石原尖閣発言と日中関係
 -中国の視点-

2012.04.23-25

*「石原慎太郎の尖閣問題に関する発言を受けて、中国側は日本政治に対してどのような認識を持っているのか」ということが気になり、新華社HPで関連の記事・文章を検索して、プリント・アウトしてみました。芋づるをたぐるようにたどっていきますと、2012年に入ってからだけでもA4で約100ページに及ぶ大量の分量になりました(4月24日現在)。しかもその中身は、この約4ヶ月の間で次第に厳しさを増し、石原発言がいわばダメ押しのかたちで作用し、最終的には私の予想を越える厳しい対日認識・政策を打ち出すに至る過程を浮かび上がらせるものでした。日中関係は深刻な状況に陥っていると思います。しかも、中国側の深刻な問題意識と日本側における「極楽トンビ」的状況との間にあまりにも激しいギャップがあることにこそもっとも重大な問題があります。
日中関係を誤らせないために、一人でも多くの日本人が中国側の認識の所在を正確に認識することが不可欠だと思いますので、中国側視点をここでまとめて紹介しておきたいと思います。私の中国語はもうすっかりさび付いていますので、訳し間違えもあると思いますが、文章の趣旨までは間違えていないと思いますので、大目に見てください。
かなり長くなりました(約18000字!)ので、全体を通して看取される特徴点をまとめますと、次の4点になります。
① 石原発言は孤立した現象ではなく、右傾化を強める日本政治の反映とする受けとめ
② 野田・民主党政権に対する根深い警戒感の公然表明(野田政権に対する見切り)
③ 尖閣問題の根っこにアメリカがあるとする見方(日米軍事同盟の必要上及び尖閣主権を曖昧にした戦後処理の両面において)
④ 対日政策の転換:協調模索から真っ向対決へ。しかし、中国側は、日本側の出方次第では対応を変える余地を残している。
(4月23-25日記)

 中国側報道を通観しますと、右傾化を強める日本の政治状況という脈絡の中で尖閣に関する日本側の動きを捉える姿勢が一貫しています(個々の事象を常に全体的枠組みの中で捉えるというのは、日中関係についてだけではなく、弁証法的アプローチが肌に染みついた中国の分析に共通しています。)。今回の石原発言も当然そういう全体的脈絡において位置づけられ、認識されることになりました。

<石垣市議尖閣上陸事件の衝撃と冷静な反応>

2012年を国交正常化40周年の「不惑の年」として、日中関係を推進する政策を意気込んでいた中国にとって、年明け早々の1月3日に起こった石垣市議等による尖閣上陸事件はショック以外の何ものでもありませんでした。中国外交部が即日日本側に抗議したことはもちろんです。同時に注目すべきは、この事件を報道した1月4日付の『人民日報』をソースとする「尖閣領土主権を防衛する中国政府の決意は確固不変」と題する記事が、短評を付して次のように述べ、日中関係を重視して日本側が対応を誤らないように呼びかけていたことです。

 「樹は静を欲するも、風止まず」。2012年が始まった早々に、日本の数名の市議会議員(ママ)が魚釣島に上陸して事件を挑発し、中日関係に新たな波瀾を引き起こし、中日国交正常化40周年の友好を記念する雰囲気に冷水を浴びせた。
 もし日本側が尖閣問題に関する対応を誤れば、中日関係に深刻な結果をもたらすだろう。国交正常化40周年の年に尖閣問題で両国関係に後退が引き起こされることは、中日両国の良識ある人々及び広範な人々が見たくないことである。

 これから紹介する記事・文章を合わせて読む時、この短評はきわめて意味深長な内容のものであることに気づかされます。つまり、中国においては一貫して右傾化・軍事大国化を強める日本の政治状況に対する警戒感が強まってきているのですが、その警戒感が以上の短い文章ににじみ出ているということが一つ。しかし、国交正常化40周年の2012年を日中関係前進の年にしたいという中国側の期待と意欲は年初のこの段階では非常に強く、そのためにも日本政府がこの事件に関して迅速かつ的確な対応を行うことを願う気持ちが強く反映されているということがもう一つです。ところが、その後の日本側の一連の言動(そのもっとも最近のものとして石原発言がある。)は、短評が恐れ、警戒する方向に進んでしまい、中国側としては次第に日本に対する強硬姿勢・政策に転じていくことを迫られることになっていったのです。
 この時点で中国側が好んで事を荒だてる意思がなかったことは、1月5日に外交部の羅照輝局長が行った発言でも明らかです。彼が人民日報HP「強国フォーラム」という番組にゲストとして出席し、ネット・ユーザーの質問に答えて述べた内容を、翌6日付の新華社電は、『京華時報』(北京中心の有力紙)の「外交部が尖閣紛争解決について語る:次の世代はもっと知恵があるかもしれない」という記事をを紹介するかたちで、次のように報道しました。

 あるユーザーは、2012年が始まったばかりの時に日本の4名の議員(ママ)が勝手に魚釣島に上陸したが、このことは好転しつつある中日関係にいかなる影響をもたらすだろうか、と提起した。
 羅照輝は、「これらの行動は不法かつ無効であり、魚釣島が中国の領土であるという客観的事実をいささかも変更するものではない」、中国政府が魚釣島の主権を防衛する決意は確固としたものである、と述べた。事件発生後、彼は命を受けて直ちに日本側に厳重な申し入れを行い、魚釣島は中国の固有の領土であり、日本側のいかなる人物が上陸することにも断固反対すると強調した。彼は、紛争が解決するまで、日本側が事件を挑発せず、いかなる一方的な行動をも取るべきではないと強調した。
 羅照輝は、領土紛争が解決の条件を備えていないのであれば、「主権は我が方に属する」という前提のもとで一時的に棚上げし、個別の問題が両国関係の全面的発展に影響することを防止すべきである、「将来、次の世代は解決方法を探し出す知恵をもっと持っているだろう」と述べた。

