中東情勢から学ぶこと -リビア-

2011.05.04

*前にこの「コラム」で「中東情勢に学ぶこと」を書きましたところ、何人かの方からコメント、批判を頂くことができました。中東問題にずぶの素人が書いた文章(ただし、私の関心は、日本の私たちが中東の事態から学び取るべき要素が多いのではないか、という点にあり、中東情勢そのものを「分析」するがごときは「生兵法はけがのもと」であることは十二分にわきまえているつもりです。)に反応を頂けたことは嬉しいし、励みになることでした。
 この文章を書いたのは3月2日であり、その後も中東諸国では様々な事態の展開があり、私もそれなりに関心を持ってチラチラ眺めてきはしましたが、やはり3.11以後の日本国内の事態に関心が集中してきた(明治維新、第二次大戦敗戦に匹敵するマグニチュードをもっていることは間違いないですから、様々な角度から3.11を考える意味があることはいうまでもありません。)ために、中東情勢についてはついつい追跡を怠ってきたことは否めません。最近、リビア情勢などを踏まえた分析・判断を、という督励のメールを頂いたこと、また、3.11を日本における人権・民主(デモクラシー)の真の実現のための「第三の開国」の契機にしなければならないという問題意識が膨らんでいることもありますので、この約2ヶ月の中東情勢の展開を考えてみようと思い立ちました。ただし、事態の展開は国によって様々ですので、主だった国々の事実関係を整理することから始めようと思います。今回はまずリビアについて見ることにします。なお、事実関係については、「中東・エネルギー・フォーラム」のHPに拠りました。(5月4日記)。

