朝鮮の人工衛星打ち上げ(フォローアップ)

2012.03.20

*3月19日付の朝鮮中央通信社論評「衛星発射:潮米合意に抵触しない」は、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の来たるべき人工衛星の打ち上げが2月29日の米朝合意に違反するものではないとする見解を発表しました。アメリカ側の見解(「(米朝)合意交渉を進めている中で、我々はいかなる衛星打ち上げも取り引きをダメにするものだと考えることを明確に明らかにした。であるので、前提として(on the front end)、彼らはそのことを認識していた」)には直接反応していませんが、私が前のコラムで指摘したとおりの内容でした。イラン及び中国の報道ぶりと合わせて紹介しておきます。なお、以下における強調部分は私が付しました(3月20日記)。

1.朝鮮中央通信社論評

 3月19日付の論評「衛星発射:潮米合意に抵触しない」は、次のように述べています。

「断言しておくが、われわれの衛星の打ち上げは朝米合意とは全く関連がない
われわれはすでに、結実ある会談が行われる期間、核実験と長距離ミサイルの発射、寧辺ウラン濃縮活動を臨時中止し、ウラン濃縮活動の臨時中止に対する国際原子力機関(IAEA)の監視を許すことにした。
宇宙空間の平和的利用に関するすべての国の合法的権利に基づいて打ち上げ計画を公開し、国際的規定と手順に従って国際機関に必要なデータを通報した。
われわれの衛星打ち上げ計画は、国の先端科学技術をより高い境地に引き上げて社会主義強国建設の柱を強固にし、民族と人類共同の繁栄に寄与しようとする崇高な一念から発したもので、問題視されるものが全くない。
実用衛星の打ち上げと長距離ミサイルの発射は、別の問題である。
かいらいをはじめ敵対勢力は、世界的に一年間にだけでもキャリア・ロケットの打ち上げで平均100余りの宇宙機具が地球の周囲軌道に進入する事実に対しては、いかに説明するつもりか。
かいらいの言動に警戒心を高めなければならない。
かつて、敵対勢力がとてつもなく「ウラン濃縮疑惑」説を持ち出して朝米対話を破たんさせて情勢を極度に悪化させ、結局はわれわれを核保有へと促した歴史の教訓を繰り返さない方が良かろう。」

2.イラン及び中国の扱い

 私たちはアメリカ及び日本のメディアの報道及び「解説」によって、私たちの理解・判断を知らず識らずのうちに形作らされていますが、アメリカに対して独立した立場の国々においてはどのように受けとめられ、報道されているかを知ることは、私たちのともすれば固定化されがちな認識を検証するのに有益なことが多いものです。ここではとりあえずイラン及び中国における扱いぶりを紹介しておきたいと思います。

<イランの報道>

 3月17日付のイラン日本語放送ウェブ・サイトは、「北朝鮮の衛星打ち上げの発表」と題するホセイニー解説員の文章を掲載しました。その内容(抜粋)は次のとおりです。

 「政治評論家は、…「北朝鮮政府はこの衛星の打ち上げにより、二つの大きな目的を追求している」と考えています。一つはこの国は、科学的、軍事的に高い能力を有し、弱体化した状態で、アメリカと協議や合意を行うつもりはない、ということです。そしてもう一つは、食糧支援を受ける代わりに、ウラン濃縮停止に合意し、核実験を停止することは、北朝鮮のこの他の科学、航空宇宙、軍事活動と何のつながりもないということです。北朝鮮政府は、これ以前にも、アメリカとの合意を超えた問題について同国に圧力がかけられた場合、協議の席にはつかないと警告していました。」
 「北朝鮮は2月29日、中国・北京でのアメリカとの二者協議を受け、同国からの食糧支援を受ける代わりに、ウラン濃縮活動と核実験を停止することで合意し、IAEA国際原子力機関の査察官にも、北朝鮮の行動を監視するため、同国への訪問を許可することになりました。とはいえ、アメリカとその同盟国である韓国には、アメリカとの協議の中、そしてこの合意の後で、北朝鮮の信用を獲得するために、同国に対する一切の軍事的挑発をやめることが期待されていました。しかしながら、アメリカは今月、北朝鮮の近海である黄海上で韓国と合同軍事演習を実施し、また3月25日と4月にも同様の軍事演習を実施する意向を示すことで、事実上、北朝鮮との合意を守っていないばかりか、一方的に北朝鮮に対してすべての航空宇宙・軍事活動を停止するよう迫っているのです。」
 「政治問題の専門家は、アメリカとその同盟国は、北朝鮮の脅威を阻止する口実で、同国に対する大規模な軍事活動を正当化している一方で、常にアメリカや韓国の脅威を懸念している北朝鮮に対して、航空宇宙など他の科学分野でのあらゆる活動を控えるよう求めている、としています。」