 羅照輝アジア局長は、中国側の原則的立場を明確にした上で、鄧小平以来の棚上げ方式でいくべきだとする中国政府の立場を明確に確認したのです。中国側が事態を荒だてる気持ちがなかったことは間違いありません。
しかし、中国が事態を楽観していたわけではなく、むしろ憂慮し、日本に対する警戒感を深めたことは、1月6日付の『国際在線』(中国国際放送局経営のニュース・ネット)をソースとする「日本の議員が魚釣島に上陸するのは野心を示している」と題する報道に明らかです。この報道では、小見出しとして「日本政府当局の支持を受けた挑発」、「「上陸常態化」を警戒すべし」(そこでは、「このたびの「勝手な上陸」は政府当局が事情を知らない突発事件では絶対になく、日本が尖閣周辺海域に対する支配力を強化した上で、「上陸常態化」を実現するために探りを入れた行動である可能性が高い」「1978年以来、日本の一部の国会議員は「中国に対して日本の尖閣に対する主権を認めさせろ」という道理がない要求を提起しはじめたが、こうした中日関係で挑発しようとする言論に対して、日本政府はむしろ国内強硬派の要求に迎合し、巡視艇や飛行機を出動させ、尖閣付近の海域で操業中の中国漁船に対する監視を行うようになった」など、昨年までの日本側の行動をまとめて紹介)、「野田訪中の効果は大いに割り引かれた」を掲げています。
中国側が石垣市議尖閣上陸事件を孤立した単発的なものとは見ていなかったことは、1月7日付の『中国新聞網』(対外向け通信社である『中国新聞社』HP)をソースとする、「日本の右翼の尖閣上陸は中日関係を深める上での試練が多いとする分析」と題する文章にも示されています。この文章は、「現在尖閣に対する実際上の支配権を持っている日本政府は、尖閣上陸を禁止してはいるが、仲間均(石垣市議)等が度々上陸したことに対していかなる処罰も行ったことがない」と指摘して、慎重な表現ながら日本政府の対応に疑問を呈しています。
ただしこの文章の次のくだりを見ると、当時の中国側の野田政権に対する見方がまだ警戒感で塗りつぶされていたわけではないことを伺うことは可能です。

 仲間均等の尖閣上陸と野田政権とは直接の関係はない。むしろ、日本国内の反中勢力が野田首相の訪中の成果を破壊し、中日両国が国交正常化40周年を迎える雰囲気を破壊するために意図的に作り出した挑発行為と見なすことが可能だ。日本政府が中国との互利協力を進めることを継続し、中日戦略互恵関係をさらに深化させたいと心底から願うのであれば、中日関係及び中国人民の感情を傷つけるこれらの挑発行為の出現を避けるように努力するべきである。

<尖閣諸島命名と中国側の態度硬化>

 新華社は、1月17日付で人民日報をソースとする「領土主権を守る中国の意志に探りを入れることは許さない」と題する署名文章を掲載しました。この文章は、尖閣問題が中国の「核心的利益」に含まれるという中国の立場をはじめて表明したものとして注目されましたが、その内容は次のようなもので、それまでのものと同じく、中国側がこの時点では日中関係を損なわないことに最重点をおいていることを示すものでした。

魚釣島及び付近の付属島嶼は昔から中国の固有の領土であり、中国は争うべからざる主権を持っており、尖閣の領土主権を防衛する決意は確固として変わることがないものである。
2010年9月に日本の巡視船が中国漁船に衝突した。中国側は、日本の巡視船が魚釣島付近の海域でいわゆる「法執行」活動を行うことは許されず、ましてや中国漁船及び人員の安全に危害を及ぼすようないかなる行為を取ることも許されないことを厳正に指摘する。魚釣島の付属島嶼に命名することを企図することは、中国の核心的利益をあからさまに侵害する行為である。
 中国は一貫して大局に着眼することを堅持し、矛盾激化を避け、尖閣問題が中日両国関係全体を傷つけることを避けてきた。日本は、中日戦略互恵関係並びに東アジアの平和及び安定を重視し、がむしゃらに自分の意見を押し通すべきではなく、中国の主権を守る意志と決意に探りを入れるようなことをすべきではない。

