しっかり把握すべきだ。特に、安保条約第5条がどのように規定し、限定した範囲はどの程度か、設定した権利義務関係はどのようになっているかについて、法学的観点からきめ細かく研究する必要がある。安保条約があれば、この条約に基づいて必ず攻撃に手を染めるというほど、事情は字面からするほどは簡単ではない。
 安保条約が軍事力使用問題にかかわるときは、一般的にいえば、締約国はすべからく非常に慎重な態度を持するものだ。…アメリカの憲法に基づけば、一般的に、アメリカが軍事力を使用する場合には、大統領と議会上院が共同で決定を通過させなければならない。確かに実際には議会を通らずに軍事力を使用したケースもある。しかし、法律的には、上院の決定が通過することが必要だ。(上記日米安保条約第5条の日本語の「宣言する」及び英語の"declare"に関する中国語訳が)「宣誓」となっているのは間違いで、対外的に「宣言」するということであって、誓いを発するという「誓」ではない。これは、日米双方による対外的態度表明であり、日本の施政領域で攻撃を受けた場合には共同防衛を行うことを述べたものだ。…仮に日本が釣魚島で外からの攻撃を受けた場合に、第5条を引用する。では、第5条を使う場合、日米双方の義務は結局何なのか。第5条は、行動を取って共同の危険に対処するというが、どういう状況の下においてなのか。日米にとっては結局いかなる義務なのか。第5条は、「共通の危険に対処するように行動する」と述べているが、英文本文で用いているのは"would"であって"should"ではない。二つの言葉は法律的な義務ではあるが、義務の程度が異なる。"should"は「べきである」を表し、共通の行動を取らなければならないが、"would"は一種の意思を表し、「何かをするだろう」ということだ。したがって、少なくともアメリカにして見れば、自らに手の余地を残しており、必ずしも行動を取るとは限らない。強制的な法律的な義務がないことは、異なる解釈を行うことを可能にする。すべては第5条についてなのだが、本当に第5条を適用するときには、子細に第5条を斟酌することになる。ということは、日米関係全体、中米関係の各方面の要素を見て、得失を図ったうえで最後にいかなる態度を取るかを決定するのだ。釣魚島問題で軍事衝突が起これば、アメリカは必ず手を出して日本を助ける、とは限らないのである。
 さらにもう一つ条件があり、それは「自国の憲法上の規定及び手続」ということだ。アメリカ側が軍事力を出動させたいとしても、総合的に各方面の状況を全体的に考慮する必要がある。釣魚島で軍事力を使用するには、憲法の規定に従い、手続きを踏んで上院の決定を経なければならない。上院が中国との軍事力衝突に同意するかどうかもまた一つの変数だ。現在の中米関係の総体から見れば、少なくとも今のところ、アメリカが中国と矛を交えることを考えるとはみられず、事態は恐らくまだそこまでは至っていない。したがって、総合的に見た場合、釣魚島問題に関して、アメリカが日米安保条約を引用して、日本を助けて中国に対処するという可能性はあまり高くはないと思える。しかし、国際法の原則的立場においては、我々はこの問題に関して対応するべきである。即ち、釣魚島は中国の領土であり、日本が釣魚島を侵入占領することが国際的不法行為であり、国際法違反である。アメリカは国際法を遵守するべきである。少なくとも、この問題においては中日間に係争があり、アメリカは釣魚島主権問題では立場を取らないと声明したことがある。アメリカは明確にそう述べたことがある。したがって、アメリカは釣魚島主権紛争問題では日本側に立つことはできないのであって、さもなければ、アメリカの正式な態度表明と一致しないのだ。この点について、我々はアメリカ側に提起するべきである。今アメリカは釣魚島紛争を安保条約の下におくと公言しているが、これはアメリカが約束した国際的な義務と合致しないのであり、この点もアメリカに厳粛に提起するべきだ。