<民主化闘争から内戦への急速な転化>

 リビアでは、1月13日に首都トリポリで民衆の動きが伝えられたのが発端でしたが、2月16日にデモが大規模化し、特にベンガジ及びその周辺でデモ隊が治安部隊と衝突して死者が出ると、翌17日には反政府勢力がこの日を「怒りの日」と名付けてベンガジ、トリポリなど各地でデモを行いました。18日及び19日に行われたデモではカダフィ退陣を公然と要求するようになりました。ここまでは民主化闘争の性格を持っていたと思われるのですが、21日に政府側の戦闘機やヘリコプターが反政府デモ隊を無差別に攻撃し、少なくとも160人超の死者が出たと伝えられたことによって事態が急展開し、リビア国連次席大使が、カダフィ大佐に退陣を要求することを皮切りに政権の要職にある人物の政権離脱が続発し、22日にはベンガジで民衆が同地の解放を祝うまでになり、これに対してカダフィは「リビアで死に殉教者になる。最後の血の一滴まで闘う」とテレビ演説を行い、全面対決の姿勢を明らかにすることによって一気に内戦に突入することになりました。
 反体制側は、カダフィ政権の法相を務めていたアブドゥル・ジャリルが2月26日にベンガジで、反体制派グループでの打ち合わせで決まったとして暫定政権樹立決定を表明、翌27日にジャリルを議長とする「リビア国民評議会」が設立されるとともに、欧米政府関係者との接触を開始しました(同日、クリントン米国務長官が、反体制側と接触していることを明らかにし、如何なる支援の用意もあると語ったとされ、また、米政権が欧州諸国やNATOと飛行禁止空域の設定について協議したことが報道されました。)。3月1日には、反体制派がベンガジに「軍事評議会」を設置するとともに、翌2日には国連に空爆を要請しました。このように、反体制派は早くから欧米諸国の軍事支援によってカダフィ政権の追い落としを狙う動きを取りました。カダフィ政権側が優勢な軍事力で反体制派をねじ伏せようとしていたことに対するやむを得ない対抗策であったにせよ、国内の民衆の力に拠るのではなく、外国の軍事力に頼ってカダフィ政権の転覆を謀るというアプローチは、バハレーンとともに、その後の事態の展開を国民主導ではなく、真の民主化運動からはほど遠い状況にリビアを追い込む大きな要因になったことは間違いありません。
 こうしてリビア情勢は、民主化闘争の局面は早々に内戦へと移行するのですが、3月12日には、カダフィの次男であるセイフ・イスラム・カダフィがイタリア紙とのインタビューで、国土の90%を体制側が掌握したと発言し、14日にはカダフィ自身が、国営テレビを通じて、反体制側に加わった国軍部隊も戻れば罪に問わないと呼びかける余裕を示したように、明らかに事態はカダフィ政権に有利な形で動いていたことが分かります。これに対して反体制側は13日、オベイド前内相がベンガジを死守すると発言、16日にも国民評議会のジャラル・アル・ガラル委員が、国際社会が介入せねばベンガジで虐殺が起きると訴え、イブラヒム・ダッバーシ駐国連・リビア大使が、国際社会が介入せねば数時間後にも虐殺がありうると訴えざるを得ないほどに追い込まれました。
このような情勢を受けて3月12日には、アラブ連盟が緊急外相会議を開催し、飛行禁止空域の設定を支持し、国連安保理に行動を求めることを決定し、米ホワイトハウスが声明を発表し、アラブ連盟の決定は国際的圧力を強化したと評価しました。そして15日には国連安保理が開催され、17日にカダフィ政権からリビア市民を守るため、あらゆる必要な措置を加盟国に認め、リビア上空の飛行禁止空域の設定等を盛り込んだ決議1973号を賛成10カ国、棄権5カ国(中・露・独・印・ブラジル)で可決し、NATO諸国を中心とし、湾岸協力機構(GCC)の数カ国も参加する多国籍軍によるカダフィ政権の軍隊に対する空爆作戦が開始されました(22日には国連の報道官が、決議履行への参加通知は12カ国(仏・英・米・加・伊・デンマーク・ノルウェー・ベルギー・スペイン・ウクライナ・カタール・UAE)になったと発表しました。また、23日にはキャメロン英首相がクウェートとヨルダンが支援に加わったと述べました。)。これに対してセイフ・イスラム・カダフィが、20日のABCテレビのインタビューで、①善人と考えていたオバマ米大統領のリビア攻撃には驚いた、②我々はテロリストと戦闘している、③米英仏は何れ敵を支援したことを後悔するだろう、と語っています。