 この文章のもう一つの重要性は、日本政府が尖閣列島の名前のついていない島嶼に命名する意図に対して、それが中国の「核心的利益」を明確に侵害する行為となると見なすことを警告した点にあります。
私は、この文章に接した外務省事務当局がどのような分析を行い、野田内閣に対していかなる助言と忠告を行ったのかについて、個人的には非常に関心があります。つまり、それまでの外交的な事務折衝で中国側は度々この件について問題提起していたし、野田訪中の時点でも問題として取り上げられたに違いありません。それが日本側によって無視され(聞き入れられず)、1月16日に藤村官房長官が3月末までに39の無人島(魚釣島付近の7島を含む。)の名称を確定することを公表したために、中国側としては人民日報で自らの立場をオープンにしたと考えられます。
藤村官房長官が記者会見で、無名の離島に命名することは「政府の最優先課題」としたことも報道されました。さらにまた、同日のNHKニュースが、今回の命名作業において、日本政府は「沖縄県所属」の尖閣7島を「重視」した、というのは2010年に発生した「中日船舶衝突」事件以後も中国漁船が当該海域に「頻繁に出没」し、日本政府はこれら7島嶼に対する「管理強化」をさらに進めるためであると報道し、「これらの命名により、これらの島嶼に対する保護及び管理を強化するとともに、国内外に対してこれらの島嶼が日本の領域に属することを明確にできる」と解説したことも、17日付で『環球時報』(人民日報系列の有力紙)をソースとする記事で詳細に報道しました。 ちなみに、日本のメディア(東京中心ですが)の報道ぶりに対する中国側の取材と中国国内へのフィードバックはきわめて詳細です。その逆は真ならず、ということが日中間の認識ギャップを生みだす重要な一因になっています。
1月18日には、『新華国際』(新華社HPの国際ニュース・ページ)をソースとする「尖閣問題:主権防衛の中国の決意に探りを入れるべからず」という標題の記事が、それまでの尖閣関連の報道(新華社以外のものをも含む。)を改めてまとめて紹介するとともに、2010年10月17日付で中国共産党理論誌『求是』のHPに掲載された「尖閣紛争の経緯」を紹介しし、中国側主張に法的根拠があり、日本側の主張は法的に成り立たないとする中国側の立場を理解させようとしています。しかし、A4にして約20ページにも及ぶこの記事(関連記事を含む。)の最後の部分は、「不惑の年の中日関係にはさらに多くの知恵を傾けるべきだ」、「外交部は、尖閣紛争の解決には次の世代がもっと知恵を持っているかもしれないと語る」というサブ・タイトルを付しており、この時点における中国側の力点がなお事態沈静化に置かれていたことが窺えます。
そういう中国側姿勢を裏付けたのは、1月19日付の「不当な行いを避けることによってのみ中日関係の大局を維持できる」と題した新華社の記事でした。そこでは次のくだりが注目されます。

 相互信頼は約束を誠実に守ることによって得られ、一滴一滴の積み重ねが必要だ。歴史的原因により、中日両国間の相互信頼の樹立及び維持には、双方が長期にわたってたゆまぬ努力を行うことが求められる。中日友好関係が今日まで発展したのは、数世代の心血が凝結したものであり、双方は大切にすべきだ。中日両国が尖閣などの敏感な問題で達成した共通の認識と理解は、共同で遵守し、守るべきだ。対話及び協議を通じて中日関係に存在する問題を解決することは、両国関係の大局を守り、双方の利益に合致する。日本側は、約束を誠実に守り、中日関係の健全かつ安定的な発展に有利なことを多くなすべきであって、その逆であってはならない。
 本年は中日国交正常化40周年であり、両国関係における前人の業を受け継ぎ、前途を開拓する重要な一年である。日本側は、時代の潮流に従い、中国側とともに共同して努力し、中日関係発展の大方向をしっかりと把握し、不断に政治的相互信頼を強め、様々な領域での交流及び協力を強化し、中日戦略互恵関係が健全かつ安定的な軌道に沿って不断に前進するよう推進すべきだ。

 中国側としてはこのように懸命に日本の理性的対応を求めていたにもかかわらず、1月21日に2名の衆議院議員が尖閣を「視察」しただけでなく、29日には、日本政府が尖閣島嶼への暫定名称を確定し、年内には正式名称を決定する、という日本メディアの報道が行われました。中国外交部報道官は30日、日本側に厳重な申し入れを行ったことを明らかにしましたが、同日付の新華社は、『人民日報』HPをソースとする「尖閣で中国を傷つける日本は必ずや自らを傷つける」と題する、次の内容の署名記事を掲げ、中国側の対日認識が格段に厳しさを増したことを示しました。

 中国には「その言を聞き、その行いを観る」という俗諺がある。昨年12月、日本の野田首相が中国を訪問した時は朝鮮の指導者である金正日が死去した時に当たっており、野田首相は中国側の協力が切実に必要だったため、中国指導部の会談で当初予定していた尖閣は日本の領土だと主張する考えを取り消し、自らを「日中交流の子」と言い替え、朝鮮の安全は日中両国共同の戦略的利益と言い替えた。この発言の舌の根も乾かぬうちに、野田が主宰する政府は尖閣問題で手を打ち、中日間における国家主権にかかわる領土問題及び敏感な国民感情問題にずけずけと挑戦した。この行いは、すでに存在している中日間の政治的相互不信を必ずや深めるだろう。
 職業軍人の家庭を出身とする野田佳彦は、早くから独特の「安全保障観」を持っていると公言してきた。その一つは、野党の国会議員として、尖閣が日本領土であることを確認する国会決議を通すべきだと提起したことである。消息筋によれば、野田佳彦は大権を握っており、日本の尖閣支配においてさらに実質的な行動を取る可能性がある。しかも民主党の前原誠司政調会長は、京都大学で『海洋論』を学び、…「中国との間で紛争がある尖閣」…を守ろうとする行為を取ろうとした。このことは取りも直さず、いま政権にある民主党の中枢部は、自らの「領土にかかわる信念」のためには隣国との関係に影響を与えることをなんとも思わないということだ。
 日本政府が新しい年にこのような措置をとることについては、アメリカの「アジア回帰」戦略に対する一種の呼応及びテスト(という意図)を見出すことができる。つまり、尖閣紛争のレベルをさらに引き上げることを通じて同盟国・アメリカに注目させ、かつて読売新聞の書面単独インタビューを受けた時に「尖閣の現状を維持すべきだ」と表明したオバマ大統領に二者択一をせざるを得なくさせ、日米軍事同盟の共同の狙いを作り上げるということだ。
 分析筋によれば、今年は「政権交代」の年だ。オバマは再選を狙っており、野田首相も再選を追求している。アメリカはすでに選挙運動において「中国カード」を持ち出しており、日本としては内政面で税制改革においてどうしようもない困難に陥っている時だけに「外交カード」を切りたいところであり、これで中国をテストしたいのだ。
 このように見てくると、尖閣諸島の島嶼に新しく命名することは「一石三鳥」だ。しかし、野田政権は、中日両国が和せば共に利益となり、闘えば共に傷つくことを肝に銘ずるべきである。日本が中国の領土主権を損ない、中華民族の感情を傷つけるようないかなることをしても、最後には想定内の及び想定もつかない傷が我が身に降りかかるだろう。

