尖閣領有権問題に関する日本側対応

2012.07.08

*尖閣問題で、野田首相がとんでもない発言(7日)をしました。翌8日の『しんぶん赤旗』も私には理解不能な文章を出しました。附き合いきれないという思いもありますが、やはり一言と自らに鞭うって書いた一文です(7月8日記)。

<事実関係>

野田首相は、7月7日、尖閣諸島国有化に関して次の発言を行いました。

「尖閣は歴史上も国際法的にみても、わが国の固有の領土であることは間違いないし、有効に支配しているので、領土問題、領有権問題は存在しない。尖閣を平穏かつ安定的に維持・管理する観点から、所有者とも連絡を取りながら、今、総合的に検討をしている。
 東京都がどのような計画を持っているのか、われわれも把握しなければいけない。所有者のいろいろな意向もあると思う。そのためのさまざまな接触をさまざまなレベルでしている。」(出所:時事通信7月7日付)

 また、野田首相の上記発言を受けて、日本共産党機関紙『しんぶん赤旗』は、翌7月8日、次のような文章を出しました。

 「国が購入し国有化することは、「平穏かつ安定的に維持、管理する」うえで当然のことです。
 同時に、国有化によって問題が解決するわけではありません。この問題を外交交渉により解決する積極的な対応がいっそう強く求められます。日本政府は中国政府との間で72年の日中国交回復の時に棚上げ論に同調したことをはじめ、最近も領土問題は存在しないという言葉を盾に、外交舞台での議論を避けてきました。
 都による購入はもちろんのこと、国有化でも、中国との間にある尖閣問題が解決するわけではありません。日本政府は尖閣諸島の領有の歴史上、国際法上の正当性について、中国政府と国際社会に対して、理をつくして堂々と展開する外交こそ強く求められます。」

 上記に引用した両者の議論に共通しているのは2箇所あります。一つは、「歴史上も国際法上も日本の尖閣諸島の領有は正当である」という立論に立っていることです。もう一つは、野田首相は含みを持たせた表現で示しましたが、共産党が明確に述べたように、「国が購入し国有化することは、「平穏かつ安定的に維持、管理する」うえで当然」というふうに判断していることです。

<私の強い疑問>

 野田首相及び日本共産党に共通した議論の最初の点、即ち、「歴史上も国際法上も日本の尖閣諸島の領有は正当である」という主張に関しては、果たしてそう断言できるかどうかは甚だ疑問であることを、何度もこのコラムで記しましたので繰り返しません。興味・関心のある方には、次の文章を読んでいただきたいと思います。

<2010年>
〇「日中関係への視点(3)-尖閣問題と日本共産党」
〇「日中関係への視点(5)-尖閣問題に関する中国の立場」
〇「尖閣諸島(釣魚島)見解対照表」
〇「尖閣諸島領有権に関する日本共産党の見解(法的側面)に対する素朴な疑問」
〇「台湾の領土的帰属問題と尖閣問題との関連」
〇「日中関係-回顧と展望- 新防衛計画大綱に対する根源的批判として 第2回:尖閣問題を題材にして」

<2011年>
〇「日本の領土問題の歴史的・法的起源」

 私が今回またしても「一言なかるべからず」と思わざるを得なかったのは、「国が購入し国有化することは、「平穏かつ安定的に維持、管理する」うえで当然」という野田首相及び日本共産党がこともなげに言うその国際感覚の怪しさ(というより、ずばりと言ってしまえば、国際感覚の欠落)についてです。
 この点については、実は『赤旗』自身が次のように述べているのです。すでに引用したのですが、もう一度繰り返します。

 「同時に国有化によって問題が解決するわけではありません。この問題を外交交渉により解決する積極的な対応がいっそう強く求められます。(中略)
 都による購入はもちろんのこと、国有化でも、中国との間にある尖閣問題が解決するわけではありません。日本政府は尖閣諸島の領有の歴史上、国際法上の正当性について、中国政府と国際社会に対して、理をつくし堂々と展開する外交こそ強く求められます。」

 「問題」「この問題」「尖閣問題」と『赤旗』が言うときの「問題」とは何でしょうか。それは、「尖閣諸島の領有権をめぐって日本と中国との間に存在する領土問題」ということなのではないでしょうか。私にはそれ以外の解釈の可能性が思い浮かばないので、もし間違っているならば、日本共産党の方からご指摘があることを切に期待しています。もし私の理解で間違いないとするならば、日本共産党自身も、日本と中国との間には尖閣諸島の領有権をめぐって意見の違いがあることを認めているということなのではないでしょうか。
 そうであるとするならば、「国が購入し国有化することは、「平穏かつ安定的に維持、管理する」うえで当然」という判断が出てくるはずはないのではないでしょうか。日本が「国有化」という行動に出ることは、日本の領有権を認めていない中国からすれば、「到底認められない、許しがたい挑発行為」であり、日中両政府間に存在していた「棚上げ」合意を踏みにじる行為以外の何ものでもありません。
 私が日本共産党の国際感覚についてどうにも分からないのは、領土問題の客観的存在を認めていながら、ただでさえ微妙な状況にある日中関係をさらにこじらせ、悪化するだけの「国有化」を「当然」とする論理がどこから出てくるのか、ということです。
 野田政権について言えば、国交正常化40周年という節目に際して、心機一転日中関係を改善しようとしていた中国側の期待をことごとく裏切り、対中シフトを露骨に進める日米軍事同盟強化路線を突っ走る野田政権に対する中国側の評価はきわめて厳しいものがあります。石原都知事が尖閣購入という、私に言わせれば「ここまで来ると老人ぼけとしか言いようがない」愚かな反中感情の愚挙に出た際も、中国側報道ではこれに厳しい批判を浴びせたことは当然として、野田政権がこの問題にどういう対応をするかについても注視してきました。7月7日の野田首相の発言に対する直接の反応にはまだ接していません(上記時事通信の報道が正確であるとすれば、野田首相は「国有化」という言葉は使っていないので、中国側としては慎重を期している可能性もあります。)が、野田首相がさらに踏み込む場合には、中国側としては野田政権を相手にせず、という判断を下す可能性は大きいと思います。
 蛇足ですし、私の専門外なのですが、私には内外の難問山積のこの時に、野田首相が尖閣問題でこういう発言を行うという神経・感覚はまったく理解不能です。消費税問題で民主党が分裂し、民主党の党としての存在理由がこれ以上深刻に問われているときはないというのに、原発再開問題ではかつてないほどのスケールで人々の反対が突きつけられているというのに、そしてオスプレイ配備問題ではこれでもかこれでもかという具合に同機の深刻な欠陥が明らかになってきているというのに、そういう国民生活・安全に直結し、日本の国としてのあり方がかつてない規模で深刻に問われているこの時に、「何で尖閣?」と思うのはひとり私だけでしょうか。野田首相の場合は、国際感覚だけではなく、そもそもの問題として、政治的センス・常識(コモン・センス)が問われていると思います。

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