これ以後戦局は、カダフィ政権の軍事力をNATO 軍が空爆で破壊してその攻勢を食い止めますが、反政府側に軍事的反転攻勢を仕掛ける力はなく、状況は膠着状態に陥っていくことになります。多国籍軍による当初のリビア攻撃を指揮した米国のカーター・ハム将軍が4月7日の上院公聴会で、「(反体制派がトリポリに進撃しカダフィ政権を転覆できるかと問われて)私は(その)可能性は低いと評価する。ほぼ不可能と評価する。」「手詰まりはリビアにとって好ましい解決ではないかもしれないが、そのような可能性は3月19日に空爆が開始された時点よりも今ではさらにありそうになっている。」「カダフィ排除は市民を保護するとの国連に委任された使命には含まれていない」と証言しました。対リビア軍事作戦を主導してきたフランスも、同月17日には、フィロン首相が、軍事作戦続行を言いつつ、「我々は政治解決も必要としている。政治解決は対話への条件であり、これによりリビア危機を解決できる。リビア危機は多国籍軍による軍事行動では解決できない。」と発言するに至っています。
また、安保理決議に棄権したロシア、中国及び非同盟諸国からは、NATO軍などの軍事行動が安保理決議の授権した範囲を逸脱しているという批判が行われるようになりました。4月20日にアムル・ムーサ・アラブ連盟事務局長は、①リビアで起きている事態は、飛行禁止空域の設定という目的から逸脱している、②我々が望むのは市民の保護であり、さらなる市民への爆撃ではない、と語り、空爆を批判しました(ただし翌日には「リビア空爆は国連決議を尊重している」と軌道修正)。また21日にはプーチン・ロシア首相が「①安保理決議は不完全な内容で、あらゆる行動を許すものである、②内政対立に軍事介入は許されない」、またメドベージェフ大統領も「リビア国内問題は平和的手段で解決されるべき」と述べました。ムセベニヨ・ウガンダ大統領は、リビアに飛行禁止空域を設定し、バハレーンには目をつぶるのは二重基準と批判しました。22日には、中国が多国籍軍の攻撃は人道主義の危機というリスクを犯すと批判し、北朝鮮外務省報道官が、リビア攻撃は主権国家の自主権への侵害であると批判しました。特に注目されるのは、25日に、アルジェリアのムラード・メデレチ外相が地元紙(エコルーク紙)に次のように語り、外国勢力によるリビア危機への介入に反対するアルジェリア政府の姿勢を、次のように説明したことです。

-リビアとその他のアラブ諸国の場合を比較してみると、リビアで紛争が起きるや、チュニジアやエジプトの時とは異なり外国勢力が介入した。
-恐らく、一部の外国勢力にとってはリビアの分割が目標なのだろう。しかし、政権側も反政府側もリビアの一体性に拘泥している点は称賛したい。
-アルジェリアは、リビアが第二のイラク、アフガニスタンになることを懸念する。
-テロが武器の拡散に付け入ることを懸念する。アル・カイダは最近、リビアに幾つかの首長国建設を宣言している。リビア情勢の悪化は地域でのテロ活動を活発化し、全近隣諸国に大きな悪影響を及ぼす。
-我が国は治安、政治・経済の安定の回復に高い代償を支払った。リビアで起きていることの影響はアルジェリアを含む近隣諸国が感じている。
-リビアの一体性は、外部勢力の介入を排してリビア人が決めるべきだ。依然政治解決の道は残されている。現時点では暫定国民評議会がリビアを統治することはないと考える。どちら側が出てくるにせよリビアの一体性の維持というのがアルジェリアの基本姿勢である。
-アルジェリアは政治解決を目指すAUの仲介努力を支持する。
以上のような欧米主導の軍事行動に対する批判は、NATO の戦闘機が4月23,25,30日にカダフィ大佐の居住施設のある地域を空爆し、特に30日の空爆ではカダフィの息子セイフルアラブ(29)と孫3人が死亡した(リビア政府発表)ことにより、ますます強まることになると思われます。例えば26日にロシアのプーチン首相は、訪問中のデンマークで次のように語り、多国籍軍による空爆を批判しました。
-リビアに飛行禁止空域を設定する協議があった。良いだろう。しかし、カダフィ大佐が居住する場所を毎晩爆撃するなら、飛行禁止委空域は何処へいったのだ?多国籍軍は、我々はカダフィ大佐を殺害しようとしていないと言う。そうならば何故カダフィ大佐の居住場所を爆撃するのだ?これが彼らのネズミを追い出すやり方なのか?
-今や一部の政府高官たちは、そうです、我々はカダフィ大佐を殺害しようとしていますと公言している。だが誰が諸君にそのようなことをする権利を与えたのか?裁判はあったのか?誰が死刑を宣告する権利を与えたのか?