 この文章は、現職の野田首相(及び前原政調会長)を名指しし、その政治思想・立場を露骨に批判的に指摘していますが、このような現職の日本の要人を名指しで批判する文章を見た記憶は、管見の限りではこれまでにありません。また、尖閣島嶼命名の狙いをアメリカの軍事戦略と結びつけて公然と論じるということも珍しいことです(もちろん、中国側においてそういう見方がなされていることは、別途このコラムで紹介するつもりの二つの文章を下敷きにすれば、さして驚くことではありません。)
。 しかし、中国側としては、野田政権の尖閣諸島島嶼命名を中国の「核心的利益」を損なう行為として厳しく牽制したにもかかわらず、野田政権が中国側警告をまったく無視して動こうとしていることに対して「堪忍袋の緒が切れた」ということでしょう。遠回しの言い方では中国側の固い意志が伝わらないと判断して、以上の文章になったものだと理解するべきだと思います。
中国側の激しい怒りは、1月31日に中央電視台(テレビ局)が放映した番組「世界視線」(2月1日に新華社が配信)において、司会者と二人の専門家の間で交わされた発言で爆発した観がありました。主だった内容は次のとおりです(発言したままをキャリーしたらしく、私の語学力ではよく読み取れない部分もあるのですが、なるべく生きた会話として伝えるように努めました。)。

 司会者:裏の背景にあるのは一体何だろうか。
 専門家Ⅰ:国内的には権力を賭けるということ、対外的にはアメリカとタイアップするということだ。国内的には、野田政権は一貫して中国に対して強硬であることを示そうとしている。民主党が政権を取ったばかりのときの鳩山が選んだのはそういう方向ではなく、中国と友好関係を持とうというものだったが、またたく間にアメリカによって辞職に追い込まれた。
 司会者:(島嶼命名に当たって)人々に名称を募集した上で最終的な名称を決める(など)明らかに周到な準備を踏んでいる。
 専門家Ⅰ:周到な準備を踏んで、全民参加を経てその占領を合法化しようと狙っていることは疑問の余地がない。そのことで、民主党政権は非常に愛国的で、中国には非常に強硬、尖閣問題ではびた一文負けない(という印象)を作り出そうとしている。対外的には、アメリカのアジア回帰とタイアップして、尖閣問題を常に熱くする。朝鮮半島も、尖閣も、南シナ海も熱くすることによってのみ、アメリカはアジア回帰の手がかりが得られる。
 専門家Ⅱ:民主党は脆弱な政権なので、アメリカを引っ張ることは欠かせない。(しかし)アメリカがアジアに回帰するといっても、軍縮という大問題に直面しており、エジプト、イラン、シリアというもっとも困難なホット・スポットすべてを抱え込めない。こういう状況下でアメリカは現実主義だから、中国と一定の妥協を行う可能性がある。1972年には、ソ連(との対決)のために中国と大きな妥協を行った。
 日本人は、自分が「孤独老人」になってしまうことを非常に恐れる。誰も日本のことを構ってくれない、アジアで多くの罪を犯したのに清算もしていない、という(恐れの)心理からアメリカの足にすがりつくわけだ。アメリカは間違いなく自分自身のことも一々構っていられないわけで、アジア回帰といってもこれっぽっちの兵力しかないのだが、日本人がこういう時にこういうこと(尖閣諸島命名)をするというのは、アメリカを引っ張り込もうということ、これがキーポイントだ。
 司会者:中国外交部が迅速に反応したが、きわめて原則的な見解・態度表明で、一貫した立場だった。
 専門家Ⅰ:まあ理性的だった。
 司会者:そう、理性的。多くの人が抱く疑問は、日本は中国がこのように反応することを読んでいるということで、中国からすれば、日本が我を通し、ひっきりなしに中国の出方を探ろうとし、甚だしきに至っては併合し、ライオンのように口をガッと開くというような挑戦に対しては(どうすべきか)。
 専門家Ⅰ:簡単に言えば、人の道をもって対処するか、人の身を治めるか、ということだ。戦略上、我々はこちらから手出しはしないのに、日本人はそれでもここ(尖閣)で事を荒だてようとするわけで、(これに対して)人の道をもって対処するか、人の身を治めるかとなるわけだが、(答えは後者で)我が巡視船(中国語は「漁政船」)は尖閣で巡視を行うべきだし、漁船はどこででも漁を行うべきだ。例えば、我が巡視船は元々中間線といった問題に非常に気をつかって200カイリ(の線)の中までは入りこまなかったが、今は中間線を越えて24カイリまで、さらには12カイリの領海にまで入っている。これは当然のことで、法を執行しようとするのに、どうして自分の領海に入らないという理由があるのか。尖閣はこっちのものだ。こういうやり方を堅持していくべし。もし日本人があえて上陸するというようにさらに一歩を進めるならば、我々も同様のことを行っていい。多くの「尖閣防衛」人士が尖閣に上陸したがっており、我々はサービスを提供できる。当局はしないが、民間は大いにすることができる。どっちの力が大きいか比べよう。日本人がこういった戦略的チャンスを与えるのなら、我々としてはそれに乗っかっていこう。
 司会者:国連を含む国際法を通じても方法があるのではないか。
 専門家Ⅰ:そのとおり。まず宣伝という点では、尖閣のすべての歴史的証拠を公表するべし。煩雑さをいとわないで公表する。そのほか、小中学校の教材でも、尖閣問題の歴史教材を歴史の教材の中に書き込む。尖閣がいつ日本に占領されたか、元々はどういう状況だったか、等々。
 司会者:中国の指導者は、国連のような国際舞台を利用して公に講演してもいいのでは。
 専門家Ⅰ:中国には原則的な立場があるから(それもいい)。
 司会者:(番組を終える締めくくりとして)日本の野田佳彦について言えば、彼は職業軍人の家庭の出身で、国会議員のときに、国会は尖閣が日本領土であることを確認する決議をするべきだと提起したことがある。いま首相としての彼がいかなる実質的行動を取るか。中国政府は関心をもって注目する価値があろう。

