胡錦濤訪米と米中関係

2011.01.22

*1月19日から21日にかけて、中国の胡錦濤主席が国賓として訪米しました。21世紀における米中関係ひいては国際関係の方向性を考える上で重要な意味を持った出来事です。1月19日に発表された共同声明、到着歓迎式典における両首脳(オバマ及び胡錦濤)の発言、共同記者会見での両首脳の発言(ホワイト・ハウスのHPが発表した胡錦濤訪米関連の文献としては、この三つを含めて全部で11の文書があります。) によりながら、その意味と問題点について考えておきたいと思います。
全体を通じて私が得た一番印象的なことは、日本が一方的にアメリカの言いなりになるきわめて不健全な二国間関係(日本の主体性のなさが習い性になってしまって、アメリカもそういう日本を当然視し、日本をアメリカの「将棋の駒」としか位置づけない。)であるのとは対照的に、アメリカに対して堂々と自らの立場を主張する中国と、そういう中国をなかば忌ま忌ましく思いながらも対等平等な存在として渡り合うべき存在として敬意をもって接するアメリカとの間に、本来あるべき二国間関係が成熟しつつある、ということでした。
同時に、米中双方が21世紀における米中関係のあるべき姿・方向性について模索しようとする意思があることは確認できますが、今回の胡錦濤訪米がその方向に向かって具体的な一歩を記すことに成功したかといえば、私個人の印象としては否定的にならざるを得ません。むしろ、伝統的な米中関係の枠組みを再確認することに終わったという結論は免れないと思いました。それは、胡錦濤政権そのものがあと2年を残すのみであり、オバマ政権についても2010年の中間選挙で国内基盤が弱まっているという事情も働いているでしょうが、なによりも台湾問題及び普遍的価値に関する相互の原則的対立に関する双方(とくにアメリカ)の歩み寄りが展望できないという事情によるものだと思われます。米中関係に突破口が開かれない限り、国際関係の構図が大きく変化する展望もなかなか出てこない、と言わざるを得ないでしょう。
最後に、このような情勢を根本的に打開するカギは私たち自身の覚醒如何にかかっていると思います。私たち日本人の認識に革命的な変化が起こり、日本政治の主人公となる私たちがその政治を抜本的に転換させ、日本国憲法に基づく平和外交を主体的に展開する(日米軍事同盟を終了させることを不可分の一部とする。)という局面を生み出せば、その日本はアメリカの対外政策の根本的転換を迫り、世界政治を変える大きな起動力となるということです (1月22日記) 。

1.胡錦濤訪米に寄せる米中両国の期待

 胡錦濤の訪米に寄せる米中それぞれの期待の所在及び胡錦濤訪米の位置づけに関しては、到着歓迎式典及び共同記者会見におけるオバマ及び胡錦濤の発言に端的に反映されていると私は受けとめました。簡潔にまとめれば、米中双方が今後の国際関係における米中関係の戦略的重要性を再確認するとともに、人権問題に集中する形で国家としての政治システムのあり方に関しては互いに一歩も譲らないという、これまでの米中関係の基調が今後も続いていく、ということが確認されたというところでしょうか。

