中東情勢に対するイランの見方と「イラン式デモクラシー」の模索

2011.05.12

*チュニジアを発端とする中東諸国の民主化を求める動きに対して、イランも重大な関心を持って注視しています。しかも、中東諸国に民主化を求める人びとの動きと連動する形でイラン国内でもアフマディネジャド政権に対するデモが起こったことが伝えられ、メディアでは他の国々におけると横並び(独裁政権に対する民主化要求デモという扱い)で伝えてきました。
しかし、ニューヨークの国連本部の向かいに本拠を置く国際平和研究所(International Peace Institute)が、2010年12月8日付けでイラン国民の世論調査を発表しているのですが、その内容は、アメリカ発の、デモクラシーとは無縁な「ならず者国家」イランというメディアが作り上げたイランとは異なるイランの姿を伝えています。また、中東情勢に関するイランの見方自体が、私たちのイランに関する既成観念の見直しを迫る内容をもっています。そういうことを今回はまとめて書いておこうと思います(5月12日記)。

1.イランにおける反政府デモ
(事実関係の出所は「中東・エネルギー・フォーラム」HP)

2月5日に、改革派指導者とされるムサビ元首相らが、「中東の人々の運動、特に自由を求めるエジプトとチュニジアの人々への支持を明らかにするために、我々はイラン国民の参加する集会(2月14日実施予定)の許可を要請する」という内容の書簡を内務省に申請しました。しかし、司法府報道官は9日に申請を不許可とします。それにもかかわらず14日には、首都テヘランやイスファハン、シラーズ等の都市で、改革派を支持する数千人の市民による反政府デモがありました。テヘランのデモでは参加者が「ベンアリ、ムバラク、そして次はハメネイだ」と叫び、最高指導者の辞任を求めました。テヘランでは治安部隊の発砲で一人が死亡、数人が負傷し多数が拘束されました。イスファハンでも改革派の支持者と治安部隊との衝突が発生し、数十人が拘束されました。当局側は、デモを呼びかけていたムサビ元首相やキャルビ元国家議長の自宅を治安部隊に包囲させ、デモへの参加を不可能にしました。
その日、トルコのギュル大統領はアハマディネジャド大統領との共同記者会見で、国家の指導者が国民の要求に注意を払わないと、我々は、国民が要求を実現しようと行動するのを見ることになると発言し、イラン政府を間接的に批判しました。同日、クリントン米国務長官もワシントンで、「デモに参加した人たちの願いを率直に、そしてはっきりと支持したい」と発言しイランのデモを支持する姿勢を明確にしました。
これに対してアフマディネジャド大統領は15日に国営テレビとのインタビューで、反政府デモの参加者は目的を達成できないと語り、同日の国会では保守系の議員が前日の反政府派のデモを非難した上で、反政府デモを計画したムサビ元首相やカルビ元国会議長を訴追のうえ絞首刑に処することを要求しています。クリントン国務長官はこの日も、イランの各都市で反政府デモに参加した人々や野党勢力がエジプトの人たちと同様の機会を得られることを望んでいるし、イラン市民の人権を尊重すると語り、それが生まれながらの権利であることを確認し、オバマ大統領もホワイトハウスでの記者会見で、イランのデモ参加者が大きな自由を欲し、国民の代表となる政府を求める願いを表現し続けることを期待すると語り、改革派の支持を明確にしました。
2月19日には、改革派がフェイスブックを通じて20日に再びデモを行うことを呼びかけ(内務省はこれを不許可とし、デモが行われる場合は徹底的に取り締まると警告)、当日には数千人の改革派の反政府デモが首都テヘランの中心部で行われて治安部隊と衝突し、デモ参加者の1人が死亡、中部のイスファハン、南部のシラーズ、北西部のサナンダジ等でも同様の反政府デモが行われました。
27日にホワイトハウスは、イラン政府が抗議行動を組織的に脅迫している、野党政治家、人権活動家、学生運動指導者、ジャーナリストを拘束している、インターネット、衛星放送を妨害している、普遍的な人権を侵害している、という内容の声明を発表し、イラン政府の弾圧を非難しました。これに対しては、28日、サレヒ外相が、デモは操作されたものであり、アラブのように民衆蜂起ではないと反駁しました。
3月1日にも、フェイスブックでの呼びかけに応じるように、首都テヘランやタブリーズ、マシャド、イスファハン、シラーズ等で反政府デモが行われ、改革派ウェブサイトは翌2日、前日のデモで少なくとも学生2人が死亡したと伝えました。この日には、ラリジャニ国会議長が、反政府運動に関与しないようアメリカに対して警告しています。国際女性の日である8日にも、改革派等の呼びかけた反政府デモが首都テヘランで行われ、女性を中心に数千人が集まりましたが、治安部隊が催涙弾を発射して散会させました。
確かに反政府デモがしきりに起こってきたことは事実ですが、チュニジア、エジプトにおけるような数万人あるいはそれ以上の大規模なものではなく、数千人規模であることに注意する必要があると思います。それが決して理由のないことではないことは、次に紹介する世論調査の結果からも理解できると思います。これまでのデモで、報道される限り、2人の死亡者が出ていることは無視することが許されない重大事ですが、ここでのポイントは、イランの反政府デモが果たして広範な国民の支持を背景にしているかどうかだと思います。逆に言えば、アフマディネジャド政権あるいはハメネイ師を最高指導者とするイランの独自の政治体制がイラン国民によって支持されているかどうかを見ることが大切で、その点で以下2.の世論調査結果が答えを用意していると思うのです。

