尖閣問題:日本各紙社説

2012.07.16

*石原東京都知事の尖閣購入発言、なかんずく野田首相の国有化発言に対する中国側の激しくかつ厳しい反応については前回のコラムで紹介しました。私には、日本国内の受けとめ方があまりにもいい加減なことにむしろ大きな危機感が感じられてなりません。
 日本のメディアの論調が国内世論を代表すると考えているわけではありませんが、少なくとも世論形成に一役買っていることは間違いないでしょう。そういう観点から、この問題に関するいわゆる全国5大紙及び共同通信加盟の地方紙の社説などを調べてみました。その結果は、5大紙社説のお粗末を極めること、これに対して、地方紙社説のいくつかが日中関係の先行きを懸念する立場から論陣を張っていることが分かりました。
中国側論評でも、北海道新聞や東京新聞の社説を肯定的に紹介しています。確認していただきたいのですが、両紙社説とも決して中国べったりということではありません。尖閣は日本の固有の領土という立場に立っていることなどは、中国側としては是認できるものではないのです。しかし、日中関係の大局を基本に据えるかどうかを、中国側としてはもっとも重視しているのです(日中軍事激突などとなったらどうするのだ、ということを中国は真剣に問いかけています。)。そういう問題意識を提起しているからこそ、中国側は両紙社説を評価しているのであり、そこに私たちは中国側の見識を見るべきだと思います。
 いくつかの範疇に類分けして、各紙社説(日付が入っていないものは7月13日付です。)を紹介しておきたいと思います。なお、強調は私がつけました(7月16日記)。

<内容的に評価できる社説>

沖縄タイムス(7月10日付)「尖閣国有化 対立回避へ知恵を絞れ」
 尖閣問題は、沖縄にとって、自分たちの生活圏の問題である。尖閣諸島で最も大きい魚釣島の住所は、石垣市登野城2392番地。沖縄の人たちの中には「尖閣は誰のものでもない。沖縄のものだ」という意識が強い。
 尖閣をめぐって日中が武力衝突した場合、直接被害を受けるのは沖縄である。漁業だけでなく、観光も壊滅的打撃を受けるだろう。離島の暮らしにも甚大な影響を与えるはずだ。
 このようなぶっそうな話を持ち出すのは、尖閣諸島の領有権をめぐる問題が険しさを増しているからである。危険度は以前に比べ確実に高まっている。楽観は禁物だ。
 政府は、沖縄県の尖閣諸島を地権者から買い取り、国有化する方向で水面下の調整を始めた。
 尖閣諸島は五つの無人島と岩礁からなる。大正島は国有化されているが、魚釣島、北小島、南小島、久場島の4島は個人が所有しており、2002年から国が借り上げ、管理している。
 今回、国有化を予定しているのは魚釣島、北小島、南小島の3島。どちらが「よりまし」かという点で言えば、東京都が購入するよりも、国が買い上げるのが筋だ。
 ただ、尖閣国有化に対し、中国外務省は「必要な措置を講じ、断固主権を守る」と激しく反発している。国有化すれば中国は間違いなく対抗措置を打ち出すだろう。
 両国が相手国の「意図」や「出方」を読み間違え、対応を誤ると、偶発的衝突が起きやすくなる。それが心配だ。
 尖閣国有化を結果として後押ししたのは、東京都の石原慎太郎知事である。石原知事が打ち出した尖閣購入計画は大きな反響を呼び、都にはすでに13億円を超える寄付金が集まっている。
 国有化に対し石原知事は、先に都が買い取って、そのあと国に引き渡したい、との考えを政府に伝えた。だが、石原知事の尖閣購入計画は、政治的に危うい要素を秘めている。
 上野動物園のジャイアントパンダ「シンシン」に赤ちゃんが生まれたというニュースは、多くの国民から歓迎され、子どもたちを喜ばせた。
 ところが、どうだ。石原知事は「全然興味ない、あんなもの。『センカク』という名前を付けて(中国に)返してやるといい」と毒づいた。
 その前の記者会見では、パンダに赤ちゃんが生まれたら「センセンとかカクカクとか付けてやったらいい」と言い放った。
 石原知事の発言からは、外交センスもユーモアも感じられない。政治家としての資質さえ疑われるような八つ当たりだ。尖閣国有化について外務省は「所有権移転の問題であり、対外問題は生じない」と説明するが、知事発言が中国の国民感情を硬化させたのは間違いない。
 尖閣問題が歴史問題、政治問題としての性格を帯びると、日中の対立は、抜き差しならないところまで進むおそれがある。
 慎重さと知恵が必要だ。

琉球新報(7月10日付)「尖閣国有化方針 冷静に戦略的互恵守れ」
 野田佳彦首相は、尖閣諸島(石垣市)を国有化する方針を固め、購入を表明している石原慎太郎東京都知事に伝えた。支持率低迷にあえぐ政権の浮揚につなげる思惑もあろう。中国は「日本のいかなる一方的措置も無効」と反発し、台湾も反発している。
 日中の友好を深める好機だった国交正常化40周年は尖閣問題が影を落とし、両国関係は冷え切ったままである。
 数次ビザ制度導入により、沖縄への中国人観光客が増えつつある中、日中友好の懸け橋を目指す本県にとって好ましい状況ではない。
 国有化方針を聞いた仲井真弘多知事は戸惑いを浮かべ、「尖閣はもともと管理していた政府がきっちり管理して、周辺の安全確保をしていれば結構だ」と述べた。
 現状の個人所有であっても政府が責任をもって管理し、不要な波風を立てないことが望ましいとの立場を示したものだ。
 尖閣諸島が日本固有の領土であることは国際法上も、歴史的経緯からしても明白だ。
 政府は「領土問題は存在しない」としつつ、あえて実効支配を示す港などの施設整備などの対応を取ってこなかった。1978年に日中平和友好条約締結のため、来日した鄧小平副首相(当時)と政府は、問題解決を将来に託した。
 領土をめぐる感情的な対立で関係がきしむことを避け、両国は親善と経済交流の土台を厚くすることを優先してきた。
 ここ最近の先鋭化しがちな嫌中国、反日本の世論が両国政府への圧力を強めることを懸念する。
 石原氏が4月、地元沖縄の頭越しに東京都による購入計画をぶち上げて以来、両国で偏狭なナショナリズムが台頭し、挑発的言動が繰り返されている。危険なことだ。
 上野動物園でのパンダ誕生をめぐり、石原氏は「『センカク』という名前を付けて返せばいい」と切り捨てた。中国を刺激し、反発を招く発言を続ける石原氏の振る舞いは、結果的に国益を損なっていまいか。
 石原氏が主張する「尖閣諸島への自衛隊配備」に日本が踏み出せば、中国の知日穏健派の識者さえ、軍事的対抗措置に発展しかねないと危惧している。
 声高な強硬派に押され、日中両政府は戦略的互恵関係の大切さを見失ってはならない。国連憲章にのっとり、あらゆる対立、摩擦も平和的に解決を図るべきだ。