(1)オバマ発言

 オバマは、米中国交が正常化した1979年及び胡錦濤の今回の訪中を区切りとして、国交がなかった30年(1949~1979年)、国交正常化後の交流と理解が進んできた30年(1979年~2010年)と位置づけた上で、胡錦濤の今回の訪米はこれからの30年(2011年~2040年)のための基礎を築く機会と位置づけています。ここからは、胡錦濤の訪米を単なるルーティンのイヴェントとはせず、30年という長期的視野のもとに考えようとする姿勢を窺うことができます。オバマ政権のアメリカが胡錦濤訪米をきわめて重視していたことを十分に理解することができます。
また、「諸国からなる共同体(the community of nations)における、強くて繁栄する成功した一員」として中国の台頭を歓迎すると述べていることも注目に値します。というのは、ブッシュ政権の時までは、「共同体」というのは価値観を共有するとアメリカが認定する国々からなるグループとする位置づけがあった(アメリカの言いなりにならない国々は「ならず者国家」として排除、制裁の対象となった。)わけで、オバマ政権がその位置づけを踏襲しているかどうかについては別途検討する必要があります(「ならず者国家」というレッテル貼りはなくなっている。)が、中国を「共同体の一員」と認定していることは、明らかにブッシュ政権時代とは異なる位置づけです。
 ただし、以上のことをあまり大きく考えることには慎重であるべきだと思います。というのは、その後に続けてオバマは、「歴史が示すところによれば、すべての国々及びすべての人民の権利義務が、一人ひとりの人間の普遍的な権利を含めて、認められるときに、社会(societies)はより調和的になり、諸国(nations)はより成功し、世界(the world)はより正義となる。」とも述べているからです。このことは、共同声明において、「人権及びデモクラシーの推進はアメリカ外交の重要な一部だ」(第7項)と述べ、記者会見においても人権問題に積極的に言及していることとも軌を一にしています。つまり、中国が人権という普遍的価値に関して問題があるとオバマ政権が考えていることには変わりがないわけで、後述する台湾問題と併せて考えれば、オバマ政権の対中認識に基本的な変化が起こったとはみられません。

(2)胡錦濤発言

 胡錦濤も、過去32年間で中米関係が戦略的重要性と世界的な影響力を持つものになったという認識に立って、今回の訪問は「相互信頼を増進し、友好を高め、協力を深め、21世紀における積極的、協力的及び包括的な中米関係を推進するため」のものだと位置づけています。その限りでは、米中関係の歴史的な位置づけに関してオバマの認識との間に齟齬はありません。
 しかし胡錦濤は続けて、「パートナーとしての中米協力は互いに尊敬し合うことに基づかなければならない」と述べ、さらに念入りに「我々は、ますます多様で色彩豊かな世界に住んでいる。中国とアメリカは、互いの発展の道に関する選択及びそれぞれの核心的利益を尊重するべきである」、「パートナーとしての我々の協力は相互の利益に基づくべきである。…両国は、交流を通じて互いから学ぶべきであり、協力を通じてウィン-ウィンのプロセスを実現するべきである」と強調しています。これは明らかに、米中関係はアメリカが一方的にその意思(あるいは価値観)を中国に押しつけることによって成り立つ関係ではなく、それぞれの国家としてのあり方を尊重した、あくまで対等平等のものでなければならない、という中国の強固な意思を表明したものです(中国側のこだわりようは、国宴における通常は儀礼的なスピーチにおいて、胡錦濤が「我々は、互いの主権、領土保全及び発展に関わる利害を尊重し、違いともめ事を適切に扱い、相互尊重と互恵に基づく中米協力パートナーシップを作るために一緒に努力することで合意した。」と釘を刺していることにも示されています。)。
 共同声明においても、上記の人権重視のアメリカ外交についての立場が述べられているのに続けて、「中国は、いかなる国の内政に対する干渉もあるべきではないと強調した」とあります。そしてさらに、「アメリカと中国は、各国及びその人民は自らの道を選択する権利があり、すべての国家は発展のモデルに関するそれぞれの選択を尊重するべきである」という文章が続いています。人権問題について、中国が一歩も後に引かなかったことが窺われます。
胡錦濤は、共同記者会見においても、人権問題に関する中国の立場を詳しく述べています。彼は、人権が普遍的なものであることを認めているし、尊重もしていると述べました。同時に彼は、中国が巨大な人口を抱えた改革のカギとなる段階にある途上国であり、多くの挑戦に直面しているとし、人権に関してはまだ多くの課題が残されていると率直に認めました。そして、中国が人民の生活改善に努力を続けるし、デモクラシーと法治を促進するために努力していくと述べて、アメリカとの間でこの問題について違いがあるが、相互尊重と内政不干渉の基礎の上にアメリカとの対話を行っていきたいと強調しました。