 中国が早くから日本側の動きに関心を持っていたこと、今後もさらに警戒すべき問題として捉えていることを明らかにしたのは、2月13日付で配信された、『国際先駆導報』(新華社系国際問題専門紙)をソースとする「尖閣における日本の「漫歩と疾走」」と題する署名記事でした。この記事から明らかなことは、中国側が日本の動きを自民党政権時代からの一貫したものとして捉えており、アメリカをも引き込もうとする狙いを持っていると見なしていることです。タイトルの「漫歩と疾走」という言葉の意味は、日本が尖閣問題に関して、情勢が許すと見れば動きを強め、情勢が不利と判断すると動きを緩やかにする、という筆者の判断を示しています。
この記事で注目されるもう一点は、中国の急速な発展とそれに伴う日中の実力関係の急激な変化に直面して、日本国内には焦りが生まれており、「速やかに尖閣に対する実際的支配を実現し、今後の中国との勝負を有利にしたい」という気持ちが働いていると分析し、その一環として、「アメリカの勢力を尖閣問題にも引き入れ、アメリカを日本の護衛艦隊にすることを非常に希望している。産経新聞社説は、日米両国が尖閣の周囲で共同軍事演習を行うことを提案している。」と警戒していることです。

<全国人民代表大会(国会)と反転攻勢>

 中国における全国人民代表大会(日本の国会に当たる。年1回開催。以下「全人代」))は、3月5日から14日まで行われましたが、このことが中国政府の対日政策を強硬に転じさせる上で大きな役割を果たしたことは間違いないと思います。
 しかし、それに先だって、2月13日付で配信された環球時報をソースとする「中国学者、日本が不法に尖閣島嶼に命名することに対抗するための5大措置提起」という記事が、その内容からしてきわめて要注目です。この記事は中国海洋発展研究センターの郁志栄研究員が執筆したものという紹介がありますが、「日本が命名というやり方を中止する気持ちがないことは明らかであり、中国側としては日本のやりたい放題に任せることはできず、積極的に対抗措置をとるべきである」とした上で、次のように紹介しています。
その内容は、日本に対する正面からの対決政策を、外交面でも、実力行使面でも、法執行の面でも、内外世論工作面でも、きわめて具体的に提唱するものです。ここで提案されている中国側による尖閣諸島に関する命名措置は、日本政府が3月2日に命名措置を公表した翌3日に発表されました(国務院の批准に基づき、国家海洋局及び民政部による「魚釣島及び一部付属島嶼の標準名称」として公表)。というよりは、郁志栄はすでに中国政府が進めていた施策を踏まえてこの文章を書いたのだと思われます。また、中韓露が連合して日本に対抗するという提案は、後で紹介するように、実は中ロ首脳の2010年の共同声明ですでに現実になっており、これが三国連合スクラムまで発展する場合には、アメリカ頼りの日本に対して強烈パンチとなって働く可能性を予見させるものだと思います(命名措置がすでに取られたように、中国政府は中韓露連合作戦にもすでに着手していると見るべきでしょう。)。
ということで、長いですが、是非じっくり読んでいただきたいと思います。

 日本側の一連の動きから、今回、島嶼命名を利用して尖閣主権の帰属問題に関して挑戦してきたのは事前に図ったものであることが分かる。第一、タイミングは十分練ったものであり、中日国交回復40周年に当たる春節(旧正月)を選んでいる。第二、物事の進め方に周到な準備がある。日本の島嶼命名は、プロセス上の「規格」に厳格に則って操作された。即ち、まず地方自治体が広範な人々の意見を徴集してとりあえずの名称を決めた上で中央に報告し、最後に中央政府が正式名称を公表し、地図及び海図に印刷した。日本がこのようにした趣旨は、対外的にその正統的イメージを最大限に打ち立て、マイナス的な反応を少なくしようとすることだ。筆者は、日本のこの挙が生みだす長期的効果は我が方にきわめて不利であり、決して軽く見てはならず、きわめて重視すべきだと考える。我が方が取り得る対抗措置としては以下のような選択肢がある。
一 外交交渉の力点を拡大すること。 外交部門は抗議を提起する以外に、日本側に対し、我が尖閣付属島嶼に対する命名のすべての活動を即刻中止し、取り消すべく、同時に今後類似の事件を再発しないことを保証するよう、警告する。日本が応じない場合には、我が方としての報復措置をとり、東シナ海問題の協議を引き続き行うという日本側提起の要求を拒否するなど。
二 対日防備の力点を拡大すること。 海上における法執行の力点を拡大し、中国海監(注)の法執行艦船及び航空機が尖閣周辺海域でルーティンの巡航法執行を行うことを公表することにより、日本人が再度上陸したり、島の周りを「視察」するような違法行為を行ったりすることを防止し、類似事件を発見した場合には例外なく厳しく処置する。また、…日本は1972年以来艦船及び航空機を派遣して尖閣周辺海域においていわゆる領海警備を行っており、2022年には満50年となる。日本側の尖閣周辺海域の実効支配の理論的根拠は「時効取得」であり、我が方としては、日本側がこれから10年内にいかなる方法で中国側に挑戦するか予測すべきである。研究を通じて早めにその行為を予測することによってのみ、的確な防備措置を採用することができる。

