「密約」公表で非核三原則が危機に

2010.03.24

*3月24日付の朝日新聞・広島ページに掲載されたインタビュー記事です。広島地方以外の方の目に触れる機会がないので、ここに掲載します(3月24日記)。

――浅井さんは1月6日付本欄の平岡敬・元広島市長との対談(浅井注:「広島」で紹介しています。)で、鳩山政権が「密約」の中身に立ち入らず、「非核三原則も日米同盟も堅持すると逃げを打つ」ことを恐れていました。

 密約の公表を機に「民主党はもう過去に縛られない」として、艦船の寄港なども「持ち込ませず」に含む厳格な非核三原則の修正に踏み出すのを最悪のシナリオと想定していました。さすがに国民の反発を恐れたのか、今のところ岡田氏も鳩山首相も「非核三原則を堅持する」と言っていますが、「鳩山政権では」の限定付きです。

 ――岡田氏は、米国が1991年以降、艦船から核を外したので非核三原則との矛盾は起きないとしています。

 要は、今のあいまいな状態を維持するのが政権にとって都合が良いとの考えでしょう。国民もばかにされたものです。米国は寄港などが「持ち込み」に当たらないという立場ですし、核の存在を肯定も否定もしない「NCND政策」を取っていますから、将来にわたって日本に事前協議を持ちかけるわけがない。

 ――岡田氏は「将来の政権の判断まで拘束できない」と考えているのでは。

 彼は非核三原則が日本の「国是」だと一度も言っていません。国是と認めれば後の政権も縛ることになるということで、意識して避けていると思わざるをえません。同じ理由から法制化にも消極的です。「有事の場合は変えることもありうる」と考えているからだと思います。

 ――今回の密約調査で、過去にも非核三原則が変更される可能性があったことが明らかになりました。

 元米国高官の核持ち込みに関する証言が出た時、外務省は三原則の変更を検討しました。だが当時の自民党政権は国民世論を意識し、変えられなかった。「国是」を動かせば政権崩壊だという懸念があったのでしょう。

 ――調査報告は、広島、長崎と第五福竜丸の核被害が日本に強い反核世論を生んだと分析しています。

 自民党政権が「密約」を生んでまで非核三原則をつくらざるを得なかった原点は広島、長崎とビキニです。岡田氏ら民主党首脳はその重みを何と心得ているのか。今回の密約調査をきっかけに、もう一度原点に返るべきなのに。

 ――今回の調査を機に、核搭載艦船や航空機の寄港、通過などは「持ち込ませず」に含まないとする「2・5原則化」論も勢いづいています。

 「核の傘」を含む日米安保体制を正当化するために、脅威をあおっているとしか見えません。例えば2・5原則化を説く柳井俊二・元駐米大使は北朝鮮の核武装で日本の安全保障環境は冷戦期より悪化したというのですが、軍事的無知もはなはだしい。旧ソ連は先制攻撃できる数万発の核弾頭を持っていましたが、北朝鮮の核は仮にあったとしてもせいぜい数発。しかも米国が攻めてくれば反撃すると強がっているだけで、ハリネズミのハリに過ぎないのです。

 ――むしろ日米安保を見直すべきだと。

 広島、長崎をはじめ悲惨な体験を踏まえたのが、戦争放棄を定めた日本国憲法(1947年施行)でした。だが冷戦が始まり、52年に日米安保条約ができた。その後は日米安保が憲法を空洞化する過程でした。しかし、冷戦は終わって20年以上たつのに、まだ日米安保、核抑止力という「おまじない」にしがみつくのでしょうか。今こそほこりをかぶっていた憲法に光をあてるときです。

 ――当面の策として、日米安保に基づく事前協議を日本側が積極的に活用すべきだと提案しているとか。

 艦船などの入国にあたって日本側から事前協議を持ちかけ、ニュージーランドのように「非核証明書」を出すよう求めることです。政権さえその気になればすぐできます。この方法の利点は、日米安保を堅持する立場からでも、非核三原則と両立できることです。「ニュージーランドのように米国との同盟関係が壊れる」との反対論もありますが、極東における日本の戦略的重要性を考えれば、米国はNCND政策を変えてでものまざるを得ませんよ。

 ――広島、長崎はどう声を上げていくべきでしょうか。

 朝日を含む大手紙もそろって核抑止力を肯定する社説を掲げるなど、ヒロシマ、ナガサキがことさらに無視される危機的な状況です。幸い、今回のことで広島と長崎の連帯が生まれつつあります。沖縄や米軍基地が多い神奈川など、日米安保でむしばまれてきた地域とも手を結び、日本の平和と安全のあり方はこれでいいのか、正面から問い直していく必要があります。このピンチをチャンスに変えなければ、日本は一気呵成(いっ・き・か・せい)に憲法改正まで突き進んでしまう危険すらあります。

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