2.イランで行われた世論調査結果

国際平和研究所(IPI)は、2010年8月30日から9月7日にかけて、イラン市民702人を対象に電話インタビューで世論調査を行い、その結果を同年10月8日に発表しました。ちなみにIPIは、20人以上の様々な国籍を持つスタッフを擁する独立の非営利シンクタンクで、国際的な平和・安全保障制度を強化することによって紛争の予防及び解決を促進することを目的とする機関と自己紹介しています(URLはhttp://www.ipacademy.org/about.html)。理事会名誉会長は潘基文国連事務総長が務めていることからも、今回のイラン国民を対象とする世論調査結果の内容については、政治的偏向性などの余地はないものと思われます。

<イラン国民の国内政治に対する見方>

世論調査結果に関するIPIの分析の中で、私がもっとも注目したのは次のくだりでした。

「イランの反対派指導者に対するイラン人の支持は約1/3であり、これは2009年に行われたイランの大統領選挙の結果と近似している。(選挙に関する)不正に対する批判が広く行われたが、選挙後に行われた各種世論調査は軒並み、インタビューされた人びとの約60%が2009年にアフマディネジャドに投票したと述べており、これは公式の、しかし議論の多かった、数字に近い。
イラン人の多数は、選挙後の反対勢力に対する取り締まりを支持しており、政権の宗教的基礎を支持している、というのが世論調査の示しているところだ。しかし、半数がアフマディネジャド政権の実績に批判的であり、来たる十年間に統治のさらなる民主化を期待している。」

以上の分析のもとになった世論調査結果の主な内容は以下のとおりです。なお、回答者の学歴に関しても質問しており、高卒が33%、基礎教育を受けたものが25%、高校レベルが15%、大卒が12%、大学・技術学校レベルが9%、無学歴が3%、大学院が2%でした。私たちが報道で接するのは、都市を中心にした高学歴者中心の、反体制派が多くを占める者たちによるデモですが、この調査はイラン全国を対象にしており、この学歴構成に見られるように、大学レベル以上は23%で全体の1/4であることが、調査結果に反映していると見るのは不自然ではないでしょう。というより、この世論調査の方が、反体制派によるデモよりも、イラン全体の状況をより正確に反映していると見るのが妥当だと思われます。

<個別の質問に対する回答>

-「一般的に言って、イランにおける物事は正しい方向に向かっているか、悪い方向に行っているかにつき、あなたの意見はどうですか?」
正しい方向 54%
悪い方向  33%
答えない  2%
分からない 11%

(浅井注)イランについて国民の過半数が肯定的な見方をもっていることが示されています。このこと自体が、アメリカ発のマス・メディア報道及びそれを受け売りする日本のマス・メディアの報道によってイランに対するイメージが固定されている私たちの見方に大きな修正を迫ることは明らかだと思います。

-(「正しい方向」と答えたものに)「なぜそうですか?」(回答者382人)
経済成長・経済改善・雇用増大・青年の機会向上 50%
政治的公開性増大・公の場での見解表明可能性  16%
核研究進展                  11%
国際関係・対外政策               4%
女性問題に対する関心増大            4%
文化面                     2%
宗教面                     2%
-(「悪い方向」と答えたものに)「なぜそうですか?」(回答者229人)
経済問題・失業・雇用・インフレ・租特不平等・青年の機会欠如 81%
社会的政治的分極化                      8%
モラル崩壊                          5%
政治的公開性減少・表現の自由減少・反対派に対する取り締まり  4%
女性問題への関心欠如                     4%
核開発に関する国際的圧力                   2%

(浅井注)肯定的及び否定的にイランの状況を見ている人びとのいずれもが、経済・雇用問題に大きな関心を持ち、これに基づいて全体の状況を判断していることが分かります。その傾向は特に、イランの状況を批判的に見ている人びとの間で顕著です。これに次ぐのが政治問題ですが、この点ではむしろイラン政治のあり様を肯定的に見る人の方が多いという点に注目する必要があるでしょう。
ちなみに「核研究進展」を「よい方向」と答えた理由にしている人が11%(10人に1人!!)もいるということは、後での調査結果を見る場合の伏線として要注目です。

-「中央政府の仕事ぶりに対しての評価は、すばらしい、よい、まあまあ、悪い、のいずれですか?」
すばらしい   15%
よい      35%
すばらしい・よい 51%
まあまあ    32%
悪い      16%
まあまあ・悪い  48%
答えない     0%
分からない    1%
-「イランの現在の経済情勢をどう見ていますか?非常によい、ある程度よい、ある程度悪い、非常に悪い、のどれですか?」

  2007.6 2009.5 2010.9
非常によい        4        5        9
ある程度よい       15       22       49
ある程度悪い       47       22       20
非常に悪い       32       28       18
よい(合計)       19       27       58
悪い(合計)       79       71       38

