野田政権の尖閣「国有化」方針と中国側立場

2012.07.15

*野田政権が7月6日に尖閣諸島の本島、南小島及び北小島3党を国有化する方針を石原都知事に伝えたことが日本各紙によって報道(翌7日付)されてから、中国側の対日論調は日に日に厳しさを増してきています。石原が問題の中心にいた段階では、「このような極端で、根っからの極右政治屋に対しては、…中国政府としてはあまり神経質になる必要はない」(梁雲祥・北京大学教授)、「石原の桁外れの言論や挙動に一々反応するのは彼の思うつぼにはまってしまうのだから、肩すかしで構わない方がいい」(周永生・外交学院教授)(いずれも7月6日付広州日報をソースとする「専門家発言:石原慎太郎は日本の政治の主流ではなく、敏感になる必要はない」と題する記事での発言)と冷静な対応を呼びかけ得る発言も掲載されていましたが、7月7日を境に中国メディアの対日論調は、1,2の例外を除き、一斉に強硬姿勢に転じました。
 私はこのコラムで前回この問題を取り上げましたが、中国側の反応は私が憂慮したとおりの厳しいものになっています。中国側がどのようにこの問題を捉えているのかについて紹介しておきたいと思います。特に、最後に紹介する人民日報と新華社の文章はきわめて重要です。時間のない方は途中をスキップして結構ですので、この二つの文章には是非目を通してください(7月15日記)。

<野田発言に対する中国外交部の劉為民報道官発言(7月7日)>

 釣魚島及び付属島嶼は古来から中国の固有の領土であり、中国側はこのことについて論争の余地のない歴史的及び法的根拠を持っている。中国の神聖な領土は何人が売買の対象とすることを絶対に許さない。中国政府は、必要な措置をとって、釣魚島及び付属島嶼に対する主権を断固擁護する。

<新華時評「日本政府の「島買い上げ」のドタバタ劇は「火遊び」(7月8日付)>

 今回の「釣魚島購入」というドタバタ劇において、ずっとその気があるようなないようなフリをし、幕の陰に身を隠していた日本政府が今やついに舞台に出て来た。この期に釣魚島問題における立場を「固める」ことを狙うやり口は、中日関係の大局に不利な影響を生みだすに違いない。(中略)
 今日本政府は中日関係の大局を顧みず、ドタバタ劇の主役として出演することを決めた。このようなやり口は、両国指導者がこれまでに達成した共通認識に悖るばかりではなく、釣魚島問題に関する両国の政策空間をさらに縮小し、すでに複雑化した状況をさらに複雑にするものである。
 中日関係の動向に関心がある人々は、民主党政権が登場して以来一貫して情勢が非常に不安定であり、最近は消費税を上げる問題で大いに気勢が削がれていることに目を向けている。日本政府がこの時に「島購入論」を打ち出すということは、日本国内における右翼勢力の台頭という要素があるとともに、日本政府がこの問題を借りて国内矛盾をそらせる狙いがあることを示している。
 国内の政治経済が困難に直面したとき、真っ先に内部的に如何に問題を解決するかを考えるのではなく、対外的に矛盾を作り出して国内矛盾を「相殺」するというようなやり方は冷静でないし、責任を負おうとしないもので、「一時の急を免れるために大害を顧みない」に等しく、国内問題の解決に資さないだけでなく、中日関係の大局ひいては地域全体の安定に影響を及ぼし最終的には日本自身の利益をも傷つけることになる。
 野田佳彦は、昨年末に訪中したとき、中日の政治的相互信頼を増進することは両国関係の重要な基礎であると明確に述べた。まだその声が耳に残っているのに「島購入論」を打ち出す。このような言動で、どうして相互信頼になるのか。
 今年は国交正常化40周年に当たっており、両国関係発展において、過去を受けて未来を開き、将来に目を向けるべき一年である。中日関係の重要性は両国ともに知っているが、釣魚島問題が両国関係の発展に作り出すショックも同様に言うまでもなく明らかである。
(なお、新華社は7月10日付新華社時評として、「日本政府の「島購入」どたばた劇は「火遊び」と同じ」というタイトルで日本語訳を掲載していますが、「無斷転用、複製、掲載、転載、営利目的の引用は禁じます」とありますので、私の拙い訳のままにしておきます。)

