朝鮮の砲撃事件を見る目-想像力と他者感覚の必要性-

2010.11.28

*11月23日に起こった朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の軍隊による韓国の延坪(ヨンビョン)島に向けた砲撃で民間人2人を含む4人が命を失った事件は、朝鮮半島情勢が厳しい緊張状態にあることを確認させるものとして、私も強い危機感を新たにしました。米韓は、「朝鮮を牽制する狙い」(韓国筋)で11月28日から12月1日にかけて黄海で合同軍事演習を強行しようとしています。朝鮮は厳しく批判し、警戒感をあらわにしています(「南朝鮮傀儡好戦者たちが、まだ正気になることができずにまた再び無分別な軍事的挑発を敢行するならば、わが軍隊は躊躇無く2次、3次からなる強力な物理的報復打撃を加えるようになるだろう」と述べた朝鮮人民軍板門店代表部報道。下記2.参照)し、この合同軍事演習が中国の排他的経済水域で行われることもあり、中国は反対を明確にしています。私としては、不測の事態に発展しないことを願わずにはいられません。
 今回の事件については、朝鮮を批判、非難する言説一色の状態であり、したがって日本国内では米韓合同軍事演習を当然視するメディア報道であふれかえっていますが、私は、そういう情勢判断及び事態の認識が正しいのかについて、きわめて危ういものを感じています。米韓合同軍事演習がエスカレートしないことを心から願いながら、今回の事件をどのように見ることが求められているのかについて、私の判断を記します(11月28日記)。

1.韓国側説明とそこから読み取るべきポイント

(1)手がかりとしての一つの韓国側報道

 11月23日付の韓国の聯合ニュースは、次のような記事を配信しました。ちなみに、聯合ニュースについて名前はよく聞くのですが、私もその権威性についてはよく知らなかったので、そのウェブサイトをチェックしてみました。その自己紹介によると、韓国「国内最大の通信会社」で、「1945年の日本の植民地支配からの解放とともに誕生した数社の通信社を出発点として、40年近くの歴史を刻んできた「東洋」と「合同」という2大通信社の統合によりスタートを切った聯合ニュースは、国内外の最新情報やニュースを迅速かつ正確に伝えることで、顧客の利益と国家の発展に寄与する組織」と自己紹介し、「韓国内で起こったニュースを海外に伝える窓口の役割」を果たしていることを自負しています。日本でいえばさしずめ共同通信でしょうから、結論として、その記事(日本語版)を検討材料にすることには特に問題はないでしょう。

黄海上の北方限界線(NLL)に近い韓国の延坪(ヨンビョン)島一帯に向け、北朝鮮が23日に行った砲撃は、韓国軍の「護国訓練」に対する反発ではなく意図的な挑発だと、韓国軍が明らかにした。
 国防部の李庸傑(イ・ヨンゴル)次官は同日、民主党幹部に非公開報告を行い、軍が延坪島の沖合いで実施した訓練は護国訓練ではなく、定期的に行っている射撃訓練だったと説明(強調は浅井。以下同じ)した。民主党の朴智元(パク・チウォン)院内代表が明らかにした。
  李次官によると、韓国軍は、午前10時15分から午後2時25分まで北西部海上で射撃訓練を実施。西南方向に向け、NLLより南側で砲撃を行った。北朝鮮側が午後2時34分に海岸砲20発余りを発射してきたため、韓国軍もK9自走砲で同49分ごろ応射。続いて午後3時1分ごろ2度目の応射を行ったという。 事態は午後3時41分に収束した。
 合同参謀本部の金正斗(キム・ジョンドゥ)戦力発展本部長(中将)も、与党ハンナラ党の緊急最高委員会に出席し、韓国軍の延坪島沖での訓練は護国訓練ではなく、海兵隊が毎月白リョン島で実施する砲撃訓練だったと報告した。ハンナラ党の安亨奐(アン・ヒョン ファン)報道官が伝えた。
 特に金本部長は、韓国軍は北側ではなく南側に向け砲撃していたが、北朝鮮が突然、韓国軍陣地に向け海岸砲を発射したと指摘。北朝鮮の攻撃は威嚇射撃ではなく、照準射撃とみるべきだと強調した。また、北朝鮮の挑発は、NLLの無力化、北朝鮮の後継体制固め、軍事的緊張を通じた南北関係の主導権確保などに向けた多目的布石だと分析した。
 韓国軍は陸海空の合同作戦遂行能力を高めることを目的とする護国訓練を22~30日に全国で実施すると明らかにしていた。護国訓練は、1994年から中断されている韓米合同軍事演習「チームスピリット」を代替する訓練として、1996年から実施されている。  一方、ある軍関係者は、今回の韓国軍の訓練は護国訓練期間に行われたが、これとは別のもので、1カ月に1回程度、定期的に実施している射撃訓練だと説明した。8月初めと9月にも白リョン島、延坪島で実施しているという。
 韓国軍の砲射撃区域は、延坪島の西南方向20~30キロメートル地点で、午前10時から午後5時までの計画だった。砲射撃訓練にはバルカン砲、爆撃砲、無反動砲などを動員したと伝えた。
 また別の軍関係者は、詳しい被害状況は確認できていないとしたうえで、韓国軍の応射により、北朝鮮軍に相当の人命被害があったと述べた。