-「イランの経済情勢は、4年前と比べて全体的によくなっていますか、悪くなっていますか、あるいは同じですか?」
よくなっている  29%(2009年9月)→44%(今回)
悪くなっている  45%(2009年9月)→32%(今回)
同じ       14%(2009年9月)→22%(今回)
答えない     2%(2009年9月) →1%(今回)
分からない    10%(2009年9月)→2%(今回)

(浅井注)以上の三つの質問に対する回答状況から分かることは、中央政府の仕事ぶりに関する評価はほぼ二分されて拮抗していますが、経済情勢に関しては肯定的に評価する人びとが明らかに増えているということです。つまり、国民がもっとも関心を持っている経済問題で中央政府の実績に対する評価が上がっているということで、このような結果もまた、アメリカ発の報道が色眼鏡のかかった一方的なものであることを物語っています。私たちとしてはむしろ、菅政権に対する肯定的評価が世論調査で軒並み30%を下回っている日本の状況と比べても、イランの中央政府に対する肯定的評価が50%を超える高率であることの重みを理解するべきでしょう。
もちろん、反政府デモが果敢に行われるイランの民意の高さを無視するということではありません。私たちが考えなければならないことは、菅政権に対する不支持率が70%を越える日本において、政府批判のデモがほとんど起こらないという現実です。私が「イランにおけるデモクラシーの模索」に注目するのは、正に日本におけるデモクラシーの形骸化(民意の低さ)がどうして打破できないのか、という視点からであり、イランの現実から学ぶべきは、政権が弾圧していること(それ自身は批判に値する。)ことにも増して、明らかに「多勢に無勢」の状況下にあるにもかかわらず政府批判を諦めない人びとがしっかりと存在するイラン市民社会のたくましさが何に由来するのかということではないでしょうか。

-「あなたの家計状況はどうですか?すばらしい、よい、まあまあ、悪い、のいずれですか?」
すばらしい   2%
よい      13%
すばらしい・よい  16%
まあまあ    51%
悪い      34%
まあまあ・悪い   84%
-「あなた及びあなたの家庭の経済状況は4年前に比べてよくなりましたか、悪化しましたか、同じですか?」
よくなった   27%(2009年9月)→28%(今回)
悪くなった   31%(2009年9月)→33%(今回)
同じ      42%(2009年9月)→39%(今回)

(浅井注)全体としてのイランの経済状況を肯定的に評価する人が多数を占めるようになっている一方で、自らの家計・経済状況に関しては厳しい見方をしている人びとが多いということになります。ただし、IPIが、家計状況に関して、「まあまあ」と答えた人を「悪い」と答えた人と一緒にくくってしまっていることはどうかな、と思います。「すばらしい」「よい」と「まあまあ」を一緒にする理解も成り立ちうるわけで、そうするとその合計が66%になりますから、これは日本での類似の世論調査結果と比べて、決して悪い数字ではありません。

-「政府の役人の間での腐敗がどの程度普遍的だと思いますか?非常に普遍的、かなり普遍的、かなりまれ、非常にまれ、のいずれですか?」
非常に普遍的  21%
かなり普遍的  23%
普遍的(合計)    44%
かなりまれ   16%
非常にまれ   18%
まれ(合計)     34%

(浅井注)政府の役人の腐敗については厳しい見方が相対的多数を示していること自体はさして驚くことではありません。しかし、ここでは紹介していませんが、世論調査では、回答者自身が政府の役人に対して賄賂を贈ったことがあるかについても質問しており、それに対して贈ったことがあると答えた人が1/4、贈ったことはないと答えた人が3/4であることの方が、イラン人の民意の程度を考える上では重要だと思います。

-「あなたが住んでいる地域に住んでいる人びとは次のいずれですか?」

  はい いいえ 不明・無回答
政治的意見を表現する自由があると感じていますか          44          42          13
自分の生活を改善する真の機会を持っていますか          54          38           8
法令が定められ、明確で執行されていると思いますか          47          44           9
将来に希望を持っていますか          60          31           9

(浅井注)この結果を見て皆さんがどのようにお感じになるか分かりませんが、私自身は、イランの人びとがイランの生活に対して肯定的であり、かつ、将来に対して希望を持っている(「はい」と答えた人が60%の高率であるということは、日本では考えられないことではないでしょうか?)ことに強く印象づけられました。生活改善に対しても54%の人びとが「はい」と答えていることは見逃せない事実です。それに対して政治関連の二つの質問に対する答えはほぼ二分されていますが、これらの数字にしても、「独裁国家・イラン」という私たちの中にしみこまされたイラン・イメージからはとうてい出てこないものではないでしょうか。

-「イランが核兵器を開発し、保有することについて、あなたは強く支持しますか、どちらかというと支持しますか、どちらかというと反対ですか、強く反対しますか?」

  2007年6月 2008年2月 2009年5月 2010年9月
強く支持         33         36         43          56
どちらかというと支持         19         15          8          14
支持(合計)         52         51         52          71
どちらかというと反対          5         10          7           5
強く反対         37         29         33          16
反対(合計)         42         39         40          21