北海道新聞「国の尖閣購入 日中関係悪化避けたい」
 野田佳彦首相が沖縄県の尖閣諸島を国有化する方針を固めた。
 石原慎太郎東京都知事の尖閣購入計画に後押しされる形で決断した。
 尖閣諸島は日本固有の領土だ。一方でこの問題に触れないことで日中関係が保たれてきたことも事実だ。国有化によって両国関係に波風が立つような結果にはつなげたくない。
 国有化を進める前に、日中関係を悪化させないよう外交面での対策を講じなければならない。
 都知事は「自分たちの家に強盗が『入るぞ』と宣言しているのに戸締まりをしない国がどこにあるのか」「本当は国が購入すべきだ」と日中両政府を挑発していた。
 日本政府の尖閣購入方針により目的は達成される。都知事は自らの購入計画を撤回すべきだ。
 都知事の突出した行動の背景には中国の漁船や漁業監視船による領海侵犯が相次いでいる事実がある。中国政府にはそのことを強く認識してもらいたい。日本の国民感情を刺激しないよう自制を求めたい。
 1972年の日中国交正常化の際両国首脳は尖閣問題に触れない配慮をみせた。その後中国側は「棚上げ」、日本政府は「領土問題は存在しない」との立場で両国関係は維持されてきた。
 日本政府はこれまで民間の地権者と毎年賃借契約を結んできた。国有化は実効支配を強める動きと中国側は見なすだろう。過去の経緯がありながら今なぜ一歩踏み込むのか、政府の説明が求められる。
 首相は「平穏かつ安定的に維持管理する」ことを目的に挙げた。これでは不十分だ。国有化方針で都知事は納得するかもしれないが、中国側を刺激するのは必至だからだ。
 実際に中国政府は「いかなる一方的な措置も違法、無効だ」と批判した。台湾も反発している。尖閣諸島をめぐる論争は放置できない状況になりつつある。
 必要なのは冷静に話し合う環境である。中国が領有権を主張するよりずっと前に日本は尖閣諸島の領土編入を宣言した。中国による領海の侵犯は認められない。こうした日本の主張を示し、中国に建設的な対応を求めるべきだ。
 野田政権は十分な準備をして方針を表明したようには見えない。尖閣諸島の地権者は国有化に難色を示しているのが現状だ。
 消費税増税をめぐる民主党分裂で野田政権の基盤は弱まっている。その立て直しに尖閣問題を利用する意図があるなら問題だ。
 国内で混乱している印象を与えるのは得策ではない。足元を固め直して対中外交に臨むことが大事だ。

中日新聞及び東京新聞(7月10日付)「尖閣国有化方針 緊張避ける知恵を絞れ」
 野田佳彦首相が尖閣諸島の国有化方針を表明した。領土保全は政府の仕事であり、東京都よりも国による購入が理にかなう。領有権を主張する中国などとの緊張を避ける知恵の一つと受け止めたい。
 沖縄本島西方に位置する尖閣諸島は主に五つの無人島からなる。政府が国有化を検討しているのは魚釣島、南小島、北小島の三島。現在、政府が所有者と一年ごとに賃借契約を結んでおり、領土保全の点から安定的とは言えない。
 首相は国有化の理由を「平穏かつ安定的に維持管理する観点から」と説明した。
 この三島は今年四月、東京都の石原慎太郎知事が購入を表明し、広く資金を募ったところ寄付金は十三億円以上に達した。年度内にも購入契約を結ぶ方向だという。
 尖閣諸島は「国際法上も歴史的にもわが国固有の領土」であり、現に実効支配を続けている。
 一方、尖閣諸島の領有権を主張する中国が経済発展とともに海洋権益保護の動きを強め、尖閣周辺で日本の領海を侵犯する事案が増えているのも事実だ。
 多額寄付の背景には対中政策が「弱腰」と映る民主党内閣ではなく、対中強硬路線の石原氏に尖閣問題を託したいとの期待がある。
 領土保全は国の仕事で、外交は政府の専権事項だ。石原氏も当初から「本当は国が買い上げたらいい」と述べている。政府は尖閣国有化に向けて所有者との交渉に誠意を持って臨むべきだ。
 石原氏によれば、所有者は東京都にしか売却しない意向を示している。都が先行して交渉した経緯や国への不信感があるのだろう。石原氏が言うように「取りあえず東京(都)が取得してから、国に渡す」のも次善の策ではないか。
 尖閣国有化の報に中国は反発している。民有でも都所有でも主張は変えないだろう。国有化は不要な挑発行動を抑えることに資すると中国側に説明を尽くすべきだ。
 肝心なのは、日本が尖閣諸島の実効支配を続けると同時に、周辺海域を「緊張の海」にしないことである。領土領海領空を守る毅然(きぜん)とした態度は必要だが、ナショナリズムが絡む領土問題で必要以上に相手国を刺激するのは逆効果だと双方が肝に銘じねばならない。
 田中角栄、周恩来両首相はかつて尖閣問題を棚上げすることで日中国交正常化にこぎ着けた。国交正常化四十周年の節目である今年こそ、外交問題を複雑化させない知恵の歴史に学ぶべきであろう。

長野/信濃日日新聞「尖閣問題 先鋭化させない工夫を」
 沖縄県の尖閣諸島をめぐる日本と中国の外交関係が緊張の度合いを増している。
 野田佳彦首相が同諸島の国有化方針を明らかにして以降、初めての閣僚級会合となった日中外相会談は、双方とも尖閣が自国の領土であることを主張して譲らず、平行線で終わった。
 中国の船が尖閣周辺の日本領海に侵入するなど、示威行動をしている。今後、対立が激化していく恐れがある。
 間違っても、人が傷つくような争いへ発展させてはならない。対立を先鋭化させない知恵と工夫がこれまで以上に求められる。冷静な対応が欠かせない。
 尖閣諸島をめぐっては東京都が石原慎太郎知事の意向で所有者と交渉するなど、購入に向けた準備を進めている。
 野田首相は国有化の目的を「安定的に維持管理する」ためと説明した。尖閣の主な五つの島のうち国有化されている大正島を除く他の島は民間のものだ。現在は国が地権者と賃貸借契約を結び、管理する格好となっている。
 領有権争いのある島の場合、民間や地方自治体が持っているよりも、所有が固定する国の方が安定した管理ができる、との主張は理にはかなっている。
 ただし、その通りになるとしたらだ。野田政権の表明の仕方には疑問が残る。外交が弱い政権だ。中国とどのように付き合うか、腰の据わった外交戦略に基づいた判断だったのだろうか。
 選挙をにらんだ生煮えの政権浮揚策だとしたら危うい。日中の政府間に十分な信頼関係がなく、外交窓口も機能しているとはいえない状況である。双方のナショナリズムを刺激し、国家間ばかりか、国民同士の緊張感をあおることにもなりかねない。
 今のところ都が交渉している3島の所有者は国への売却には難色を示しているとされ、実現の見通しは立っていない。
 中国も事態を悪化させることは望んではいないはずだ。反日感情が反体制運動に姿を変える可能性があるからだ。
 石原知事は購入方針を変えておらず、波紋は広がりかねない。尖閣問題が引き金となって中国や台湾、日本で感情的な行動へ発展しないか、心配になる。
 日中、日台ともに経済を中心に関係は緊密になっている。対立が深まるほどに損失や弊害は大きくなる。政府間で危機を回避するための窓口や仕組みを早急に整えてもらいたい。

