「人間としてふさわしい生き方をする」(人間としての尊厳を実現する)ということ

2009.08.23

*連載中の「小学生と考える「平和教室」」8月号の文章です。掲載に当たっては若干修正されましたが、ここでは原文を紹介します(8月23日記)。

おじいちゃん:はるき君やミクちゃんは、人間らしく生きていると思っているかな?
はるき:えっ?とつぜん何を言うの?
おじいちゃん:おじいちゃんは、「平和」ってどういうことかな、と考えるんだ。そして、平和ということのいちばん根っこにあるのは、地球上のすべての人が「自分は人間としてふさわしい生き方をしており、これからもそのことに不安を感じないでいられる」ということだね。
前に話した「人間の尊厳」という言い方を使えば、「人間としての尊厳を実現できること」、もっと簡単に言えば、「人間らしく生きられること」だと考えているんだよ。
はるき・ミク:もう少し分かりやすく話してくれませんか。
おじいちゃん:そうだね。はるき君やミクちゃんは、地球上に66億人以上いる人間、つまり人類の一員だよね。はるき君やミクちゃんが、「自分は人間らしく生きている」と感じられないのであれば、そんな世の中、社会は平和だ、と考えないだろう。
はるき:たしかに、ぼくが不平、不満を持って過ごさなければならない世の中、社会を平和だとは思わないね。
おじいちゃん:同じことはほかの誰についても言えるんだ。世界中の人々がすべて「自分は人間らしく生きている」と思えるような世の中、社会でなければ、平和とは言えないと思うんだよ。
ミク:ただ、「人間らしさ」って、一人ひとりにとって中身が違うと思うし、すべての人が人間らしく生きられるような世の中、社会ってあるのかしら。
おじいちゃん:おじいちゃんは二人に分かりやすいようにと思って「人間らしさ」とも言ったけれど、その意味をもう少し正確に言うと、さっきも言ったように、「人間としての尊厳を実現できること」なんだよ。
はるき:ここでもやっぱり「人間の尊厳」が出てくるんだね。
おじいちゃん:人間とほかの生き物を分けるいちばん大きな違いは、人間は、自分で考え、発達することを可能にする脳の働きを備えていることだ。その脳の働きがあるからこそ、一人ひとりの人が、自分で意識するかどうかは別として、「人間としてふさわしい生き方」、「人間としての尊厳を実現すること」を探し求めるんだ。
はるき・ミク:はい、それは分かります。
おじいちゃん:まじめに自分の生き方を探し求めようとする人である限り、それができる世の中、社会であること、また、そういう世の中、社会を作り出すこと、それが「平和」であると、おじいちゃんは考えている。
戦争があるか、ないかだけで、平和という問題を考えるのでは足りないんだよ。
ミク:それじゃ、今の日本や世界は平和と言えるのかしら。
おじいちゃん:「人間の尊厳」という考え方の広まりについては世界的にたしかな歩みがあることは前にも話した(4月号)けれど、現実の日本と世界では、人間の尊厳を実現しようとする真剣な努力が行われてきたとはとても言えないし、むしろ平和から遠ざかっていると言わなければならない。
はるき:人間の尊厳という考え方についてはたしかな歩みがあるけれども、現実は人間の尊厳が実現されていなくて、平和な世の中、社会が実現していない、ってどういうことなの?
おじいちゃん:たしかに女性、子ども、障害者などのための権利条約はできてきたけれども、世界的に人間の尊厳、権利を誰にも保障する仕組みがあるわけではなく、それぞれの国の取り組みに任されているんだ。
ミク:国連が中心になって取り組む、ということはできないんですか?
おじいちゃん:前にも話した(5月号)ように、国連の予算は少ないから、とても手が回らないんだよ。
豊かな国や人間の尊厳を大切にする国では、これらの条約を活かす努力が行われている。ところが、貧しい国々は、条約に定められていることを満足に保障するゆとりがない。むしろ世界的に深刻な貧しさが広がっており、人間の尊厳を実現することができないばかりか、人間としての最低限の生活すら過ごせないでいる人が、世界の人口の半数近くいる(注1)。その結果、世の中、社会は平和からどんどん遠ざかることになってしまっているんだ。
はるき:日本や米国のような豊かな国がもっと貧しい国のことに目を向けなければいけないよね。
おじいちゃん:ところが、1980年代以後の米国や日本では、国内でも国際的にも、政府の役割はなるべく小さくした方がいい(軍事費だけは別)という考え方が力を強めるようになった。そして、社会的に弱い立場にある人々を支える政府の役割をなるべく減らそうとする政策が行われるようになったんだよ。
その結果、社会保障など「お金がかかる」分野を切り捨てる政治が行われるようになってしまい、人間の尊厳を大切に考える雰囲気が失われてきたんだ。
ミク:そんなのおかしいと思う。だって、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」って憲法がはっきり書いている、ってお母さんに聞いたことがあるわ(注2)。
おじいちゃん:ミクちゃんのいうとおりだと、おじいちゃんも思うよ。ところが現実には、日本を例にしていえば、前にも話したことがある(3月号)ように、派遣を打ち切られた労働者の人たち、75歳以上というだけで差別的な医療しか受けられないお年寄りたち、介護が必要なのにお金がかかりすぎるという理由で十分に受けられない人たち、障害があって手助けを必要としているのにやはりお金がかかりすぎるという理由で手助けが受けられない人たち、年をとって身近なサポートが必要なのに過疎化がどんどん進んで病院に行くこともままならない農村の人たちなど、政治の貧しさによって、人間としてふさわしい生き方、人間の尊厳を奪われる人がどんどん増えている。
このような日本が平和な世の中、社会と言えるだろうか。
はるき:どうしたら平和な世の中、社会を作ることができるのかな。
おじいちゃん:いろいろなことを考える必要があると思う。
 何よりも大事なこととして、はるき君やミクちゃんが、世界や日本で人間としてふさわしい生き方ができないでいる人々がいるということがあってはならないことだ、という気持ちをしっかり持ってほしい。
すべての人が自分の尊厳を実現できる世の中、社会にし、平和をしっかりと根づかせるために、はるき君とミクちゃんに是非がんばってほしいな。
はるき・ミク:そうだね、がんばらなくちゃ。
おじいちゃん:次に、日本と世界を平和な世の中、社会にするためには、日本と世界がどうなっているかについて正しい知識と判断する力を身につけることもとても大切だ。
お医者さんと同じで、診断がまちがったら病気は治せないし、かえって悪くなってしまうことだってあるだろう。
日本と世界の進む方向について正しい診断をするためには、社会科の勉強はとても大切だし、『ちゅーピー子ども新聞』もよく読んでね。
ミク:子どもの時から世の中、社会のことに関心を持つことが大切なのね。
おじいちゃん:そう、はるき君とミクちゃんは、日本と世界の将来に背負う大切な主人公だから、おじいちゃんはとても期待しているんだよ。

(家族の方へ)
1.世界銀行の報告書「世界開発指標(WDI)2007」によれば、1日1ドル未満で生活する最貧困層の割合は2004年に世界人口の18.4%に減少して推定9億8500 万人となり(1990年当時の最貧困層総数は12億5000万人)、1日2ドル未満で生活する貧困層の割合も低下しているそうですが、それでも2004年の時点で、途上世界の人口の半分近くに当たる推定26億人がまだ1日2ドル未満の状況を脱していないとのことです。
2.生存権を定めた憲法第25条

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