小学生と考える「平和」教室(身近なことから「平和」を考えてみよう)

2009.12

はるき:この間、学校の帰りがけに、小さい子たちが殴り合いのけんかをしていたので、少し怖かったけど「やめなよ」と止めに入ったら、すぐにいうことを聞いて仲直りしてくれたんでホッとしたよ。
ミク:はるきちゃん、えらいわね。私だったらそんな勇気なかったと思うわ。
おじいちゃん:うん、えらい。日本人はともすると、そういう場面にぶつかっても、昔からの諺なんだけど、「触らぬ神に祟りなし」(注1)と言って、見て見ぬふりをして通り過ぎてしまう人が多いんだ。
はるき:話を聞いてみたら、ブランコに乗る順番が決まっていたのに、一人の子が順番を飛び越して乗ってしまったんで、他の子たちが怒ったということだったんだ。
 だから、順番を守らなかった子には、「ちゃんと順番を守ろうね」と言い、他の子には、「順番を守らないことはいけないけど、だからといってすぐ手を出すのはいけないよ。ちゃんと話し合って決めなきゃ」と言ったら、みんなうなずいてくれたよ。
おじいちゃん:はるき君、なかなかやるじゃないか。今日はこのことを材料にして「社会の平和のあり方」という問題を考えてみようか。
はるき・ミク:ええっ。そんな大きなお話に広がるんですか。
おじいちゃん:もちろんだよ。「社会」とか「平和」とかいうと、急にむずかしく感じてしまうかもしれないけど、こういうお話から考えると分かりやすく理解できると思うよ。
はるき・ミク:じゃあ、話してみて。
おじいちゃん:子どもたちの間で順番にブランコに乗るというルールができていたということは、「ブランコを順番で乗るという共通の目的・ルールで結ばれた子どもたちによる一つの社会ができていた」ということなんだ。
ミク:そうかあ、そういうふうに考えることはできるわ。
おじいちゃん:早い者勝ちだったら、誰が先に乗るかで争いが起きるだろう。小さい子たちはそのことが、これまでの経験を通じて幼心に分かっていたから、順番に乗るという知恵を出し合って、仲良く乗ろうとした。それが正に「平和な社会」を作ったということだよね。
はるき:そうか、「社会」って別にむずかしく考える必要ないんだね。
おじいちゃん:そうなんだよ。
でも、せっかちな子がいて順番を守ろうとしなかったためにけんかになってしまった。つまり「順番」というルールが守られなくなってしまうと、社会はうまく動かなくなり、平和でなくなってしまうし、けんかみたいに暴力に訴える子が出てくると、社会は壊れてしまう。
はるき:とすると、僕は、けんかを止めに入って、順番に乗るというルールをみんなにもう一度確認させ、「平和な社会」を取り戻すことに力を貸したということになるね。
おじいちゃん:まさしくそのとおりなんだ。
 今は、いちばん小さな「社会」を例にとって話したけれども、学校という社会、はるき君やミクちゃんのお父さんやお母さんが仕事している会社、日本という国からなる社会、そして多くの国々からなる国際社会と、「社会」を大きくしていっても今まで話してきたことが基本的に当てはまるんだよ。
ミク:例えば?
おじいちゃん:以前「いじめ」の話をした(注2)こと覚えているかな。学校でいじめが起こって事件になれば、よくテレビで校長先生がテレビのカメラに向かってお詫びし、「いじめの再発防止に努めます」って言うだろう。
はるき・ミク:見たことあるね。
おじいちゃん:あれは、はるき君が子どもたちにブランコに乗る順番を守るというルールの大切さを分からせようとしたことと同じことを、自分自身に言っているということだ。
つまり、学校の責任者として「いじめという暴力をしてはいけないというルールを徹底して、平和な学校という社会を実現する」決意を述べたということなんだよ。
はるき:会社で、僕たちがわかりやすい例はありますか。
おじいちゃん:いろいろあるけど、はるき君やミクちゃんにもわかりやすい例はなんだろうなあ。
はるき:少し前に、「蟹工船」(注3)という小説がはやっている、ってお父さんが話していたけど。
おじいちゃん:「蟹工船」が描いているように、第二次世界大戦までの日本の労働者の境遇は本当にひどかった。暴力をふるわれても抵抗もできなかった。
 戦後は平和憲法ができて、暴力をふるうことは禁止されるようにはなったんだがね…。
ミク:でも、おじいちゃんは何か浮かない顔ですね。
おじいちゃん:今の日本の社会を見ていると、とても明るい気持ちになれないよ。派遣労働の人にしても、パートの人にしても(注4)、物理的な暴力こそ受けないにしても、あっさり首を切られて最悪の場合路上生活に放り出されるなどというのは、ほんの10年前には(注5)考えられなかったことだ。まるで「蟹工船」と同じじゃないか、ということなんだよ。
ミク:どうして、そんなことになるんですか。
おじいちゃん:おじいちゃんは、会社ひいては日本という社会による新自由主義(注6)の「市場万能という暴力」だと考えている。こういう形の「暴力」をなくして、人間の尊厳を大切にする経済の仕組みを作って、「平和な社会」にしていかないとね。
はるき:国際社会についてはどうですか。
おじいちゃん:国際社会でも、新自由主義の「市場万能という暴力」が猛威をふるってきた。そのために、世界各地の紛争や内戦の根本的な原因である貧困を深刻にさせてきている面もあるんだ。だから新国際政治経済秩序(注7)を作ることが「平和な国際社会」を作るための前提になるんだよ。
はるき・ミク:日本も国際社会も経済的に大変なんだね。
おじいちゃん:国際社会の場合は、経済問題だけではないんだ。各国は自分のことは自分で守らなければならないという状況だ。だから、どうしても軍隊に頼るということになる。戦争してでも自分の思いどおりにしたいという国も出てくる。
 そうしたときに、はるき君や校長先生のしたように、「暴力はいけない」、「ルールを守って話し合いで解決を」という役割を果たすものが国際社会にはいないのが、今の国際社会の泣き所なんだ。

<家族の方へ>

1 その物事にかかわりさえもたなければ、災いを招くことはない。面倒なことに余計な手出しをするな、という例え。
2 ちゅーピー子ども新聞7月号「いじめ 社会と深い関係」
3 1929年に、プロレタリア作家といわれた小林多喜二が蟹工船で酷使される貧しい労働者の人々を描いた小説。現代の派遣労働者など不正規雇用の人々の境遇を彷彿させるものとして話題となりました。
4 いわゆる「非正規労働者」と呼ばれます。パート、アルバイトその他の派遣社員、契約社員、嘱託などが含まれます。
5 2004年3月の労働者派遣法の改正で、製造業への派遣労働が解禁になって以来、当時の経済の好調を背景に派遣労働者は急増してきましたが、2008年秋以来の急激な不況の進行によって、数多くの派遣労働者が解雇され、路頭に迷うことになったのです。
6 ちゅーピー新聞9月号を見てください。
7 ちゅーピー新聞11月号を見てください

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