<日中友好の取り組みに実績のある県の地方紙>

 日中友好の取り組みに実績のある県紙の社説は、国有化を支持する立場に立ちながら、国の慎重な対応を求めるという点で共通性を示しています。

岐阜新聞(7月10日付)「尖閣国有化、政府、都は冷静に調整を」
 野田政権が、現在は民間人が所有している沖縄県の尖閣諸島を国で購入する方針を決め、地権者らとの交渉に入った。
 尖閣諸島は今年4月に東京都の石原慎太郎知事が購入する意向を表明しているが、領土・領海・領空を守るのは国の役割であり、東京都が所有するよりも国有化する方が理にかなっている。政府が責任を持って、周辺での挑発的な行動を防ぎ、安定的な維持・管理を進めるのが筋だろう。
 領有権を主張する中国や台湾は国有化方針に反発している。いたずらにあつれきを招く必要はない。だが尖閣諸島は「歴史的にも国際法上も日本固有の領土」であるとの日本政府の立場ははっきりしており、実効的に支配もしている。
 誰が所有するかはあくまでも日本の国内問題である。この基本線を踏まえた上で、中国や台湾の反応、アジア太平洋地域の情勢も考慮に入れながら、政府は関係者との調整を静かに進めるべきだ。
 石原知事は地権者との間で長年築いてきた信頼関係を理由に、政府より先にまず東京都が購入するとの考えを示している。購入計画の表明後、今までに都には13億円を超える寄付金が集まっているという。
 知事は国有化方針を野田政権の「人気取り」とも批判している。もちろん政権浮揚が目的であってはならないのは当たり前だ。一方で政府と東京都がもめている印象をさらけ出すのも好ましくない。政府は地権者や都と丁寧に話し合わなければならない。沖縄県や石垣市の意向も十分に聞いて、地元が納得する形に収める必要もある。
 政府が国有化を検討しているのは、石原知事が購入の意向を表明している魚釣島と北小島、南小島の3島。2002年からは政府が「平穏で安定的な維持・管理を図る必要がある」として年間約2500万円の賃料を払って借り上げている。
 契約は1年ごとで、来年3月末に今の契約が切れる。石原知事は契約期限後に購入する考えを示しているが、藤村修官房長官は「より安定的にする考え方がある」と国有化方針の理由を説明している。民間人の所有地を1年契約で借り上げるよりは、国有化する方が安定的な管理が可能になるのは間違いない。
 尖閣諸島は明治政府が1895年に日本に編入。太平洋戦争後は米国の施政権下に入ったが、沖縄とともに返還された。中国が領有権を主張し始めたのは、1960年代後半に周辺で海底資源の存在が指摘されてからだ。
 ただ周辺海域では2010年9月に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起き、今月初めには台湾の活動家が乗る船や巡視船が日本の領海内に一時侵入した。
 今回の国有化方針に対しても、中国外務省は「中国の神聖な領土を売買することを決して許さない」との報道官談話を発表。台湾の馬英九総統も「国家主権などの立場では少しも譲ることができない」と述べた。
 今秋には日中国交正常化40周年を迎える。深まる経済関係に加え、朝鮮半島情勢などをめぐり中国とのより良好な関係構築は欠かせない。日台関係も馬総統が認める通り「現在最も友好的な状態」である。騒ぎを大きくして、関係がぎくしゃくする愚は避けなければならない。政府も東京都も冷静に慎重に手続きを進めるべきである。

京都新聞(7月8日付)「尖閣国有化方針 日中は冷静さ取り戻せ」
 野田佳彦首相は尖閣諸島(沖縄県石垣市)を国有化する方針を固めた。購入を表明している東京都の石原慎太郎知事にも伝えた。
 野田首相と中国の温家宝首相は今年5月の首脳会談で、尖閣周辺での中国の活動について激論をたたかわせた経緯がある。中国に対して弱腰との批判をかわしつつ、尖閣問題の主導権を都から国に取り戻すのが狙いとみられる。
 外交は国の専権事項だ。刺激的な言動が目立つ石原氏の都が購入すれば、日中間の感情的な対立に発展する恐れがある。国が尖閣問題に責任を持つ姿勢を明確にするうえでも妥当といえる措置だ。
 ただ、中国側の反発は必至だ。関係悪化につながらないよう、慎重に進める必要がある。
 中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1971年。周辺海域に石油がある可能性が報告された後のことだ。92年には自国の領海法に固有の領土と位置づけ、一昨年には東シナ海を「核心的利益」に属する地域とした。
 これに対し政府は「領土問題は存在しない」という立場を貫く一方、施設整備など実効支配を強める措置をとってこなかった。
 それが気に入らない石原氏は、「日本人が日本の国土を守ることに文句があるのか」「東京が尖閣を守る」と挑発的な言葉を連ね、自衛隊の配備さえ訴える。
 尖閣諸島が国際的にも歴史的にも日本の領土であることは疑いない。その意味で石原氏の主張は正論に聞こえるが、日中関係の歴史と深い相互依存の現実を踏まえれば適切な言動とは思えない。
 78年に日中平和友好条約締結のため来日した故鄧小平副首相(当時)と政府は、友好関係に水を差す尖閣問題に双方が触れず、問題解決を将来世代に託すことで一致した。感情的対立に陥りがちな領土問題を避け、親善と経済交流を深める外交上の知恵だった。
 同様の「先送り」は通用しないとしても、国が尖閣問題の主導権を握ることで、議論に冷静さを取り戻したい。
 心配は世論の動向だ。中国政府の型通りの反発は想定内だが、先鋭化した反日世論が政府を突き上げる恐れがある。
 一方、日本国内でも対中強硬派の石原氏への賛同者は多い。都には13億円を超える購入資金の寄付が集まった。
 日中両政府は、国内の強硬論に流されて戦略的互恵関係という貴重な土台を崩すようなことがあってはならない。
 日本は揺るぎない立場を堅持しつつ、国有化の意図を中国側に丁寧に説明すべきだ。疑心暗鬼を取り除き、世論を落ち着かせたい。