(注)3月16日付の新華ネット配信記事によれば、「中国海監」とは、国家海洋局が指導する海上における綜合法執行力であり、海洋権益を確保することを任務とし、2006年7月20日から中国が管轄する海域で権益確保の定期巡航を行ってきたこと、2008年12月8日に尖閣海域で巡航したことが紹介されています。そして、2012年3月16日から19日にかけて、3000トン級の新旗艦50号と1000トン級の最速艦である66号による尖閣及び東シナ海海域における巡航は中国国内で大きく報道されました。なお、人民日報をソースとする3月20日付の「定例的に巡航し、主権を広く示す」という記事では、中国海監東シナ海総隊責任者の言として、今回の巡航は、2007年3月に中国管轄海域の定期権利護持の法執行制度が作られて以来の定期的巡航であるともしています(この記事は、インタビューのかたちで、中国海監の編成や実力についても説明しています。)。

三 基礎管理の力点を拡大すること。 我が国の「海島保護法」に基づき、国家地名管理機構及び国務院海洋主管部門は時間をしっかりつかみ、速やかに魚釣島及び付属島嶼の名称に対する整理を行い、調整後に正式に公布する。魚釣島及び付属島嶼の名称呼称を統一することに加え、魚釣島及び付属島嶼を行政区に編入し、実質的管轄を進めるべきだ。また、「領海及び隣接区法」に基づき、魚釣島及び付属島嶼の領海基点を速やかに確定し、領海基線を公布し、有効管理に充分な根拠と条件を提供するようにするべきだ。
四 輿論宣伝の力点を拡大すること。 有効な宣伝の目的を実現するため、尖閣問題を専門に研究する機構を成立させ、継続して深く研究する専門的人員を配置するべきだ。同時に、韓国、ロシアなど日本との間に領土紛争を有する隣国と連合し、日本が他国の領土を奪い取った野蛮な行動及び卑劣な手段に対して共同で対応する。中韓露は、バラバラで闘うこれまでの方式を改め、三国連合で日本側の領土争奪に対処するべきであり、これによって状況は大きく変わるだろう。
五 権利確保政策の力点を拡大すること。 中日間の尖閣主権帰属問題の歴史は長く、複雑で錯綜している。問題を徹底的に解決するには、一、二の部門の努力に頼っているのではまったく不十分であり、筆者は、国務院台湾弁公室に類する指揮、協調及び組織の機能を一体化した、海洋権益の護持及び確保を専門的に主管する機構または部門の設立を提案する。尖閣主権帰属問題が時間的に長引けば長引くほど、矛盾蓄積が重なり、機会喪失が増えるのであり、専門的機構の統一的協調及び指揮の下で、方向を明確にし、力を集中することにより、尖閣主権帰属問題解決を推進するプロセスを早めることが必ずや可能になるだろう。

 全人代代表でもある国家海洋局局長・劉賜貴は、全人代開会に2日先立つ3日に新華社記者の単独インタビューに応じて、同日公表の中国側による尖閣名称標準化について語っています(同日付新華社電)。また、3月6日付の中国新聞社HPをソースとする記事は、全国政治協商会議(全人代とともに開催される各界・各党派を代表する委員で構成される全国的な政治諮問機関)委員でもある中国気象局局長・鄭国光が、同僚の委員・左宗申が行った、中央テレビ第1チャンネルの天気予報(全国をカバー)に尖閣を含めることで主権を明らかにすべきだと提案したこと(3月18日付の中国新聞社HPをソースとする記事が報道)に対して、技術的に何の問題もないと答えたと報道しています。そして全人代が終わった直後の3月16日に、中国海監の2隻の巡視艇による東シナ海及び尖閣海域での巡航が報道されたのでした。3月19日付新華社電は、この定期的権利擁護の巡航が「尖閣領土主権問題に関する中国政府の一貫した立場を体現したものであり、その意義は重要であり、影響するところは深遠である」としています。
 3月20日付の環球時報HPをソースとする配信では、中国海軍軍事研究所の李杰研究員署名の「日本、さらに10年経てば尖閣は日本の合法的領土と公言」と題する文章が、日本の動きに絡めて中国海監の巡航活動の意義を論じました。そのうちの日本関連の部分は、次のように興味深い(と私には思われる)ものです。

 一つ確かなことは、日本は今後も尖閣占拠の問題では「強硬」であり続けるということだ。まず、日本経済が長期にわたって不景気であり、政府は頻繁に変わり、さらに福島原発危機の影は相変わらずだから、人々の視線を逸らし、矛盾を海洋紛争に転嫁したいと切に願っているということだ。次に、アメリカとしては、戦略が東に移り、日本という盟友がアジア太平洋各国周辺海域で「わざと事を構え、騒ぎを起こす」必要があって、水をかき回してそこから漁夫の利を得たい。もちろん日本としても、アメリカの強力な実力を借りて自国の地位を高め、最大限の海洋利益を獲得したいと希っている。さらに、日本は近年東アジア海域が情勢ただならぬのを見て、中国が南シナ海の問題など他の海域その他の問題にかかりっきりになっているのに乗じて尖閣及び東シナ海の問題に対する介入を拡大しようとしている。このほか、さらに10年経つと、日本の尖閣及び周辺海域に対する実効支配が満50年になる。日本は、50年の「時効取得」理論に基づき、2022年には「堂々と」尖閣を占有できると放言している。
 したがって、最近の我が国の「主動的」な巡航活動は一里塚としての意義があると言うべきだ。…尖閣及び付属海域に対する主権と管轄権を広く示したし、中国海監が今後定期的に権利を守り、また、常態化によって権利を守ることに基礎を据えた。