(2)以上の記事内容から判断せざるを得ないこと

 文中にある「チームスピリット」とは、朝日新聞の解説を借りるならば、「米韓両国は朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代の76年、世界有数の規模とされた総合演習「チームスピリット」を始めた。94年の米朝枠組み合意で中止されたが、代わりに在韓米空軍基地防衛のための演習だった「フォール・イーグル」(若ワシ)の規模を拡大。02年からは、戦時増員演習(RSOI)と同時期に実施し、朝鮮半島有事に備えた総合演習の性格を強めた。12年4月の戦時作戦統制権移管の際は、この演習を通じて米韓両軍の新指揮系統を確認することにしている。」とあります。
つまり、チームスピリットは朝鮮半島有事、即ち朝鮮に対する戦争を想定した米韓合同軍事演習ということであり、それを「代替する」(上記聯合ニュース)ものとして始められた「護国訓練」も当然朝鮮に対する戦争に備えた軍事演習ということです。私たちが上記聯合ニュースの記事から確認しておくべきことは、護国訓練がそういうものであるということ、だからこそ韓国軍の関係者が、韓国側の射撃は「護国訓練ではなく、定期的に行っている射撃訓練だった」、「今回の韓国軍の訓練は護国訓練期間に行われたが、これとは別のもので、1カ月に1回程度、定期的に実施している射撃訓練だ」と盛んに釈明していると思われるということです。つまり、護国訓練の一環であるとすれば、朝鮮側が激しく反応したのにはそれなりの理由があることは認めるべきかもしれないが、今回の韓国側の射撃訓練はそれとは関係ないのだから、朝鮮が激しく反応したことには理由がなく、非は朝鮮にある、というのが韓国側の理屈だということになります。
しかし、ほんの少し想像力を働かして、次のことを考えてみて下さい。もし朝鮮が、韓国を攻撃対象とする軍事演習を毎年しているとして、その演習をしている期間の最中に、韓国の領域すれすれにある特定の地域で射撃訓練を行って、それは全体の軍事演習とは関係がないルーティンだと主張した時に、韓国、アメリカ、日本が「ハイ、そうですか」と納得するかということです。ほんのちょっとした想像力を働かせるだけでも、如何に韓国政府の主張が説得力のないものであるかは明らかでしょう。
実は、このように考えるのは私だけではありません。たまたま読んでいたインタナショナル・ヘラルド・トリビュン紙の11月25日付の記事(マーク・マクドナルド及びデイヴィッド・サンガーによる「アメリカと韓国による武力誇示」)には次のくだりがありました。

北朝鮮は、その国営通信社を通じて、南(注:韓国のこと)が火曜日(注:11月23日)に最初に砲撃した…と述べた。二つの朝鮮及び金正日についての著作があるマイケル・ブリーンは水曜日(24日)に、北の主張を一笑に付して取り合わないということであってはならないと主張した。「すべての分析において欠けていることは、我々が北朝鮮の言っていることに耳を傾けていないことだ。」とブリーンは言った。「北朝鮮が常に使うから脅しの表現のために、我々はとかく(その内容を)無視しようとする。」「しかし、もし北が韓国から5哩沖合で実射訓練をしていたら、それは毎度のことということにはならないだろう。(しかも)彼らはこれらの海域を自分のものだと考えている。ともかく、北朝鮮にかくも近いところでこういう実射訓練をすることにどんな意味があるのか。…北朝鮮側は、その被害妄想故に、(韓国の実射訓練によって)侵略が起こりつつあると判断したのかもしれないのだ。」

