おじいちゃんの平和教室「子どもの意見表明権と平和」

2010.01.17

*中国新聞の子ども新聞に連載中の文章です。(1月17日記)。

おじいちゃん はるき君とミクちゃんに、「子どもの権利条約」について話したことは覚えているよね?
はるき おじいちゃんは前に、「子どもの人間としての尊厳を大切にしなければいけない」ということが書いてある、と話してくれたよね(注1)。
ミク 私もそのお話を聞いたとき、もっとくわしく知りたいと思ったんだけど、ついつい忘れてしまっていたわ。
おじいちゃん 人間の尊厳は、子どもの権利を保障することから始まる。子ども一人一人に人間としての権利、つまり人権が保障されてはじめて平和な世の中が可能になる。それが条約の基本にある考えだとおじいちゃんは理解している。
 ところが、日本ではそういう当たり前の考えが実は当たり前になっていない。今日は、そういうことについて3人で話し合ってみようか。
はるき 難しそうだけど、がんばってみようかな。
ミク 私も挑戦してみます。
おじいちゃん 昔は、日本だけでなくどの国でも、子どもは親の言うことに従うものだ、という考え方が普通だった。
はるき 「昔は」って言うけど、今もどの国でもそうではないんですか?
おじいちゃん 確かに、子どもは一人前になるまでは、親や社会から特別な保護を受ける必要があるね。また、一人前になるまでは選挙に参加する権利も与えられない。それは、体や精神の発達がまだ不十分だからだよ。そういうことは、どこの国でも認められているね。
はるき じゃあ、日本はどこが違うんですか?
おじいちゃん 体や精神の発達が十分でないからといって、子どもが尊厳を持つ人間であることには変わりはないだろう。
 だから、発達の不十分さを理由にして人権について子どもを差別することがあってはならないということだよ。
 それが、子どもの権利条約を作った国際社会の考えなんだ。
ミク でも、日本はその条約に入ったんだから、そういう考えを受け入れたということでしょう?
おじいちゃん ところがそうではないんだ。
 この条約に入ると、日本が子どもの権利を十分に保障しているかどうかを国際的に調べることになっているんだ(注2)。
 日本に対しては、「子どもの人権の保障について不十分な取り組みしかしていない」という厳しい意見が出されているんだよ(注3)。
はるき それって、日本にとって恥ずかしいことじゃないの?
おじいちゃん 恥ずかしいというより、とても不名誉なことだね。子どもの人権を大切にしない国だ、と言われたのと同じことだからね。
ミク 日本のどこがおかしいのかしら?
おじいちゃん いろいろあるんだけど(注4)、二人にも分かりやすい例で一緒に考えてみようか。
 二人は、クラスや家の中で、自分の考えや意見を進んで発表したことはあるかな?
はるき 手を挙げようと思うことはあるけど、自分の考えがうまくまとまらなくて自信がないので、そのまま終わってしまうことが多いな。
ミク 私もそう。先生やお母さんに、「どう?」と聞かれれば何か言うってことはあるけれど、自分から進んで手を挙げるというのは勇気がいるって感じで、気が重いことが多いです。
おじいちゃん そうだろうね。
 おじいちゃんも、「子どものくせに素直じゃない」とか、「親(先生)の言うことには従いなさい」とか、子どもを抑え付けようとする先生や親をよく見かけるけど、二人はどう?
はるき ぼくは、そう言われるのがイヤだから、はじめから気をつけるようにしている。
ミク 私もやっぱりまわりが気になって、「いい子」になろうとしているときがあるわ。
おじいちゃん それはやはり、学校、家庭を含めた日本の社会が、子ども一人一人を尊厳を持つ人間として扱うことが当たり前になっていないからなんだ。
はるき おじいちゃんは、どうしたらいいと思うの?
おじいちゃん やはり、大人たちが子どもに対する古い考え方を改めなければいけないね。そのためにはまず、みんなが子どもの権利条約を一から勉強し直すことが何よりも大事だろう。
ミク おじいちゃんは、子どもが自分の考えや意見を進んで言えるようにする社会づくりを、どうしてそんなに重要だと思っているんですか?
おじいちゃん 子ども一人一人が自分の考えや意見を明らかにし、子どもの考えや意見が本当に大切にされる社会をつくっていくことは、おじいちゃんがいつも話している人間の尊厳を大切にする社会づくりにつながるからなんだよ。
 人間の尊厳は、大人だけではなく、子どもを含めたすべての人が備えているものなんだ。だから、社会全体がそのことを理解しなければならない。条約にある、「子どもの意見表明権」という日本ではまだ当たり前になっていない権利の問題を大人や社会が真剣に考えることは、その大切なきっかけになると信じているよ(注5)。

 ―家族の方のための注釈―

 ①子ども新聞2009年4月号「人の『尊厳』200年の時をかけ」。
 ②子どもの権利条約第43条は、「国連子どもの権利委員会」という機関を設けて、条約が定める子どもの権利が各国でどれだけ実現されているかを審査し、問題点を指摘し、適当と思われる提案や勧告を出す仕組みを作っています。
 ③国連子どもの権利委員会は1998年6月24日付「最終見解」の第11項で、「条約の原則及び規定、とりわけ諸権利の完全な主体としての子どもという考え方に条約が重要性をおいていることに関し、(日本では)全社会の広範な認識を喚起し、促進することについて、不十分な措置しか取られていない」と指摘しています。
 10年以上も前の指摘だと思う方もおられるかもしれませんが、この間に子どもを取り巻く環境が良くなったと思われる方はいないでしょう。むしろ、悪くなる一方です。同委員会の指摘は、今日においてますます重要な意味を持っていると理解してください。
 ④条約が「一般原則」としてもっとも重視するのは、子どもを差別しない(第2条)▽子どもの「最善の利益」を中心において子どもに相対する(第3条)▽子どもの考えや思いを大切にする、つまり意見表明権を尊重する(第12条)―の3点です。
 「最終見解」では、子どもたちが特に教育制度をはじめとするすべての社会生活に参加する権利を行使する際に経験する困難に対して、重大な関心を表明しています(第13項)。
 ⑤条約第12条第1項の規定は次の通りです。「締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される」

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