日本の政治状況と私たち主権者の投票行動

2010.02.14

*2月11日と13日に倉敷(岡山県)と下松(山口県)にお話しに伺う機会があり、その中で今の日本の政治状況を踏まえて、私たち主権者がこの夏の参議院選挙にいかなる投票行動をとるべきかという点について、私の考えを述べました。このコラムを訪れて下さる方にも問題意識を分かち合っていただきたく、その時にお話しした内容をまとめておきたいと思います(2月14日記)。

1. 日本の政治状況

 私は、長年にわたる自公政治に対して民意は完全にそっぽを向いたということはほぼ間違いないところだと思っています。そのことは、最近の民主党中心の連立政権に対する支持率の顕著な低下が自民党の支持率の回復に結びついていないこと(無党派層の増加)に端的に象徴されていると思います。なによりも、自民党が大企業べったりで対米追随という長年来の基本路線に相変わらずしがみついたままで真の国民政党をめざす動きが皆無という状況が続く限り、自民党の党勢回復の道は遠いといわなければならないでしょう。
 しかし、民主党政権についても、その前途は極めて厳しいものがあるという判断も免れることはできないと思います。鳩山首相及び小沢幹事長のお金に絡まる疑惑事件は底なし沼の状態であり、その金権体質は自民党と大同小異であることをさらけ出しています。しかも、日米軍事同盟へのしがみつき方もまた自公政治そのものです。普天間基地の移転問題についての迷走、岩国基地への艦載機移転問題についての何らの検討もないままの従来通りという結論にせよ、アメリカの「核の傘」へのしがみつきにせよ、その日米核軍事同盟先にありきの対米追随ぶりは、自公政治となんら変わるところはありません(小沢訪米と小沢・オバマ会談で普天間問題ではどんでん返しを小沢が演出するかどうかというかすかな興味材料は残りますが)。
 また、鳩山首相は「コンクリートから人へ」ということを口にはします(具体的には、障害者自立支援法の見直しだけは、障害者自立支援法違憲集団訴訟が燎原の火の如く他の社会保障問題に広がることを恐れて、早々と訴訟団と「手打ち」に持ち込みましたが、それ以外は何も変わりません。)が、アメリカを除く先進諸外国とくらべると歴然としている大企業優先政治にもまったく手をつける兆しもありません。そして、小泉政治が加速した日本社会の格差の広がり、格差を生み出した諸問題への本格的取り組みも見られません。
 以上のことは、民主党を中心とした連立政権ができてから今日までの彼らの政策運営を通じて今や明確になってきていることです。要するに、「民主党は、自公政治に変わる何かをやってくれるだろう」という「国民的」期待から生まれた民主党政権は、その期待を大きく裏切っており、その本質は自民党と変わらないという実態が明らかになっているということです。
 私は、自民党はもうダメだが、民主党もダメ、という国民的な幻滅感の広がりが今後どういう方向へ向かうか、ということに注目しています。願わくば、日本国憲法の下で制度として出来上がったデモクラシーが、理念として、また、運動としても、その生命力を発揮してくれることを、ということですし、人類史の長期的発展法則からすれば、日本にもいつかは必ずそういう時期が訪れるだろうとは確信するのですが、この夏の参議院選挙までに間に合うのか、という問いになると、かなりハードルが高い、と考えざるを得ません。むしろ、今の「世論」状況を見ていると、アメリカや欧州諸国でも見られるような極めて狭量で排他的なナショナリズムが頭をもたげてくる危険性もあるのではないかということすら心配されます(泡沫的ではありますが、「幸福実現党」などの動きはその一つの例証かもしれません)。

2. 参議院選挙に向けた私たち主権者の態度決定基準とは?