また同日、ロシアのラブロフ外相はインターファックス通信で、ロシアはリビア危機を深める如何なる国連安保理決議も支持しないと発言し、ロシアとしてリビア危機を深刻化する恐れのある新たな決議を最早支持しないことを宣言しました。

<問題の外交的解決を目指す動き>

こういう状況を受けて、問題の外交による解決を目指す動きが、非同盟諸国を中心にして活発になっています。3月25日には、エチオピアの首都アディスアベバでアフリカ連合(AU)によるリビア情勢を巡る協議が行われました。ただし、このときは具体的な成果を挙げることなく終了しました。この協議には、リビア政府からはアブドゥル・アティ・アル・オベイディ元首相を団長に5人が参加しましたが、反体制側は出席しなかったといいます。
またトルコのエルドアン首相は4月7日の記者会見で、①カダフィ軍による奪還した都市からの撤退、②人道支援用の回廊の設定、③包括的な民主改革、で構成されている停戦仲介案を明らかにしました。また、10日にズマ・南アフリカ大統領を団長とするアフリカ連合(AU)特別委員会の代表団は、トリポリを訪問してカダフィと協議しました。リビア政府と合意した仲介案には、「現在の危機の根本原因の除去に不可欠な政治改革を採用し履行する暫定期間の創設を目的とする反体制派を含む様々なリビア当局を含めた話し合いの開始」が含まれています。しかし翌11日、反体制派の国民評議会のムスタファ・アブドゥル・ジャリル代表とアブドゥル・ハフェズ・ゴーガ副代表兼報道官は、カダフィの退陣を含まない仲介案はどのようなものであれ同意しないと語り、アフリカ連合(AU)特別委員会代表団の仲介案を拒否することを明らかにしました。 4月13日には、反体制派を後押しする「連絡調整グループ」の第一回会合がカタールの首都ドーハで開催され、反体制派向けの一時的な財政支援の仕組みの創設が必要であることや、引き続きカダフィの退陣を求めていくことで合意しました。ちなみに「連絡調整グループ」は、3月29日にロンドンで開催されたリビア情勢を巡る外相級の国際会議で設置が決められたものです。
モロッコのタイエブ・ファシ・フィフリ外相は、4月18日に来訪したカダフィ特使と接触したのに続き、二日後の4月20日には暫定国民評議会の代表団とも会談しました。これに関してモロッコ外務省筋は4月22日、次のように説明しました。

-モロッコはリビア危機を政治的に解決しようとしている。
-こうした解決はリビア国民の願いにかなうものであり、地中海地域、アフリカ地域に重要な安定を回復させる。
-モロッコは国連制裁決議の枠内での政治合意を目指している。
-誰も我が国にそのような役割を要請したわけではない。周知のように、リビアの部族の幾つかは元々モロッコから渡ってきたものである。
また26日には、チャベス・ヴェネズエラ大統領がカダフィ政権の同国訪問を明らかにするとともに、次のように語りました。
-リビア代表団は危機の政治的解決を模索するために来訪した。自分はリビア国民の窮状を救うために政治解決を模索することを決意した。
-NATOのリビア爆撃は狂気の沙汰であり、米国はリビアの石油と水資源を入手しようとしている。彼らは軍兵舎、学校、商業センターを爆撃している。誰が彼らにこのような攻撃の権利を与えたのか。
-我々は、第三世界に対する嫌というほどの権力の乱用・戦争・侵略を受けてきた。
-我々はカダフィ大佐のしたこと、或いは、すること全てに同意するわけではないが、誰が爆弾を投下する権利を、そして体制を転覆する権利を持っているのか。

 非同盟諸国の仲介努力は今のところまだ実を結んでいませんが、欧米諸国が反体制派に明確に肩入れしている(カダフィ排除を要求し、リビアの事実上の二分化をも視野に入れている。)のに対し、リビアの主権尊重と領土保全を重視するアプローチを目指している点で、際立った対照をなしています。そのアプローチは交戦双方に対してあくまで中立を心がけていますが、そのことは、はじめから欧米諸国の介入を求めた反政府側の立場を牽制し、カダフィ政権の立場を客観的に下支えする形になっているようです。ということは、欧米諸国対非同盟諸国の力比べという性格をも浮かび上がらせています。