 中国は、尖閣問題と朝鮮の人工衛星打ち上げ問題との関連性についても注目していました。3月31日付の「日本が隣人を不興に「わざとさせる」背景心理」と題する新華社の記事がそれです。この記事を私が特に注目するのは、朝鮮に対する批判は一切なく、日本がこの問題を利用して軍事大国への道を邁進しようとしていることに焦点を当て、尖閣問題もその脈絡において捉える視点を明確にしていることです。この記事は、関連する過去の記事をも引用するもので、全体としては長文なものですが、最初の「核心提起」の部分を紹介します。

 核心提起:「遠き親戚より近き隣人」とは、人と人との間の交際の道であり、同じように相接する国同士の間にも当てはまるのだが、最近の日本は立て続けに隣国が不興になるように「わざとしている」。
 3月16日に朝鮮が光明3号を打ち上げるというニュースが伝えられるや否や、日本では大騒ぎになり、朝鮮の説明を無視して、何度も朝鮮の衛星を打ち落とすと騒ぎ立てた。国土と人々の安全を心配する初志は理解に難しくないが、歴史が我々に語るのは、朝鮮がミサイルを発射し、核実験を行う機会を毎回利用して、日本が軍事的に大きな歩みを進め、「筋を通す」かたちで「あからさまな軍事大国」になってきていることだ。
 尖閣問題においては、日本の最近の動きはさらに際立っている。魚釣島付近の4つの島の中の「北小島」を「国有財産」に登記(3月26日に藤村官房長官が記者会見で明らかにしたことを、3月27日付で新華社が流しました。)した後、新しく検定した教科書において尖閣を領土だと明記する(3月29日付で、環球時報ネットをソースとして、文科省の新学習指導要領に基づき、教科書で尖閣問題を扱った教科書が増えたというNHK等の報道を紹介)など、こうした不法で無効な「小細工」をすることは、日本が中国の領土に対して分をわきまえない野心を抱いていることを改めて暴露した。
 「慰安婦は日本軍の性的奴隷であったという言い方は事実に合わない」とする野田首相の(3月)26日の発言は、韓国政府を決定的に怒らせ、人々は在韓日本大使館に押し寄せてデモを行った。韓国メディアによれば、野田佳彦のこの「妄言」の背後には、歴史を反省せず、近隣国家の感情を顧みない民族主義的態度があからさまに示されている。
 このように進むと、「普通の国家」に向かおうとする日本が、自らの「口」と「手」に締まりをつけず、かつて侵した戦争の罪行を正視しようとしないならば、周辺諸国の対日不信任の感情はますます強烈になるばかりであり、「日本ドリーム」はとどのつまりは単なる「はかない夢」に終わるだろう。

<石原発言>

 4月16日の石原発言は以上の状況の下で起こったものであり、中国側からすれば突発事件でもなんでもなく、あえて言えば、「火に油を注ぐ」ものだったと思います。もちろん、中国メディアは詳細にフォローし、刻々と報道してきたことは言うまでもありません。しかし、その視点は、明確に日本政治の全体的枠組みの中で石原発言を位置づけるというものでした。その一例は4月18日付の『中国青年報』(1951年創刊の全国紙)をソースとする記事の次のくだりです。

 名古屋市長・河村隆之が南京大虐殺を否定したでたらめの余波がまだ収まっていなというのに、東京都知事・石原慎太郎がまたもや、東京都が魚釣島を購入する準備をしているという思いもよらぬ言を吐いた。
 本年は中日国交正常化40周年だが、いまの中日関係を「不惑」という言葉で形容することは至難だ。日本の地方自治体の首長が相次いで、歴史、領土などの敏感な問題について、中日関係をしゃべりまくるというのは、日本では地方政府が先鋒を務め、中央政府は背後で掩護するという対中新策略を採り始めたのではないか、と疑わざるを得ない。

 この記事は、橋下大阪市長、中山石垣市長、仲井間沖縄県知事が石原発言を支持し、あるいは理解を示したことにも言及していますし、平野文科相や藤村官房長官の発言もこの脈絡で報じています(他方中国のメディアは、神奈川県の黒岩知事、北九州市の北橋市長の石原発言を批判する発言なども伝えています。)。
 石原発言を踏まえて日中関係のあり方について論じたのが、4月18日付の環球時報をソースとする「東京が金を使っても尖閣の主権は買えない」と題する、次の内容の文章でした。

