核密約廃棄を要求する「座り込み」集会での発言

2010.03.14

*3月14日(日)の12時から45分間、原水爆禁止広島県協議会(県原水協)及び広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)が呼びかけた、核密約の廃棄を要求する「座り込み」集会が原爆慰霊碑の前で開かれました。主催者から、その集会で是非発言して欲しいという要請があり、参加してきました。私が発言したのは10分に満たない短い時間でしたが、私が考えている問題点を5点に絞って報告しました。ここでは、その内容を敷衍してより詳しく紹介しておこうと思います(同日記)。

核密約の内容の批判的検討については、私のコラムですでに紹介しているので、そちらを見ていただきたいと思います。ここでは、私たちの持つことが求められている視点というか、政府に対する批判のあり方というか、そういう点に絞って5点についてお話ししたいと思います。

 第一点は、核密約の廃棄を要求することはもちろん大切なポイントでありますが、それだけでは問題の根本的解決につながらない、ということです。なぜならば、日米両政府間の核兵器持ち込みに関する事前協議制度そのものは、密約廃棄で影響を受けるわけではないからです。それは、日米安保条約に付属する交換公文に根拠を持つものとして、密約のあるなしにかかわらず、これからも存続し続けるからです。
つまり、アメリカ側が寄港等は「持ち込み」に当たらないから事前協議の対象ではないという立場を取り、民主党政権の日本政府は寄港等が「持ち込み」に当たるが、事前協議を米側が持ちかけない限り何らのアクションも取らないという従前の立場を維持すれば、核兵器の持ち込みという従来通りの状況がこれからも続くということになってしまいます。したがって、私たちとしては、核兵器を持ち込ませないためにはどうするべきか、という問題を考えなければならないと思います。
 私は具体的な主張として二つのポイントを提起したいと思います。
 一つは、日本側が事前協議制度を積極的に活用するということ、具体的にいえば、ニュージーランド方式または非核神戸方式を日本政府がとることを要求することです。これは、民主党政権が決断すれば、直ちに実行できることです。事前協議制度は、日本側がイニシアティヴを取ることをなんら妨げるものではありません。「コロンブスの卵」みたいなことです。
 もう一つは、厳格な非核三原則を内容とする法制化を迫ることです。「厳格な非核三原則の法制化」とは、寄港、立ち寄り、領域通過が「持ち込み」に含まれると明確に確認する規定を含む非核三原則を立法するということです。これは、行政府だけの一存ではできることではありませんが、立法府である国会に政府提案をして(あるいは、国会側の発議でも可)速やかな立法化に向けて行動することを、民主党政権に対して求めていくことになります。

第二点は、鳩山政権では非核三原則を改めない、とする岡田外相などの発言を信頼するわけにはいかないということです。これは自明なことで、お金の問題や公約違反続出などによる鳩山政権の支持率下落が続く中で、同政権は何時崩壊しても不思議ではないからです。そのような政権の約束を軽々に信じるわけにはいかないことは当然すぎるほど当然です。

 第三点は、核抑止力を肯定する立場から非核三原則を見直そうという動きを主要メディアがこぞって示しているということです。有識者委員会の報告でも強く示唆されているように、国際情勢が変化すれば、そして国民的な核兵器廃絶を求める民意に変化が生まれれば、非核三原則を変えるチャンスが出てくる、というのが彼ら(保守政治及び主要メディア)の認識です。そして彼らは、「北朝鮮脅威」「中国脅威」を国際情勢の変化としてあおり、その宣伝に動揺して民意が核抑止力に傾斜していると踏んでいることは間違いありません。彼らは、非核三原則の2・5原則化(あるいは、寄港などはもともと非核三原則には含まれていないとして、それを3・5原則とし、寄港などを取り除いた非核三原則にするといういわば亜種)を盛んに主張しはじめています。
 私たちは、「北朝鮮脅威」「中国脅威」の欺瞞性・虚構性(この点については、私のこれまでのコラムでたびたび書いています。) を明らかにし、非核三原則が広島、長崎、第五福竜丸の惨禍を踏まえた人類史的な意味を持っている (即ち、人類は核兵器と共存できない) という原点を踏まえたものであることを広く解き明かしていく必要があると思います。主要メディアのゆがみきった動機に基づく世論誘導をなんとしてでも打ち破らなければなりません。

 第四点は、非核三原則を守るかどうかは、実は普天間基地移設問題と同根だということです。同根であるとは、二つの問題の根っこにあるのは日米安保体制だということです。
 普天間基地移設問題についていえば、日米安保についてはこれを支持する世論が過半数以上を占めている現実があります。しかし、普天間の移設先として名前を挙げられている地域ではすべて猛烈な反対の声が上がっています。つまり、総論(日米安保)賛成、各論(基地受け入れ)反対、という典型的な総論賛成各論反対の現象です。なんとなく日米安保があると安心だ、しかし、自分の身に火の粉が降りかかることは絶対にごめんだ、という気持の働きです。ということは、日米安保はおまじないみたいなもの(つまり迷信)で、実は本気で頼っているわけではないということです。それに対して、米軍基地が自分のところへやってくることの危害はひしひしと実感できることです。
 核抑止力も正におまじない・迷信です。しかも、核抑止力とはアメリカの核抑止力であり、出所は日米安保なのです。私たちの非核三原則は、先ほども指摘しましたように、広島、長崎、第五福竜丸のとんでもない実体験から生まれたものです。本来、核抑止力のようなおまじない・迷信を受け付けるはずがありません。しかし、保守政治や主要メディア外「今がチャンス」と思っているということは、それだけ私たちの感覚が「風化」しつつあることを示してはいます。
確かに広島、長崎、第五福竜丸といっても、今ではぴんと来ない人が多いかもしれません。そういう人々には、私はこう話しかけたい。「今日の横須賀、佐世保は明日の我が港ですよ」と。それは脅しでもなんでもありません。2005年から翌年にかけて行われた日米協議(日米安全保障協議委員会)によって、今や、日本のあらゆる民間港湾(そして民間空港)は、有事・準有事ともなればアメリカの基地に召し上げられる仕組みが出来上がっているのです。正に普天間基地移設問題と同じことなのです。そういう切実な状況を認識してもなお、皆さんは核抑止力(日米安保)のおまじない・迷信の方を選ぶのですか、と私は問いかけたいと思います。

最後の点は、核密約問題に対する取り組みの中で、広島と長崎の新たな連帯の動きが生まれつつあるということです。私は、非核三原則を守る闘いは、広島、長崎がバラバラで動いていたのではとても勝ち目はないと思います。そういう危機感を両地が持って取り組もうとしているからこそ、連帯の動きが進みつつあるのではないか、と期待を込めて考えています。
そして、非核三原則の問題は、日米安保という根っこで普天間問題と結びついているということを考えれば、また、核密約自体が深々と沖縄を巻き込んでいることをも考えれば、私たちのこれからの闘いは、沖縄とも連携を深めていく必要があります。横須賀を抱える神奈川(本州で米軍基地がもっとも多い県)とも結びつきを強めていく必要があります。こういう連携を強めることができれば、私たちは、「災いを転じて福となす」ことを展望する可能性を持つことができると思うのです。

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