-「イランが核計画を続ける場合、イスラエルまたはアメリカがイランを攻撃する可能性は、非常にあり得ると思いますか、かなりあり得ると思いますか、あまりありそうにないと思いますか、それとも非常にあり得ないと思いますか?」
非常にあり得る     2%
かなりあり得る     16%
あり得る(合計)  18%
あまりあり得ない    15%
非常にあり得ない    61%
あり得ない(合計)  75%
-「西側とうまい取引ができるならば、イランはウラン濃縮をやめるべきだという人がいます。あなたは以下のどの意見に賛成ですか?」
うまい取引に強く賛成する  9%
うまい取引にまあ賛成する  8%
うまい取引に賛成(合計)  17%
核計画継続に強く賛成する  61%
核計画継続にまあ賛成する  10%
核計画継続に賛成(合計)  71%
以上のいずれでもない 2%

(浅井注)イラン国民の過半数が政府の進めている核開発だけでなく、核兵器開発を支持しており、しかも2010年時点では一気に20%近い上昇を示したことには驚きました。これは、過去1年におけるイランの核開発に対するアメリカを中心とする国際的包囲網による締め付けに対してアフマディネジャド政権が頑として応じない姿勢を貫いている根拠を理解する大きな手がかりを与えるものだと思います。これは、別の質問で、イランに対する最大の脅威はどこかという問いに対し、2009年5月には、イスラエル44%でアメリカが4%だったのに対し、2010年9月の今回の調査では、アメリカ69%でイスラエルが38%に大きく変化したことに対応するものと理解できます。
 他方で、イラン国民の4人に3人がイスラエルまたはアメリカによるイラン攻撃の可能性はないと考えており、西側との取引などができるかどうかにかかわらず核計画を継続することにも7割以上の人びとが賛成しています。西側との対決が強まる中で、多くのイラン人がナショナリズムの感情から核計画を支持していることが窺われます。このような高い支持率は、アフマディネジャド政権にとって対西側強硬路線を推進する上での追い風となっていることは間違いありません。しかし、この追い風が外交的決着を図る上では大きな障害要因となって働くであろうことも見やすい道理です、西側としては、イランの核計画問題は、単に現政権の強硬姿勢の産物であるにとどまらず、優れて国民的感情に後押しされたものであることを踏まえたアプローチを心がけない限り、着地点を見出すことが難しい問題であることを認識する必要があると思います。

-「政治指導者及び組織についての考えをお聞きします。」

  非常に好意的 やや好意的 好意的(合計) やや非好意的 非常に非好意的 非好意的(合計)
アフマディネジャド      58      23       81       7         4       11
ムサビ       9      28       36      12      23       35
ハメネイ      73      12       85       4       4        8
ラフサンジャニ      26      42       68       9       7       16
ハタミ      25      38       63      10      15       21
ラリジャニ      21      34       56       8      11       18
グリーン運動       6      20       26      14      24       38
イスラム革命防衛隊      51      26       76       6       3        9

-「2009年の大統領選挙で投票しましたか?」

  公式結果

Globescan(09.6)

UM(09.6) WPO(09.9) IPI(10.9)
はい         85        86         89         87         86
いいえ                 11         11         12         13

-(大統領選に投票したと答えたものに対し)「誰に投票しましたか?」

  公式結果 Globescan UM WPO IPI
アフマディネジャド        63        56        61        55         58
ムサビ        34        32        30        14          6
レザイ         2         2         2         3          3
カルービ         1         0         0         1          0
その他           1         0            0
回答拒否           7         5        24         27
分からない           2         1         3          6

-「この選挙は完全に自由で公正だったですか、まあ自由で公正だったですか、あまり自由で公正ではなかったですか、まったく自由で公正ではなかったですか?」

  Globescan WPO IPI
完全に自由かつ公正           54            66            58
まあ自由かつ公正           22            17            22
自由かつ公正(合計)           76            83            80
あまり自由かつ公正でない           10             5             4
まったく自由かつ公正でない            6             5             5
自由かつ公正でない(合計)           16            10             8

-「選挙後の反対派に対する政府の取り締まりについてどう感じますか?」
政府はやり過ぎた  19%
政府は正しかった  59%
回答拒否      10%
分からない     12%
-「イスラムとイランを敵から守るために反対派をコントロールする必要があるという人がいます。イランが繁栄するためには、デモクラシー、自由及び法の支配がもっと必要だという人もいます。どちらの意見があなたに近いですか?」
イスラムとイランを敵から守るためにコントロールが必要  51%
デモクラシー、自由及び法の支配がもっと必要       32%
回答拒否                        8%
分からない                       10%
-「最高指導者と監督者評議会が問題の最終決定を行うべきだという人がいます。選ばれた大統領と国会(マジュレス)が最終決定を行うべきだという人もいます。どちらの意見を支持しますか?」
最高指導者と監督評議会を支持する  47%
選挙された大統領と国会を支持する  32%
回答拒否              5%
分からない             15%

