岡田外相の核問題に関する記者会見

2010.02.27

*岡田外相は2月23日に行われた記者会見で、記者の質問に答えて核問題に関して発言しました。その発言を紹介したいと思います。
 ここでの発言の中で気になった岡田外相の認識問題を整理すると、次の諸点があります。
① 脅威認識 彼は、「東西冷戦の時代ではなくて、いろんな脅威がある」と述べていますが、これは正に「4年ごとの国防見直し」でアメリカ政府がしきりに強調した脅威認識の機械的なくり返しです。潜在的敵対国(イラン、朝鮮)からの核ミサイルの脅威、テロリスト、中国(台湾海峡有事)などを並べ立てる脅威論も、そのもとを辿れば、すべてはアメリカが震源地です。「アメリカは常に正義である」という天動説的国際観のなせる技です。「自分は常に正しい」とする点ではアメリカに引けをとらない天動説的国際観に凝り固まった日本の保守政治の伝統的発想から、岡田外相もまったく自由ではないことをさらけ出していると見るほかありません。米日の天動説的国際観を改めさせることが21世紀国際関係の平和と安定をもたらすための先決条件であることを再確認させられます。
② 核兵器認識 「核というのは人を殺傷する力が通常兵器とはかなり違います」という岡田外相の核兵器に関する認識のお粗末さには唖然とするほかありません。追及すれば、「殺傷」ということばにはもちろん放射線によるものも含む、と大わらわで応戦するのでしょうが、核兵器の残虐性、反人道性の極みは、熱戦、爆風はもちろんのことながら、放射線、残留放射能によって被爆者が生きている限り苦しめられることにあるということを岡田外相が頭の中に収めていないということは考えられないことです。
このような発想にとどまっているのが保守政治であるからこそ、原爆症認定集団訴訟の決着がかくも長引いたということになるのです。口を開けば「唯一の被爆国」という国の政治家の核兵器に関する認識がこの程度のものでしかない、というのは今に始まったことではありませんが、自民党には厳しい見方をしても、民主党には期待を寄せるものが、これはというNPO/NGOの指導者の中にもいることが最近分かってきたので、ここであえて指摘する次第です。
③ 核兵器廃絶と核抑止の矛盾 核抑止力と核軍縮とは相矛盾するものではない、ということは岡田外相の言うとおりです。両者の「矛盾」を問うかのような記者の質問は「お粗末」でした。問うべきは、「核兵器廃絶と核抑止力との間の矛盾」ということだったはずです。
岡田外相のずるさは、記者の質問が見当外れだったことをいいことに、あくまでその質問に答える議論をしていることにあります。彼がもう少し誠実であるならば、問うべき矛盾が核兵器廃絶と核抑止との関係であることを指摘し、自らその点に関する主張、見解を述べるべきだったと思います。
核抑止と核軍縮との関係についていえば、改めて言うまでもなく、アメリカの発想は核抑止力を損なわない限りで核兵器の数量を減らすことに応じるというのが根本姿勢(2月18日のバイデン副大統領の米国防大学での演説)ですから、岡田外相が「どのように整理して核軍縮を進めていくのか、或いは核抑止をきちんと担保していくのか」という表現での説明は、アメリカの政策を踏まえたものであることが分かるわけです。
④ 中国問題 岡田外相が、戦略核の次元のときはともかく、米ロの交渉が戦術核にまで踏み込む段階では、「中国の核の問題もあります」ので日本も黙っているわけにはいかなくなる、という発言は、はしなくも鎧の端がちらっと見えた思いが私はしました。前からこのコラムで書いていますように、自公政権を問わず、民主党連立政権を問わず、日米軍事同盟の矛先(脅威)としては中国の比重が極めて大きいのです。
今手元に切り抜きを置いていないので正確な引用はできないのですが、ライシャワー元駐日大使の特別補佐官を務めたジョージ・パッカード氏が朝日新聞でのインタビュー記事(2月17日付)で、日米軍事同盟は台湾問題(及び朝鮮問題)が解決すれば不要になるという趣旨の発言をしていたと記憶しています。そういうことを岡田外相は知り尽くしているわけで、そういう背景のもとでの中国の核への言及となっているのだと思います。ここでも、中国脅威論を手放そうとしないアメリカ政府の考え方・立場を、岡田外相が共有している姿を垣間見ることになっているのです。
しかし、核兵器廃絶を言ってきたはずの日本として、戦術核兵器に関する国際交渉には首を突っ込みたいという岡田外相の発言はどのように位置づけるのでしょうか。ますます核兵器廃絶から遠ざかる道へ自ら迷い込むということになりかねないと私は警戒する気持が先立ちます。
なお、記者会見の太字は私が附けました(2月27日記)。

