日中関係への視点(3)-尖閣問題と日本共産党-

2010.09.29

*日本共産党の志位委員長と市田書記局長が尖閣諸島の問題について発言したのを『しんぶん 赤旗』の紙面で読みました。「日中関係の大局を大切にしているはずの共産党よ、あなたたちまでもか」というのが私の正直な思いでした。二人の発言を採録するとともに、二人の発言を踏まえた私の考えを述べておきます(9月29日記)。

1.志位委員長及び市田書記局長の発言

<市田忠義書記局長(9月26日のNHK「日曜討論」)>

尖閣諸島が歴史的にみても、国際法的にみても、日本の領土であることは、はっきりしています。その領海内で外国漁船が不法な操業をしたのを海上保安庁が取り締まるのは当然です。
 (船長は)処分保留で釈放されましたが、逮捕の被疑事実と釈放に至る経過について国民に納得いく説明をする責任が日本の政府にはあります。
 中国にも、事態をヒートアップ(過熱)させないために冷静な行動をとるべきだということをわれわれは求めたい。
 検察は「総合的な判断」で釈放したといいました。その判断のなかに“「日本国民への影響」「日中関係」を考慮した”ことが挙げられている。検察は法と証拠に基づいて厳正な捜査をおこなうべきで、検察がそういう政治判断をするのは、やはり越権(行為)の疑いがあるのではないでしょうか。その辺も含めて、明らかにすべきだと思います。
 政府にいいたいのは、あの尖閣諸島の領有権の問題について、国際社会や中国政府に理を尽くしてもっと積極的に明らかにすべきだということです。 1895年に(尖閣領有についての)閣議決定してから75年間、世界のどこからも異議は唱えられていませんでした。中国がモノをいいだしたのは、油田が発見された1970年以降です。ですから、(領有権を主張する)中国側(の言い分)には、道理はないと思うんです。このあいだの国連(総会)の場でも、そう いうことを理を尽くしていう機会はあったと思うし、やはり国際社会や中国政府に対して堂々とそのことを主張すべきです。
 領土を含む国際的な紛争問題は平和的、外交的にきちんと話し合いで解決するべきです。いまそういう外交力を発揮するのが政府の役割ではないでしょうか。

<志位委員長(9月27日の第2回中央委員会総会における結語)>

 「尖閣諸島の問題について、党の立場をもっと発信してほしい」という意見が寄せられました。この問題のいま一番の問題点はどこにあるかというと、日本政府が、尖閣諸島の領有権について、歴史的にも国際法的にも明確な根拠があるということについて、中国政府や国際社会にいうべきことをいっていない。ここに問題があるわけです。ですからこういう状況のもとで、いま党としてやるべきことは、日本政府に対して、言うべきことを明確に言うべきだと要求すること、ここにまず一つの力点があります。そして、党としては、尖閣諸島の領有権についての歴史的、国際法上の根拠はどこにあるか、これを広く明らかにすること、このことを国際的にも発信することが重要だと考えています。(後略)

2.二人の発言に対するコメント

まず、志位委員長の「この問題のいま一番の問題点はどこにあるかというと、日本政府が、尖閣諸島の領有権について、歴史的にも国際法的にも明確な根拠があるということについて、中国政府や国際社会にいうべきことをいっていない。ここに問題がある」という発言(市田書記局長の発言も同趣旨だと理解しました。)には、正直腰を抜かすほど驚きました。と言いますのは、かつて中国大使館政務参事官及び外務省中国課長を務めたことがあるものとして、それはまったく事実を踏まえていない発言だと指摘しないわけにはいかないからです。日本政府(外務省)は、尖閣諸島の領有問題に関する立場はつとに明確にしていますし、その点については中国政府も含めた国際社会の熟知するところです(しかし、中国は中国なりの立場を主張しており、日本側の立場を受け入れていないということです。)。
それよりももっと本質的に重大なことと私が考え込まざるを得なかったのは、共産党の最高責任者である二人が、尖閣問題を領有権だけの問題として捉え、21世紀という歴史的な国際環境のもとでの日中関係の大局を踏まえた発言をしていないことです。特にこれまでのコラムで指摘してきたように、台湾有事を視野に入れている日米軍事同盟の問題を抜きにした日中関係に関する議論(尖閣問題を含む。)はまったく無意味です。日米安保条約廃棄を正面に掲げる共産党が、このもっとも重要な視点を踏まえた議論をしないのは、疑問である以前に不可解です。「この問題のいま一番の問題点」(志位委員長発言)は、日本政府の不作為などにあるのではなく、正にこの点にこそあるはずです。
私が二人の発言から重大な危惧を感じざるを得ないのは、その発言が、偏狭なナショナリズムの感情に走りつつある国民に対して冷静な判断のモノサシを示すのではなく、むしろおもねっているのではないか、ということです。もしそうであるとするならば、そういう目先のことに目が奪われてしまう共産党の国際感覚は大丈夫でしょうか。

3.日本の「領土問題」の解決の方向性

もちろん、私は尖閣問題などどうでもいい、などというつもりではありません。そうではなく、領土問題については冷静なアプローチが望まれるということを言いたいのです。
私自身は外務省にいるときから、尖閣(釣魚)問題だけでなく、千島問題も竹島(独島)問題も含め、日本としては国際司法裁判所(ICJ)に付託して解決を求める立場を明らかにし、中国、ロシア及び韓国に正式に提案するべきだと思ってきましたし、いまもその意見に変わりがありません。ICJの場で、日本政府の立場を堂々と展開し、判断を国際司法に委ねるということが、日本を含めた各国の偏狭なナショナリズムの暴走を抑え、すべての当事国が納得して結果を受け入れる最善の道筋だと確信します。また、そういう姿勢・政策こそが国際的な支持を期待できる所以でしょう。
領土問題は、20世紀までの国際関係を支配した歴史的遺物ともいうべき偏狭なナショナリズムをもっとも容易に刺激する性格の問題ですが、21世紀の圧倒的な国際環境(国際的相互依存の不可逆的な深まり、地球環境問題など国家単位では対処できない地球規模の諸問題の深刻化、そして何よりもデモクラシー(人民主権)の世界規模での実現という人類史的な要請の高まり)のもとで、私たちはこういう類の問題で足をすくわれたり、視野を奪われたりする愚から一刻も早く抜け出すことが求められています。21世紀の国際社会の指針である日本国憲法を持つ日本は、領土問題でも国際的リーダーシップを発揮するべきではないでしょうか。

RSS