神戸新聞(7月10日付)「尖閣国有化/環境整備へ慎重さ忘れず」
 政府は沖縄県・尖閣諸島の国有化に乗り出す方針を固めた。東京都の石原慎太郎知事が4月に発表した購入構想を受けての決定である。
 尖閣諸島が日本固有の領土であり、領有権を主張する中国との火だねになっていることを考えれば取るべき道だろう。
 野田佳彦首相が言うように、尖閣諸島を「平穏かつ安定的に維持管理する」には、民間ではなく、国の所有が望ましいのは言うまでもない。
 その上で政府はしっかりと管理し、トラブルを起こさないよう環境を整える。そうした慎重さを忘れないことだ。
 尖閣諸島は主に五つの無人島からなる。既に国有化されている大正島を除く4島は民間人が所有するが、現在は安全管理上、国が地権者と賃借契約を結んでいる。このうち魚釣島と北小島、南小島の3島を国有化する方針という。
 だが、交渉は難航する様相だ。地権者は国への売却を渋り、石原知事も「とりあえず都が購入する」と譲らない。
 それでも、野田政権は尖閣問題の主導権を都から国に取り戻したい思いが強いのだろう。国有化の裏に、民主党分裂で足元がぐらつく中、毅然(きぜん)とした外交姿勢をアピールする狙いがうかがえる。
 政権浮揚につなげる思惑だけで国有化を進めることがあってはならない。
 中国に厳しい発言をする石原知事の購入構想が実現すれば、日中間の対立がエスカレートしかねない。それを懸念し「国が購入する方がまし」と判断したという見方もある。
 中国政府は現段階で国有化を非難する報道官談話を発表した以外、かつてのような厳しい反応は見せていない。
 しかし、国民感情を刺激しやすい領土問題に火がつけば、反日世論が一気に高まるのは間違いない。そんな事態に発展させることは避けるべきだ。
 今回の国有化方針には、米国も憂慮している。国防や経済戦略の軸足をアジア太平洋地域に移しつつある米国にとり、日米中の安定した関係が不可欠なためだ。日本にとっても重要な関係であり、そうした情勢も受け止める必要がある。
 領有権問題はいずれ決着しなければならない。大切なのは、そのタイミングである。日中関係が一昨年の中国漁船衝突事件からまだ十分に改善されていない現状では、国有化はむしろマイナスの方に強く働かないだろうか。
 国有化を実現する前に、信頼関係を深めておくことだ。敏感な問題だからこそ、沈着で冷静な姿勢が要る。

島根/山陰中央日報論説(7月10日付)「尖閣国有化/政府が責任を持って管理を」
 野田政権が、沖縄県の尖閣諸島を国で購入する方針を決め、地権者らとの交渉に入った。尖閣諸島は現在、民間人が所有しているが、今年4月に東京都の石原慎太郎知事が購入する意向を表明している。政府は地権者や都と丁寧に話し合うとともに、毅然(きぜん)とした姿勢を国内外に示してほしい。
 領土・領海・領空を守るのは国の役割であり、東京都が所有するよりも国有化する方が理にかなっている。政府が責任を持って、周辺での挑発的な行動を防ぎ、安定的な維持・管理を進めるのが筋だろう。
 尖閣諸島は「歴史的にも国際法上も日本固有の領土」であるとの日本政府の立場ははっきりしており、実効的に支配もしている。誰が所有するかはあくまでも日本の国内問題である。
 領有権を主張する中国や台湾は国有化方針に反発している。政府は「日本固有の領土」という基本線を踏まえた上で、いたずらにあつれきを招くことなく、中国や台湾の反応、アジア太平洋地域の情勢も考慮に入れながら、政府は関係者との調整を静かに進めるべきだ。
 石原知事は地権者との間で長年築いてきた信頼関係を理由に、政府より先にまず東京都が購入するとの考えを示している。購入計画の表明後、今までに都には13億円を超える寄付金が集まっているという。
 知事は国有化方針を野田政権の「人気取り」とも批判した。もちろん政権浮揚が目的であってはならないのは当たり前だ。一方で政府と東京都がもめている印象をさらけ出すのも好ましくない。沖縄県や石垣市の意向も十分に聞いて、地元が納得する形に収める必要もある。
 政府が国有化を検討しているのは、石原知事が購入の意向を表明している魚釣島と北小島、南小島の3島。2002年からは政府が「平穏で安定的な維持・管理を図る必要がある」として年間約2500万円の賃料を払って借り上げている。
 契約は1年ごとで、来年3月末に現契約が切れる。石原知事は契約期限後に購入する考えを示しているが、藤村修官房長官は「より安定的にする考え方がある」と国有化方針の理由を説明する。
 尖閣諸島は明治政府が1895年に日本に編入。太平洋戦争後は米国の施政権下に入ったが、沖縄とともに返還された。中国が領有権を主張し始めたのは、1960年代後半に周辺で海底資源の存在が指摘されてからだ。
 周辺海域では2010年9月に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起き、今月初めには台湾の活動家が乗る船や巡視船が日本の領海内に一時侵入した。
 今回の国有化方針に対しても、中国外務省は「中国の神聖な領土を売買することを決して許さない」との報道官談話を発表。台湾の馬英九総統も「国家主権などの立場では少しも譲ることができない」と述べた。
 今秋には日中国交正常化40周年を迎える。深まる経済関係に加え、朝鮮半島情勢などをめぐり中国とのより良好な関係構築は欠かせない。日台関係も友好的な状態にある。騒ぎを大きくして、関係がぎくしゃくする愚は避けながら、政府も東京都も冷静に対処してほしい。

