おじいちゃんの平和教室「日本の憲法は平和の源(みなもと)」

2010.02

おじいちゃん:はるき君とミクちゃんは春には6年生になるのかな?
はるき・ミク:そうですよ!
おじいちゃん:6年生になると、社会科で日本の憲法の学習があると思う。今日は「平和」についてこれまで話してきたことのまとめとして、それから、21世紀の日本と世界の主役になる二人に期待して、日本の憲法について一緒に考えてみよう。
はるき:平和と憲法って関係があるの?
おじいちゃん:一人一人の人が人間としてふさわしい生き方(人間としての尊厳を実現すること)ができる世の中・社会を作り出すことが「平和」だと話したことがあるよね(注1)。
ミク:よく覚えているわ。
おじいちゃん:日本だけではなく第2次世界大戦以後に作られたどの国の憲法でも、人間の尊厳をなによりも大切にすること(注2)、そういう国・社会を作ることを基本的な目的として定めている。つまり、憲法はそれぞれの国で平和を実現するための法律的な基礎と言えるんだ(注3)。
はるき:日本の憲法のことを「平和憲法」っていうよね。どの国の憲法も平和を目指しているなら、日本の憲法のことをなんでわざわざ「平和憲法」って言うのかな?
おじいちゃん:はるき君、とても重要なことに気がついたね。日本の憲法を「平和憲法」というのは、ほかの国の憲法にはない三つの思いが込められているからだよ。
ミク:「三つの思い」って何ですか?
おじいちゃん:日本が中国、アジアの国々に対して行った戦争(注4)のことは二人も知っているね?
はるき・ミク:はい、知っています。
おじいちゃん:正確なことは分かりようがないけれども、この戦争ではアジアで2000万あるいは3000万以上の人々の命が奪われたと言われている。日本人でも300万以上の命が失われたとされている(注5)。
ミク:その中には、広島と長崎の原爆で亡くなった人も含まれているの?
おじいちゃん:もちろんそうだよ。
 日本の憲法は、日本が二度とそういう戦争をしないことを決意し(注6)、そのことについて国際社会が安心できるように、軍隊を持たないことを国際社会に約束したんだ(注7)。
はるき:でも、日本には自衛隊があるでしょう。軍隊ではないの?
おじいちゃん:自衛隊と憲法との関係については、いろいろ考えなくてはならない問題があるから宿題にしよう。
ここでは、平和憲法という思いの一つが、過去の戦争に対する深い反省に立っていることを覚えてほしい。
ミク:私たちは、「戦争はいや」って、広島に原爆が落とされた8月6日には毎年改めて思うけれど、日本の憲法はそういう思いを込めているから、平和憲法なのね。
おじいちゃん:その通り。
そして、今ミクちゃんが言ったことが平和憲法の2番目の思いということなんだ。
ミク:それってどういうことですか?
おじいちゃん:前に戦争が禁止されることになった歴史については話したね(注8)。核兵器・核戦争の問題についても前に話したことを思い出してほしい(注9)。
ミク:家に帰ったらもう一度読んでみます。
おじいちゃん:要するに、人間の尊厳を根こそぎ奪い去る核兵器が現れた結果、どんな戦争も核戦争につながる可能性があるから、もう絶対にやってはいけないという思いが日本の憲法には込められているんだ。
ミク:つまり、広島と長崎の原爆を二度と繰り返してはならないという思いですか?
おじいちゃん:そう。「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」「ノーモア・ヒバクシャ」という訴えが日本の憲法のもう一つの思いと言っていいだろう。
ミク:よく分かったわ。
おじいちゃん:もう一つの日本の憲法の思いは、「平和」についての一番源(みなもと)にある考え方にあるんだ。
はるき:一番の源、ってどういうことですか?
おじいちゃん:「平和」については、「力による平和」という考え方と「力によらない平和」という考え方が昔からある。
はるき:「力」って「暴力」ではないの? 力で平和を守るという考え方はおかしいと思う。
おじいちゃん:すなおに考えると、そのとおりだね。
でも、今でも戦争に訴えなければ平和は守れないという考え方が国際的にある(注10)。普段の私たちの生活の中でも、いろいろな力が働いて、人間の尊厳が損なわれていることが多い(注11)。
はるき:でも、ぼくはやっぱり「力による平和」って考え方はおかしいと思う。
おじいちゃん:はるき君のその気持ちは大切にしてほしい。
力(暴力)は人間の尊厳を必ず損なうものだ。何度も言ったように、人間の尊厳を認める限り、「力による平和」という考え方を否定しなくてはならない。「力によらない平和」の考え方が当たり前になるようになってはじめて、本当の平和な社会になる。日本の憲法はそういう思い・決意の上に立っているんだ(注12)。
はるき・ミク:日本はすごい憲法を持っているんだね。
おじいちゃん:そうだよ。日本の憲法は21世紀の世界の道しるべと言えるものだよ。二人には、そういう憲法を持っていることを誇りにしてほしいな。
 今回でおじいちゃんの平和についてのお話はおしまいだよ。二人とも毎回、一生懸命いっしょに考えてくれたね。ありがとう。

<家族の方のための注釈>

1 『ちゅーピー子ども新聞』8月号を見てください。
2 「基本的人権の尊重」ということです。
3 基本的人権は、「国家からの自由」(政治的・市民的自由)、「国家に対する自由」(経済的・社会的自由)などがあります。
4 1931年9月18日に起こった柳条湖事件を発端とする日本の中国及びアジア諸地域に対する侵略戦争は、1941年12月8日に日本が米国・ハワイを攻撃(真珠湾攻撃)して始まった太平洋戦争に拡大し、(19)45年8月15日の日本敗戦で終わりました。この戦争を総称して十五年戦争あるいはアジア・太平洋戦争と言われます。
5 数字についてはさまざまな指摘があります(行われています)が、ここでの趣旨はあくまでも、いかに多くの人命が戦争によって失われるかを子どもたちに考えてもらうことで(に眼目がありま)すので、(数字自体については)あまり目くじらを立てないでください。
6 日本国憲法前文は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」と冒頭で述べています。
7 憲法第9条を見てください(です)。以下省略その内容は次のとおりです。
「第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
8 『ちゅーピー子ども新聞』5月号。
9 『ちゅーピー子ども新聞』6月号。
10 「核兵器のない世界」を提唱して期待を集めたアメリカのオバマ大統領が、ノーベル平和賞の受賞演説で平和のための戦争の必要を主張したことを思い出してください。オバマが「力による平和」の考え方に立っていることを、ショックを感じながら思い知らされた人は少なくないと思います。
11 「いじめ」を素材にして考えた『ちゅーピー子ども新聞』7月号を見てください。
12 日本国憲法前文は、次のように述べています。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想(浅井注:「人間の尊厳」と読み替えていいと思います)を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地 位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」

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