<リビアの特殊事情>

 リビア情勢の複雑化の要因にはいくつかのリビアの特殊事情が働いているようです。
一つは、リビアでは歴史的に西部(トリポリ)と東部(ベンガジ)との間でライバル・対立関係があったとされる点です。「中東・エネルギー・フォーラム」のHPの記事の一つには、次のような解説がありました。

「西部の首都トリポリと東部の都市ベンガジは色々な意味でライバル関係にある。ベンガジは、歴史的に言えばもっとも開かれた都市であったことから、抑圧や弾圧には強い抵抗感を持つ都市である。加えて、最高指導者のカダフィ大佐により転覆されたイドリス国王の末裔の多くがベンガジに居住していることもあって、平素から現政府に反抗的な雰囲気の漂う都市でもあった。1993年にはベンガジでカダフィ大佐の暗殺計画が発覚してもいる。トリポリに本拠を置く現政権は、何かと反抗的なベンガジに対して厳格な対応を取ってきており、反政府分子は拘束され暗殺計画の関係者は処刑されてきた。それだけでなく、暗殺計画や反政府活動がベンガジから生まれないようにとの考えから、同市の社会資本の整備を行わない等の差別的な政策も展開してきた。このためベンガジの都市開発は遅れ、ライフ・ラインの整備もなおざりにされてきた経緯がある。結局、「ベンガジが歴史的に持つ反カダフィ・反政府・反中央体質」→「カダフィ政権によるベンガジへの差別的政策対応」→「ベンガジの社会インフラ整備の遅れによる不満・批判の高まり」→「ベンガジでの反政府活動の活発化」 →「カダフィ政権によるベンガジ反政府勢力の抑圧・弾圧とベンガジ差別政策の拡大」という悪循環を辿ってきた。」

3月20日に前日の軍事作戦について評価する発言を行ったマレン米統合参謀本部議長は、「軍事攻撃の結末は分からない。東の反体制派と西の体制派が両立することもありうる。」と述べたそうですが、このような発言は上記の歴史的背景を踏まえたものであると思われます。
もう一つの特殊事情は、リビアが部族国家であるということです。つまり、チュニジアやエジプトにおけるように広範な民衆がともに立ち上がるという形ではなく、部族ごとにカダフィ政権に対する態度が異なるという問題です。このことはアメリカでも早くから意識されていたようです。例えば3月2日、クリントン米国務長官が、米上院外交委員会公聴会で、リビアのソマリア化を警告したことが報道されましたが、ソマリアの無政府状態の内戦はやはり部族間の対立抗争が原因になっていることは広く知られており、クリントンはそのことを念頭に置いてこの発言を行ったことが理解されます。
リビア情勢における複雑化要因のもう一つの要素は、反体制派と国際テロ組織であるアル・カイダとの関係です。早くも2月24日には、アル・カイダの北アフリカ組織が、反政府デモ勢力との連帯を表明したと伝えられました。3月13日にも、アル・カイダの上級メンバーであるアブ・ヤヒア・アル・リビ(リビア人)が、反体制側は恐れることなく革命を遂行せねばならないと発言したことが伝えられています。
カダフィ政権側も、この点を強調してアメリカを牽制してきました。2月25日には、カダフィの息子のセイフ・イスラム・カダフィが外国メディアとのインタビューで、「反体制デモは一部のテロリストによるもの」と発言しました。カダフィ自身も3月2日の演説で、デモ隊の背後にアル・カイダがいると主張しましたし、7日のフランス24とのインタビューで、西側諸国にとりリビアはアル・カイダを防ぐ重要なパートナーであると発言しました。3月15日の国民向けテレビ演説でも、アル・カイダと結びつく勢力が市民を盾にしている、治安を保障する政府がなければアル・カイダと関係する政権がリビアを統治し、多くのアフリカ国民が欧州に渡るので地中海は混乱の海と化す、などと語りました。3月19日にカダフィ政権の報道官は、同月17日にNATO軍などによる空爆開始に先立って、カダフィがサルコジ仏大統領、キャメロン英首相、オバマ米大統領、バン・キムン国連事務総長に書簡を送ったことを明らかにするとともに、オバマ向け親書では「我が国はマグレブ・イスラム諸国のアル・カイダと対峙している」ことを強調したといいます。
反体制側もこの問題を無視するわけにはいかないことは、国民評議会のシャムシディン・アブドゥルモラ報道官が4月6日、「国民評議会が、反体制派を利用しようとするアル・カイダ分子がいれば逮捕することを誓約した」と述べて、アメリカ政府が国民評議会をリビア政府を代表する政府として承認する期待を表明したことにも反映されています。
ちなみに、「中東・エネルギー・フォーラム」のHPに掲載された分析・解説は、カダフィ政権側の主張には一定の根拠があることを示す材料として、ジョセフ・フェルラー及びブライアン・フィッシュマン著『イラクにおけるアル・カイダの外国人戦闘員』が次の諸点を指摘していることをあげています。