西日本新聞(7月10日付)「尖閣国有化、国管理の方が理にかなう」
 中国が領有権を主張している沖縄県尖閣諸島について、野田佳彦首相は国有化を目指す方針を固め、地権者側との交渉に入った。
 尖閣諸島に関しては、東京都の石原慎太郎知事が4月、都が購入する計画を明らかにし、論議を呼んでいた。
 首相は尖閣国有化の目的として「平穏かつ安定的に維持管理する」ことを挙げている。都よりも国が所有する方が、外交関係の火種となっている領土をうまく管理できるという考え方である。
 尖閣諸島は明治政府が1895年の閣議決定で正式に日本領土に編入した。1969年に国連が周辺の大陸棚油田の調査結果を発表すると、70年代から中国や台湾が領有権を主張し始めた。
 日本政府は一貫して「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土。日本が実効支配しており、日中間に領土問題は存在しない」との立場をとっている。
 しかし、2010年に同諸島沖で中国漁船衝突事件が発生して以降、尖閣をめぐる問題は、両国間の最大の懸案事項となっている。
 対中強硬派として知られる石原氏が尖閣購入計画を打ち出したのは、都が同諸島で種々の事業を行い、実効支配を強めることで、中国の主張をはねつけようとの狙いがあるとされる。
 ただ、尖閣から遠く離れた一自治体の東京都が、尖閣問題の主導権を取ろうとするのは無理がある。外交や領土の防衛は、すぐれて国の仕事であるからだ。
 例えば、都が尖閣で何かアクションを起こし、中国が反発して外交上の対抗措置をとった場合、外交の主体ではない都はそれを収拾できない。原因は自治体がつくり、結果には国が対応するというのでは、責任の所在にねじれが生じる。
 そうした事態をあらかじめ防ぐためにも、都ではなく国が尖閣を所有するという野田首相の方針は理にかなっており、一定の評価ができる。
 石原氏の購入計画には、領土保全の責任は公(おおやけ)が負うべきだという問題提起の意味があった。石原氏は購入計画の発表時に「本当は国が買い上げたらいいが、国はやらない」と発言している。それなら、国が乗り出した以上、国に任せるべきではないか。
 ただ、国有化の動きが進めば、中国側の反発は強まる可能性がある。都の購入計画に対しては、一自治体の動きとして重大視しない姿勢もうかがわせていたが、国有化となれば看過しにくい。
 中国は秋に予定される指導部交代を前に、世論の動向に敏感になっており、ネット上の愛国世論に押され、尖閣問題で一層強硬な動きにも出かねない。
 日本政府は、粛々と尖閣国有化の手続きを進めながら、中国に対し国有化による安定管理の意義を示すべきだろう。
 平たく言えば、争いを大きくしたいのではなく、争いを起こさないための措置なのだ、と説くことが大事である。

鹿児島/南日本新聞(7月12日付)「尖閣国有化方針 火種をあおらず淡々と」
 野田佳彦首相が沖縄県の尖閣諸島を国有化する方針を表明した。すでに地権者側と交渉を始め、先に購入方針を打ち出した東京都とも調整しているという。
 尖閣諸島をめぐっては1971年に中国、台湾が領有権を主張してから摩擦が絶えない。不測の事態を防ぐとともに、日本の領土として安定管理するには、民間や都より国の所有の方が望ましい。
 首相は「平穏かつ安定的に維持管理する観点から、総合的に検討している」と説明した。購入交渉は淡々と進め、領土問題の火種をあおる愚は避けるべきだ。
 購入対象は尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の3島で、国が2002年から年間約2500万円で借りている。購入すれば国有化されている大正島を含めて、主な無人島5島のうち4島を国が所有することになる。
 ただ、今のところ購入のめどはついていない。今年4月に米ワシントンで購入宣言した石原慎太郎東京都知事は、政府の購入方針を「支離滅裂」と批判、まず都が買う考えを変える気はなさそうだ。
 石原氏の購入表明後、都への寄付金は13億円を超えたという。今さら譲歩できない事情は想像に難くない。また、地権者も関係者を通して、石原氏以外に売却しない旨を表明したという。
 政府の調整不足は明白だ。消費税増税をめぐり民主党が分裂し、支持率も低迷する中、領土保全で成果をアピールしたい思いが焦りを生んだのではないか。
 拙速な購入が国内分裂との印象を海外に与えるのは得策でない。政府は沖縄県などとも連携して、慎重に進めるべきだ。
 石原氏は中国に対して刺激的な発言が多い。だが、尖閣購入では「都が取得した後で国に渡しても結構だ」と述べた。摩擦をことさら高めないためには、都の購入にこだわらない方がいい。
 日本政府の国有化方針に対し、中国は「日本側のいかなる一方的措置も不法で無効」と早速反発した。台湾側も尖閣諸島で領海を侵犯したばかりである。
 尖閣諸島は日本が1895年に領土に編入し、第2次大戦後の1972年に沖縄とともに米国から返還された日本固有の領土だ。中国などの主張は到底受け入れることができない。
 しかし、日本の正当性を主張するだけでは、問題解決に向けた進展がみられないのも確かである。特に中国は反日世論に押され、強硬姿勢を強める可能性がある。
 尖閣諸島国有化は国内問題として冷静に処理し、外交関係の悪化を招かないようにすべきだ。

<参考>

 オスプレイ配備問題を取り上げた社説も少なくないのですが、河北新報は、中国側が神経をとがらせる米軍の「アジア回帰」と絡めて捉える視点を出している点で注目に値すると思いますので、参考までに紹介しておきます。

宮城/河北新報「オスプレイ配備/国民はノーと言えないのか」
 米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイが、24日にも米軍岩国基地(山口県岩国市)に搬入される。予定通りなら、10月から米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)で運用を始める。
 日本に配備されるのは24機。老朽化した現在の輸送用ヘリと交代する。
 速度や航続距離が大幅に向上するとの触れ込みだが、開発段階から事故が相次ぐ、いわく付きの輸送機だ。ことしもモロッコと米フロリダ州で墜落事故を起こしており、技術的な完成度にも疑問符が付いている。
 そうした問題機を、よりによって住宅地に囲まれた普天間に配備することは、およそ妥当な選択とは言えまい。基地負担の軽減という沖縄県民との約束にも逆行する。
 基地に反対する立場の住民だけが声を上げているわけではない。沖縄県の仲井真弘多知事や、米軍基地容認の立場を取る岩国市の福田良彦市長も、搬入・配備や運用開始に強い拒否の意向を示している。
 それでも配備計画は粛々と進む。
 中国の海洋進出に神経をとがらせる米軍の「アジア回帰」の一環と位置付けられるオスプレイ配備に、政府が物申そうという姿勢は全く感じられない。
 普天間移設をめぐる混乱や環太平洋連携協定(TPP)参加問題など、日米間の懸案が日本側の事情で進まない状況が続いており、政府が米国に「借り」をつくった状態にあることと無関係ではあるまい。
 米国は「機体の安全性に問題はない」の一点張りだ。来日したクリントン国務長官は配備計画の堅持を表明。パネッタ国防長官も「日本側の懸念は払拭(ふっしょく)できた」と述べ、聞く耳を持たない様子だ。
 政府は「基本的に米軍の機材変更であり、配備計画に疑義はない」との立場を表明している。日本政府には手の届かない問題として扱おうとの思惑も、透けて見える。
 「米国が安全と言うから安全」という姿勢は、原発をめぐる電力会社と規制当局のもたれ合いと二重写しだ。反対を押し切った上で事故が起きれば、沖縄県民の生命と財産が失われかねないのだ。
 「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくる」。政権交代を果たした2009年衆院選での民主党の政権公約は、どこかへ消し飛んでしまった。
 本格運用の開始後、オスプレイは現行の米軍機訓練ルートを使い、東北上空を含む全国の空域で低空飛行訓練を実施する。  青森-福島、青森-新潟と、2本のルートの起終点となる青森県の三村申吾知事は、「関係自治体の意向を尊重すべきだ」と話し、米国の事故情報を地元側に説明するよう求める。
 「危ない輸送機」が運び込まれることだけが問題なのではない。配備拒否を求める国民の声が日米どちらの政府にも届かないこと、それがオスプレイをめぐる一番の危うさだ。