(浅井注)アフマディネジャドは大統領、ムサビは改革派の元首相として2009年の大統領選に出馬、ハメネイはホメイニの後に最高指導者に選ばれた人物、ラフサンジャニは元大統領で保守穏健派と目されてきた人物、ハタミは前大統領で改革派、ラリジャニは国会議長、レザイは2009年に大統領選に出馬した元革命防衛隊司令官、カルービは元国会議長で改革派の人物と一般に評価されている人物です。「グリーン運動」とは、2009年6月にイランの民主化運動を担った運動を指し、イスラム革命防衛隊はイランのイスラム革命後に組織された軍事組織です。
 以上の世論調査結果からは様々なことを考えさせられますが、特に重要と思われる点を摘記しておきたいと思います。
-いわゆる西側の対イラン・イメージと著しい対照をなしていることは、政治指導者としては保守派と目されているハメネイ及びアフマディネジャドが、また、組織としては保守派に強くコミットしているイスラム革命防衛隊が国民の高い支持を集めていること、それに対して改革派と目されているハタミ、ムサビ、ラリジャニの支持率ははるかに及ばないし、欧米諸国(及び日本)では高い注目を集めたグリーン運動に至っては好意的見方よりも好意的でない見方の方が上回っているということです。イラン国内の改革派に対する視線は厳しいものがあると見るべきでしょう。このことは、すでに見たイランの全般的な状況に対する肯定的な見方が多いこととも軌を一にするものだと思います。アメリカが革命防衛隊に属する部隊をテロ支援組織に指定していますが、このようなアメリカの姿勢は、ますます多くのイラン国民をアメリカから遠ざける結果になるし、アメリカを脅威視する見方を強めるだけでしょう。
-2009年の大統領選挙でアフマディネジャドが圧勝したことに関しては、西側のメディアは不正が行われたとする改革派の主張を支持する論調一色でしたが、イラン国内ではそういう見方は圧倒的に少数であり、IPIが独自に行った世論調査結果(及び他の機関が行った調査)も、不正が行われたという主張を否定する結果になっています。
-また欧米諸国では、イスラムが支配する国家ということに対する違和感(及びそれに基づく反民主的という決めつけ)が強いのですが、イラン国民には受け入れられ、支持されていることがIPIの調査によって示されているということも重要な事実でしょう。民主(デモクラシー)は普遍的な価値ですが、その具体的なあり方については国ごとに様々な「顔」を持つということを認めないと、イランで進行していることを理解し、認識することは最初から躓いてしまうことになるのではないでしょうか。

3.イランから見る中東情勢

 私は今年になってからようやく、イラン国営放送が国際放送(日本語)のウェブサイト(URLはhttp://japanese.irib.ir/)を開設していることを知りました。そして、中東諸国におけるめまぐるしい事態の進展に対するイラン側の見解の一端を日本語で読むことができるようになりました。主要な出来ごとに即してイラン側の立場を確認しておきたいと思います。その主な特徴を挙げるならば、次の諸点を挙げることができるでしょう。
 まずイランは、アメリカが厳しい批判を惜しまないシリアという友好国における反政府デモ及びこれに対する政権の弾圧に対しては批判を控える一方、アメリカの伝統的な同盟国や友好国、リビアやイエメンなどのように国際テロリズムとの戦いでアメリカと共同歩調をとってきた国々に対しては容赦ない批判を浴びせています。そして、これらの国々における民主化闘争の根源的な出発点はイランのイスラム革命にあるというイラン独自の認識から、これらの国々での動きに連帯感を惜しみません。そして、中東諸国における「目覚め」に大きな期待を寄せています。このような基本姿勢は、イラン国内における政治運営に自信を持っていることを前提にしないと理解できないことではないでしょうか。すでに見たように、イラン国民の多くが現在の体制を支持しており、ハメネイ、アフマディネジャドなどの指導者に対する高い支持を与えていることが、中東情勢に対するイランの自信あるアプローチにつながっていると見ることができると思います。
 次にアメリカの中東政策との関わりでは、中東諸国における民主化を求める動きを、アメリカの中東政策の失敗を意味するものという認識を明らかにしています。ただし、その批判は必ずしも教条主義的ではなく、アメリカが明確な中東政策を打ち出せずにさまよっているという認識を間接的表現ながら示していますし、特に対リビア政策においては、アメリカと仏英など欧州側とのアプローチの違いをしっかり見て取っています。このような対米認識は、私がこれまで進めてきた中東情勢に関する事実関係の整理の過程で感じ取っている(まだアメリカ側の文献を整理していないので、今の段階ではまだ感覚的なものです。)内容と近いものです。イランが冷静にアメリカを見ていることを確認できる思いです。
 また、地域大国であるエジプトに対する基本認識はこれに敬意をもって接するという態度が見られます。そして、今後のエジプトとの良好な関係発展に対して希望を持っていることがうかがえます。このことも、イランの国際情勢認識の確かさを感じさせるものだと思います。  さらに、情報通信革命が果たしつつある役割についても、イランは正確な認識を持っていることがうかがえます。この点に関する文章は、私が検索した限りでは2点に留まりますが、それぞれが長文で、読み応えのあるものでした。情報通信革命が持つ意味に対して受容的であることもまた、イランが自らの政治に対して自信を持っていることの反映であると感じます。