-(リビアの)ベンガジからダルナー(または、デルナ)を経てイラクのトブルクに至る回廊は、ジハード・テロリストが集中的に存在する地域である。外国人戦闘員は、人数面から見ればサウジアラビアが全体の41%を占め第一位だが、リビアも18.8%(112人)を占め第二位となっている。
-リビア出身者はベンガジを中心とする地域に集中している。都市別に人数をも見ると人口僅か8万人のダルナーが52人、ベンガジが21人等である。因みに、都市別では、このダルナーが世界一である。リビアの出身者を都市別に百分比率で見ると、ダルナー60.2%、ベンガジ23.9%、シルト5.7%、アジュダビヤ4.5%、ミスラタ3.4%、その他2.3%である。ダルナーとベンガジが、リビアのイスラム過激派と深いつながりを持っていることが分かる。リビアのイスラム過激派を主導してきたリビア・イスラム戦闘集団(LIFG)は、実は2007年にアル・カイダに傘下入りしている。そして組織名もイスラム・マグレブのアル・カイダ(AQIM)へと変更している。この実質併合後、リビアの多くのイスラム過激派がイラクに向かっている。
-イスラム過激派の暴力的なイデオロギーを警戒するシリアやリビア政府は米国と利害を共有するようになった。

<アメリカ政府の言動>

 アメリカ側の以下の動きについては、すでに冒頭で紹介したように、「中東・エネルギー・フォーラム」のHPによっています。正確には、ホワイトハウスや国務省のHPで原文に当たってチェックする必要がありますが、その作業は他日を期したいと思います。今回は、大まかな流れを確認することで満足したいと思います。
 特に注目を要するのはアメリカのリビア情勢に対する対応です。2月20日から4月にかけてのアメリカ政権の動きは実にめまぐるしいもので、オバマ政権がいかにリビア情勢を重大視していたかが窺われます。
 リビア情勢が民主化闘争から内戦に向かった2月20日に早くも、クローリー国務次官補が、アメリカが重大な懸念を持っているとの声明を発表しました。クリントン国務長官は、21日にはリビアの流血は直ちに止めねばならないとの声明を発表し、翌22日にも流血の事態は全く許容できないと非難しました。そして23日にはオバマ米大統領が、あらゆる選択肢を用意するとの声明を発表し、24日にはサルコジ仏大統領、キャメロン英首相、ベルルスコーニ伊首相と相次いで電話会談を行い、25日にはカダフィ大佐・4人の子息・政府高官の私的財産及び国家資産の凍結を命じる大統領令に署名し、署名後、声明を発表し、普遍的権利を求めるリビア国民及びその要望に応える政府を支持すると表明しました。また、エルドアン・トルコ大統領とリビア情勢を協議しました。同日、アメリカ政府が駐リビア大使館を一時的に閉鎖し、全大使館員を国外退避させました。ちなみに、この日には、ロシアのメドベージェフ大統も、市民への暴力を停止せねば国際法上の犯罪として結果を伴うことになると語り、この段階では、アメリカと足並みをそろえています。26日には、オバマ大統領がメルケル独首相と電話で会談し、カダフィ大佐は正統性を失ったので即時退陣しなければならないと語りましたし、27日にはクリントン国務長官が、反体制側と接触していることを明らかにし、如何なる支援の用意もあると語っていますし、政権が欧州諸国やNATOと飛行禁止空域の設定について協議したことも明らかにされました。28日にはクリント国務長官が、ジュネーヴで開催の国連人権理事会で演説し、カダフィに即時退陣を求めるとともに、アシュトンEU外交安保上級代表と飛行禁止空域について協議しました。また、カーニー大統領補佐官が、カダフィの亡命も選択肢の一つと語ったほか、アメリカ政府は、アメリカの管轄下のリビアの資産約300億ドルを凍結したと発表しました。さらにラパン国防総省副報道官がリビア周辺に艦船等を配置したことを明らかにし、軍事行動も選択肢の一つと語りました。
3月1日には、ゲーツ国防長官がリビア情勢で様々な選択肢を検討中と発言し、同時に、米海軍揚陸艦2隻と海兵隊員400人を避難民救出・人道支援を目的に地中海に派遣したことを明らかにしました。また議会上院がカダフィ辞任決議を採択しました。ちなみに同日、ロシアのラブロフ外相が対リビア制裁は国連安保理決議が必要と発言する一方、ロシア大統領府がカダフィ大佐は現在の文明社会には居場所はないという認識を表明しています。2日には、すでに紹介したように、クリントン国務長官が、米上院外交委員会公聴会で、リビアのソマリア化を警告しました。またゲーツ国防長官は、飛行禁止空域の設定はリビアの対空能力の破壊が前提となると発言しました。3日にはオバマ大統領がカダフィ大佐の即時退陣を重ねて要求するとともに、飛行禁止空域は選択肢の一つと発言しました。7日にはオバマ大統領がギラーニ豪首相との会談後、カダフィ側近に対して、如何なる暴力についても責任を問われることになると言明しました。また、英国インディペンデント紙は、米政府がサウジアラビアにリビア反体制派向け武器提供を依頼と報じました。8日には、ラブロフ・ロシア外相が、現在の経済制裁の実行に注力すべきと述べ、楊洁篪中国外相がジュペール外相と電話会談し、飛行禁止空域に慎重な中国の姿勢を説明しましたが、アメリカや欧州諸国が軍事行動に傾斜することに対してロシア及び中国が牽制する姿勢を早くも明らかにしていたことが窺われます。9日にはオバマ米大統領がキャメロン英首相と電話会談し、①暴力の即時停止、②早期のカダフィ大佐の退陣、③国民を代表する自由な政権への移行、を3つの共通目標とすることを確認しました。
しかし、3月10日以後、アメリカの姿勢には微妙な変化が窺われるようになります。10日にはクリントン国務長官が、下院歳出委員会の公聴会で、飛行禁止空域設定によってはイラクでもコソボ紛争時でも虐殺を防止できなかったと述べました。またクラッパー国家情報長官が、上院軍事委員会で、戦闘が長期化すればカダフィ政権が優位に立つとの見方を示しました。11日にはオバマ大統領が、記者会見で、飛行禁止空域の設定や軍事措置は費用と利益のバランスを考える必要があると語りました。13日にはゲーツ国防長官が、①飛行禁止空域の設定に関する兵站上の問題は克服可能である、②問題は設定を行うことが賢明か否かである、③それは政治レベルで下されるべき結論である、と語りました。14日に行われた国連安保理は飛行禁止空域の設定について議論しましたが、中露が慎重姿勢を崩さなかったほか、アメリカも、ドイツ、南アフリカ、ブラジルとともに慎重な姿勢であると伝えられました。クリントン国務長官は、G8会議への出席を利用する形でパリのホテルで国民評議会代表団と会談したものの、経済・人道支援の約束をしただけで終わりました。翌15日の主要8各国(G8)外相会議は、リビア問題では、カダフィに対して国民の基本的権利を無視すれば重大な結果をもたらすと警告し、議長総括で、安保理での広範囲な検討を歓迎すると述べたものの、飛行禁止空域には直接言及しませんでした。同日、国連安保理が開催され、レバノンの提出した飛行禁止空域の設定に関する決議案の協議が始まり、英・仏・レバノンが飛行禁止空域の設定に関する決議案を配布しましたが、アメリカは名前を連ねませんでした。そして16日にはクリントン国務長官が、カイロで、リビアについては多くの選択肢がありうると語りました。