1.核軍縮・不拡散(核兵器廃絶への取り組み)

【週刊金曜日 伊田記者】核廃絶への取り組みですが、それに向けて努力をされるという意欲については高く評価した上で、それと併せた通常兵器、つまり、核兵器を削減するのはもちろん望ましいのですが、核兵器だけを削減していくと通常兵器のバランスが崩れる可能性があると。以前の米ソのブッシュ・ゴルバチョフのときの核縮減交渉は、併せて通常兵器の削減も視野に入れてやっていたと思いますが、その辺りについてはいかがでしょうか。
【大臣】なかなか難しい話です。特に東西対立の時代ではなくて、いろんな脅威がある訳ですから、米露だけでいろんな話ができるという時代ではもうないと思います。それからもう1つは、今回の米露は戦略核で、戦術核の話をこれからしなければいけないのですそれ以外に通常兵器もあります。非常に問題は錯綜していますが、影響力の大きさから言うと、核というのは人を殺傷する力が通常兵器とはかなり違いますので、私(大臣)はまず、戦略核に関する米ロの話し合いがきちんとまとまり、そして、次のステップとして、これは2つありますが、1つは、戦術核についての米ロの話し合い。これは非常に困難が予想されますが、これをきちんと進めていくこと。あとは、米ロという二大国だけではなくて、中国、フランス、イギリス、あるいはその他の国々も含めて、インド、パキスタンなど、そういった国々全体での核軍縮、そういうところに進まなければいけないということだと思っております。私(大臣)は、通常兵器と切り離して議論しないと、問題が複雑化すればするほどまとまりにくくなるという面があるのではないかと思います。もちろん通常兵器に関しても、先のクラスター爆弾の禁止でありますとか、地雷禁止とか、そういう形で特に非人道的なものについて制限をしていくことが必要であることは論を待たないと思います。
【共同通信 井上記者】戦術核の分野に入るものですが、米国が核トマホークの退役を決めたということで、大臣は昨年12月のクリントン米国務長官への書簡で、「トマホークが退役する場合は拡大抑止への影響、及びそれをどう補っていくのか説明してほしい」と仰っていましたが、米国からはこれまでどういった説明が来ているのか、大臣の受け止めにいてお聞きしたいと思います。
【大臣】私(大臣)が手紙の中で言ったことはそれだけではなくて、「個別の兵器について、やめる、やめないということを日本は言う立場にありません」ということを申し上げました。それがあの手紙の主たる狙いですので、そのことをまず申し上げた上で、トマホークについてのお尋ねですけれども、今、私 (大臣)は特にコメントすることはございません。米国が通知をしてきたという報道もありますが、私(大臣)からは、確かに最近日米協議、核拡大抑止に関する日米協議を行ったところでありますけれども、その協議の具体的内容についてはお話をしないという約束のもとで行われておりますので、コメントはございません。

2.核軍縮・不拡散(核の抑止力と核軍縮)