<中東諸国の民主化闘争に対する見方>

 1月19日にアフマディネジャド大統領は演説を行い、「チュニジア国民は、イスラムと人道に沿ったスローガンを掲げ、公正を追求することで、西側に依存した独裁者に対して立ち上がり、純粋なイスラムの戒律を実現しようとした」と述べた上で、西側諸国がその内政に干渉しないように警告しました。チュニジアにおける民主化闘争の勝利を肯定している点が重要なポイントです。また30日には、サーファーイー解説員の文章として、「チュニジアでは、アラブ世界で初めて、街頭デモや民衆運動が、専制的な政権の崩壊につながりました。そのため、エジプト、モーリタニア、アルジェリア、モロッコ、スーダンなどの国々で、政治活動家や抗議者が、チュニジアの国民による革命の勝利を受け、同様の抗議行動を起こすのではないかと懸念されています。」と述べ、イランが中東諸国の民主化闘争を肯定的に受け止めていることを早々と示しました。
 2月1日にはイラン議会の議員等214名が声明を出し、「エジプトのイスラム教徒の国民による蜂起は、同国を中東情勢の焦点に変え、世界の自由を求める人々、特にイスラム教徒は、この神聖な蜂起の結果を待っている」と強調しています。これは、ムバラク退陣の以前のことです。ただし声明は、エジプト国民の抗議運動に対するイラン人の支持は精神的なもので、共通の歴史的な原則に基づいた支持であると表明して、内政干渉と非難されることがないように配慮を示していました。
 2月6日には、イラン駐在のリビア大使が、同国の最高指導者カダフィ大佐に辞任を要求したことを伝える形で、間接的にカダフィに対する批判的な姿勢を報じました。また、ラニジャニ国会議長がカタールを訪問し、ハマド首長と会談した(9日)中で、新たに起こったリビア国民の運動は、「イスラム教徒の国民が卑しめられた結果であり、国民の要求に注目する以外に残された道はない」と語ったことを伝えています。15日には最高指導者のハメネイ師がトルコのギュル大統領と会談し、エジプト情勢に関して、数十年に及ぶアメリカとイスラエルのエジプトに対する支配そして国民への軽視が、今回、エジプト国民が蜂起した最大の理由であるとし、「エジプト国民は、イスラム教徒であり、イスラムに基づく力強い目的を持っている」と語りました。ハメネイ師はさらに、イスラム世界で最も重要なのは、イスラム共同体の統一を保持、強化すること、分裂を生じさせようとする外国の罠にはまらないことであるとし、「もしイスラム世界が、本来の高い能力や可能性を認識すれば、状況は変わるだろう。イスラム世界は、国際情勢に影響力を持つ存在として役割を果たすことができる」と語りました。
 2月19日には、エレクトリーク解説員の文章がバハレーンの事態を取り上げ、「同国のシーア派は人口の70%を占めているが、スンニ派と同等の可能性を奪われ、2級市民として扱われている」ことを指摘した上で、「バハハーン政府の少数派によって行使されている差別は、同国の抗議の新たな波を形成する要因となっている。バハレーンのデモ隊は現在、公正確立の声を上げ、踏みにじられた権利を復活させようとしている。しかしながら、バハレーン政府は、国民の合法的な要求にこたえるのではなく、彼らに対抗している」と述べ、サウジアラビアが「バハレーンから国民の抗議が飛び火するのではないかと懸念し、バハレーン政府の同盟国として、民衆蜂起の鎮圧に協力していると見られている」と指摘しました。そして、「チュニジアから始まった民衆蜂起は、現在、その裾野を、北アフリカのアラブ諸国からペルシャ湾南端の国々まで広げている。アラブ諸国を支配する少数派、あるいは一個人による利己的な、独裁体制の構造改革の実施は、もはや、これらの国の国民の要求に変わっている」としています。
 2月6日にはイラン国会議長とカタール首長との会談を報じたイラン国営放送ですが、カタールで民主化を求める動きが活発化すると、この動きを支持する内容の報道を行うようになりました(26日以後)。また、内戦が激化するリビア情勢に関しては、2月27日の解説員文章で、「カダフィ大佐がリビアの国民に対して犯した罪は、ヨーロッパの同盟国にとってさえ前代未聞のことだった。わずか数日のうちに1000人以上の国民を殺害することは、明らかに戦争犯罪に相当するが、それがリビアの独裁者によって実際に行われた。西側政府、特にアメリカは、これまで、カダフィ政権の犯罪に対して保守的な立場を取ってきたたが、カダフィ大佐の終焉が近いと見た今、この独裁者の犯罪を強く非難し始めている」と容赦ありません。
 その後も今日に至るまで、中東情勢に関して節目節目に報道していますが、基調は以上に述べた線で一貫しています。

