「在日米軍再編見直しの共同文書」:「日米同盟の抑止力」

2012.04.28

*4月27日に、日米の外務及び防衛担当大臣(「2+2」)によって構成される日米安全保障協議委員会(SCC)は、「共同発表」と題する文書(以下「文書」)を発表しました。野田首相の訪米「土産」(新聞報道)ですが、国民の血税を前提として、アメリカの戦略のいうがままになる内容の約束をして何とも思わない野田・民主党政権の売国的感覚にはただただうんざりです。しかし、この文書は、憲法違反の日本軍事同盟を「日米同盟の抑止力」と自ら公言した点おいて、非常に危険、重大な内容が盛り込まれています。ここでは、その点に限定して問題点を指摘しておきます(4月28日記)。

今回の文書では、文書が並べ立てた米海兵隊の調整が「日米同盟の抑止力を強化する」と位置づけたのみならず、「動的防衛力の発展及び南西諸島を含む地域における防衛態勢の強化といった日本の取組によって」「日米同盟の抑止力を強化」するとしています。つまり、米海兵隊と並んで自衛隊が抑止力だと位置づけているわけです。
また文書は、「Ⅱ 地域の平和、安定及び繁栄を促進するための新たなイニシアティヴ」という項目を設けています(その内容は正に「新たなイニシアティヴ」であって、2006年のロードマップの枠外のものです。)。その中では、日本による(近隣諸国に対する)「巡視船の提供」、「グアム及び北マリアナ諸島連邦における自衛隊及び米軍が共同使用する施設としての訓練場の整備」が具体例として上げていますが、これらもまた、「日本は個別的自衛権しか行使できない」としてきた日本政府の立場を大きく踏み外したものです。
なぜならば、「抑止力」というのは、「相手が攻撃してきたら、自衛の範囲内(必要最小限の原則)で反撃し、撃退する」という自衛権とは異なり、「相手が攻撃を仕掛けること自体を思いとどまらせる(抑止する)だけの十分な攻撃力を相手に対して持つ(必要最小限でなければならない、ということではない。)」という意味で使われます。自衛隊が他国を攻撃することを前提とした、上記の如き行動を行い、態勢を作ること(「抑止力」として機能すること)自体が憲法に違反することで、できないのです。
私は、「日米共同の抑止力」を前面に押し出した今回の文書は憲法違反そのものであると考えます。この問題を、是非多くの人々が問題視していただきたいと願います。
ちなみに、これまで「日米軍事同盟」にかかわって「抑止力」ということが言われていたのは、在沖海兵隊を含む在日米軍についてでした。それは、日本防衛にとって在日米軍の存在が抑止力となっているという位置づけだったのです。もちろんその意味での「抑止力」という考え方は、文書では、Ⅰの「グアム及び沖縄における部隊構成」の項で、次のような表現で維持されています。

米国は、地域における米海兵隊の兵力の前方プレゼンスを引き続き維持しつつ、地理的に分散された兵力態勢を構築するため、海兵空地任務部隊(MAGTF)を沖縄、グアム及びハワイに置くことを計画しており,ローテーションにもちろんそういうみでの「よくしりょく」というよるプレゼンスを豪州に構築する意図を有する。この見直された態勢により、より高い能力を有する米海兵隊のプレゼンスが各々の場所において確保され、抑止力が強化されるとともに、様々な緊急の事態に対して柔軟かつ迅速な対応を行うことが可能となる。

英文を見ていない(執筆時点では、外務省HPには日英文が掲載されていません。)のですが、日本語による限り、海兵隊に関する「見直された体制」によって「抑止力が強化される」となっているわけですから、海兵隊が抑止力として機能するという従来の立場には変化がないことが分かります。
なお、「日米同盟の抑止力」という言い方に関してもう1点附言します。確かにこれまででも、「わが国としては、自由と民主主義という基本的な価値、理念を共有し、強大な軍事力を有する米国との同盟関係を継続し、その抑止力をわが国の安全保障のために有効に機能させることで、わが国自らの適切な防衛力の保持と合わせ、隙のない態勢を構築し、わが国の安全を確保します」(防衛省HP。太字は浅井)というように、米国との同盟関係を「抑止力として機能させる」という言い方はありました。しかしその際の力点はあくまでアメリカの軍事力でした。日本の自衛隊は、この文章で「わが国自らの適切な防衛力の保持と合わせ」というように、いわばつけたし的な位置づけであったわけです。今回の文書における「日米同盟の抑止力」とはまったく異なる位置づけであるのです。

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