ブリーンの言う「もし北が韓国から5哩沖合で実射訓練をしていたら、それは毎度のことということにはならないだろう」ということは、私が上で述べたことと同じことだと思います。つまり、私たちは、韓国側の言い分はどんなに説得力がないことでも鵜呑みにしてしまい、その結果として、朝鮮が何故に今回かくも激しく反応したのかについて冷静に考えようとせず、朝鮮の「暴行」「挑発」と決めつけるということになってしまっているのではないでしょうか。そして冷静に読めば、韓国政府の主張そのものが、朝鮮側の言い分にはそれなりの理由があると判断するだけの重要な手がかりを提供しているということを、私としては指摘したいのです。

2.朝鮮側主張とそこから読みとるべきポイント

 ブリーンの指摘にもしたがって、朝鮮側の言い分に注目してみましょう。ブリーンのいうとおり、朝鮮側の文章が確かに「から脅し」の文言で充ち満ちていることには、私も正直いって辟易しますし、その「好戦的」な表現には生理的にはついて行けないのですが、そこは我慢してとにかく読んでみましょう。

(1)朝鮮側主張

〇朝鮮人民軍最高司令部報道全文「わが軍隊は口先だけの言葉をしない」(11月23日付朝鮮通信)

 「いわゆる「護国」という北侵戦争演習を行って朝鮮半島の情勢を緊張、激化させている南朝鮮かいらい(注:「かいらい」とは李明博政権のこと)が、われわれの再三の警告にもかかわらず、とうとう11月23日13時から、朝鮮西海の延坪島一帯のわが方領海に砲撃を加える無謀な軍事的挑発を働いた。
わが方の領海に撃ち込んだかいらいの砲弾は、実に数十発に及ぶ。
かいらいの今回の軍事的挑発は、いわゆる「漁船取り締まり」を口実にかいらい海軍艦艇をわが方領海に頻繁に侵犯させ、強盗さながらの「北方限界線」を固守しようとする悪辣(あくらつ)な企図の延長である。わが祖国の神聖な領海を守っているわが革命武力は、かいらいの軍事的挑発に即時的で強力な物理的打撃で対応する断固たる軍事的措置を講じた。
挑発者の発砲を無慈悲な鉄ついで治めるのは、わが軍隊の伝統的な対応方式である。
今後も、わが革命武力は南朝鮮かいらいがあえてわが祖国の領海を0.001ミリでも侵犯するなら、躊躇せず無慈悲な軍事的対応打撃を引き続き加えることになるであろう。
南朝鮮かいらいは、空言を言わないというわが革命武力の厳かな警告をしっかり心に刻み付けるべきである。朝鮮西海には唯一、われわれが設定した海上軍事境界線だけが存在するであろう。」

〇朝鮮人民軍板門店代表部報道全文(11月25日付朝鮮新報)