<アメリカの中東政策に対する批判>

 2月20日のエレクトリーク解説員の文章は、「アラブ諸国の多くの首脳は、アメリカの手先か、あるいは西側の支援を受けて権力の座につき、長年に渡って地域でのアメリカの政策の実行者となってきた」と指摘、「政治評論家の多くは、中近東で起こっている国民の蜂起を踏まえ、独裁政権の終結を予想している。明らかなのは、新たな中東が、宗教的な価値観や原則をもとにし、人間の尊厳に注目しながら、国民の意志に基づいた形で打ち立てられつつあるということだ。そのような中東は、今すでに、アメリカが築いたすべての均衡を崩し、地域の独裁者を支持する西側諸国に懸念を抱かせている」と、アメリカの中東政策の破綻を強調しました。アメリカのリビアに対する政策も批判されました。すなわち2月23日に国会議員たちが出した声明において、「特にリビアのカダフィ政権に対するアメリカの二面的な立場や沈黙は、アメリカが自国の利益のみを追求しており、この方向路線で、人権、自由など全ての人間的な基準を簡単に破っているという事実を示すものだ」と批判しました。
 24日には、2月4日にハメネイ師が金曜礼拝で述べた言葉が紹介されました。同師は、「エジプトとチュニジアで起こっている出来事は、非常に重要であり、真の激震である」と述べ、北アフリカの国々で起こっている事態を「イスラムの目覚め」と規定し、この目覚めがイランのイスラム革命に端を発したものであるとしました。同師は、「今日、エジプトでは、あなた方の声に対する反響が聞かれる。我々の革命の時代にアメリカ大統領を務めたジミー・カーターは、数日前のインタビューの中で、『エジプトで聞かれるこれらの声には聞き覚えがある』と言った。つまり、今日のカイロで聞かれる声は、彼が大統領だった日々にテヘランで聞いたものなのだ」と語りました。
 アメリカ政府の対応に見られる矛盾点については、2月23日のバフティヤーリー解説員の文章が明快です。彼は、アメリカ政府関係者は、ダブル・スタンダードの対応をとっている、アメリカは現在の政権を退陣させることは自らの目的に反するものだと見ていながら、その一方で、これらの政権を支持する上で断固とした対応をとることができていないと指摘し、従属政権への自らの支持を明らかにしながら、数々の声明を出すことで、同国の人々を表面的に支持している矛盾を見逃しません。
アメリカのダブル・スタンダードについては、4月28日のエマーディ解説員の文章も取り上げ、次のように述べました。

 「バハレーンの罪のない人々に対する政権の措置は、リビアのカダフィ大佐の措置と同様、非常に野蛮なものであり、国内の抗議を抑えるために、サウジアラビア軍の派遣や外国の干渉を求めています。アメリカ政府は、バハレーンに対し、安保理で2つの決議を採択することで、同国への軍事介入の土台を整えました。一方、バハレーンの政変とこの国の支配者による大規模な人権侵害に対しては、異なる政策を取っており、人権に反する行動に対して沈黙を守り、この国における自らの利益を守るため、そして、民主政権が誕生することを恐れているために、王政の存続を支援しています。こうしたダブル・スタンダードは、西側における民主政権の誕生や民主主義、人権擁護といった主張が、スローガンに過ぎないことを、いつも以上に示しているのです。」

 GCCのバハレーンに対する軍事介入には、アフマディネジャド大統領が3月16日の記者会見で、「ハーレーンへの遠征は、非常に醜く、失敗した措置であり、地域の国民はこの醜悪な行為がアメリカ政府によるものだと考えている」「アメリカはシオニスト政権イスラエルを救い、各国国民の運動を潰そうとしている。そのために、一部の政府を支持している」「罪のない人々の殺害は、アメリカの拭い去ることのできない汚名であり、人々の運動はそれを常に考慮し、地域からのアメリカの根を取り除くだろう」「銃で国民と交流するような政府は、国を統治することはできないだろう。なぜなら、支配者は国民や人民に属しているべきだからだ」と語りました。
 4月24日にはハメネイ師が、5月1日のメーデーを前に演説を行い、地域の問題や、敵によるイランへの敵対の失敗について触れ、「地域の未来は、現在よりもはるかに良いものとなるだろう」と強調し、覇権主義体制がイランのイスラム体制にダメージを与えようとする努力を続けていることを指摘し、「彼らはイランを孤立させ、他の国民がイスラム体制の影響を受けるのを阻止しようとしたが、イランの国民とイスラム体制は、地域の国民の蜂起の中で、いつも以上に注目と尊敬を集めている。アメリカ政府は、地域の国民にとって、もっとも忌み嫌われた政府である」とアメリカを弾劾しています。

<中東政策に関するアメリカと欧州との間の齟齬>

 私は、リビア情勢に対するアメリカと仏英など欧州諸国との対応の違いに注目しているのですが、3月11日のモハージェリー解説員の文章は、この点に関して、次のような興味ある見解を示しています。

「西側諸国は、リビア情勢でイニシアチブをとる上で、互いに競い合っているようです。野心的な政治家として知られるサルコジ大統領は、リビアに関してイニシアチブをとり、アフリカ情勢におけるフランスの影響力を高めようとしています。サルコジ大統領がリビアの国民評議会を正式に認めたことは、こうしたことによるものです。サルコジ大統領など、ヨーロッパの多くの指導者は、かつてはヨーロッパの植民地だったこの地域の情勢を方向付けようとするアメリカの単独行動を阻止しようとしています。現在、ヨーロッパで忌み嫌われていたカダフィ大佐は、ある時期、リビアをヨーロッパの石油・ガス会社や武器製造会社にとっての楽園にしていました。ヨーロッパは、その外交的な動きによって、リビア市場における自らの取り分を維持し、カダフィ時代にリビア経済にほとんど影響力を持たなかったアメリカに、新たな状況を活用させまいと、また、ヨーロッパ政府の舞台を制限させまいとしているのです。」