こういうアメリカの慎重姿勢は、3月18日の安保理決議以後にも端々で窺われることになりました。この日、オバマ大統領は声明を発表するのですが、その内容は、①リビアが国連決議を遵守せねば、アメリカは国際的有志連合の一員として行動の用意がある、②ただし、アメリカが地上部隊を展開することはない、というものでした。またオバマ大統領、サルコジ仏大統領及びキャメロン英首相が連名でカダフィ宛てに出した声明は、①国連安保理決議1973号を遵守しなければ、国際社会は軍事手段で決議を強行履行させる、②停戦の要件は、1)自国民への攻撃の全面停止、2)ベンガジ進攻停止とアジュダビヤ、ミスラタ、ザウィアからの全面撤退、3)全土での電気・水道・ガスの供給の再開、4)人道支援の受け入れ、を内容とするものでしたが、カダフィ退陣、反政府派支持には踏み込んでいませんでした。
カダフィは明らかにこのアメリカの姿勢をかぎ取ったと思われます。すなわち、19日にカダフィは、オバマ、キャメロン、サルコジ及び潘基文国連事務総長に親書を送り、①リビアは諸君のものではなく全国民のものである、②攻撃は地中海や欧州に計算外のリスクをもたらす、③国内問題に介入すれば後悔することになる、と居丈高な姿勢を示すのですが、オバマ向け親書においては、①私はアメリカがリビアと戦争することで貴方のイメージが壊れねばよいと心配している、②我が国はマグレブ・イスラム諸国のアル・カイダと対峙している、③仮に、彼らが武器を持ちアメリカの都市を管理していたならば貴方はどうされるか教えて欲しい。そうすれば貴方の例に従えるから、と異なる内容も記しています。注目すべきは、アメリカ側の関心の所在が国際テロリズムとの関わりにあることをカダフィが読み切っているということでしょう。
19日にはパリにおいて主要欧米諸国や一部アラブ諸国(カタール、UAE、イラク、ヨルダン、モロッコ)、さらにはアラブ連盟など22の国・機関の指導者による緊急首脳級会合が開催され、カダフィに国連安保理決議1973号を履行させるため、軍事作戦を含むあらゆる手段を取ることで合意したとの共同声明を発表し、サルコジ仏大統領が、緊急首脳級会合の終了後、①国連から付与された権限に基づきリビアに介入する、②多国籍軍の航空機がベンガジへの攻撃の監視体制に入った、と表明するのですが、クリントン国務長官は、①必要とされるあらゆる措置をアメリカは支持する、②ただし、アメリカは地上軍を派遣しない、と語り、引き続き慎重な対応を示しました。またこの日から仏英米伊加の5カ国軍の参加する対リビア軍事作戦「オデッセイの夜明け」が開始され、ジュペ仏外相がテレビで、リビアが国連安保理決議に従うまで攻撃は続くと語ったのに対し、オバマ大統領は訪問中のブラジルで記者団に、①リビアでの限定軍事行動を許可した、②独裁者が市民に無慈悲である時に中途半端な立場ではいられない、③市民の保護が軍事作戦の目的である、と語ったのが対照的でした。
20日には、19日の軍事作戦の結果を踏まえた軍関係者の発言が相次ぎました。 マレン統合参謀本部議長は、①19日の作戦は非常にうまくいった、②飛行禁止空域が設定された、③政府軍は最早ベンガジに進出していない、④市民の被害報告は受けていない、⑤まだ行わねばならないことは沢山ある、⑥数日中に欧州が作戦を指導し、米国は支援的な役割となる、⑦攻撃の主たる目標は、カダフィ軍の攻撃から市民を守ること及び人道援助が円滑に届くようにすることである、⑧攻撃によりカダフィ大佐が追放される結果となるかもしれない。カダフィ大佐は、ある時点で、自身の将来について選択を迫られるだろう、⑨軍事攻撃の結末は分からない。東の反体制派と西の体制派が両立することもありうる、⑨攻撃がいつまで、どの程度の規模で続くかは分からない、と語りました。
ゴートニー中将(米統合参謀本部)は国防総省で記者会見し、①攻撃により政府軍の防空システムを無力化した、②攻撃の目的は、ベンガジ等での市民・反体制派への攻撃の防止及び飛行禁止空域設定の条件整備である、③現在の攻撃は複数段階の軍事作戦の第一局面に過ぎない、④多国籍軍は、まだ多数あると思われる可動式地対空ミサイル・バッテリーや携行式地対空ミサイルを叩いていない、⑤後は多国籍軍に指揮権を委ねる、⑥カダフィは攻撃目標に入っていない、⑦民間人の被害を示す証拠はない、⑧今後どの程度攻撃が続くかは分からない、と語りました。
ゲーツ国防長官は、①多国籍軍を指揮するのはアメリカではない、指揮するのは英か仏かNATOである、②アラブ連盟諸国の中にはNATO下での軍事作戦と見られることに神経過敏な国もある、④オバマ大統領の攻撃決定は政権の一致した考えである、⑤アメリカは統一されたリビアを望む、⑥東西分裂国家となれば不安定が続くことになる、と述べました。
三者の発言に共通しているのは、アメリカはこの軍事作戦を主導する意志はないということ、作戦は市民を守るという安保理決議の範囲内のことであるということ、軍事作戦で問題が解決するわけではないという認識、リビアの分裂国家化の可能性を視野に入れていること(ただし、アメリカとしてはそういう事態の招来を望まない。)です。その点を確認するかのように、21日にオバマ大統領は、トルコのエルドアン首相と電話で協議し、国連安保理決議の完全履行の支持を確認するとともに、数日中に指揮権を移譲すると明言しました。また、ホワイトハウスの高官が、カダフィ大佐は標的でないとのアメリカの立場を記者団に述べたとも報道されました。
アメリカが問題の政治的解決を行っている可能性を示す材料も報道されています。
一つは、1987年から2007年までペンシルベニア州選出の下院議員であったカート・ウェルドンが、カダフィ大佐と会談すべく4月6日までにトリポリ入りしたことです。同氏は大量破壊兵器の放棄を明らかにしたカダフィへの支持を示す米議員団の団長としてリビアを訪問し、カダフィと会談して以降、度々同国入りしており、カダフィの子息たちとも親密になったと言われている人物であるとのこと。
そのウェルドンはリビア訪問について次のように語ったと報道されました。