2.米中首脳会談の内容-成果と問題点-

 米中首脳会談の内容及び成果・問題点については、共同声明を中心にしつつ、共同記者会見でのオバマと胡錦濤の発言によってさらに補うという形で見ておきたいと思います。

(1)二国間関係

<米中関係の基礎>
 共同声明は、「米中間の三つの共同コミュニケ(浅井注:1972年のニクソン訪中時の上海コミュニケ、1978年の国交樹立コミュニケ及び1982年の台湾向け武器輸出に関するコミュニケ)が両国関係の政治的基礎を据えたこと及びこれからの米中関係の発展を導き続けることを再確認した」(第2項)と述べ、21世紀においてもこの三つのコミュニケが米中関係の基本であることを確認しています。この三つのコミュニケに共通する核心は台湾問題の扱いですから、要するに21世紀における米中関係のあり方も台湾問題によって大きく左右されるということを米中双方が認めたという点に重要な意味があります。つまり、如何に米中関係が深まっていくとしても、台湾問題(及びすでに述べた価値観の問題)が存在し続ける限り(もっといえば、アメリカが台湾に対する政策及び中国を異質な体制の国家という見方を改めない限り)、米中関係には常に不確定要因がつきまとうし、したがって日本との関わりでは、アメリカが台湾を「防衛」するために必要とする在日米軍基地(つまり日米軍事同盟)を自ら手放すことはあり得ない、という構図が続くということです。
 また、米中間の協力的パートナーシップは「相互の尊重及び利害」に基づくものだとされています(第3項)。ここでも1.に述べたような中国が重視する対等平等性が念入りに確認されています。

<米中関係の性格と位置づけ>
 共同声明(第4項)は、米中関係が「死活的でありかつ複雑である」と述べます。「複雑」という異例ともいえる表現が率直に記されているのは、「政治システム、歴史的及び文化的背景並びに経済発展段階の違いにもかかわらず、(両国関係は)積極的かつ協力的な関係のケースを示している」という認識を反映しています。そういう認識を踏まえた上で双方は、「この関係を高めるために相互の戦略的信頼を促進し、深めるように努力することに合意した」としています。「価値観を共有する日米関係」が白々しく枕詞とされる日米関係とは好対照をなしています。
 その上でアメリカは、「強く、繁栄しかつ成功する中国が世界でより大きな役割を担うことを歓迎する」ことを繰り返し表明し、中国は、「アメリカがアジア太平洋地域(APR)の平和、安定及び繁栄に貢献するこの地域の国家であることを歓迎する」とエールを交換し、「協力することにより、21世紀においてより安定した、平和なそして繁栄するAPRを建設することを支持する」と、両国がこの地域で協力していくことを明らかにしています(第5項)。中国がアメリカをAPRの一員であり、安定要因であるとこれほど明確に認めたのは、私には意外なほどでした(最近、私は丹念に中国側の文献をフォローしているわけではないので、私の思い過ごしかも知れませんが)。このエールの交換は共同記者会見でもくり返されています。
 このくだりを読んだときに私がまず考えたことは、米中でAPRのことを仕切るという意図が露骨に出ているな、APRのことを扱っているのに日本の「に」の字も出ていないな(要するに米中には日本のことなど眼中にないな)、ということでした。民主党政権になって劣化現象がさらに進んだ日本外交のていたらくを考えれば当然すぎることですが、日本が平和憲法に基づく独立自主の外交を展開していれば、このような米中共同声明にはならないだろうにと、悔しい思いにおそわれます。

<台湾問題>
 共同声明は「台湾問題の重要性」にも明確に言及しています(第6項)。きわめて重要な内容なので、全文を紹介しておきます。

「中国側は、台湾問題は中国の主権と領土保全にかかわることを強調し、アメリカ側が関連する誓約を守り、この問題に関する中国側の立場を評価し、支持するという希望を表明した。アメリカ側は、一つの中国政策にしたがっており、三つの米中コミュニケの諸原則を遵守すると述べた。アメリカは、台湾海峡両側の間の経済協力枠組み合意を高く評価し、両者の間で新しい通信ラインが発展していることを歓迎した。アメリカは、台湾海峡越しの関係が平和裏に発展することを支持し、双方が経済、政治その他の分野における対話と交わりを増やし、より積極的で安定した海峡間関係を発展させることを期待する。」