<7月9日付各紙の論調>

 7月9日には、私の目に入ったものだけでも次のような文章がありました。

〇中国青年報「日本の釣魚島「購入」ドタバタ劇、日に日に騒がしく、政府が公然と入り込む」 この記事では、「「国有化」計画は完全に首相官邸自らが仕組んだものだ」、「日本当局にとって、「国有化」方針は急ごしらえの挙動ということではない。民主党のNo.3である政調会長・前原誠司は、4月に東京都の島購入計画を知った後、国家が島を購入し、早急に釣魚島を「国有化」すべきだと積極的に主張した。首相・野田佳彦の釣魚島問題の立場はきわめて強硬なものだ」と指摘する文章があり、民主党・野田政権の動きを念入りなものだと見ています。また、この記事は、「日中国交正常化40周年の今年、…日本では右翼政治勢力の挑発と推進のもと、河村(名古屋市長)の「南京大虐殺」否定発言、石原の東京による「島購入」論、「新疆独立派」による日本での大行事など両国関係の主流に背く事件が連続して起こった」として、日本における右傾化傾向と結びつけて問題を考える視点も出ています。

〇解放日報「釣魚島問題、再度の温度上昇 専門家は、中日関係は両々あいまったものでなければならないと説く」(中国社会科学院名誉学部委員・馮昭奎) 日本問題及び日中関係に造詣が深い馮昭奎ならではの冷静さを呼びかける文章です。このような文章は明らかに少数です。

 10年前、歴史問題を解決することが中日関係を発展させるうえでの前提だと考えるものがいた。歴史問題が解決しなければ、中日関係は発展のしようがなく、歴史問題はあたかも中日関係のすべてとなった感があった。その後、実践が証明した有効な方針とは、真剣に歴史問題を解決するとともに、中日関係及び民間交流を発展させることに努力する;歴史問題の解決は、中日関係の発展、両国人民の間の交流強化を拠り所にする、ということだった。この方針は「両々合い待つ」モデルと称される。
 今、中日間の釣魚島問題は温度が上がり、両国間の雰囲気はまた、ある問題が解決しないと、両国関係は発展しようがないというような怪しげな感じに戻ってきているようだ。…日本の政治屋の中には、40周年を中日関係を破壊するチャンスとみなし、釣魚島を購入し、島に視察を行うなどの「ドタバタ劇」を巻き起こし…ている。
 しかし、人々は次のことを明確に認識するべきだ。釣魚島問題は1972年の中日国交正常化以前にすでに存在していた。2009年の漁船衝突事件が発生するまでに、釣魚島問題の存在と中日関係の発展という両者が並存する状態はすでに37年続いていたのだ。つまり、釣魚島問題は中日関係のすべてではなく、釣魚島問題がすぐさま解決されることは不可能だ。釣魚島問題以外に、中日両国は、地に足をつけてなすべき互恵的でウィン・ウィンの事柄や課題がいっぱいあるのだ。したがって、「両々合い待つ」は相変わらず理性的な選択である。一方では、互いに協力し、交流し、意思疎通した成果をもって問題の解決を促進し、他方では、釣魚島の争いにおいては確固として主権を守る決意をもって、道理、利益、節度を備えた闘いと戦術を採用し、日本側をしてこのような挑発やドタバタ劇が容易ではない中日関係に深刻な結果をもたらすことを認識させるのだ。
 中日国交正常化40周年から得られた重要な経験とは、「喧嘩は喧嘩に帰するし、協力は協力に帰する」ということだ。我々は、厳しい挑戦によって動揺するのではなく、複雑な局面によって惑わされるのでもなく、主権の争いに関しては確固としてかつ焦らず、釣魚島問題の解決と中日関係の発展という双方において「両々合い待つ」やり方で進めていくのだ。当面、中日関係は日本側の「島購入」の言論で影響を受けることは免れないが、我々はやはり本年が中日間の「記念の年」、「総括の年」となることを希望している。ただし、そのためには日本側が理性的に対応することが必要だ。