〇この討論会における発言録の第3回には、中国政策科学研究会国家安全政策委員会シニア・リサーチ・フェローで新華社世界問題研究センター研究員である張煥利の発言を掲載しています。その興味ある内容を抜粋して紹介しておきます。

ポツダム宣言は、日本の固有の領土は日本4島(本州、九州、四国、北海道)及び表記載の関連島嶼だけであり、釣魚島さらには琉球諸島はすべてこの中に含まれておらず、中国の領土であることをきわめて明確に規定している。現在に至るまで、琉球諸島が国連の信託統治地域であるというステータスには変化がない。釣魚島は、台湾が日本の占領期に(あったときに)すでに宜蘭県の管轄範囲に含まれた。第二次大戦後、台湾が日本から中国に返還されたときに、釣魚島などの周囲の島嶼は一括して中国に返還されるべきだった。しかし、当該地域は、長期にわたりアメリカ軍に占領され、射撃場として使用された。アメリカは、1972年に勝手に釣魚島の施政権を日本に引き渡した。しかしながら、アメリカ軍の引き渡しの文献には明確に「施政権と主権は関係がない」、「釣魚島問題は、中日によって協議して解決するか、第三者の調停によって解決する」と明確に指摘している。アメリカは、釣魚島が中国の領土であることを内心ではハッキリ知っていたのだ。
 アメリカ国務省高官の発言は、アメリカが日本を利用して中国を牽制していることを疑いの余地なく示している。日米安保条約は、東西冷戦期の産物であり、日米間のバイの取り決めであり、中国を含む第三者の利益を損なうべきではない。アメリカが第二次大戦後に日本を占領していた時期に一方的に宣言した釣魚島等島嶼に対する「施政権」であれ、1972年に釣魚島を勝手に日本に授受したことであれ、すべては中国の主権及び領土保全を踏みにじった不法行為であり、中国政府の強烈な抗議に遭遇した。
 日米安保条約は、日本の主権を守り、アメリカが周辺で軍事力を行使するときに日本が支援を行うことを定めているだけで、日本が他国を挑発し、交戦するときに、アメリカが自動的に参戦するとは言っていない。仮に釣魚島で軍事衝突が起こった場合、アメリカは日本の利益のために軍事衝突に介入することはあり得ないことを日本は知るべきだ。カイロ宣言及びポツダム宣言に基づき、日本の領土は本土4島に限定されており、アメリカが局外に立つ十分な理由があるのだ。仮にアメリカが頑として介入するならば、不法で根拠がないだけではなく、中国の主権に対する一方的な侵犯である。
 (なお、張煥利は、7月7日の盧溝橋事変75周年のその日に、首相・野田が…釣魚島「国有化」を宣言し、憚ることなく釣魚島問題における中国の対日政策の譲れない一線にぶつかってきたことによって、中日間の釣魚島紛争は新しい段階にエスカレートした、と述べています。また、日本側の挑発に対して「代価を支払わせる」と述べて、その一つとして北方4島問題に関して次のように述べています。
 「ロシアの南千島諸島に関する立場を支持する。プーチン大統領が述べたように、ロシアの南千島諸島(日本の言う北方4島)に対する占領は第二次大戦の結果である。日本がロシアに対して北方4島を要求するのは疑いなく第二次大戦の結果を否定するものだ。釣魚島と南千島諸島とには違いがあり、釣魚島は一貫して中国の領土であったのに、第二次大戦前に日本によって盗取されたもので、第二次大戦後はカイロ宣言及びポツダム宣言により日本が窃取した中国の領土は無条件で中国に返還されるべきであり、これには釣魚島も当然含まれている。ロシアの南千島諸島に対する立場に賛同することは、日本が引き続き釣魚島を盗取していることに対する牽制になる。」)

<法制日報所掲文章>

 7月17日付の法制日報は、華東政法大学の司平平教授の文章を掲載しました。この文章は、日本が尖閣諸島は日本の「固有の領土」と主張するのは根拠がないとして5つの根拠を挙げるのですが、アメリカとのかかわりでは次の2点が注目されます。