「朝鮮人民軍の板門店代表部は25日、南朝鮮当局が朝鮮西海の我が方の領海に砲射撃を加えるもう一つの厳重な軍事的挑発を敢行したことに関連して、事態の真相を誤導するアメリカを非難した。その内容は次の通りだ。
すでに報道された通り、23日に南朝鮮傀儡好戦者は朝鮮西海の我が方領海に砲射撃を加えるもう一つの厳重な軍事的挑発を敢行した。 我々の革命武力は、何か《護国》とかいう北侵戦争練習を繰り広げておいて、あえて我々の領海に砲射撃まで加えてきた挑発者たちに即時的で断固たる物理的対応打撃を加えた。
これは、我が祖国の神聖な領海に手を出す者たちはそれが誰であっても、わずかも容赦をしないわが軍隊の隙間のない鉄の立場を今一度確証したことになる。
しかし米軍側は、今回の砲撃戦が彼らの軍事統制下にある地域で繰り広げられたし、何かの《停戦協定違反》というとんでもない口実の下に、我々にからんでくる通知文を送ってきた。
米軍側が、我々にあえて先に火遊びをした南朝鮮傀儡たちをむやみに保護しながら、起こった事態を誤導しようとすることに関連して、朝鮮人民軍・板門店代表部は24日、米軍側に次のような内容の通知文を送った。
南朝鮮傀儡好戦者が23日に敢行した朝鮮西海の我が方の領海に対する砲射撃行為は、徹頭徹尾事前に計画された故意的な軍事的挑発であり、事実上の戦争行為だ。
すでに《護国》とかいう北侵戦争練習を繰り広げておいて、朝鮮半島の情勢を緊張激化させてきた南朝鮮傀儡たちは22日、延坪島に配置した砲武器で我が方の領海に砲射撃を加えようとする挑発的な計画をためらい無く発表した
これに関連して我が方は、23日8時に電話通知文を通じて南朝鮮傀儡軍部に我が方の領海に対する砲射撃計画を直ちに撤回することを強力に要求しながら、もしこの要求を無視した場合、断固たる物理的対応打撃に直面するようになるだろうし、それからもたらされるすべての禍に対して全面的責任を負うようになるだろうということを厳重に警告した
北侵熱に浮き立った南朝鮮傀儡たちは、朝鮮西海海上での軍事的衝突を防止し、この水域の平和と安定を維持しようとする我々の度重なる努力を無視して遂に延坪島に配置された砲武力を動員して朝鮮西海の我が方の領海を目標に先に砲射撃を加える無謀な軍事的挑発を強行した。
結局、延坪島は我々に軍事的挑発を加えてきた本拠地になったし、それによってわが軍隊の自衛的措置にともなう当然な懲罰を受けることになった
朝鮮人民軍・板門店代表部は通知文で、今回の事件が発生したのには、他でもない米軍側にもその責任があるということを特別に強調した。
朝鮮西海が北と南の間の対決と衝突の危険が常時的に存在する紛争水域になったのは、アメリカが我々の領海に自分勝手に描いた不法無法の《北方境界線》のためだ。
従って、アメリカは今回の砲撃戦の責任から抜け出すことはできない。
米軍側が本当に朝鮮半島の緊張緩和を望むならば、南朝鮮傀儡たちをむやみに保護してはならず、傀儡たちが不法無法の《北方境界線》の固守のために海上侵犯や砲射撃のような冒険的な軍事的挑発行為にこれ以上しがみつけないように徹底的に統制するべきだ
繰り広げられた事態は、停戦協定の実際的違反者も南朝鮮傀儡たちであり、朝鮮西海上に紛争の火種を植えたのも他でもないアメリカだということを示している。
現実がこうであるにもかかわらず、アメリカと南朝鮮傀儡たちは今回の砲撃戦で当然な教訓を探す代わりに、《非常事態》宣布だの、《安保関係長官会議》だのという陰謀の場面を引き続き繰り広げておいて、《チョナン》号事件と同じ第2の捏造劇、謀略劇をでっち上げるための追加的な挑発を愚かに試みている。
南朝鮮傀儡好戦者たちが、まだ正気になることができずにまた再び無分別な軍事的挑発を敢行するならば、わが軍隊は躊躇無く2次、3次からなる強力な物理的報復打撃を加えるようになるだろう。
アメリカは、造成された事態の真相を誤導をして、人にからんでくる体質的な悪い悪習を捨てるべきだ。」

〇朝鮮外務省代弁人談話全文(11月25日付朝鮮新報)