 私は、今夏に予定されている参議院選挙の結果は、いろいろな意味で今後の日本政治のあり方に大きな影響を及ぼすものとして注目されなければならないし、それだけに私たち主権者の態度決定が極めて重要な意味を持つことになると考えています。「民主党か自民党か」というマスメディアによって作られてきた図式がもはや意味を失っているだけに、「強力な政治的指導力を作り出す」と称した右バネ中心の政界再編(そこでは、日米核軍事同盟と政財癒着構造は相変わらず保守政治の二本柱となり続けるでしょう)への流れが加速する危険性が極めて大きいと思います。
すでに有事法制と国民保護計画により、国内に関する限り第9条は「もぬけの殻」にさせられてしまっており、日米軍事同盟は、日本列島すべてを基地化して戦争体制に突入する法的・制度的仕組みを整えてしまっています。非核三原則の「持ち込み」の内容を「再解釈する」「解釈を整理する」(つまり、「寄港、立ち寄り、領域通過は持ち込みに当たらない」とする)ことにより、非核三原則についても、第9条と同じように、解釈によって中身を空洞化するという作業が進むことになるでしょう。
中曽根政治以来の新自由主義諸政策によってむしばまれた国民生活もまた、政財癒着構造が続く限り、そして財界が政治への発言力・影響力に固執し、自民党のみならず民主党がその「甘い蜜」に群がる体質を根本的に改めない限り、さらに悪化することはあっても、改善されることは期待薄です。先進国の中でも類を見ない「弱者切り捨て」政治がさらに進行することになると思われます。
以上の政治の流れをチェックし、国民本位の政治に流れを変えさせる力を持っているのは、私たち主権者の主体的な意思決定能力だけです。根本的には、一人一人の主権者の政治意識の格段の高まり・強まりが必要です。
その要素は間違いなく存在しています。2006年の日米両政府によるロードマップ決定後も、名護を含む沖縄の人々が辺野古への米軍基地移転を阻止してきたという事実(沖縄の闘いはずっとその前から粘り強く行われていることを忘れることはできません。)そのものが何よりもの証拠と言えるでしょう。紆余曲折はあるとはいえ、岩国基地への艦載機移転が今日まで強行できないでいるということも、岩国及びその近隣地域の住民の粘り強い闘いを抜きにしては説明できないことです。こういう粘り強く闘うエネルギー、不退転の決意を国民的なものにできるならば、私たち主権者は、自民党、民主党を問わず、保守政治の強圧をはね返す力量を確かに持っていると確信できるのです。
とは言え、参議院選挙までの限られた時間を考えれば、もっと身近な闘いの可能性も考えなければなりません。私には二つの提案があります。
一つは、実は前回の衆議院総選挙のときにもすでに私としては言っていたことですが、党としての民主党に対する過度な期待に基づいて、「民主党は自民党よりはましだろう。もっと根本的な変革の道筋を提起している政党、具体的には共産党に投票しても死に票になってしまうから(あるいは、共産党だけは嫌だから)、それよりは民主党に入れよう」という判断で投票しても裏切られることになる、ということです。もっと積極的にいえば、私たちが明確に「政党の好き嫌いではなく、政策に基づいて投票態度を決定する」立場を堅持すれば、当選にまでは至らなくても、真の変革の道筋を提起している共産党の得票率、得票数の増加が顕著に数字として示されることになり、そのことは明確な民意の反映となる。選挙ごとに共産党の得票率、得票数が増加し続ければ、それは主権者の明確な意思表示になる。それが最終的に議席獲得となって現れるときが必ず来るということです。こういうふうに言うと、アカ意識を抜けきらない人は「共産党が伸びたら大変なことになる」と思うかもしれません。しかし、私は思うのです。共産党の議席数が伸びて、本当に「危ない」ことになるような状況になれば、私たちはそういう民意を示せばいいのだ、と。今はとにかく、日本の民主政治を発展させるために、共産党の力を伸ばすことが必要なのだ、と。
もう一つは、以上のような判断にはならない方、やはり民主党の候補に投票することになる、という方たちへの提言です。確かに前回の衆議院総選挙で当選した、あるいは民主党から立候補した人々の憲法意識(もっといえば政治意識)は私たち主権者に近いということは、そういう人たちを対象とした調査によって裏付けられています。

<共同通信調査(2009年9月1日):調査対象は衆議院総選挙で当選した議員>

   全体  民主  自民
 全面改正に賛成  16.3   8.0  42.0
 9条を含め部分改正に賛成  19.5  13.1  37.5
 9条以外の部分改正に賛成  28.3  35.4   9.1
 反対  9.6  8.9   0
 どちらとも言えない   9.6  13.9   3.4
 その他・無回答  16.6  20.7   7.9