〇カイロ宣言及びポツダム宣言に基づき、日本の主権は本州、北海道、九州及び四国に制限され、1946年1月29日にポツダム宣言第8条に基づいて公布された「連合国軍最高司令部司令第677号」が規定した日本が行政権を行使する範囲には釣魚諸島を含んでいない
〇1951年のサンフランシスコ対日平和条約は琉球諸島及び釣魚諸島をアメリカが信託統治するための権限を与えたが、アメリカは1971年に日本政府と締結した沖縄返還協定により、釣魚諸島を沖縄の一部分として日本の占領に引き渡した。しかし、サンフランシスコ平和条約も沖縄返還協定による尖閣諸島に対する処理にも国際法上の根拠がない。第三国が書面で受け入れなければ、条約はその第三国に対しては義務を設定することはできないということは、条約法の規則の一つであり、一般法の原則でもある。中国は、サンフランシスコ平和条約の締結国ではなく、沖縄返還協定の締約国でもないので、両条約の釣魚諸島処理を認可したことはないのみならず、このことについて厳重な抗議を提出した。中国政府が抗議を提出した後、アメリカ国務省スポークスマンは、「沖縄の施政権を返還することは、尖閣諸島(即ち我が釣魚島)の主権問題にはいかなる影響も発生しない」と表明した。しかも、この二つの条約はポツダム宣言とも抵触している。なぜならば、宣言の署名国である中国政府は、釣魚諸島を日本の主権下に帰属させることに同意したことはないからだ。事実として、アメリカは釣魚諸島の所有者ではなく、その主権帰属の資格ある裁判官でもない。したがって、アメリカが釣魚諸島の支配権を日本に移したことを以て日本による主権取得の法律的根拠とすることはできない。

 以上の文章を読んでいて、私として思い当たったことを一点だけつけ加えます。それは、戦後の日本の保守政治が、「サンフランシスコ体制の堅持」を標榜してきたのには深い理由があったということでした。「何を今更」と言われれば、「すみません」と自分の不明・思考の幼稚さを詫びるしかないのですが、戦後保守政治が「サンフランシスコ体制堅持」を強調するのは、「サンフランシスコ体制」がカイロ宣言及びポツダム宣言の内容を換骨奪胎しあるいは骨抜きにして、米日支配層にとって都合の良い体制を作ったからだということです。サンフランシスコ体制に基づけば、日本の領土問題に関する主張を正当化することが可能になる。しかし、カイロ宣言及びポツダム宣言に基づけば、サンフランシスコ体制そのものの根拠は崩れ、したがって領土問題に関する日本の主張も何の根拠をも持たない、ということなのです。もちろん、ポツダム宣言は日本の徹底した非軍事化、民主化をも要求していますから、日米安保条約に基づく日米軍事関係そのものも根拠がないのです。
 中国側の立論は、そういう根本論を行っていることを私たちは理解し、認識する必要があると思いました。

<雑誌・瞭望「アメリカの釣魚島に対する態度は曖昧にして明晰」>

 7月18日付で中国新聞社が掲載した雑誌・瞭望「アメリカの釣魚島に対する態度は曖昧にして明晰」(霍建崗)と題する文章では、次のように述べています。アメリカの同盟政策の本質をよく掴んでいると、私は感じました。オスプレイ配備問題でアメリカの言うがままになる、日本の対米同盟一辺倒の面々からは、このような百戦錬磨の思考は期待しようがありません。