「朝鮮人民軍最高司令部が報道した通り、我々の革命武力は23日朝鮮西海の延坪島から我が方の領海に砲射撃を加えた敵の無謀な軍事的挑発に対応して、断固たる自衛的措置を取った。
敵が悪名高い北侵戦争練習である《護国》軍事演習を繰り広げると同時に、延坪島からの砲実弾射撃を計画したことに関連して、わが軍隊は我が方の領海に一発の砲弾でも落ちる場合、直ちに対応打撃を加えるだろうと何回も警告した
事件当日の23日午前8時、南北軍事会談の我が方団長は敵側団長に、鋭敏な地点である延坪島一帯での砲射撃計画を中止することをもう一度強力に促す電話通知文を送った
それにもかかわらず、敵たちは遂に13時頃から延坪島から我が方の領海に数十発の砲射撃を加えるきわめて無分別な軍事的挑発を敢行した
南朝鮮の非常に多い山河と海、島々において、よりによって肉眼でも互いに向き合って見える我々の目の前の島から、ついに砲声を鳴らせて火薬臭を漂わせた敵の処置こそが、高度な政治的計算が敷かれた挑発だ
敵たちは、我々を刺激させないために島から南側の方向へ砲射撃をしたと弁解しているが、延坪島は海上軍事境界線から我が方の領海岸に深々と入ってきて位置した地理的特性からして、そこで砲実弾射撃をすれば、どの方向へ撃とうが砲弾は我が方の領海内に落ちることになっている。
敵たちが狙った本心は、我々の物理的対応措置がない場合、我々が島の周辺水域を彼らの《領海》と認定したと誤導をしようとするところにあった
敵たちの今回の挑発の悪賢さと悪辣性はまさにここにある
口先だけの言葉をしないわが軍隊は、直ちに敵たちが実弾射撃を敢行した砲陣地を強力に打撃する自衛的措置を取った。
今回の事件は、朝鮮停戦協定が締結された後の1953年8月30日に、《国連軍》司令官クラークが自分勝手に一方的に描いた不法無道な《北方境界線》のためにもたらされたもう一つの危険千万な事態展開だ
アメリカとその追従勢力たち、一部の国際機構の当局者たちは、事件の真相を調べもしないで、むやみに誰かを非難からしようとする悪習を捨てるべきだ。南朝鮮が自分の側だといって、明らかに罪を犯したことについても無原則に肩を持つならば、それはただ点いた火に扇ぐことになるだけだ。
朝鮮半島の平和と安定を貴重に思う我々は、今超人間的な自制力を発揮しているが、正義の守護者であるわが軍隊の砲門はまだ開かれている状態だ。」

(2)朝鮮側の主張から読みとるべきポイント

 朝鮮側の主張からは、以下の諸点を読みとることはむずかしいことではありません。
 まず、朝鮮が問題視しているのは主に2点だということです。一つは、朝鮮は、今回の韓国側の軍事演習を「強盗さながらの「北方限界線」を固守しようとする悪辣(あくらつ)な企図の延長」であり、アメリカ(国連軍司令官)が「1953年8月30日に、…自分勝手に一方的に描いた不法無道な《北方境界線》」を絶対に承認せず、自らの主張に基づく領海域に対して韓国側が行った実射訓練を、その「本心は、我々の物理的対応措置がない場合、我々が島の周辺水域を彼らの《領海》と認定したと誤導をしようとする」狙いがあるものとして、断固排撃しようとしたということです。つまり、韓国側の軍事行動を黙視すれば、朝鮮側の領域に関する主張が事実上崩されることになるので、座視することはできなかったということです。
もう一つは、「《護国》とかいう北侵戦争練習を繰り広げておいて、朝鮮半島の情勢を緊張激化させてきた」韓国側が、「延坪島に配置した砲武器で我が方の領海に砲射撃を加えようとする挑発的な計画」を実行したと述べていることから分かるように、朝鮮は、朝鮮に対する侵略戦争の演習と関連づけて今回の韓国側の実射訓練を捉えているということです。その言い回しからは、韓国側が「護国訓練」と今回の実射訓練とはまったく別物だと主張していることについては認識していることが窺えますが、しかし、韓国側の主張を受け入れる気持はまったくないということです。
私たちにとって必要なことは、朝鮮の主張はナンセンスとして片付けるのではなく、朝鮮側には朝鮮側なりの真剣な主張内容があることを理解することです。私が常に強調する他者感覚を働かせるということです。南北の境界線に関しては、休戦協定以来双方に異なった主張があり、それが解決しないまま今日に至っていることは事実ですから、その問題を力づくで解決しようとする(と朝鮮側が受け止める)韓国側の今回の行動はやはり問題があるというべきでしょう。また、韓国側の実射訓練の動きに対しては、朝鮮側は何度も警告しており、それを無視した韓国側の行動が今回の事件を引き起こす原因になったことも事実だといわなければなりません。もっと端的にいえば、韓国側が実射訓練を強行しなかったならば、朝鮮による砲撃は起こらないですんだことは明らかだ、ということです。
もう一つ朝鮮側の主張から読みとる必要があるのは、その「好戦的」な言辞にもかかわらず、朝鮮側は本質的に防御的だということです。つまり、韓国(及びアメリカ)の攻撃的・侵略的な軍事攻勢に対して身構えているということが本質であって、朝鮮が「挑発」していると判断するべき内容は何もない、ということです。少し冷静に考えれば、それは当たり前のことです。米韓の軍事力(プラス日本という兵站・発進基地)の圧倒性を考えれば、朝鮮が攻撃を仕掛ければ自滅以外の何ものもないことは、朝鮮自身を含め、誰の目にも明らかなことです。このことさえ踏まえれば、朝鮮の「挑発」「瀬戸際作戦」などといった日本の内外における朝鮮に対する決めつけ的言辞が如何に荒唐無稽なものかが分かるはずです。

