日本政府が非核三原則を厳守・法制化し、核兵器廃絶の先頭に立つことを求める声明

2010.03.07

*民主党政権が学識経験者に委嘱して行ってきた密約問題に関する調査結果が間もなく公表されるそうです。
鳩山首相は2009年の国連での演説で、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を厳守すると言明しました。学識経験者の結論及びこれを受けた民主党政権の今後の動きは、核兵器の「寄港、立ち寄り、領域通過も持ち込みに含まれるから許されない」と国会でくり返し答弁しながら、1960年から1963年にかけての核密約によってアメリカがやってきた核兵器持ち込みに実際上目をつぶって見過ごしてきた(アメリカが事前協議してこないから持ち込みはないという詭弁に訴えてきた)自民党政権の矛盾を極める核政策からの根本的転換を実現するものであるかどうか、非常に注目されるところです。
すでに防衛省の長妻政務官は、「寄港などは非核三原則に含まれないという形で非核三原則の定義をし直すべきだ」という趣旨の発言を公然と行っています(1月19日付朝日新聞)。
従来、非核三原則を見直すべきとの立場からの主張は、「寄港などを含めない非核2・5原則化」を狙っているのではないか、と一般に考えられていました。しかし、このいわゆる「2・5原則」の主張であれば、「非核三原則遵守」という鳩山首相の発言と明白な齟齬が生じます。長妻政務官が言い出した、「寄港などは元々の非核三原則に乗っかった「こぶ」みたいなもので、そのこぶを削る形で定義をし直して、非核三原則にする」という、いうならば「3・5原則」の議論は、所詮ことばの悪質な遊技・トリックなのですが、これならば、「非核三原則は厳守」といいながら、その実肝心の立ち寄りなどを公認するということで、アメリカの思い通りになるということです。今後こういう方向での主張を民主党政権が国民に押しつけてくる可能性は十分にあると思います。
そういうふうに「非核三原則」の中身自体がすり替えられてしまうと、「非核三原則の厳守」、「非核三原則の法制化」を主張してきた私たちのこれまでの運動では足元を完全にすくわれてしまう結果になりかねません。「寄港などを除外した中身の「非核三原則」であれば、アメリカの核兵器を持ち込むかどうかについて「肯定も否定もしない」(NCND)政策と矛盾がなくなり、政府は公然とアメリカの「核の傘」に「おんぶにだっこ」ということが可能となるからです。
私が皆さんに考えていただきたいことは、なぜ日本に非核三原則ができたか、ということです。いうまでもなく、広島、長崎、第五福竜丸を契機とした一大国民反核感情の盛り上がりが、歴代政権をして寄港なども「持ち込み」に当たるから認めないとする「非核三原則」にコミットせざるを得なくさせてきたのです。「人類は核兵器と共存できない」という広島・長崎の思想の国策としての結実が非核三原則なのです。
北朝鮮脅威論などを鼓吹して、その脅威に備えるためにはアメリカの核の傘が必要、というのが自民党政権を問わず、民主党政権を問わず、繰り返されてきた常套手段です。しかし、「北朝鮮脅威論」はまったくの虚構です。その点につきましては、これまでもこのコラムで何度も書いてきましたので、ここでは繰り返しません。「中国脅威論」も、アメリカが台湾問題で中国の内政に干渉しなければ、戦争にはなり得ません。要するに外的を理由にしたアメリカの「核の傘」に依拠しようとする主張はでたらめなのです。非核三原則をしっかり堅持することこそが、日本に対する諸外国の疑念を解きほぐし、アジアに平和と安定をもたらす大きな所以なのです。 今、学識有権者の密約問題について最終結果が明らかになろうとしているとき、私たちとしては、この結果を踏まえ、民主党政権がどのような政策を打ち出すかを監視しなければなりません。寄港などを含む持ち込みが許されるようになったら、非核三原則は空洞化されることになってしまいます。憲法第9条が日米安保条約と自衛隊によって空洞化されたように。
長崎と広島の被爆者団体、平和団体に属する29名のものは、そういうことを民主党政権にさせないため、3月1日付で声明を発表するとともに、鳩山首相、岡田外相、北沢防衛省、平野官房長官、それに全国会議員にこの声明を送りつけ、それぞれの声明に対する立場を回答するように求めました。私たちとしては、この問題に関する政府・与党の動きを厳しく監視し、非核三原則がゆがめられることを許さない決意です。是非とも一人でも多くの人々が私たちの行動に賛成し、行動に建ち上がられることを強く訴えます。 なお、皆さんのご参考までに、鳩山首相以下4首脳に対する送付状も附けておきます(3月7日記)。

