事前協議制の積極的活用、非核三原則の法制化実現を求める有識者委員会の「核密約」報告書公表に関する声明

2010.03.29

*非核三原則の厳守・法制化を求める広島・長崎連絡会は3月25日付で、いわゆる「有識者」の核密約に関する報告書発表につき、広島及び長崎の声明を出しました。今回の声明は、鳩山首相、岡田外相、北沢防衛相及び平野官房長官と主要メディアに送られました(3月29日記)。

核問題の専門家の間では、かねて米国側の情報公開や元政府高官談話などによって、「核持ち込み」の事前協議の対象に関する日米間の取り扱いに明らかな違いがあることは分かっていた。しかし、釈然としない区分ではあるが、「暗黙の合意」として広義というにせよ、「密約」があったと認定した報告書を読むと、改めてやりきれなさと強い怒りがこみ上げてきた。原爆が投下された8月6日及び9日に広島、長崎において、歴代首相が「非核三原則の堅持」と誓ってきたことは何だったのか。許せない。これがヒロシマ、ナガサキの声である。否、叫びである。
 報告書を公表した9日、鳩山首相は、非核三原則を「これまでどおり堅持する。変える必要はない」と言明した。岡田外相はさらに踏み込んで、「“核艦船寄港は核の持ち込みにあたる”との政府の考えは変えない」とし、非核三原則を「鳩山政権は見直さない」と明確に述べた。歴代政権のうそを確認させられた私たちは、日本政府の今回の明確な約束を決して忘れないし、二度とうそでごまかされることを絶対に許さない。
しかし、核密約によって裏切られたヒロシマとナガサキはもはや、二人の約束を軽々に信じて、沈黙を決め込むわけにはいかない。次の点をはっきりと指摘しないわけにはいかない。
すなわち、岡田外相は、非核三原則厳守を言うと同時に、一時寄港が核持ち込みにあたるかどうかに関して「日米で解釈が異なることが明確になった。核の持ち込みがなかったとは言い切ることができない」ことを認めておきながら、「密約解明は日米安全保障体制の運用に影響を及ぼさない」(強調は原文。以下同じ)、アメリカの核兵器の持ち込みについて確認も否定もしない(いわゆるNCND)政策については「米国の判断として理解している」、「私は核の抑止力を肯定している」ことを公然と口にした。これらの発言は、非核三原則堅持の前述の首相及び自身の約束とは絶対的に相容れないものである。
この絶対的矛盾を取り繕おうとする岡田外相の唯一の根拠は、「米国が核政策を変更した1991年以降、持ちこみはないと考える。いまそれが具体的に問題になることはない。持ち込みが将来あるとは考えていない」ことに尽きる。しかし、国際情勢または米国の政策が変化する場合にはどうなるかという当然の質問・疑問に対しては口を濁して答えない。そもそも、「鳩山政権は見直さない」と言うが、すでに基盤が動揺を深めている同政権が未来永劫に続くはずはない。
さらに岡田外相はその後国会答弁において、「国民の安全が危機的状況になってもあくまで(非核三)原則を守るのか、例外をつくるのか、鳩山政権として将来を縛ることはできない」、「一時的寄港を認めないと日本の安全を守れないという事態がもし発生したとすれば、そのときの政権が政権の命運をかけて決断し、国民のみなさんに説明するということだと思う」とまで述べるまでになった。いかなる「危機的状況」が起こるのかを説明もしないでいたずらに危機感をあおり、国民的総意に基づいて「国是」として確立している非核三原則の修正をあたかも当然視する姿勢は厳しく批判されなければならない。

核密約の存在が明らかになった今、そして、岡田外相の無責任を極める発言を前にして、私たちは民主党政権が、私たちの重大な懸念を払拭するため、直ちに次の行動を取ることを要求する。
事前協議制度を積極的に活用し、米国の艦船、航空機が核兵器を搭載したまま、寄港、立ち寄り、領域通過をしないことを確保すること。これは、鳩山政権の決意次第で直ちに実行できることである。
国民的な総意を反映し、政権交代によって揺るがされることのないよう、厳格な非核三原則の法制化を実現すること。これは鳩山政権の一存ではいかないが、同政権は民主党及び連立与党が多数を占める立法府である国会に直ちに働きかけ、誠意をもって実現に取り組むべきである。

   私たちは、最後に、民主党政権が世論を侮ることのないよう警告を込めて、すべての人々に対し、次の2点を明らかにしておきたい。 まず、私たちは、今回の報告書に関する主要メディアの報道姿勢及び論調の多くに対して重大な懸念をもつ。特に、ヒロシマ、ナガサキの声をことさらに無視し、核抑止力を肯定・当然視し、非核三原則を2・5原則化すべきというたぐいの主張を掲載すること等により、国民世論を誘導しようとしているとさえ疑われる主要メディアのあることを批判せざるを得ない。私たちは、まなじりを決し、腰を据えて、日本政府及びその種の主要メディアに対する厳しい監視を行っていく決意である。
次に、核密約と普天間基地移設問題に代表される在日米軍再編計画は、日米安保体制に起因するという点で同根である。総論として日米安保には賛成という世論が多数を占める中で、普天間基地移設先の候補に挙げられた地域はすべからく猛烈な反対という各論的状況が厳然としてある。しかし、核密約についても、同じことが起こる現実的可能性があることについては、人々はほとんど知らされていない。日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)の合意により、日本国内のすべての民間港湾及び空港は米軍に提供されうることになっている。今日の横須賀、佐世保は明日の我が身である。普天間問題を自らの問題と受け止めるものは、核密約についても同じ受け止め方を我がものとすることが切実に求められている。本当に日米安保体制は必要なのか。私たちは、すべての人々に対して、この根本的な問題に目をそらさず、しっかりと向き合うことを呼びかける。

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