私の第一印象としては、中国側が「一つの中国」の立場に対するアメリカの「支持」を求めたこと(つまり、三つの共同コミュニケにおけるアメリカのacknowledgeの立場にとどまるのではなくappreciate and supportするように政策を変更するように「希望を表明した」こと)、それに対してアメリカ側が中台関係における近年の進展を明確に「歓迎」「支持」「期待」する立場を示したことに新しい要素を感じました。
ただし厳密にいえば、台湾問題に関するアメリカの基本的立場は変わっていないというべきでしょう。中台間で進展している事態をアメリカ政府としてももはや到底無視できないし、中国側の新たな希望表明に対してなんらかの「色をつけた」立場を表明するとすれば、消極的な立場を表明するという選択はあり得ないわけですから、上記の内容に落ち着くことになるということでしょう。
しかし、積極的に色をつけるだけで終わったとしたら、親台派が相変わらず多数を占めるアメリカ議会を中心として、アメリカ国内から猛反発が出ることは間違いありません。そこで共同記者会見においてオバマは、台湾関係法(浅井注:米中国交正常化に際して、アメリカ議会が主導して成立した、アメリカの台湾「防衛」を「正当化」する国内法)に言及することにしたのだと思われます。すなわち共同記者会見の冒頭発言でオバマは、「東アジアの地域的な安定及び安全に関して」と切り出して、「アメリカは、航行の自由の維持、阻害されない交易、国際法及び見解の相違の平和的解決に基本的な利害を有する」と原則論を述べた上で、続けて(私にはきわめて不自然で唐突な感じが否めませんでしたが)「緊張を減らし、経済的な結びつきをつくるという点で台湾海峡の両側で進んでいる進展を歓迎する。我々は、双方、地域及びアメリカの利益になるので、この進展が続くことを希望する。私は、三つの米中コミュニケ及び台湾関係法に基づく一つの中国政策に対する誓約を再確認する。」と述べたのです。この発言により、オバマ政権のもとでは、アメリカの台湾政策には変化がないことが明らかにされたということになります。
中国側としては、オバマ政権に対して台湾政策の変更を要求する立場を共同声明の中で明らかにできたことが成果といえるわけです。オバマ政権が台湾政策を根本的に変更する意図も、それを必要とするだけの国内的基盤もない(アメリカ議会は共和党が多数派を占めたことなど)ことは織り込み済みですから、オバマが記者会見で一方的に台湾関係法に言及することにも異議を唱えなかったということではないでしょうか。

<その他の二国間関係>
 共同声明はその後、すでに述べた人権問題(第7及び8項)、軍事関係(第9項)、宇宙に関する対話と交流(第10項)、科学技術(第11項)、対テロ、腐敗対策を含む法執行協力(第12項)及びハイ・レベル交流(第13~15項)を扱っています。

(2)地域的及び世界的「挑戦」

 共同声明では以下の問題を取り上げています(このほかスーダン問題も取り上げていますが、ここでは省略します。)。

<APR及びその以遠における平和と安全>
 共同声明において地域的及び世界的な「挑戦」として最初に取り上げられているのは、「APR及びその以遠における平和と安全に対する共通関心」(第16項)です。地球環境、すべての国々の持続的発展に両国が対応することに加え、核兵器その他の大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散防止や気候変動への有効な対処などに関する協力が挙げられています。内容的には目新しいことは含まれていません。

<核兵器のない世界>
 次に共同声明は、「核兵器のない世界」の実現に関して次のように述べています(第17項)。内容的にはとりわけ新味を感じませんが、強いていうならば、CTBTの早期発効及びカットオフ条約交渉に両国がコミットメントを再確認し、そのために協力すると述べたことが今後どのような具体的な行動に結びつくか見ていきたいと思います。