1.声明本文

日本の領域において核兵器を「持たず、作らず、持ちこませず」という非核三原則は、広島及び長崎に対する原爆投下の惨禍を経験した私たちが二度とその惨禍を繰り返さないことを決意し、そのための根本的保証として確立した国民的総意の結晶です。日米間の安保体制・軍事同盟関係に対する国民的な合意が形成されなかった東西冷戦期においても、「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」「ノーモア・ヒバクシャ」を原点とする非核三原則は、「国是」として広範な国民的合意によって支えられてきました。  私たちはまた、いかなる国際環境のもとにおいても、地球上のいずれの地においても第二、第三のヒロシマ・ナガサキを生んではならず、人類は核兵器と共存できないことを確信して、核兵器の廃絶を一貫して主張してきました。しかし東西冷戦期においては、この確信・主張は必ずしも国際的に受け入れられず、核兵器国及びその同盟国においては核抑止理論が政策の中心にすわり、大量の核兵器が地上に存在し続けてきました。 東西冷戦が終結した今日、核兵器・核抑止力に依拠する安全保障政策の危険性に対する認識は国際的に高まっています。核テロリズムという新たな危険性に対する国際的な警戒の高まりもまた、核兵器・核抑止力を肯定する政策の見直しを迫る要因となっています。核兵器廃絶が国際的に提唱されるに至ったのは、このような認識及び警戒を客観的に反映しています。しかし、伝統的な権力政治の発想は国際的に根強いものがあり、ヒロシマ・ナガサキを教訓とする日本発の核兵器廃絶の主張がアメリカをはじめとする核兵器国の政策の根本的変更を主導するまでには至っていません。  そもそもヒロシマ・ナガサキが、アウシュビッツのように人類共通の負の遺産として国際的に受け入れられるに至っていない根本原因は、歴代日本政府が核兵器廃絶を唱えながらアメリカの核抑止力に依存するという矛盾を極める政策をとり、しかもそのことに対して国内世論がしっかりした異議申し立てをおこなってこなかったという異常さにあります。つまり、ヒロシマ・ナガサキの原点がおろそかにされてきたということです。その政策の矛盾を露呈させず、国民的な認識を妨げるための歴代日本政府の工夫がいわゆる核密約であったことはいうまでもありません。  民主党を中心とする連立政権が登場して、核密約の真相究明に着手したことは、この矛盾を解消するための重要な第一歩となる可能性があります。核密約の存在が明確にされた暁には、私たちは、日本政府が、寄港・立ち寄り・通過を含め、いかなる状況・形態においても核兵器の「持ち込み」を認めないことを明確にする内容での非核三原則を厳守し、法制化することを求めます。同時に私たちは、日本政府がヒロシマ・ナガサキの原点を踏まえ、アメリカの核の傘に依存する政策をきっぱりと清算し、地球上から核兵器を廃絶する人類的課題の実現に率先して取り組む真摯な外交的努力を行うことを要求します。(浅井注:強調部分は、原文では下線を引いて強調してあります。)

2.4首脳宛送り状

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様
  外務大臣   岡田 克也 様
  防衛大臣   北沢 俊美 様
 内閣官房長官 平野 博文 様
                        2010年3月1日
  非核三原則の厳守・法制化を求める広島・長崎連絡会
  〒730-0051
  広島市中区大手町4-2-27-201
       広島共同センター気付け
                    TEL082-245-2501
                    FAX082-245-2502
 冠省   添付の通り声明書をお送りしますので、御査収下さいますようお願い申し上げます。
 添付文章:日本政府が非核三原則を厳守・法制化し、核兵器廃絶の先頭に立つことを求める声明
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