<「お粗末」を極める全国紙社説>

 いつもながらのことですが、いわゆる全国紙の社説の「お粗末」ぶりは、今回も際立っていました。もはや狭隘なナショナリズムのPR機関に成り下がっています。見識の一かけらも窺うことができません。

朝日新聞「領海侵入―中国は冷静に振る舞え」
 沖縄県の尖閣諸島沖で、中国の漁業監視船3隻が日本の領海に侵入した。
 野田首相が尖閣諸島3島の国有化を表明した直後である。これに対抗して、領有権を主張する狙いと見るのが自然だろう。
 いたずらに両国間の緊張を高める行為であり、中国側の自制を強く求める。
 折しも、カンボジアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議に合わせて、日中の外相が会談する当日だった。
 玄葉光一郎外相は会談で、尖閣問題について「平穏かつ安定的に維持管理していくことが重要」と説明した。
 中国側には、さきに尖閣諸島購入を表明した東京都の石原慎太郎知事の動きに乗じて、日本政府が国有化によって現状を変えようとしている、という受け止め方がある。
 誤解である。
 民間所有であっても、都や国の所有であっても、日本の領土であることに違いはない。しかし、都が買った場合、中国に強硬な姿勢をとる石原氏が挑発的な行動に出る恐れがある。
 予期しない事態の発生を防ぐためには、国有化は理にかなっている。
 長い目で見れば両国の利益になることを、中国側は理解すべきである。
 周辺海域ではここ数年、中国の監視船による領海侵入が繰り返し起きている。むしろ中国側こそ、そうした挑発行為はただちにやめるべきだ。
 両国関係の悪化は、中国にとっても得策ではあるまい。外相会談は、双方がそれぞれの立場を主張して終わったが、予定時間を超え、冷静な雰囲気の中で行われたという。
 中国政府にも、これ以上、過熱させたくないという思いがあると受けとめたい。
 中国は南シナ海でも、フィリピン、ベトナムとの間で領有権をめぐる対立を深めている。ASEANの一連の会議でも、この問題がテーマになった。
 そうした中で、今回の領海侵入は中国の強硬ぶりを改めて印象づけ、東南アジアの国々も警戒を強めたのではないか。
 中国は、今年後半に指導部の大幅な交代を控える。国内の体制固めに躍起になるあまり、インターネットなどの「弱腰」批判を気にして力の誇示に傾く場面が増えている。
 中国の振る舞いは、一つ間違えば周辺国に脅威と映りかねないことを自覚すべきだ。
 「大国」を自任するのであれば、冷静に行動できることを示して欲しい。

読売新聞「中国の領海侵入 尖閣諸島への挑発は目に余る」
 中国政府の船による尖閣諸島周辺での領海侵犯は目に余る。
 日本は、外交を通じて中国に自制を促すとともに挑発に対応できる体制を整えねばならない。
 中国の漁業監視船3隻が11~12日、尖閣諸島近海の日本の領海を相次いで侵犯した。本来は中国の漁業権益を守るのが役目だが、連日の示威活動は異例だ。
 海上保安庁の巡視船の退去要求に対し、中国側は「正当な公務の執行であり、妨害するな。ただちに中国の領海から離れよ」と強い表現で応答し、周辺海域からもすぐには立ち去らなかった。
 日本政府が尖閣諸島の国有化方針を打ち出したことへの対抗措置なのだろう。中国政府の強い意志をうかがわせる行動である。
 日本の主権に対する侵害は看過できない。玄葉外相がプノンペンでの日中外相会談で楊潔?中国外相に抗議したのは、当然だ。
 楊外相は、尖閣諸島を「中国固有の領土だ」と述べ、協議は平行線に終わった。
 しかし、中国の不当な主張には粘り強く反論し、行動を改めるよう求めていくことが肝要だ。
 3月にも中国巡視船が日本の領海に入った。中国は今後、巡視船を増強する方針だ。海軍拡充も著しい。尖閣諸島周辺海域で緊張が高まることは避けられない。
 日本政府は、尖閣諸島に不法上陸される事態に備え、海保や警察の体制強化を図るとともに、必要な法整備を急ぐ必要がある。
 国会は、離島での海保による犯罪検挙を認める海上保安庁法改正案について、なぜ審議入りしないのか。早く成立させるべきだ。
 中国を抑止するため、最も重要な役割を果たすのが日米同盟だ。米政府が尖閣諸島について、日米共同防衛の対象地域だと明言していることは極めて重要である。
 日本政府も、南西諸島など島嶼部の防衛強化を打ち出しており、着実な具体化が大事だ。
 中国の海洋進出を懸念しているのは東南アジア諸国連合(ASEAN)各国も同様である。
 ASEANはプノンペンでの中国との外相会議で、南シナ海での関係国の活動を法的に拘束する「行動規範」を策定する協議に入るよう提案した。
 だが、中国はこれに応じていない。規範ができれば、中国の行動が制約されかねないからだ。
 紛争を避けるには、実効性ある海のルールが欠かせない。日米両国はASEAN各国と連携し、中国を説得すべきである。

毎日新聞「国の尖閣購入 手続きは静かに淡々と」
 東京都が民間人の地権者と買い取り交渉を進めている尖閣諸島(沖縄県石垣市)について、野田佳彦首相は国有化に踏み切る方針を固めた。私たちは「領土の保全は国の仕事であり、都が出てくるのは筋違いだ」と主張してきた。その点からは、都が購入するより国が所有する方が道理にかなっているだろう。手続きは静かに淡々と進めるべきだ。
 尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土だが、中国も領有権を主張して日中間の火ダネとなっている。こうした中、石原慎太郎都知事が今年4月の米国での講演で「東京が尖閣諸島を守る」と購入計画を明らかにしたことで、島の管理のあり方が焦点に浮上していた。
 尖閣諸島のうち魚釣島、南小島、北小島の3島は政府が地権者から借りて賃料を毎年支払っているが、領土保全の観点からは安定的とは言いがたい。このためかつては政府も国有化を検討したが、地権者と話が折り合わなかった経緯がある。
 石原氏の問題提起は所有形態をめぐる不安定な状況を解消し、日本の実効支配を崩そうとする中国から尖閣諸島を守る、というものだった。都にはすでに13億円を超える寄付金が集まっており、年度内にも購入契約を結ぶ方向となっている。