-目的はカダフィと会い退陣を説得することである。
-アメリカは過去においてカダフィ以外の指導者との関与に失敗しており、過去数年、平和的・民主的改革を促すことにも失敗してきた。
-リビアが新政府を構築する上でアメリカが決定的な役割を果たすべきことに疑問の余地はない。
-自分は過去にカダフィと会い、簡単に服従させるのは容易でないことを知っているので、今般同大佐と対話することは極めて重要である。
-子息のセイフ氏は、反体制派の主要人物とともに新政府の枠組み作りで建設的な役割を果たすことができる。

 も一つの材料は、カダフィがオバマ大統領に再び親書を送り、NATO主導の空爆の停止を要請していたことが、4月6日、カーニー・ホワイトハウス報道官から明らかにされたことです。3頁の親書でカダフィは、オバマ大統領に、NATO主導の空爆を停止することを求めるとともに、貴方は誤っており、間違っている行動を正す勇気を十分に持つ人物であり、そうした責任を果たせる人物であると確信していると述べていることが紹介されました。この書簡に関してクリントン国務長官は記者会見で、「フィは自らが何をせねばならないかを知っているはずだ。それらは、停戦、大変な暴力と人的被害により獲得した諸都市からの政府軍の撤退、権力の座からの退陣及びリビアからの出国である。」と述べました。しかし、カダフィが二度にわたってオバマに親書を出し、しかもきわめて個人的に話しかけるということは、オバマが前の書簡に対して素っ気ない対応をしていれば考えにくいことです。ジュペ仏外相が、「軍事面では手詰まり状態に陥っているので政治的解決が必要になってきた」「交渉による解決に導くにはトリポリの誰に働きかければよいのかを探っている」「4月12日ないし13日にカタールで連絡調整グループ会議が開かれる」(ミドル・イースト・オンライン 2011年4月6日)と語り、強硬一色であったフランスも政治解決を模索していることを示唆したことからも、政治的解決に向けての水面下での交渉が続いていると考える方が無理はないでしょう。
 しかし、事態の展開は予断を許さないことが10日以後に再び明らかになってきています。
 すなわち、4月10日にAUが示した仲介対して、カダフィ政権側は受け入れる意向であるのに対して、反体制派の国民評議会側は、「AU案はカダフィ大佐の退陣及び子息たちがリビアの国内政治の舞台から姿を消すことが含まれていないので、時代遅れの内容である」「我々は、今後もこの点含まない仲介案を受け入れることはできない」(ロイター通信 2011年4月11日)と語り、カダフィ大佐及び子息の退陣が絶対条件であることを明らかにする一方で、「ただ我々はAUが別の仲介案を提示するのであれば検討する」と述べ、今後新たな仲介案を検討する可能性は否定しなかったと伝えられています。クリントン国務長官は11日、次のように語り、カダフィ退陣を要求する立場を再び鮮明にしました。

-我々は停戦を望むことを既に明らかにしてきた。
-しかし、それには欠かせない条件がある。例えば、カダフィ政権軍が残忍な仕打ちをしているリビアの諸都市での水道・電力・その他サービスの復旧である。これは交渉の余地はない。
-米国の立場はカダフィ大佐の退陣である。

 また、反政府側の国民評議会に対する態度を明らかにしてこなかったアメリカ政府の立場にも変化が現れました。すなわち、13日には国務省のトナー副報道官代行が定例記者会見で、国民評議会のマフムード・ジブリール首相が訪米し、スタインバーグ国務副長官や国防総省幹部等と会談する予定となっていることを明らかにしたのです。
そして15日には、オバマ大統領が、キャメロン英首相、サルコジ仏大統領と連名で、「リビア和平への途」と題する共同意見書を欧米の3紙(IHT紙、フィガロ紙、タイムズ紙)に掲載し、次のような立場を明らかにしました。

-自国民を虐殺しようとする指導者が、将来の政府においても役割を担うことは考え難い。カダフィ大佐をその座に置くとの取引は一層の混乱や無秩序を招来する。我々は、その意味するところを過去の経験から熟知している。
-カダフィ大佐が権力の座にある限り、NATOは作戦を続けて市民を保護し政権に圧力をかけ続ける必要がある。移行を成功させるには、カダフィ大佐を永遠に追いやらねばならない。
-その後、独裁政治から新世代の指導者たちによる憲法採択への真の移行が開始される。
-カダフィ後の国家再建には手を貸さねばならないが、新指導者の選出は国民に委ねられるべきである。

 つまり、カダフィは退陣すべきである、ただし、新指導部の選出は国民にゆだねる(次男の去就についてもリビア国民の判断に任せるという含意?)ということでしょう。ちなみに、アメリカよりも強硬な立場を示してきたフランスも、4月17日、フィロン首相が次のように語りました。

-我々は政治解決も必要としている。政治解決は対話への条件であり、これによりリビア危機を解決できる。
-リビア危機は多国籍軍による軍事行動では解決できない。だからこそ、双方の善意を持つ人々が交渉に向けた枠組みを見出せるよう、国連決議の範囲内でのあらゆる一連の接触を開始したのである。

 これに対してカダフィの次男のセイフ・イスラム・カダフィは間接的な言い回しながら、19日に次のように語りました。

-政権はカダフィ打倒に立ち上がった人々に復讐するつもりはない。武力の行使は武力での対応を生むだけだ。
-2007年に設定したカダフィ大佐、イスラム、国家の安保、国家の統一という4つの超えてはならない線を越えたものは責任を問われねばならない。
-今回の騒動後のリビアは以前とは同じではない。

 しかし、その後再びNATO軍の攻撃が激化したことは前に記したとおりですし、アメリカ議会上院のグラハム議員(共和党。上院軍事委員会委員)やマケイン上院議員がカダフィを標的にした軍事作戦を主張(24日)し、30日にはカダフィの六男や孫を殺害する空爆作戦も行われています。
 以上に見てきたとおり、アメリカのリビア問題に対する対応は、短い期間のうちに起伏があり、カダフィ自身を排除することにおいては一貫しているものの、ポスト・カダフィのリビアのあり方については、今なお模索中であり、反体制側に対しては、アル・カイダとの関係がクリアされない限り、簡単には全面的にコミットすることにはならない、というところでしょうか。はっきりしていることは、あくまでアメリカにとっての最大の利益は何かという視点からリビア問題にアプローチしているということであり、内戦で泥沼化しているリビア情勢に関してはパワー・ポリティックス(権力政治)に徹する姿勢がますます鮮明になっているということだと思います。

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