<毎日新聞調査(2009年8月20日付):調査対象は衆院選総選挙の全候補者>
<憲法改正>

   民主  自民
 賛成  57  97
 反対  24   0
 その他・無回答  19   3

<9条改正>

   民主  自民
 賛成  17  82
 反対  66  11
 その他・無回答  16   7

cf. 国民の憲法意識(11月1日付毎日新聞)

◆今の憲法を改めることに賛成ですか、反対ですか

   全体  男性  女性
 賛成  58  62  55
 反対  32  32  32

◇<「憲法改正に賛成」と答えた方に>賛成する理由はなんですか。

   全体  男性  女性
 今の憲法が時代に合っていないから  54  55  52
 今の憲法は米国から押しつけられたものだから  10  12   9
 今の憲法は制定以来、一度も改正されていないから  22  17  27
 自衛隊の活動と憲法9条に隔たりがあるから   9  13   6
 今の憲法は個人の権利を尊重しすぎているから   3   2   3

◇<「憲法改正に賛成」と答えた方に>どのように改めるべきだと思いますか(三つまで)

   全体  男性  女性
 憲法の文章が翻訳調なので、分かりやすい日本語にする  36  33  38
 自衛隊の位置づけを明確にする  37  43  30
 象徴天皇制を見直す   9   9   9
 国会の2院制を廃止して1院制とする  15  17  14
 首相を国民の直接投票で選べるようにする  42  40  44
 地方分権を現在より拡大する  32  36  27
 国民の新たな権利を作る  22  18  26
 国民の新たな義務を盛り込む  14  14  14
 憲法改正の要件を緩和する  14  14  15

◇<「憲法改正に反対」と答えた方に>反対する理由はなんですか

   全体  男性  女性
 今の憲法が時代に合っているから   8   9   7
 改正するほどの積極的理由がないから  32  36  29
 9条改正につながる恐れがあるから  36  34  38
 個人の権利を制限したり、義務を規定する恐れがあるから   5   5   5
 国民や政党の議論がまだ尽くされたとは言えないから  17  15  19

◆憲法9条は第1項で戦争放棄を、第2項で戦力の不保持を定めています。9条改正についてどう考えますか。

   全体  男性  女性
 何らかの改正が必要だ  48  55  42
 一切、改めるべきでない  43  40  46

◇<「何らかの改正が必要」と答えた方に>どのように改正するのが望ましいと思いますか。

   全体  男性  女性
 戦争放棄を定めた第1項だけ改めるべきだ   9  10   9
 戦力の不保持を定めた第2項だけ改めるべきだ  26  32  20
 1項、2項とも改めるべきだ  17  19  13
 新たな条項を付け加えるべきだ  44  37  53

以上の数字を分析すれば、はっきりして言えることが少なくとも三つあります。一つは、民主党から大量に当選した新議員の多くは、自民党の議員、候補者と比較すれば、憲法に関して私たちの視線、見方と近いところにいるということです。逆に言えば、彼ら(及び夏の参議院選挙での候補)の当選は、私たちの意思に強く依存しているということです。
第二に、そういう彼らと民主党トップの憲法意識とは大きなギャップがあるということです。鳩山首相、小沢幹事長を始め、岡田外相、前原国土交通相、枝野新行革相などの非小沢系も含め、民主党の指導層はほとんどが改憲派です(私の思い込みではなく、彼らの言動から判断していることです。)。だからこそ、新議員たちは当選直後に「新人研修」させられ、かつての小泉チルドレンのように勝手な言動をしないように「洗脳」され、「組織人間」にさせられているわけです(そういう点は、小沢幹事長はさすがだと思います。)。
 しかし第三に、私たち主権者としては、彼らが党のいうがままの操り人形に堕するのであれば選出しないぞ、という「切り札」を持っているということです。夏の参議院選挙では、各候補をじっくり検証し、機会があれば各候補にしっかりその意識を確認し、「操り人形にはならない」という確認を得てのみ投票する、というぐらいの気構えを主権者には持ってほしいのです。正に、民主党の候補に対する私たち主権者と民主党指導部との綱引きです。
「どうせ政治は変わりっこない」という諦めは、民主政治を殺します。夏の参議院選挙を日本の民主政治再生の重要なきっかけにしたいものです。

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