〇人民日報海外版「日本の「島購入」のドタバタ劇は失敗せずにはすまず」(国際問題専門家・華益文) この文章も、石原が引き起こした波瀾を、「日本政府は制止しようとしないだけでなく、「競買」に参加した」としつつ、「日本側が上演した「島購入」のドタバタ劇は、中国の領土的主権問題にかかわり、もし勝手に演じさせておくならば、釣魚島問題が制御不能になり、中日関係の新たな緊張を引き起こし、両国の重要領域での協力に新たなショックが引き起こされる可能性がある。したがって、我々は日本側に次のことを忠告する必要がある」として、「ウソも千回になれば真理になるなどと幻想するな」「こざかしい振る舞いを重ねれば既成事実になるなどと幻想するな」「苦い果実を中国人に呑みこませることができるなどと幻想するな」の3点を強調しています。そして、「もし日本側が釣魚島問題で動きをエスカレートさせるならば、中国側としては強烈な反応を行う他なくなる。日本側は、中国側の譲れない一線をしっかり見極め、中日関係の大局に立って、釣魚島問題を複雑化するいかなる言動も避けるべきだ」と警告しています。

〇環球時報「日本に対抗するには、抗議以外のもっと多くの行動が必要だ」 この文章は、「中国の民意は、日本の民意と比較してもいささかも安物ではなく、両国政府の交渉であれ、両国の民意の対抗であれ、釣魚島問題では「日本をひいきする」義務はない」として、強硬な対応を主張しています。これまで私が見た主張の中では最強硬の一つと言えるでしょう。

 釣魚島問題で中国と争うならば、日本には勝てる希望はない。中国には十分な資源と手段があるし、釣魚島をめぐって日本と対峙するのに十分な政府と民間の意思とがあるからだ。釣魚島をめぐる衝突は、中国にとって少しは厄介だが、日本は同じように、いやもっと耐えがたいものであるに違いない。中国は、…釣魚島が西太平洋における持久的で「危険な」摩擦となることを恐れない。
 日本の政府当局の強引な挑発に対して、中国は主導的に次のことを行う必要がある。 第一、中国側の釣魚島地区でのプレゼンスを強め、当該海域における巡航などの主権行為は日本側より少なくないようにしていくべきだ。
 第二、日本側が一歩前に進むたびに、我々はそれに応じて一歩半さらには二歩前に進んで、日本側の挑発が必ず深刻な結果をもたらすことを知らしめる。
 第三、(台湾海峡)両岸が釣魚島防衛での連合を強化し、台湾当局が大陸と連動することに熱心でないことに対し、両岸の民間が率先して連合した釣魚島防衛行動を行い、馬英九政権に大陸との協力を迫る。
 第四、釣魚島危機が中日間の経済協力に影響を及ぼす可能性に対しては、北京は主導的にこの連関を奨励することはしないが、無理に避けるということもしない。このことはことの成り行きに任せ、そういう姿勢を取ることが東京をして、その釣魚島政策が中日関係のその他の分野に及ぼす損害について考えざるを得ないようにする。
 日本人はまた、釣魚島は南千島列島ではないこと、ロシア人の南千島列島に対する占領は第二次大戦の結果…だが、日本の釣魚島に対するいわゆる「支配」は虚であり、表面上のものに過ぎないことを認識するべきだ。日本は、この種の支配を「実質的」に変えようなどと考えてはならず、南千島列島でロシア人から受けたひどい目を、釣魚島で中国人に対して憂さ晴らししようなどと考えないことだ。
 中国は、沖縄の主権問題そのものを再提起することによって、日本の釣魚島の態度を牽制することを真剣に考慮するべきだ。しかも長期的に見れば、沖縄に日本から離れようとする傾向が現れる可能性はなくもない。…
 もちろん、中国は進んで日本と仲よくせず、中日が対抗して解決しようのない問題を突っ込む必要はない。しかし、日本の友好は中国が求めて得られるものではなく、中国が日本と勝負して得られる結果でしかあり得ない。つまり、中国が実力をあえて運用して日本に理解させるものなのだ。
 中国は、日本が我が身を省みるようにする行動が必要であり、外交上の抗議だけではダメだ。日本が過激に反応することを恐れてはならない。勝手に過激にさせておくことだ。何度かの渡り合いの後、日本人は自らに然るべき分際を改めて考えることになるだろう。