日本経済新聞(7月10日付)「尖閣の円滑な国有化に都知事も協力を」
 政府が沖縄県の尖閣諸島を買い上げる方向で動きだした。すでに東京都の石原慎太郎知事が購入の計画を進めている。だが、ここはぜひとも政府が直接、地権者から買えるよう協力してほしい。
 同諸島の安全を保ち、しっかり管理するためには、国が保有するほうが望ましいからである。
 政府が購入しようとしているのは尖閣諸島のうち、魚釣島、南小島、北小島だ。これらは個人が所有しており、政府が年度ごとに賃料を払い、借り上げている。
 尖閣諸島が日本の固有の領土であることは疑いない。だが、中国は領有権を主張し、海軍力の拡充などで日本へのけん制を強めている。中国の監視船や漁船が接近しようとする事例も相次ぐ。
 こうした動きに対応するうえでも、政府は賃貸方式を改め、尖閣諸島をきちんと保有すべき時期にきている。
 国有化には中国の反発も予想される。だが、所有の形態を不安定なままにしておくよりも、政府の厳しい管理下に置いたほうが、中国との意図せぬ紛争を防ぐうえでも好ましいだろう。
 「国が買い上げればいいが、買い上げない。東京が尖閣を守る」。石原知事は今春に都による購入計画を打ち出したとき、こんな趣旨の発言をしている。だとすれば、政府がここにきてようやく買い上げの意向を固めた以上、その実現に協力するのが筋だろう。
 都には購入を前提に、すでに多額の寄付金が寄せられている。地権者が、政府への売却には難色を示しているとの情報もある。交渉は難航するかもしれない。
 しかし、ここは国益にとって何が最善かという原点に立ち返り、円滑な国有化のために協力するよう望みたい。しかも、政府と都、地権者による調整は静かに、淡々と進めることが好ましい。
 所有権をめぐって日本の内部が割れているような印象を海外に与えることは、決して得策ではないからである。
 尖閣諸島の実効支配を保ち、強めていくのは政府の責務である。同諸島を守るための対策は万全かどうか。「海の警察」である海上保安庁の体制も含め、これを機に洗い直すべきだ。
 この問題などで日中関係がさらにこじれることも考えられる。政府は領土問題で毅然とした対応をとる一方で、中国との対話にも努めてもらいたい。

産経新聞主張(7月12日付)「中国の尖閣侵犯 統治強化もはや猶予なし」
 中国の漁業監視船3隻が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した。野田佳彦政権が尖閣国有化方針を示したことに対する明らかな挑発行為である。
 玄葉光一郎外相はプノンペンで中国の楊潔篪外相と会談し、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権問題そのものが存在しない」と日本政府の立場を主張し、漁業監視船の領海侵犯に強く抗議した。
 外務省の佐々江賢一郎事務次官も程永華駐日中国大使を同省に呼び、「非常に深刻だ。容認できない」と抗議した。佐々江氏は今年3月にも、中国側の領海侵犯があったことを指摘し、「再発防止を求めたが、再度侵入したことは極めて遺憾だ」とも述べた。
 当然である。今後も中国の領海侵犯が度重なるようなことがあれば、対抗措置を実行すべきだ。
 海上保安庁によると、日本の巡視船が中国の監視船に領海からの退去を求めたところ、「中国の海域で正当な公務を執行している」「妨害するな。直ちに中国領海から離れよ」などと主張した。
 中国の明確な国家意思に基づく計画的な領海侵犯であることを示している。先の台湾巡視船の領海侵犯も、台湾当局の意思による計画的な行動だった。尖閣周辺の事態は猶予を許さない状況だ。
 尖閣国有化の政府方針が明らかになって以降、東京都には「国でなく都が購入すべきだ」という意見が多く寄せられている。尖閣諸島の魚釣島などを所有する地権者も、国への売却に難色を示しているといわれる。
 国有化以外に有効な有人化対策などを打ち出せないでいる民主党政権への不信感があるとみられる。野田政権は早急に実効統治強化策を講じるべきである。
 藤村修官房長官が参院予算委員会で、尖閣諸島を管轄する石垣市による魚釣島での慰霊祭を認める可能性に言及したことは、評価できる。終戦前、石垣島から台湾に向けた疎開船が魚釣島に漂着し、食糧難などで死亡した人々を弔う行事で、市が上陸許可を求めたが、認められなかった。
 石垣市が求める環境調査なども国は認めるべきだ。海上警察権を強化する海上保安庁法改正案の早期成立や、領海侵犯した外国公船を強制排除するための法整備も国の仕事だ。尖閣問題で国は東京都と牽制(けんせい)し合うのではなく、できることを速やかに実現すべきだ。