 「アメリカ及び中国は、核兵器のない世界の最終的な(eventual)実現に対する誓約並びに核拡散及び核テロリズムの脅威に対処するための国際的な不拡散体制を強化する必要性を強調した。この点に関して双方は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を支持し、軍縮会議における分裂性物質カットオフ条約交渉の早期開始支持を再確認し、これらの目標を達成するために協力することに合意した。双方はまた、ワシントンにおける核安全保障サミットを受けた核の安全保障に関する両国の深まる協力に留意し、中国に核安全保障センター(a Center of Excellence)を設立するための了解メモランダムに署名した。」

<朝鮮半島>
 共同声明は、地域問題の筆頭に朝鮮半島問題を取り上げています(第18項)。その全文は次の通りです。

 「アメリカと中国は、2005年9月19日の共同声明及び関連する国連安全保障理事会の諸決議において強調されているように、朝鮮半島の平和と安定を維持することがきわめて重要であることに合意した。双方は、最近の諸展開によって引き起こされた半島の緊張の高まりに懸念を表明した。双方は、半島に関わる事項に関して緊密に協力するための継続的努力を指摘した。アメリカと中国は、南北関係の改善の重要性を強調し、誠実で建設的な朝鮮同士の対話(inter-Korean dialogue)が不可欠なステップであることに同意した。北東アジアの平和と安定を維持するためには半島の非核化がきわめて重要であることに合意して、アメリカと中国は、非核化の目標を実現するための具体的かつ有効なステップが必要であること及び2005年9月19日の6者協議の共同声明で行われたその他の約束を完全に実行することに同意した。この点に関して、アメリカと中国は、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)が主張するウラン濃縮計画に関する関心を表明した。双方は、2005年の共同声明及び関連する国際的な義務・誓約と両立しないすべての活動に反対する。双方は、本件及び関連する問題を討議するために6者協議プロセスを早期に再開することに資する必要なステップを求めていく。」

 朝鮮半島問題が首脳会談における最重要テーマの一つであったことを十分に窺わせる内容になっています。オバマはさらに共同記者会見の冒頭発言で次のように発言しました。

「私は胡主席に朝鮮半島の緊張を減少することに関する中国の役割を評価すると述べた。我々は、北朝鮮がさらなる挑発を避けるべきであることについて合意した。私はまた、北朝鮮の核及び弾道ミサイル計画がアメリカ及び同盟国にとって直接的な脅威になりつつあると述べた。我々は、至上の目標が半島の完全な非核化であることに同意した。この点に関し、国際社会(the international community)は、北朝鮮のウラン濃縮計画が同国の誓約及び国際義務に違反していると明確に述べ続けなければならない。」

