小学生と考える「平和教室」(21世紀の国際社会がするべきこと)

2009.11.08

*しばらく載せなかったのでたまってしまいましたが、中国新聞の子ども新聞での連載は続いており、3回分を一気に載せる羽目になりました。何とか、10年3月号まで連載を続け、できればまとめて本にしたいと思っています。このコラムを訪れる方で、心当たりがある方に仲介の労をとっていただければとても有難いです。(11月8日記)

おじいちゃん:前の回に話したように、地球上の不幸な人々や子どもたちが人間としての尊厳を持って生活できるようにするためには、国際社会が協力して取り組むことがとても必要だということは、はるき君もミクちゃんも分かってくれたと思う。そのようになってこそ、地球上に平和が訪れるということだからね。
 そこで今日は、国際社会が取り組むことが求められていることについて一緒に考えておきたいんだ。
はるき:国際社会という言葉は聞いたことがあるけれど、分かりやすくいうとどういうものなのかなあ?
おじいちゃん:たとえば、学校は、生徒、先生、職員さんたちで成り立っている社会だよね。日本という国家は、日本人や日本に暮らす外国人で成り立っている社会でもある。
はるき・ミク:はい、それは分かります。
おじいちゃん:国際社会というのは、大小様々な国家(注1)を中心としてなり立っている社会ということができる。学校や日本が人々で成り立っているのに対して、国際社会は国家を中心としてなり立っているというところに特徴があるんだ。
ミク:今世界にはどれだけの数の国家があるんですか?
おじいちゃん:外務省のホーム・ページに載っている国家は、アジア23カ国、欧州54カ国、中東15カ国、アフリカ53カ国、太平洋14カ国、アメリカ35カ国で、全部で194カ国だね(注2)。
はるき:これらの国家は全部国連に入っているんですか?
おじいちゃん:国連加盟国は今のところ192だね。調べてみたんだが、外務省があげているもののなかで、コソボ(注3)とバチカン市国(注4)は国連の加盟国にはなっていないね。
はるき:でも、ほとんどの国家が国連に入っているんだから、国連そのものが国際社会と考えてもいいんでしょう?
おじいちゃん:それが、そうとは言えないんだよ。すべての国際的な事柄が国連で議論され、決められ、必要なお金、人も含めて、国連が自分の手で決められたことの実現に取り組む仕組みになっているならば、はるき君の言うとおりかもしれないけれども、実際は違うんだ。
ミク:お金と言えば、おじいちゃんは、国連の予算が70-80億ドルで、広島県の予算より少ないと教えてくれたことがあったっけ(注5)。
おじいちゃん:ミクちゃん、よく覚えていたね。でも、お金が足りないだけではない。国際社会で起きているすべての問題を担当するだけの人も仕組みも、残念ながら国連には備わっていない。
ミク:それでは、どうしたらいいんですか。
おじいちゃん:簡単に答えが見つかる問題ではないね。はるき君やミクちゃんは、これからの21世紀の国際社会の主人公だ。そういう主人公となる子どもたちが、人間の尊厳が大切にされるように世の中を変えるんだという強い決意と、そのために辛抱強く、こつこつと努力していく強い気持ちと責任感を持ってくれることがいちばんのカギだね。
はるき:僕たちが21世紀の国際社会の主人公だということは分かるし、「人間の尊厳が大切にされるように世の中を変える」ということも分かるんだけれども、何をしたらいいのかということについて、おじいちゃんはどう考えていますか。
おじいちゃん:おじいちゃんは、人間の尊厳が大切にされる国際社会を作るということでは、四つの大きな仕事をすることが必要だと思っている。その四つとは、新自由主義(注6)をやめて、人間の尊厳を大切にする新しい国際的な政治経済の仕組み(注7)作りをすること、核兵器の廃絶、地球環境を守ること、そして国際の平和と安全を守るための仕組み作りだよ。
はるき・ミク:もう少しくわしく話してくれますか。
おじいちゃん:うん、いいとも。じつは、9月23日に国連総会で演説したアメリカのオバマ大統領も、「四つの柱」として、おじいちゃんの「四つの仕事」と、同じようなことを提案しているんだ(注8)。比べてみることで、二つの違いが分かると思うよ。
ミク:それって、おもしろそう。
おじいちゃん:まず新しい国際的な政治経済の仕組みを作るという仕事だけど、おじいちゃんの立場とオバマの主張とのいちばん大きな違いは、なんといっても、人間の尊厳というモノサシで政治と経済の仕組みを作るかどうかという点にあるね。
はるき:オバマ大統領は人間の尊厳を大切にしないということですか。
おじいちゃん:それは演説からだけでははっきり読み取れない。だけど、アメリカが中心となった経済のことに力を入れているし、経済だけでなく、アメリカ中心のこれまでの国際政治のあり方も変えなくてはいけないという考えが出ていないね。
はるき:オバマは核兵器廃絶には熱心だと言われているけど、どうなんですか。
おじいちゃん:おじいちゃんの考え方は前に話した(注9)から、オバマとの違いだけ話しておこう。
 オバマが演説で力を入れているのは核兵器が世界に広がることをどのように防ぐか(注10)という問題なんだ。
 だから、核兵器をなくすことを議論の出発点におくかどうかという点で、広島・長崎の目指す立場とはずいぶん違いがある。
ミク:環境問題についてはどうですか。
おじいちゃん:この点では、オバマが言ったこととおじいちゃんが考えていることとは基本的に違いはないね。地球環境が守られないと人類は平和に生きていけないということを、オバマも認めているよ。
はるき:国際の平和と安全な仕組み作りについてはどうですか。
おじいちゃん:おじいちゃんの考えは、戦争について取り上げたときに話したよね(注11)。
 オバマは、そもそも世界でダントツに強いアメリカが力ずくの政策を進めるから国際の平和と安全の仕組み作りができないということを分かっていないみたいだね。
 このアメリカの力任せの政策を変えるようにすることが、まずいちばんの問題だね。

<家族の方のための注釈>

1.今日では、国家のほかに、国際連合(国連)などの国際機関や、アムネスティ・インタナショナルなどの非政府機関(NGO)なども国際社会のメンバーとしての活動を広げています。
2.外務省のホーム・ページには、「KIDS 外務省」というページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/world/index.html)があるので、訪れてみてください。
3.コソボについては、セリビアからの分離独立を認めないロシアの反対で国連加盟が認められていません。
4.バチカン市国は、カトリック教会の中心地です。国連にも代表部を置いていますが、投票権を行使しないという立場を取っているそうです。
5.子ども新聞5月号を見てください。
6.新自由主義については、子ども新聞9月号を見てください。 7.「新国際政治経済秩序」というふうに呼ばれます。
8.オバマ大統領は、「四つの柱」として、核拡散防止と軍縮、平和と安定の促進、地球の保全、すべての人の機会を促進する世界経済を挙げました。
9.子ども新聞6月号を見てください。
10 核不拡散あるいは核拡散防止と言われます。
11.子ども新聞5月号を見てください。

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