 ある意味では、中日間の釣魚島紛争の創案者はアメリカである。アメリカからすれば、東アジアの二つの大国である中国と日本が連盟を形成することは悪夢であり、中日間に領土の矛盾が存在することはアメリカの利益に合致する。したがって、アメリカが釣魚島を日本に引き渡すのは中日間にくさびを打ち込もうとするためではないか、と疑うのは理由があることだ。
ところがアメリカは、勝手に授受を行う際にさらに一手を残したのであって、釣魚島の主権が中日のいずれに属するかを明言せず、一貫して「施政権」を日本に与えるとのみ述べることにより、日本をして常に「心中不安」にさせてきた。中国の国力が次第に強大となり、20世紀90年代から、日本は釣魚島が日米安保条約第5条の「保護」の範囲内にあると公言し、アメリカに対しても明確な態度を一度ならず要求するようになったが、その目的は、アメリカという勢力者を抱え込むことによって、中日間の釣魚島紛争における「切り札」にすることにある。しかしアメリカは、中日間の紛争に深入りすることを避けるため、かなり長い間曖昧な態度を取り、日本の要求に対して正面からの明確な返事をしてこなかった。
 近年になって、中国を牽制する戦略から、アメリカは釣魚島問題において若干の調整を行い、2009年には、クリントン国務長官が釣魚島は日米安保条約の保護の範囲にあると述べて、日本を激励した。とは言っても、アメリカはこのコミットが実現する日があることを必ずしも望んではいない。
アメリカが他の国々と同盟を結ぶ目的は、それらの国々を利用して自らの戦略目標を実現することにあり、アメリカが主で同盟国は従であり、「犬がしっぽを振る」みたいなものだ。もしも、同盟国に主導権を取られれば、アメリカは同盟国に鼻を掴まれて引っ張られることになり、これでは「尾っぽが犬を振る」ことになってしまう。1914年にフェルディナンド公がサライェボで暗殺され、オーストリア・ハンガリーはセルビアに対して宣戦し、英、仏、独などはそれぞれの同盟国によってこの長期戦に巻き込まれたのだが、アメリカはこのような結果になることを極力避けようとしている。
だからこそ、アメリカ国務省高官は、釣魚島問題においては、「アメリカ側は最終的に特定の立場を表明して一方の側に立つことはしない」「関係国が平和的方法で解決することを期待する」と強調し続けているのだ。これこそがアメリカのまがうことのない態度である。釣魚島問題では、アメリカが絶対に避けたいのは、日本に主導権を握られて、衝突に巻き込まれることである。だが他の面から見れば、アメリカが釣魚島問題で仮につかず離れずの態度であれば、日本としては常に安心することができないわけで、これもまたアメリカが同盟国に対する際の一種の技術であり、言い方をハッキリさせないことで、相手としては常にアメリカの言うことを聞くということになる。

<オスプレイ配備に関する人民日報報道>

 7月23日付人民日報は、オスプレイの沖縄配備に関する報道を行いましたが、尖閣に関して次のように述べています。

 アメリカのアジア太平洋における軍事戦略調整の思考においては、「精兵」(兵士の精鋭化)「器利」(装備のハイテク化)が重要な内容になっている。今回、アメリカが日本国民の反対を顧みず、オスプレイ配備を堅持するのは、軍事調整戦略の重要な一歩である。この挙は、機動性及び戦闘力に対する現代戦争の要求をさらに満足させ、それによって東アジアひいてはアジア太平洋全域をさらに牽制させるためである。
 アメリカ国務省の前官僚が日本のメディアに、日本にオスプレイを配備する一つの重要な目的は、日本と共同で釣魚島を防衛するためであると述べたことに、外部は注目している。共同通信の報道に拠れば、アメリカ政府は、オスプレイの配備は米海軍及び海兵隊の実力を大幅に高め、日増しに海洋活動を活発化させている中国に対抗することに貢献すると称している。
 日本メディアの報道によれば、現在普天間に配備されているCH-46型ヘリコプターはかつてヴェトナム戦争で使用された機種で、明らかに老朽化している。オスプレイが沖縄から飛びたてば、その飛行範囲は東海、台湾、フィリピン等区域をカバーする。

RSS