 東京都知事の石原慎太郎が、東京都は私人所有の魚釣島を購入することを決定したと対外的に宣言した。この挙の目的は、魚釣島購入のプロセス化の操作を通じて歴史的な痕跡を残すことだ。ただしこのことは、日本内部における自作自演のこざかしい振る舞いでしかない。尖閣の表示価格はカネではなく、東京がどれだけの金額を使っても、中国に属する尖閣の主権を買い付けることはできない。
 尖閣には中日間の主権の争いが存在する。日本は尖閣を支配する有利さを頼ってあれこれすることで、中国に折れた歯を腹に呑みこませようとしているが、これは悪辣であるだけでなくきわめて考えが甘い。
 石原慎太郎は、日本の極端な民族主義で軍隊を指揮するタイプの妄想家だ。彼は、民族主義的な新手の挙をプランし、センセーションを巻き起こし、台頭する中国に対する日本の右翼の怒りを凝集しようとしている。彼は、日本人の思想の中のもっとも狭隘な部分を日本の主流の精神とする方向に持っていこうとしている。…
 石原は、尖閣について紛争が存在する事実を回避できず、日本人が喧嘩を売りさえすれば、中国が必ず返礼することをはっきり分かっている。しかし彼は、中日間の尖閣紛争をエスカレートさせるプロモーターたらんと願っている。
 今年は中日国交回復・正常化40周年だが、年明けには南京大虐殺を否定する名古屋市長が出てきたし、今はまた石原が新しいプログラムを取りだしてきた。見るところ、石原は中日が相互に憎み合うことを推し進める総監督になろうとしている。
 お気の毒だが、東京都が尖閣を購入することと日本政府がそうすることとの間にどれほどの区別があるかについて、尋常さを超えた忍耐心で臨む義務は中国人にはない。我々の感覚としては、新しい挑発を受ければ反撃するのは必然である。
 尖閣は中国の固有の領土であり、この帰属は第二次世界大戦の結果として確認された。2010年9月、中ロ指導者は第二次世界大戦終結65周年に関する首脳共同声明を発表したが、声明では「国連憲章その他の国際的文献が第二次世界大戦の結果に対して定論を出しており、改めることを許さない」と述べている。日本が絶えず尖閣について「法律カード」を出して来る状況の下で、中国が切れるカードはもっと多い。必要な時には、中国は第二次世界大戦の成果を守る決意を示すべきだ。
 中国の台湾地域は、魚釣島及び付属島嶼を宜蘭県の管轄と定めているが、中央政府は行政区域とすることを迂回して、法律の枠組みの下で尖閣独立警備機構を成立させ、関係政府職員を任命し、尖閣と中国の日常的国家運営とを一体化することも考えることができる。
 尖閣をめぐる中日間の勝負はきわめて複雑で、影響する範囲は大きい。日本国内で尖閣に対する所有権契約を変えたとしても、歴史の大河において漂流する方向を決定することはできない。中国は、大いに自信を持って日本と勝負するべきだ。
 日本の右翼に対する反撃において、中国はキッパリしていなければならない。しかし我々は、尖閣の争いの最終的な比較は中日間の忍耐力であって、一時的にスローガンを叫ぶ騒ぎではないことをわきまえるべきだ。日本側はひっきりなしに極端な動きを取っているが、明らかとなっているのは、中国との勝負にますます自信をなくしているということだ。石原のたぐいは、気が狂ったように走った後に頭を砂の中に押し入れるダチョウのようなものだ。
 尖閣は中国の固有の領土であり、中国がその主権を堅持しさえすれば、日本はこれをかすめ取ろうということを思いとどまる。尖閣は、中国興隆の道にある無形の灯台のように、我々が世界で位置する実力的地位及び我々がなお果たしておらず、するべき事業がどれほどあるかを語っている。中国は大きく強いが、我々にはなお多くの肋軟骨がある。
 一連の島嶼をめぐる争いは、東アジア地縁政治の宿命の一つだ。欧州は、歴史の野蛮時代における戦争を通じて海上の境界を解決したが、アジアがこれらの紛争をどのように解決するかについては、融通性が非常に大きい。
 中国は交渉を通じて平和的に海上(問題)の意見の違いを解決することに努力するが、その解決には関係国が真剣に歩調を合わせることが必要だ。中国に対して乱暴に振る舞うものは、誰であれうまい汁にはありつけない。
石原慎太郎は悪だくみを尊んでいるようだが、中国人の政治的知恵と中国人の尖閣主権防衛の決意を軽く見ているようだ。

 以上の文章からは、中国が今や尖閣問題で断固引かない姿勢に転じていることを読みとることは難しいことではありません。特に、日本が中韓露三国との間で抱えている領土問題については第二次世界大戦で決着がついているとする中国側の論点は、国際的に言いますと、決して荒唐無稽なものではありません。アメリカが尖閣の領有権問題については同盟国・日本の主張を支持することを控えざるを得ないのは、正にこの故なのです。私は、2011年のコラムに載せた「日本の領土問題の歴史的・法的起源」と題する文章(http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2011/373.html)で、この問題について扱ったことがありますので、関心がある方には是非読んでいただきたいと思います。私たちの領土問題に関する主張は、国際的には決して「自明」なものではありません。
 しかし、以上の文章から私たちが読みとるべき中国側のより重要なメッセージは、尖閣問題を含む領土問題について中国はなお問答無用という硬い態度ではなく、「アジアがこれらの紛争をどのように解決するかについては、融通性が非常に大きい」としていることです。私たちはともすると、今や大国主義に凝り固まった中国が領土問題でも拡張主義を押し出してきたと受けとめがちです(南シナ海における中比、中越のもめ事においても、日本のメディアでは中国を悪者に仕立て上げています。)が、本当にそうなのでしょうか。こういうように中国(及び朝鮮)を悪者イメージで仕立て上げることは、正に米日軍事同盟正当化の必要に基づく日米共同の「仕組まれた演出」ではないでしょうか。尖閣問題を荒だてることによってもっとも苦しい立場に立たされるのは、最終的には日本自身であり、年初以来の出来事は、中国を本気で怒らせることによって、日本はとんでもない状況に自らを追い込みつつあるということを、私たちは認識するべきですし、そういう状況を生みだしている民主党政権の政治責任はきわめて重いと思います。

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