日米核密約と非核三原則

2010.04.08

*社民党の機関紙『社会新報』(4月7日号)に掲載された文章です(4月8日記)。

3月9日に「有識者」委員会が発表した報告書は、いわゆる核密約が、日米軍事同盟(対米核抑止力依存)と非核三原則との絶対矛盾を取り繕うために、日本政府が主権者・国民をだました悪質を極める陰謀の産物だったことを客観的に(委員会の外務省弁護の意図はどうであれ)明らかにした。
日本政府としては、広島・長崎・第五福竜丸の筆舌に尽くしがたい原水爆体験に基づく、核兵器廃絶を希求する国民の総意に押されて、核兵器の陸上への配備はむろん、核兵器搭載の米艦船の寄港等も一切認めない立場を国会答弁でも繰り返し約束せざるを得なかった。その結実が「国是」の非核三原則である。
つまり、非核三原則はヒロシマ・ナガサキを決して繰り返さないという国民の不退転の決意の結晶だ。ヒロシマ・ナガサキは、「人類は核兵器・核戦争と共存できない」という思想を日本の土壌に生み出した。この思想こそ、「核時代」の20世紀を「脱・核時代」の21世紀に転換する普遍的人類史的な意義を持つ。
ところが、対米核抑止力依存という結論が先にある日本政府・外務省が世論を無視して編み出したのは、事前協議制度を悪用するというトリックだった。事前協議制度とは、日米安保条約付属交換公文に基づくもので、米軍の「装備における重要な変更」などは日本政府との「事前協議の主題」とすると定めている。そこでのトリックとは、“装備の変更をする立場の米側が事前協議をしてきたら、日本政府は「ノー」という”というものだ。
核搭載艦船の寄港等は「装備の重要な変更」に当たらない、とする米側が事前協議を持ちかけるはずがない。しかし、米側が事前協議をしてこないということは「装備の重要な変更」に当たる核の持ち込みがないことだ、と日本側は勝手に理解する。これがこのトリックの仕掛けだ。このトリックは核密約に際してもそのまま持ちこまれた(だから、核密約を廃棄しても事態は変わらない)。
トリックの仕掛けを見破るのは簡単だ。「なぜ米側が事前協議を持ちかけるのを待たなければならないか」と問えばいい。交換公文の規定に基づけば、日本側が持ちかけることには何ら妨げがない。
報告書の公表を受けて、岡田外相は、過去に核が持ちこまれていた可能性を否定できないことを認めた。つまり米側は、日本側の立場を認識しながら、無視・違反する行動を取ってきた。過去の自民党政権のウソに対する責任はこれからじっくり問うこととして、いま重要なことは、民主党政権をして国民の総意(「国是」)である非核三原則を忠実に守らせることだ。「米国が核政策を変更した1991年以降、持ちこみはないと考える。いまそれが具体的に問題になることはない。持ち込みが将来あるとは考えていない」(3月9日)という岡田外相の発言で、「ああ、そうですか」と引き下がるわけには断じていかない。
しかも同外相は、「国民の安全が危機的状況になってもあくまで(非核三)原則を守るのか、例外をつくるのか、鳩山政権として将来を縛ることはできない」、「一時的寄港を認めないと日本の安全を守れないという事態がもし発生したとすれば、そのときの政権が政権の命運をかけて決断し、国民のみなさんに説明するということだと思う」(3月17日)とまで述べるに至った。「国是」の「こ」の字も言わず、三原則変更の可能性に公然と踏み込んだのは、自民党政権さえもなしえなかった、国民の総意を無視した重大発言だ。
私は、非核三原則厳守を担保するための具体案として、二つを提案したい。政権与党である社民党にはその実現に不退転の決意で取り組んでもらわなければ困る。
一つは、民主党政権が条約上の日本の権利である事前協議制度をしっかり活用し、米国が核搭載艦船の寄港等を行わないよう、厳格にチェックする仕組みを作ることだ。具体的には、「非核神戸方式」という国内の先例、また、この仕組みを国家の政策として実行しているニュージーランドという外国の先例がある。要は、「核兵器を搭載していないことを確認せよ」という要求を出し、それに応じない場合には寄港等を認めないとするものだ。この方式の最大のメリットは、新たな立法とか財政措置を伴わず、政府の決断一つで明日からでもできることだ。
そんなことをしたら、核兵器の搭載について「確認も否定もしない」(NCND)政策を取る米国はいきり立ち、ニュージーランドがそうであったように、日米安保体制が立ちゆかなくなる、という異論が声高になされるだろう。しかし、それは、米国の世界戦略にとっての日本とニュージーランドの重要性の決定的違いを無視した幼稚な議論だ。米国の世界戦略は、日本列島抜きにはいまや成り立たない。もともと時代錯誤のNCND政策と日本列島のいずれを米国が選ぶかは明らかだ。
もし、NCND政策を選択する米国なら、それはそれで結構だと言いたい。日米軍事同盟が解消されることは、米国の権力政治の根本的見直しを迫ることになろう。それは「台湾海峡有事」「朝鮮半島有事」の可能性を未然になくし、世界の平和と安定に資するに違いない。
もう一つは、非核三原則を法制化し、鳩山政権以後の日本政府もこれを遵守する仕組みを作ることだ。もう一度言う。「人類は核兵器・核戦争と共存できない」という思想こそ、「核時代」の20世紀を「脱・核時代」の21世紀に転換する普遍的人類史的な意義を持つ。核密約の存在が明らかにされたいまこそ、私たちはこの思想に立ち返り、非核三原則に魂を込めなければならない。この思想こそが「力によらない平和観」の日本国憲法を生み出した思想的根拠の一つでもあることを改めて確認しなければならない。
非核三原則を法制化し、平和憲法を生かし切る日本は、核兵器廃絶という人類的課題の実現に向けた国際的イニシアティヴを取ることができる。核兵器廃絶こそは、思想・信条を超えた日本人共通の悲願だ。核密約の存在が明らかにされてこの国のあり方に根本から疑問符がついているいまこそ、「災いを転じて福となす」絶好のチャンスだ。政権与党の社民党は、まなじりを決し、党の命運をかけ、人々の先頭に立って、この国の舵取りに誤りなきを期すべきである。そこにこそ、社民党自身の命運もかかっていることを認識しなければいけない。

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