【共同通信 西野記者】核の抑止力と核軍縮の話は、東アジアの今、大臣が思考されている核軍縮、日豪の間で進めていこうと今年がそういった契機になるのではないかという思いは思いとして受け止めた上で、日本が米国の核抑止力の下にあるというのも事実ということで一見すると矛盾するかのように見えるのですが、ここをどのように整理して核軍縮を進めていくのか、或いは核抑止をきちんと担保していくのか、その辺りのことを大臣は今のところどのように整理をしておられるのかということを是非お聞きしたいと思います。
【大臣】1月13日のハワイにおけるクリントン米国務長官との議論でもそのことは話題になってお互い合意をしましたが、要するに「この二つの問題はバランスの問題であって、二律背反ではない。どこにそのバランスをどのようにとっていくかということは具体的に議論しないと一般論で答えが出る問題ではない」というように長官と私(大臣)の意見が完全に一致をしました。それでは「具体的にどこに」ということになるといろいろな議論があると思いますが、それは具体的に議論していかないと一般論では結論がでない問題だと思っています。もう一つは、そこの拡大抑止と核軍縮の話だけではなく、不拡散という話もあります不拡散を確保するために軍縮を進めなければいけないという話が本来はある訳ですから。
【共同通信 西野記者】バランスの問題で難しいということは分かるのですが、例えば先ほど話題に上った戦術核の扱いというところではいろいろと話していけることもあるのかなと、今米国が核戦力の見直しを進めているという状況の中で、ある程度方向性を決めてやっていかないと、どちらが優先されるのか等、今後、議論がスタートしていく中で方向性が見えないので、どのようなところで議論していくのかということをもう少しお話し願えないでしょうか。
【大臣】ご質問の趣旨がよく分からないのですが、日米間で意見交換は不断にしております。これから、戦略核レベルの話から次に戦術核ということになってきますと、米露の戦術核の不均衡という問題もありますし、それから中国の核の問題もありますので、話がより具体的になっていくと思います戦略核の議論を米露でやっている間には、日本がそれに対して深く関与するということは、今までもありませんでしたし、必ずしも必要がなかったのかも知れませんが、その次のステップになってくると、やはり日本自身が核政策、核軍縮というものに対してより関与していかなければいけないと思います。どちらかというと今まで米国の核戦略に対して日本が深く関与してきたということはあまりなかったのではないかと私(大臣)は思います。もう少し日米間でも、そういった核を巡る様々な問題について、より我々も情報を得て、そして意見交換をしっかりできるような仕組みを構築していかなければいけないと思っております。今そういう方向で様々な議論をしているということです。
【共同通信 井上記者】関連して日豪の共同声明にも言及された、「消極的安全保障」と「唯一の目的」という二つの考え方ですが、今米国が近くNPR、核態勢の見直しをまとめるであろうという見通しの中、日本としてこの二つのアイデアについて米国の核態勢の見直しの中に取り込まれていくべきだと、そのように期待されているかどうかをお聞かせ下さい。
【大臣】基本的にNPRは米国政府の中での議論を経て打ち出されるものですから、どれがどうすべきだという議論をこういうところで声高に言うべき問題ではないと思っております。
【共同通信 西野記者】大臣が冒頭発言の中で、核セキュリティ・サミット、それからNPTの見直し、最近の会議等、併せて日本が中心となって核に関する会議を開きたいということでしたが、先ほど大臣は「日本がより積極的に関与していくべきだ」と「これまで以上に関与していくべきだ」というように言及されましたが、そういった文脈の中で日本で会議を新たに開くということを考えておられるということでしょうか。
【大臣】「関与すべきだ」というのは日米間の議論の話を主として致しました。私(大臣)は今年一年、「核なき世界」に向かって一歩を踏み出すことができるかどうか、非常に重要な一年だと思っております。ご存知のようにしばらく前まではむしろ拡散が進み、軍縮の気運はなかなかないという状況だった訳ですが、それがかなり変わってきているというのは事実です。それをより確実なものにするために、(今年の)前半は既存の核セキュリティ・サミット、そしてNPT検討会議という大きな会議がありますので、これを成功裏に導いていくことは非常に大事なことだと思います。ただ、そこで終わってしまうのではなくて、それ以降も「核なき世界に向かっての歩み」をきちんと作り上げていくために、私(大臣)は関係国が集まってきちんと議論が出来る場が必要ではないかと、まだアイデアの段階でどのような国が集まって、どのような議論をすべきかということを検討している途上にありますので、あまり詳しくは申し上げられませんが、今年前半の5月で終わってしまうということではなく、後半に是非この気運を繋げていきたいと、この気運を本物にしたいと思っております。

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