<全国紙並みの内容の地方紙>

地方紙の中にももちろん全国紙並み(あるいはそれらよりは若干マシ)のお粗末な内容のものもありました。

新潟日報「尖閣国有化 石原氏の筋書き通りでは」
 摩擦がエスカレートしてしまった。野田佳彦首相は、まさに内憂外患を抱える。
 中国の漁業監視船3隻が沖縄県・尖閣諸島付近の領海に侵入した。野田首相が尖閣を国有化する方針を示していた。これに対して、領有権を主張する中国が反発行動に出たとみていいだろう。
 同じ日、日中友好の象徴であるパンダの赤ちゃんが死んだ。タイミングが悪すぎる。
 尖閣は固有の領土と日本政府は位置付けている。領海侵入には厳しい態度で臨まなければならない。外務次官がすぐに駐日大使に抗議したのは当然のことだ。
 ただ、消費税増税法案の国会審議や党分裂などの難局に直面するこの時期に、どうして首相は尖閣国有化を打ち出したのか。
 尖閣は石原慎太郎東京都知事が4月に突然、都が購入する計画があると発言して波紋を広げた。
 都が購入することで過度に中国を刺激するより、安定的な領土保全のためにも、国有化の方が望ましいとの考え方もできよう。理解を示す声も少なくない。
 一方で、「(国有化発言は首相の)人気取りだ」と、石原氏は冷ややかだった。
 確かに弱腰と批判されてきた外交で強い姿勢を見せ、世論の支持を得たい思惑が首相には見える。
 だが、政権浮揚につながるかどうかは不透明と言わざるを得ない。
 国有化は、都がいったん購入してから国に渡す2段階方式も石原氏から提案されているという。
 官邸の方針というより、都の購入方針に背を押され、石原氏の筋書き通りに国が動いたと映る。
 国の買い取りが円滑に進むのかにも疑問符が付く。島の地権者は国には外交のセンスがないと、都への売却を望んでいた。
 都の税金を沖縄の島購入に充てることへの批判があり、賛同者から募った寄付金は13億円を超えた。国が購入するなら、都への寄付金はどう扱うのか。課題は多く、簡単に事は運びそうにない。
 3年前の民主党政権移行から、首相は野田氏で3人目だ。外相も交代を繰り返してきた。
 政治が安定しなければ、しっかりした外交戦略は描けない。他国首脳とパイプを築くことも難しい。
 カンボジアを訪問した玄葉光一郎外相は今回の事態を受けて、中国の楊潔チ外相と会談した。
 国有化の即時撤回を求めた楊外相に、玄葉外相は「尖閣に領有権の問題は存在しない」と強調した。毅然とした対応は評価できるが、堂々巡りが続いている。
 中国は秋の共産党全国代表大会で、国家指導者の世代交代が行われる。領有権をめぐっては南沙、西沙両諸島でベトナムやフィリピンと対立している。
 正しい情報を収集してカードを蓄えながら、硬軟バランスを取った交渉力を持たなければならない。国益のため全知を傾ける外交こそが求められている。

石川/北國新聞「尖閣国有化方針 慌てず粛々と進めたい」
 玄葉光一郎外相が訪問中のプノンペンで中国外相に尖閣諸島の国有化方針を伝えた。中 国側は尖閣を「中国固有の領土」と重ねて強調し、双方の主張は平行線に終わったが、歴史的にも国際法上も尖閣が日本の領土であることは疑いない。慌(あわ)てず騒がず、粛々(しゅくしゅく)と国有化を進めたい。
 魚釣島など3島を購入する手続きは、東京都の石原慎太郎知事が地権者の信頼を得て進めている。購入を目的とした募金も13億円に達しており、いったん都が購入した後、国有化する方がスムーズに進むのであれば、国は一歩下がって交渉を見守ってほしい。
 野田佳彦首相が国有化方針を示した後、尖閣周辺では台湾の活動家や中国の漁業監視船が領海内に侵入した。台湾の活動家が中国国旗を振りかざし、中国との連携を叫んだことから見ても一連の騒ぎの背景に中国政府の明確な意思が読み取れる。個人所有の島を日本が国有化すれば、日本の実効支配をより強固なものにすると危惧しているのだろう。
 注目すべきは、中国政府が今回、声高な日本非難を避けている点である。大々的な非難を行えば、以前のような反日デモが各地で起きかねない。そうしたデモが思惑通り「官製デモ」にとどまっているうちはいいが、いつ政府批判に転じるか分からない。だからこそ非難も控えめにせざるを得ないのではないか。
 中国は尖閣諸島の領有権を主張はしているが、明確な国際法上の根拠を示していない。 一説によると、尖閣諸島が中国大陸の大陸棚の上にあるというのが論拠とも言われるが、国際法を無視した主張であり、認められない。
 日本政府がすべきことは国有化と同時に、実効支配を深化していくことである。最新の大型巡視船を投入し、海上保安官を増員して領海の守りを固めることである。尖閣だけでなく、排他的経済水域(EEZ)の基点となる沖ノ鳥島や南鳥島などの保全も重要だ。日本は今後も領海侵犯を繰り返すであろう中国船を根気良く排除し続けることで、国家の意思を示していくほかあるまい。

徳島新聞(7月10日付)「尖閣国有化方針 領土保全は国の責務だ」
 野田佳彦首相が、沖縄県石垣市の尖閣諸島を国有化する方針を打ち出した。対象は、東京都の石原慎太郎知事が今年4月に買い取りを表明した魚釣島など3島で、既に都と地権者に打診しているという。
 主に五つの無人島からなる尖閣諸島をめぐっては、海洋権益を狙って領有権を主張する中国や台湾との間でトラブルが多発しており、その平穏かつ安定的な管理は国家主権にかかわる最重要課題となっている。
 だが国有化されているのは大正島だけで、残り4島は国が賃借して管理しているのが実態だ。紛争の火種になりかねないにもかかわらず、なぜこうした所有形態を続けてきたのか。国は批判されても仕方がないだろう。
 魚釣島など3島を東京都が購入すれば、管理の在り方はこれまで以上に複雑化する。領土保全に都が関与することで、国が担うべき外交・国境政策でも政府のコントロールが効かなくなる恐れがある。
 そうした不安定な状態で中国との関係が緊迫化し、周辺海域も含めた安全確保が難しくなる事態は何としても避けなければならない。
 今年5月に北京で行われた野田首相と温家宝首相との日中首脳会談でも、尖閣諸島をめぐって激しい議論が交わされた。日本政府としては、魚釣島などの国有化で領土保全の意思を明確化し、実効支配を強化する姿勢を内外にアピールする狙いがあるのだろう。
 歴史的にも国際法上も日本固有の領土である尖閣諸島を保全していくには、国が所有することが望ましいのは言うまでもない。一日も早く不安定な状態を解消するためにも、政府は国有化に向けた手続きを粛々と進める必要がある。
 とはいえ、野田首相の方針表明に唐突感が否めないのも事実である。3島を所有する地権者は国への売却に難色を示しているほか、石原知事も都が購入する方針を変えない意向を表明している。調整不足は明らかで、国有化のめどは立っていないのが実情だ。
 島の所有をめぐって国と都が対立を深めれば、日本政府に領土問題を認めさせようと揺さぶりをかける中国側にとっては好都合だろう。
 石原知事は、都が購入した後で国に譲り渡すとの意向も示している。政府は中国側の思惑も念頭に、島の国有化に際しては柔軟な姿勢で臨んでもらいたい。
 野田首相の国有化方針に、中国政府は反発を強めている。ただ対中強硬派の石原知事と対峙(たいじ)するより、日本政府と交渉を続ける方が日中関係の決定的な悪化は回避できるとの計算も見え隠れする。
 今秋に中国共産党大会を控える指導部としても、今は対外関係で波風を立てたくない時期だろう。尖閣諸島の国有化は島の所有権をめぐる国内問題であり、中国側には冷静な対応を求めておきたい。
 日本政府に必要なのは、中国側の示威活動に毅然(きぜん)とした姿勢で臨みつつ、揺るぎない形で実効支配を続けていくことである。
 一方で、中国側と連絡を取りながら国有化の手続きを進めるなど一定の配慮も必要だ。問われているのは民主党政権の外交力である。

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