<中国及びロシア政府の立場>

 3月19日付の新華社ウェブ・サイトは、次のように紹介しています。

 「中国外交部の張志軍副部長は16日、中国駐在の池在龍朝鮮大使と会見し、中朝関係及び朝鮮半島情勢にかかわる問題について率直に意見を交換し、朝鮮が4月中旬に衛星を発射すると発表したことに対して関心と憂慮を表明した。
 張志軍は、中国が朝鮮側の当該計画及び国際社会の反応に留意し、半島及び東北アジア地域の平和と安定の維持は各国が共同の責任を負っており、各国の共通の利益に合致すると述べた。我々は、各国が冷静と自制を維持し、事態がエスカレートしてさらに複雑な局面を招くのを避けることを心から希望する。」

 「ロシア外務省ウェブ・サイトは16日夜間に発表した声明において、ロシアは朝鮮が人工衛星を発射するという行為に最大限の関心を表明するとともに、朝鮮が国際社会との行為を停止する(注:中国語原文のまま)ことを希望すると述べた。声明においては、ロシアは朝鮮が宇宙空間を平和的に探索する権利を持っていることを未だかつて否定したことはないが、国連第1874号決議朝鮮が弾道ミサイルを使用するすべての発射行為を中止するべきであることを規定している、と言及した。ロシアは、朝鮮が国際社会と対抗することを停止し、地域の緊張を強め、6者協議にさらなる障害を設けるようなすべての行動を放棄するよう呼びかけた。ロシアは、各国が自制を保つように希望する。」

<中国側報道ぶり>

 20日朝現在では、新華社ウェブ・サイト掲載の本件に関する分析的な報道は、私が見た限りでは、19日付『銭江晩報』をソースとする「朝鮮が衛星を発射することがなぜ高度の関心を引き起こしているのか」と題した短文だけです。その内容は次のとおりです。

 「いわゆる国際社会の関心というのは、その実、いくつかの西側大国及び東北アジア地域にある朝鮮とのいくつかの隣国の特別の関心ということに過ぎない。国際問題専門家によれば、アメリカなどの格別な関心とは、これを口実にしていわゆる同盟を強化し、一定の制約を突破し、軍備を拡大し、国内の矛盾を転嫁するということに過ぎない。客観的に言って、朝鮮のやり口には、これらの国家に口実を与えていることももちろんだ。要するに、大国が関与する国際事件が国際社会の関心を引き起こす朝鮮問題の実質は、いくつかの大国及びそのグループの力比べという現実の反映である
 西側国家の関心はまた、朝鮮が仮に発射に成功すれば、比較的強力な宇宙技術をもち、長距離運搬の軍事的打撃能力を備え、日韓及びアメリカ・カリフォルニア州を覆うということを意味するものであり、日韓に対して脅威となるばかりでなく、はるか太平洋の彼岸にあるアメリカもまた脅威を受けるということにある。このようなことは、ある程度6者協議における朝鮮のカードを増やすことになるのだ。」

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