米国の「核の傘」とは?

2010.06.05

*『週刊金曜日』の依頼で書いた文章です(6月5日記)。

「核の傘」とは、「拡大核抑止力・政策」のことです。
 米ソ(東西)冷戦の時代、ソ連が優勢な通常の軍事力で西欧諸国に戦争を仕掛けてくる場合には、米国としては、核兵器で応戦する決意であることを分からせて、ソ連に戦争そのものを思いとどまらせる(抑止する)政策を取りました。これが拡大核抑止力・政策の由来です。そのことを俗に「核の傘」と言うようになったのです。
 米国は、ソ連を包囲する形でアジアにも核兵器を配備しましたので、日本も米国の「核の傘」で守られてきたと言われます。
 しかし、陸続きの欧州と違い、アジアでは米国の海空軍力がソ連を圧倒していたので、核兵器に頼る必要はなく、米国がアジアで「核の傘」を本気で考えていたかは疑問です。
今日日本で言われる米国の「核の傘」というのは、たとえば朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が「核ミサイル攻撃をしてくる場合に備えて、米国の核で守ってもらう」という意味で言われます。
 貧弱な海空軍力しかない朝鮮が、日本に戦争を仕掛けようがないことは、「北朝鮮脅威論」を唱える人たちも分かっています。だから、彼らは、「朝鮮には日本に届く核ミサイルがあり、金正日は何をするか分からない」と言うのです。でも、そんなことをしたら次の瞬間、米国はそれを格好の口実にして、圧倒的な軍事力で朝鮮を叩きつぶします(朝鮮は韓国や日本に近く、さまざまな放射線被害が両国に広がる核兵器をいきなり使う可能性はまず考えられません)。
 金正日の唯一のよりどころは朝鮮という国家です。すべてを失うことが分かっているのに、核ミサイル攻撃を仕掛けるはずがありません。アメリカが日本を「核の傘」で守っているから、朝鮮は核攻撃を仕掛けられないでいる、ということではないのです。
 かつてのソ連といまの朝鮮では、通常の軍事力の対米優位の有無という点で決定的な違いがあります。戦争を仕掛けられるのを恐れているのは朝鮮です(だから、かつて米国がソ連にしたように、核ミサイルで身構えているのです)。
この決定的な違いを無視して、日本が米国の「核の傘」で守られていると言う人は、軍事的に無知か、目くらましの議論をしているのです。

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