(3)朝鮮側の慎重姿勢を窺わせる韓国メディアの報道

以上との関連では、金正日と金正恩が、延坪島砲撃事件の直前に、今回の作戦を実行した黄海南道(ファンヘナムド)海岸地域の砲兵部隊を視察していた、とする韓国メディアの報道(例えば、11月26日付東亜日報ウェブサイト)には注目する必要があると感じます。彼らが視察していたとしても「さもありなん」と思うのです。私は、外務省で仕事をしている時から「当たるも八卦当たらぬも八卦」式の推測はしないことにしています。しかし、「事件当日の23日午前8時、南北軍事会談の我が方団長は敵側団長に、鋭敏な地点である延坪島一帯での砲射撃計画を中止することをもう一度強力に促す電話通知文を送った」(朝鮮外務省代弁人談話)というくだりを読んだ時、こういう内容の通知文は金正日の許可なくしてはあり得ないと思いましたし、「鋭敏な地点である延坪島一帯」「計画を中止することをもう一度強力に促す電話通知文」という表現には、韓国側の軍事演習に対抗するとしたらこの地点、しかし本心としてはそういう事態になることを回避したいと朝鮮側が神経を集中させていることを窺わせるものがあると思いました。
つまり、朝鮮側が韓国側に軍事的に対抗することを考える場合、どこでもかまわない、ということにはなり得ません。他者感覚を働かせて金正日の思考を辿るならば、朝鮮としては、韓国に対して断固とした意思を示しつつ事態の拡大を望んでいないことをはっきりさせること、どうしても軍事行動が必要という場合には自らの限られた軍事力が威力を発揮しうる地理的範囲内であることなどの諸条件を満たす作戦地点を必死に検討したに違いありません。そして延坪島一帯に焦点が絞り込まれ、金正日が自ら確認のために現地を訪れた、としても決して驚くべきことではありません。逆にいえば、今回の事件が収拾のつかない、朝鮮にとって壊滅的な事態に発展しないようにするためには、金正日自らが足を運んで自らの目で作戦計画をチェックしたとしても、むしろ当然だと思えるのです。それは、朝鮮の好戦性を証明する材料ではなく、むしろ彼らなりの慎重さを示すものでしょう。

 今回の事件は、朝鮮の好戦性を示すものではなく、むしろ決定的な弱者が必死になって自己防衛のために手段を尽くしている姿を示すものであることは、以上から明らかだと思います。私たちは、いたずらに朝鮮を非難する(それはますます朝鮮というハリネズミを追い込むだけです。)のではなく、朝鮮を身構えざるを得なくしているアメリカ及び韓国の攻撃的(侵略的)な対朝鮮政策を改めさせることこそが問題の本質であることを認識する必要があると思います(もう言いたくもありませんが、11月24日に日本共産党の志位委員長が発表した談話の内容には、本当に呆れ、失望しました。自らの判断のみが正しいという態度の唯我独尊の姿勢には、想像力、他者感覚のひとかけらも窺うことができません。私はこのコラムで何度か共産党に対する辛口提言をしてきましたが、もう諦めました。これ以上何を言っても無駄だと心底痛感したからです。共産党の自浄能力を期待して、私自身の辛口提言は、余程のことがない限り、少なくとも当分は打ち切りにします。)。

RSS