〇環球時報「釣魚島問題解決の6手」(中国軍事科学学会副秘書長・羅援) この文章は、行政、法律、軍事、法執行、経済、世論の6分野での提言をしていますが、筆者の肩書からみてもっとも注目されるのは、軍事及び法執行に関する部分です。

 (軍事プレゼンス)釣魚島付近に軍事演習区、ミサイル発射区を設け、必要なときは釣魚島を航空兵の射的場にする。アメリカが琉球諸島を占領していたとき、釣魚島を米軍航空兵の射的場にしていたことがあり、現在は中国の領土である以上、何故我が航空兵の射的場にしないのか。この面では、我々には成功例がある。解放軍某部がかつて、2010年6月30日から7月5日まで、毎日0時から18時まで、舟山の台州以東の海域で実弾射撃訓練を行うことを公式に宣言したことがある。訓練期間中は、各種船舶がこの海域に入ることを厳禁し、海軍艦艇の指揮に従って安全を確保し、従わないときの結果については自己責任とするとした。この事例を釣魚島に用いることができる。
 軍事プレゼンスの今一つの表現形態は「武装して船に乗り込む」ことだ。漁民がゆえなく捕らえられ、殺されることを避けるため、漁民は漁業合作社を組織し、集団の威力と気魄を発揮し、集団で作業し、大々的に海上での自衛人民戦争を行う。…我が軍機及び軍艦は東海、南海で巡邏警戒し、国境国家を守ると同時に、我が漁民が正常に漁業の操業を行うためにその操業航海を守る。
 (法執行プレゼンス)早急に国家海岸警備隊を組織し、海上での法執行の基幹力の役割を担わせる。我が保安艦、漁政船が日本保安庁の準軍艦と非対称的な対抗関係にならないようにする。我々はもはや弱者の立場で法執行をするのではなく、強者として権利を維持する。日本政府が自分の「悪ガキ」を「管理できない」時は、我々が彼らの管理を助けてやる。
 要するに、釣魚島問題に関しては、中国は受け身を改め主導権を取るべきであり、釣魚島問題で手数を増やし、「先手」を多く取り、最終的に釣魚島問題を解決するための戦略資本を蓄積するべきだ。

〇国際在线「軍事専門家:中国の軍事当局は釣魚島購入という行為がのさばることを絶対に許さない」 この文章では、中国国防大学戦略研究部教授・梁芳大佐(女性)と中国海軍インフォメーション専門家委員会主任・尹卓少将の二人の見解を紹介していますが、それぞれの発言の要旨は次のとおりです。