<エジプトに対する見方>

 2月4日にハメネイ師は、エジプトに関して、次のような発言を行いました。

 「エジプトは、ヨーロッパの文化に触れる最初のイスラム教国であり、そうした西洋文化の前に立ちはだかり、その欠点を理解し、それに抵抗した最初のイスラム教国だった。」
「偉大なセイエド・ジャマーレッディーン、闘争的で勇敢でイスラム主義者のこの人物が、自らの闘争に最も相応しい場所として見出したのは、エジプトだった。その後も、ムハンマド・アブドゥといった彼の弟子たちなどがいた。エジプトにおけるイスラム主義運動は、このような経歴がある。エジプトには偉大な人物らがおり、政治的にも文化的にも、皆、自由主義者だ。」
「長い間、アラブ諸国はエジプトに目を向けてきた。エジプトはアラブ世界の盟主となった。独立と自由を求める空気がこの国に波打っていた。とはいえ、僅かな期間を除いては、チャンスはこの国の国民に巡って来なかった。エジプトは、パレスチナ問題のために、
シリアとともに中東戦争に参加した最初の、そして最大の国だった。」 「このような国が、自由主義者でないばかりか、自由主義の敵でさえあり、反シオニズムでないばかりか、シオニストたちに付き添い、協力し、彼らの信頼のおける下僕である人物の手に落ちて30年になる。かつてこの国は、反イスラエル闘争の旗手として全てのアラブ諸国に影響を与える存在だったが、今やイスラエル人やシオニストといった敵たちがパレスチナ人に対して行おうとするあらゆる措置において、ムバラク大統領の支援に頼っている始末だ。」
「ムバラク大統領の在任期間中に、エジプトの立場は、アラブ・イスラム世界に影響を与える国家という地位から、シオニストの協力者、パレスチナ人の敵へと転落した。エジプト国民は、現体制がイスラエルの支援者であり、アメリカの単なる追従者、服従者に過ぎなかったことから、不名誉と屈辱を味わっている。エジプト国民の運動の最大の理由はこれだ。」
「エジプトの現体制の最大の罪は、この国を高貴な地位から、主体性のない、地域の政治ゲームの駒の一つに貶めたことだ。エジプトの偉大な国民の今日の動きは、外国に依存したこの独裁者が自国民に対して犯した、この大きな裏切りへの回答なのである。」
「世界のアナリストたちは、この蜂起の最大の要因が見過ごされてしまうよう努力している。彼らは、経済的な問題や非経済的な問題を指摘している。もちろんそれらも影響しているが、この壮大な動きの最大の要因として、まずチュニジアで、次にエジプトで高まったものは、自らの指導者たちの振る舞いに対して人々の中に生じた屈辱感である。」

 同師はまた、エジプト国民の蜂起のもう一つの主要な要因は、宗教的動機であると強調します。なぜならエジプト国民は、自らの運動を、モスクにおける金曜礼拝の後に始めており、宗教的なスローガン、特に「アッラー アクバル(神は偉大なり)」を叫んでいるからです。ハメネイ師は、「この人たちはイスラム教徒の国民だ。人々は宗教的スローガンを叫び、そこでの最強の闘争グループは、イスラムのグループである。エジプト国民は、これまでの不名誉を洗い流したいと思っている。これが理由だ」とするのです。
 エジプトの新政権との関係について、イランは希望を寄せているようです。3月4日には、エジプト駐在の臨時代理大使が、アルアーラム・チャンネルとのインタビューで、エジプトの革命の業績に満足の意を示し、国民の要求に対する軍の対応を賞賛し、「イランとエジプトの関係は、長年、利益代表部のレベルに留まってきたが、現在、エジプト情勢に注目し、関係拡大に向け、適切な決定を下すときがきた」と述べました。

<インターネットに対する注目>

 中東情勢の展開にインターネットが果たした役割についても興味ある見解が示されました。「メディアにおける中東情勢」と題する3月8日の文章では次のように述べています。

 「現在の世界情勢における重要なメディアの一つに、インターネットが挙げられます。インターネットは、アメリカが、西側の政策に反対する国の政府に圧力を加えるための道具として期待したメディアでしたが、すぐにアラブの独裁政権に反対派が圧力を加えるための道具の一つに変貌しました。最新の統計によれば、エジプトのインターネット利用人口は、この国の総人口の4分の1に近い2000万人以上とされ、その平均年齢は24歳ということです。チュニジアでも、インターネット利用者は総人口のおよそ3分の1を占めています。しかし、独裁者カダフィ大佐によって長年統治されてきたリビアのような国では、インターネットを利用できる環境にある人は、総人口のわずか18パーセントに過ぎません。
インターネット利用人口の平均年齢から、利用者のほとんどは、情熱と歓喜に溢れた若者たちであることが窺えます。最近のわずかな期間での、革命的な人々によるインターネット・サイトやウェブ・ログの開設、また、世界の人々に国内の出来事を知らせるための、そうしたサイトの利用は、こうした国々における革命の素早い動きと進展に重要な役割を果たしました。特にリビアでは、厳しい報道検閲があることから、インターネット上に現れる様々な出来事に関する市民の発言や、辞任した一部の政府閣僚の表明が、もっとも重要なニュースソースとなりました。」

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