日米軍事同盟と朝鮮

2012.05.11

*寄稿を求められて書いた短文を編集者が分かりやすくしてくれたものです。特に目新しい内容はないのですが、手短な読み物としてはそれなりの意味を持つかなと思いますので掲載します(5月11日記)。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)は小国(ハリネズミ)である。その小国が米国(ライオン)、日本(トラ)、韓国(オオカミ)というどう猛な肉食獣に、いつ何時襲われるかもしれない状況、逃げ場のない絶体絶命の窮地に追い込まれている。かつてはそれでも、ソ連(クマ)、中国(リュウ)といった助けの手を差し伸べてくれる当てがないわけではなかった。しかし、今やクマもリュウもハリネズミのことを真剣に守ってくれることは期待薄となってしまった。朝鮮の現状を分かりや軍すく表せば、以上のようになるだろう。

<朝鮮のミサイルは脅威か>

 直ちに起こる素朴な疑問は、ハリネズミがライオン、トラ、オオカミに対して攻撃を仕掛けることなど考えられるか、ということだ。
 私たちがよく耳にするのは、「北朝鮮のミサイルは恐い」という不安の声だ。ミサイルは確かに日本に届く。それは事実だ。しかし、朝鮮がミサイル攻撃をかけてきたとしたら、次の瞬間には何百倍、何千倍もの米日韓の火力が朝鮮全土を灰にすることは目に見えている。ここで重要なことは、朝鮮は「そんな軍事的に割の合わない、米韓に朝鮮壊滅の絶好の口実を与えるような愚の骨頂」を犯すほど愚かではないということだ。金正日も金正恩も、かつての東条英機のような神頼み的発想で戦争を始めるような愚昧な指導者ではない。
 ではなぜ、朝鮮はミサイルと核兵器の開発に執心するのか。朝鮮が先手をとって攻撃を仕掛けることはあり得ないが、米日韓がそうする危険性は大いにあると朝鮮は心から警戒しているし、朝鮮半島の65年以上の歴史は朝鮮の警戒には決して根拠がないわけではないことを証明しているからだ。彼らにとって、ありうる攻撃に対して身を守る唯一のよすがは核抑止力以外にない(ここでは、核兵器が良い、悪いという話をしているのではない。あくまで、朝鮮は何をどう考えているかがポイントなのだ。)。

<朝鮮の「意思」と「能力」は>

 米ソの圧倒的軍事力から身を守るために1964年に核兵器国になった中国は、朝鮮にとっていわばその道の先輩だ。「こちらからは攻撃することはない。しかし米日韓がグルになって理不尽に戦争を仕掛けてくるなら、米日韓の大都市を灰にして道連れにするが、それでもなお戦争をする気か」。これが朝鮮の立場だ。
 全面戦争をする気も、カネもないから、相手を木っ端微塵にするほどの核ミサイルは持たないし、持てない。
 しかし、相手が襲いかかろうとするならば、こちらとしては相手の大都市を道連れにするぐらいの核ミサイルを用意することで、相手が戦争を思いとどまらざるをえなくする。これを軍事用語では、「必要最小限核抑止力」という。
 そもそも、「北朝鮮は脅威だ」という主張には、根本的に無理がある。軍事用語としての「脅威」が成り立つには、相手を攻撃する「意思」と「能力」が伴わなければならない。朝鮮は確かに、能力は身につけつつあるだろう。
 しかし、以上に述べたことから明らかなように、朝鮮には先手をとって相手を攻撃する意思はないのだから、脅威ではあり得ない。

<ソ連に代わる脅威の本命・中国>

 日米はなぜ「北朝鮮脅威」論にかくも執心なのか。
 1991年にソ連が解体してから、アメリカも日本も日米軍事同盟の存在を正当化するために、ソ連に代わる脅威探しに狂奔した。米日にとっての本命は中国なのだが、中国をはっきり脅威と名指しするのはあまりにも差し障りが大きい。そこで選ばれたのが朝鮮というわけだ。「北朝鮮脅威」論が1993~4年の「北朝鮮核疑惑」を発端とする一触即発の危機を迎えた時以後盛んに言われるようになったのは、決して偶然ではない。
 そして、1998年、2009年そして2012年に行われた朝鮮の人工衛星打ち上げを、米日は長距離ミサイル発射と断定し、日米軍事同盟の変質強化、対中軍事シフトにしたたかに利用してきたのだ。

<問われていることは何か>

 最後に一言。中国は、こうした米日の動きを細心の注意を払ってフォローしている。「北朝鮮脅威」論が「中国脅威」論のダミーにすぎず、日米軍事同盟が優れて中国に向けられていることを明確に理解している。中国の急速な軍事力整備は、今なお圧倒的な米日の軍事力にキャッチ・アップするためのものだ。その中国は、私たちに次の言葉を投げかけて問うている。「中日戦えば共に傷つき、中日和すれば共に栄える」。
 私たちに問われているのは、戦争と平和のいずれを望むのか、ということだ。主権者である私たち日本人が官製「北朝鮮脅威」論の虚妄性を見破り、対中指向の日米軍事同盟の変質強化を許さない主体性を我がものにすることが今ほど求められている時はない。

RSS