梁芳:(何故日本は釣魚島に虎視眈々で、「島を奪う」動きを加速しているのか、という質問に対して)この「ドタバタ劇」の源は、日本政府の情勢に対する三つの大きな判断の誤りにある。まず、中国は今年第18回全国党大会を開催するときで大きな動きが取れないから、日本が釣魚島で分をわきまえない動きをしても、中国としては何もできないだろうという誤った判断がある。次に、アメリカのアジア太平洋戦略が東に移ったことが日本にとっては大きな支持になる。2010年に中日間で船舶衝突事件が起こった後、アメリカは過去においては中日間の釣魚島主権争いに介入しなかったが、現在では日米安保条約に基づいて釣魚島に対して防衛を行うということで、この条約は日本が釣魚島をかすめ取ることについてあおり立てる役割を生んだ。第三は、石原慎太郎を中心とする右翼が新党を成立させようとしており、そのために勢いをつける必要があるということだ。
 野田政権は、この島を国有にしようとしているが、いったん国有となれば、非常に多くの動きが取れるわけで、釣魚島に軍隊を駐留させることもあり得るし、このことは我々にとってはきわめて大きな挑戦になる。というのは、軍隊駐留は主権の主張にとってもっとも有力な行動であり、政府がこういうことに参画するということはきわめて重大なことだ。…中国としては厳格にそして断固としてこのような行動を叩くべきであり、思うがままにさせてはならない。その結果出てくる一連の結果については、中日関係悪化、中日間の軍事的対抗を激発するとしても、一切の結果については日本が責任を負うべきだ。

尹卓: 釣魚島は日中双方が支配を奪おうとしているときで、どちらも実質的支配を行っていない。こういう状況下では、日本としてはもっとも容易に問題を熱くすることができる。さらに、中国は近年経済発展が素晴らしく、日本は心理的に不安定な状態におかれており、特に近年になって中国は日本に代わって世界第2位のGDPとなり、日本と中国との格差はますます顕著になっている。…最近の百年以上の間でこのような状況はかつてなく、したがって日本としては心が穏やかでないわけだ。こういう意識状況のもとでは、釣魚島問題のように政治屋によって操作される現象など、中国に対する非友好的な行為が大衆に比較的受け入れられやすくなっている。
 いわゆる「日本が実際上支配する釣魚島」ということは存在せず、中国の艦船による釣魚島領海に対する常態化した巡邏は中止されたことはなく、…中国側は、釣魚島問題を武力で解決することを放棄すると述べたことは未だなく、釣魚島の主権を守る決意と能力を有している。…仮に日本があえて釣魚島で軍事行動を取るのであれば、主権国家である中国は、軍事上の防衛的措置をとらざるを得ない。今のところは双方がそこまでは行っていない。我々の防禦的戦略により、我々が軍事的に第一歩を取るということはあり得ないが、第二歩を実施するときには、我々は釣魚島の主権を守る確固とした決意と十分な能力を有している。
 実際のところ、中日双方は、釣魚島問題が長期にわたって解決できないのは、釣魚島がすでに中日関係を離間させようとするアメリカの道具になっているからだということを知っている。釣魚島問題が激化することは中日両国にとって何も得るところがなく、両国関係を悪化させ、人々を対抗させて、最終的にアメリカに「漁夫の利を得る」ことを可能にするだけだ。

 7月10日には、中国放送ネットが「専門家、日本官邸が「島購入」のドタバタ劇を操作し、中日関係に挑戦」、「野田佳彦によって釣魚島「国有化」は外交を弄んで内政の賭けにさせられている」という2つの記事を、11日には環球時報が「日本のメディア、アメリカを釣魚島の救援兵に引っ張る 中国側は主権に論争の余地なしと重ねて述べる」、新華ネットが「日本の右翼政治屋ども、歴史的常識を少しは補習しろ」、12日には中国放送ネットが「専門家、釣魚島問題は中日関係のすべてではなく、協力の大局は阻みがたい、と述べる」などが出ています。

<7月13日の人民日報と新華社の文章>

7月13日付で発表された人民日報と新華社の文章は、中国共産党を代表する両社の重みという点で、そして両文章に共通する深刻な危機感の表明という点においても、これまでに紹介した様々な文章とは一線を画するものだと思います。私の今更ながらのコメントをつけることも必要ないでしょう。なお、人民日報の文章は日本語訳が人民日報日本語版に出ていますので、そのまま紹介します。新華社の文章は長文ですが、15日現在では翻訳が出ていないので、私の拙い訳で我慢してください(長いので、重要なところを選んで訳出します)。