以上の文章及びオバマの発言から私が受け止めたことを整理すると次のようなことがいえると思います。
 もっとも重要な点は、米中双方が、朝鮮半島の緊張緩和(南北関係改善)のために韓国と朝鮮の直接対話が不可欠であるという点で一致したということです。
周知のとおり、延坪島事件(及びその前の天安事件)によって緊張を高めた朝鮮半島情勢に関し、日本国内では、すべてを朝鮮の責任であると非難し、韓国の李明博政権の対朝鮮強硬姿勢・政策は当然であるかのように報道され、受け止められる状況があります。そして、朝鮮が年明け前後から韓国との対話を呼びかける政策をとっていることに対して、李明博政権がこれを無視あるいは拒否する姿勢をとっていることについても、日本国内では、朝鮮のアプローチを宣伝戦と見なし、韓国側の対応を無批判的に受け止める傾向がマスコミを中心にして支配的な雰囲気があります。
しかし、米中は、個々の問題での対応は違います(例えば、二つの事件についてアメリカは韓国の主張を全面的に支持しているのに対して、中国はいずれの主張にもコミットしていませんし、事件と密接に連動して行われた東シナ海における米韓合同軍事演習に対しては、中国は明確に反対する立場を明らかにしました。)が、事態が自らのコントロールの及ばない段階にまでエスカレートすることを望まない点では完全に一致しています。そのことが南北対話の重要性を強調する点で米中が足並みをそろえることにつながっているのだと思います。李明博政権にとってはきわめて重いプレッシャーとなって働く内容であることは間違いありません。
もちろん、アメリカの対応は一筋縄ではありません。例えば、北沢防衛相は、1月12日に、朝鮮半島有事に際して自衛隊による対米軍後方支援を充実させるために周辺事態法を改定する必要があると発言したことが報道されました。あらゆる事態を想定して対策を講じるのはアメリカの定石です。そのことを踏まえた上でのことですが、南北対話を促すことについて、アメリカが中国と足並みをそろえたことが李明博政権の政策にどのような影響を及ぼすかについては注目していく価値があると感じました。
今回の共同声明におけるもう一つの重要なポイントは、2005年9月19日の6者協議の共同声明(9.19合意)の内容を「完全に実行する」ことに米中双方が同意したことです。文章を読む限りでは、あたかも朝鮮のウラン濃縮計画を押さえ込むことに狙いがあるように読むことは可能です。オバマも共同記者会見での発言も、その点をことさらに強調する内容でした。しかし、共同声明にある「国際的な義務・誓約と両立しないすべての活動に反対」ということは、ウラン濃縮そのものに反対であるということを意味するものではありません。ウラン濃縮を含む原子力の平和利用は、核不拡散条約(NPT)において非核兵器国に認められている国際法上の権利であるからです。朝鮮半島情勢の次に扱われているイラン問題に関する叙述(後述)と併せて読むとき、そのような意味合いでのみ理解することには問題があると思います。
むしろ私は、朝鮮半島情勢が緊張して以来、中国が6者協議再開による事態打開を提案してきたことに対して、今回の共同声明でアメリカが中国の立場に同調せざるを得なかった点の方が重要な意味があると感じています。9.19合意は朝鮮半島の非核化に関するものであり、朝鮮だけの非核化に関するものではないということも改めて確認しておく必要があるでしょう。

<イラン問題>
 イランの核問題に感いては、共同声明は次のように述べています(第19項)。

 「イランの核問題に関し、アメリカと中国は、イランの核計画が純粋に平和的性格のものであることに対する国際的確信を回復するような包括的かつ長期的な解決を求めるという誓約をくり返した。双方は、イランがNPTのもとにおいて原子力の平和利用の権利を有し、及び、イランが同条約に基づく国際的な義務を履行するべきであることに同意した。双方は、すべての関連する国連安保理諸決議の完全実施を要求する。アメリカと中国は、イランとのP5+1プロセスを歓迎して積極的に参加するとともに、イランを含むすべての関係国が建設的な対話プロセスにコミットすることの重要性を強調した。」

 内容的には目新しいことはありませんが、朝鮮と同じくイランがウラン濃縮を含む原子力平和利用に関する国際法上の権利を有していることはアメリカとしても否定しようがないわけで、その点を前提・出発点とする中国の主張が今回の共同声明にも色濃く反映しているという結論が妥当なところでしょう。

(3)包括的かつ互恵的な経済パートナーシップの建設

 胡錦濤の今回の訪米では、政治問題だけではなく経済問題も大きな重点でした。そのことは、共同声明の第22項から第39項までで経済問題を扱っていることにも色濃く反映しています。しかし、私は経済問題には全くの門外漢ですので、ここでは国際経済システムを扱っている箇所だけに限定して触れておきたいと思います。

<世界金融システム>
 共同声明は、米中両国が世界的な金融システムの強化及び国際金融機構の改革に協力することを約束したと述べています(第34項)。具体的には、IMF及び多国間開発諸銀行の正統性強化と機能改善を挙げるとともに、最貧国をはじめとする途上国に対する支援のための国際社会(the international community)の努力を共同して促進すると述べています。

<G-20>
s  共同声明は、G-20の枠組みに対する支持の確認と、国際経済金融問題に対するG-20の役割増大支持を明らかにしています(第35項)。

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