〇人民日報「日本の近視眼的戦略は自他共に欺く臆病者の心理」(鐘声)

  釣魚島(日本名・尖閣諸島)問題をめぐる遊びじみた行いに日本は余りにも没入し、余りにも自己陶酔している。いつか遊びの度が過ぎて釣魚島問題が制御不能に陥る危険性が絶対にないとは決して言えない。釣魚島問題を利用して内政・外交的得点を得ようとしている日本の政治屋達に、その準備はできているのか?
 国と国の関係は子どものままごと遊びではない。前者にははっきりした現実感、緻密な推断、十分に遠大な卓見が必要であるという点が1つの重要な違いだ。一言で言えば、好き勝手に弄ぶことはできないのだ。釣魚島問題をめぐる日本の行動は全くもってお世辞の余地もなく、遠慮なく言うなら、嫌気のさすみみっちさが滲み出ている。
 中国の漁民と漁船の不法拿捕から「命名」「島購入」「視察」「魚釣り」の茶番、そして周辺の軍事力強化の仰々しい発表--。日本外交は見たところ確かにいくぶん「勇猛果敢さ」がある。しかし、こうした諸々によって釣魚島とその付属島嶼が中国固有の領土であり、中国が争う余地のない主権を有しているという歴史的事実を変えることができるのか?中国の漁業監視船の釣魚島周辺海域での正常な公務執行に対する不当な抗議も、断固たる反駁に遭ったのではないのか?中日関係の大局を損なう以外に、日本が挑発的行為によってほんの少しでもうまい汁を吸うことはあり得ない。もし何か利得があるとすれば、国内の政界闘争のために数枚のカードを手に入れることと、臆病者の心理が一瞬満たされることくらいだ。
 国家の核心的利益に関わる問題において中国は半歩たりとも退くことはないし、退く余地もない。中国人は友好を重んじ、原則も重んじる。中国の隣国で、中国と悠久かつ複雑な交流の歴史を持っている日本は、中華民族の善隣友好の度量と不撓不屈の民族性をなおさらに深いレベルで体験し、観察しているはずだ。中国の平和的発展は、ひたすら我慢して譲歩するという意味ではない。領土問題の原則的是非の前では、日本はみみっちい算盤を弾くことはできないのだ。既成事実を作り、大国の後ろ盾を得ることで、中国を脅し、服従させられると考えるのは余りにも無邪気だ。
 釣魚島問題をめぐる遊びじみた行いに日本は余りにも没入し、余りにも自己陶酔している。いつか遊びの度が過ぎて釣魚島問題が制御不能に陥る危険性が絶対にないとは決して言えない。釣魚島問題を利用して内政・外交的得点を得ようとしている日本の政治屋達に、その準備はできているのか?
 実際、日に日に緊迫の度を増す事態を前に、すでに日本メディアは「戦争」の憶測を始めている。中国社会でも「日本に反撃せよ」などの発言が出ている。憤激の高まりは必ず中日関係の民意の基礎を損なう。民意の基礎がいったん破壊されれば、中日関係に悪影響がおよぶのは必至だ。これは中日関係の重要性を熟している有識者が目にしたくない事態だ。日本世論の本流は日本政府への批判の声に事欠かない。北海道新聞は係争を棚上げにして良好な日中関係を維持する必要性を強調し、中国を怒らせないよう日本政府に警告した。東京新聞は社説で、日本政府は日中関係の緊張回避に知恵を集中しなければならないと指摘した。
 中国人民の感情を傷つけるたびに、日本の指導者は「日中関係の回復」と「両国の戦略的互恵関係の拡充」を望むと、誠実で信じられる誓いのように表明する。国家間の交流は誠実さと信用を重んじなければならない。言行不一致は内心の迷いの表面化であり、自らのイメージも損なう。経済大国になってから、日本は尊厳ある政治大国になることをずっと望んできたのではないのか?近視眼的戦略は自他共に欺く臆病者の心理であり、こうした心理状態で政治大国を支えることは不可能だ。
 国交正常化後の40年間で中日関係は一連の重要な成果を上げた。中日関係の健全で安定した発展の促進は、両国および両国人民共通の利益だ。釣魚島問題において中国は十分な辛抱強さと善意を示している。日本が二国間のこれまでの合意や了解を的確かつ誠実に守り、中国側との対話や協議を通じた溝の管理・コントロールという正しい道に立ち戻り、的確な行動によって両国関係の大局を守ることを希望する。
 中日関係を発展させるには、もう少し長期的な視点が必要だ。ましてや火遊びはだめだ。

〇新華社「日本がしきりに島購入のドタバタ劇を演じる意図は何か」

 …東京都の名義であろうと日本国の名義であろうと釣魚島を購入することはすべからく、釣魚島をめぐる中日間の争いの核心問題である同島の主権問題にかかわってくる。
 自分の家のものでなければ、勝手に処理することはできないのだ。仮に日本がいわゆる「島購入」プロセスを実現すれば、それは対外的に釣魚島に対する主権を明示するに等しい。こういう行動は、中国側が釣魚島問題に対処するエンドラインに非常に迫っており、釣魚島の紛争を急激にヒートアップし、中国国内各方面の高度な関心を引き起こした。
 釣魚島をめぐる日本の最近の動きについては、次の疑問を禁じえない。日本は、釣魚島で一体何をしようとするのか。さらに一歩進めてこの問題を深く考えるならば、中日のほかにも背後に潜むいくつかの原因があるようだ。さらにまた多くの人が関心のある問題は、釣魚島紛争を中国は如何に見るべきかということだ。
 …釣魚島は日本にとって、重大な経済的及び軍事的な意味をもっている。経済の角度からいえば、…日本側が釣魚島の主権を取得すれば、中日間の東海(東シナ海)の線引き問題において、数十万平方キロの海域…を獲得できる。…
 日本側かみると、釣魚島には一連の重要な軍事的意味も存在する。日本では長期にわたって「1000カイリの生命線」という問題をめぐる議論が存在する。…釣魚島はこのいわゆる生命線の中間に位置するのだ。この角度からいえば、日本が釣魚島の主権を奪おうということは巨大な経済的及び軍事的意味が含まれている。
 しかし、日本が釣魚島の主権を争うのは、経済的及び軍事的意味だけなのか。ここで日本の長期的戦略目標について語らないわけにはいかない。日本の長期的戦略目標は、日本を「普通の大国」にすることだ。それは即ち、自国の外交、経済、政治、軍事にわたる全面的な自主権を獲得するということだ。しかるにこのプロセスにおいては、一連のいわゆる「制約」を突破することに直面している。この「制約」の原因は歴史的な要素と関係がある。具体的に言えば、一つは日本の「平和憲法」の制約、つまり国内的制約要因であり、もう一つは国際的な制約要因だ。釣魚島紛争のヒートアップはこの二つの要因と密接に関連している。
 国内要因からいえば、日本がこの制限・制約を突破しようとすれば、国内の民意を取り付けなければならず、堂々たる口実が必要だ。釣魚島の矛盾がいったん爆発すれば、日本においていわゆる「主権防衛」の民意を形成することができる。主権を防衛しようとすれば、軍事力を発展させ、過去における軍事力の使用に対する制限を改めることは道理にかなったことになるだろう。
 国際的要因からいえば、制約の核心的問題はアメリカの制約だ。アメリカという要素こそは、釣魚島紛争の背後にある、容易には察知できない一つの重要な要素である。歴史の角度から釣魚島紛争の起源を振り返ってみれば、アメリカが重要な役割を発揮していることが分かる。
 釣魚島紛争の出現は、アメリカと重要な関係がある。第二次大戦が終結したとき、釣魚島はアメリカの支配下に置かれ、その後アメリカは支配権を日本に引き渡した。しかしアメリカは、移行のプロセスにおいて主権を日本に引き渡すことを明確には表明しなかった。ここから我々は、アメリカが当初この一連の動きを取ったのは、実際上は戦略的布石においてあらかじめ一つの罠を設けていたということを見て取ることができる。そして今日、必要になったときに、かつて設けておいた設計が役割を発揮しはじめたのだ。…
 今日、アメリカ人がAPR回帰という概念を提起するとき、当初は戦略上の布石においてあったコマを持ち出してきたのだ。…今我々がみているアメリカのAPR回帰とは、突出しているのは軍事力のAPR回帰である。軍事力から言っても、アメリカが投入できるのは何艘かの戦艦と数千の兵力に過ぎない。実際には、この程度の軍事力の投入は、朝鮮戦争やヴェトナム戦争当時の米軍のレベルには及ばない。したがって、アメリカがAPR回帰という戦略構想を実現しようとすれば、…伝統的な使い慣れた方法である「仲間を組んで喧嘩をする」手法を採用する必要があり、日本こそが重要な相手なのだ。
 どのようにして日本をアメリカの戦車に縛り付けるかについては、アメリカ人には格好のプランがある。日本は長期的な戦略目標を実現したいし、国際社会、特にアメリカの束縛と障碍から抜け出したいのだから、アメリカとしては日本を導いてやろうというわけだ。日本が中日間で対抗及び矛盾の状況を形成し、軍事力増加その他の動きを増やすとき、アメリカは往々にして黙認さらには支持の立場をとる。今日では、アメリカは再び釣魚島を日米防衛の範囲に入れるのだ。
 日本もまたアメリカの心理はお見通しで、中日の矛盾をエスカレートしさえすれば、長期的目標に向かって一歩を踏み出すことが可能になる。この一歩一歩を進めて蓄積していけば、ますます自分の戦略目標に接近することができる。日本が釣魚島紛争の中で達成したい目的は、現実の島に対する主権や経済的利益、潜在的な軍事的意味だけではなく、さらに大きな目標、つまりこの種の紛争を通じて長期的な国家戦略目標に向けての重要な進展を獲得することなのだ。アメリカの取っている一連の動きは、実際上、戦略的なプランと完全に一致しているのだ。故に、釣魚島紛争のエスカレーションは、日本の目標及びアメリカのプランと一致しているということだ。
 …それでは中国側としては如何に釣魚島紛争をみるべきなのか。…
 釣魚島問題の核心は国家の主権という問題であり、…国家の主権にかかわる問題である限り、その重みは経済的利益や軍事的な意義をはるかに上廻る。…長期にわたって我々は一貫して外交、交渉の手段を通じて平和的に釣魚島紛争を解決することを強調してきたが、今日の状況のもとでは、このような伝統的な主張は実際的であるだろうか。
 実際上、外交、交渉の手段で紛争を解決するということは、双方が共通の認識があるという前提のもとで成り立つ。…双方共通のセルフ・コントロール及び認識があることが平和的に問題を解決する前提だ。どちらか一方がこの共通の認識をこわし、一方的な動きを取れば、外交及び交渉で平和的に問題を解決するための前提が破壊されることになる。
 したがって、日本が一方的に共通の認識を壊してしまった以上、…中国側としては、もはや単純に外交、交渉という平和的手段でこの紛争を解決するのは無理である。主権問題は国家の核心的利益にかかわるのであり、いかなる国家にとっても、他人が自分の主権的利益を侵害すれば、必ず然るべき反応をするということは国際的な共通認識だ。
 中日が釣魚島紛争をめぐってどのような結果になるか、どのような方式で最終的に矛盾を解消し、紛争を解決するかは、日本がこの一方的なやり方においてさらにどれだけ動くかをみる必要がある。

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