小学生と考える「平和教室」(「「核兵器」について考えてみよう」)

2009.06.20

*中国新聞が発行している子ども新聞での「平和」教室第3回(6月)です(6月20日記)。

祖父:広島と長崎に原爆が落とされて、今年は64年目に当たるんだよ。
はるき:原爆が落ちたときにお母さんのお腹の中にいて被爆して、原爆小頭症(注1)で生まれた人たちがいるんでしょう。その人たちを中心にして作った「きのこ会」(注2)という会があって、3月に64歳の誕生会を開いたというお話をお母さんから聞いたよ。
祖父:そう、その人たちは一番若い被爆者だろうね。被爆者の平均年齢はもう75歳を超えているんだよ(注3)。そして今もなお、原爆が原因となって起こるいろいろな癌や、肝硬変その他の病気で亡くなられている。本当に原爆などの核兵器ほど恐ろしい兵器はこの世の中に他にはないことが分かるね(注4)。
ミク:どうして核兵器がなくならないのかしら。
祖父:おじいちゃんの見方が正しければ、二つのことが大きな原因だったと思っている。 一つは、原爆を使ったアメリカが、広島と長崎に原爆が落とされたことによってどれだけ多くの人たちが死の恐怖・苦しみを強いられたかについての報道を厳しく取り締まったということがある(注5)。
はるき:どうしてそんなことをしたのかな。
祖父:それは二つ目の原因と関係するよ。
二つめに、アメリカは核兵器をなくすことを考えてなくて、その後もどんどん開発していったんだ。
逆にアメリカは「原子力の平和利用」という考え方を宣伝して、人々の核に対するイメージを変えようとしたんだよ。
ミク:そんなことうまくいったのかしら。
祖父:おじいちゃんがはるきくんやミクちゃんぐらいの頃は、『鉄腕アトム』というアニメが人気あった。「アトム」って「核」のことなんだよ。
ミク:そうなんだ!?
祖父:実はそうなんだ。でも、正義の味方の「アトム」という受け止め方が自然に人々の頭のなかに入っていったんだよ。
はるき:そういえば、最近では、地球の温暖化対策としてクリーンな原子力発電がいい、ってテレビのコマーシャルでも見たことがある。
祖父:そうそう。だから、世界中で原子力発電を進めると、核兵器の原料になるプルトニウムというものがどんどん生まれる(注6)から、結果的に核兵器が広がってしまう危険があるんだけどね。
 話を元に戻すと、広島、長崎の体験を二度と繰り返させない、という決意がすべての人々の理解になってはじめて、核兵器を廃絶するための真剣な国際的な取り組みが可能になるということだね。
ミク:「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」「ノーモア・ヒバクシャ」という訴えは、そういう決意をみんなで持とうということなのでしょう?
祖父:そのとおり。ミクちゃん、しっかり考えてるね。感心するよ。
核兵器ほど人間の尊厳を損なう兵器はない。核戦争こそ、人間の尊厳を根っこから否定するものだよ。人間にとって核兵器・核戦争は絶対になくさなければならないことだとみんなが正しく理解するとき、はじめて核兵器の廃絶、核戦争の否定ということにつながっていくんだ。
はるき:最近、アメリカのオバマ大統領が核兵器の廃絶について口にした(注7)って、お父さんとお母さんが話していたけど、アメリカの核兵器についての考え方が変わってきたということなの?
祖父:はるきくんもよく勉強してるねえ。
 確かにオバマ大統領は、「核兵器を使用したことがあるただ一つの国として、アメリカには道徳的な責任がある」と言っている。広島、長崎とははっきり言わなかったけれど、原爆を使用したことについてアメリカに「道徳的な責任」があることを認めた大統領は、オバマがはじめてだから、それは確かに一つの前進だね。
それに、アメリカは、ロシアと2カ国で世界の核兵器の95%以上を持っている国だから、アメリカが核政策を変えるかどうかは、とても重要な意味を持つんだよ。
はるき:オバマ大統領は、ヒバクシャにお詫びを言っているということなの?
祖父:そのような受け止め方をする向きもある。けれども、オバマは、アメリカは「間違っていた」とまで言ったわけではないんだ。
 その証拠にオバマは、自分が生きている間に核兵器がなくなることはないとか、これまでのアメリカの核政策をこれからも続けるとも言っているんだよ。
ミク:核兵器をなくすために、広島にいる私たちは何をしたらいいのかしら?
祖父:さっきも話したように、広島、長崎を繰り返してはならない、人間と核兵器は一緒にやっていけない、という考え方が、アメリカを含めた世界の人々に受け入れられるようにならなければ、核兵器をなくすことにはつながらない。
ミク:はい、そのことはよく分かったわ。
祖父:そのためには、二つのことに、ミクちゃん、はるきくんも含めた広島の人たちが目の色を変えて取り組む必要がある。
 一つは、広島の「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ヒバクシャ」の訴え、つまり核兵器はなくさなければ本当の平和は実現できないという声が、日本中の人たちに納得されて、日本の訴え・声になるようにしなければならない。
 はるきくんやミクちゃんには分からないだろうが、広島の訴えはまだまだ日本の訴えにはなっていないんだ。
はるき・ミク:それって、どういうこと?
祖父:少し二人にはむずかしいことだけど、日本はアメリカの核兵器で守ってもらっている(注8)んだから、「平和を守るためには核兵器は必要」と考える人も沢山いる。そう考える人たちに広島の訴えを理解してもらうことは決して簡単なことではないんだよ。
 広島が目の色を変えて取り組まなければならないもう一つのことは、はるきくんやミクちゃん、そして広島の人たちがもっともっと声を張り上げて、「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ヒバクシャ」を世界中の訴え・声にして、アメリカのオバマ大統領もその訴えに耳を傾けるようにしていくことだよ。
 おじいちゃんは、はるきくんやミクちゃんのような広島、日本の将来を背負っていく子どもたちに本当に期待しているよ。
 今日はこのぐらいにしておこうか。次は、「いじめ」という二人にも身近な問題から、「平和」について考えることにしよう。

  (注:家族の方のために)

1 原爆小頭症のほとんどは、被爆当時妊娠4ヶ月以内の胎児であった方に現れています。原爆小頭症に関しては、山代巴編『この世界の片隅で』(岩波新書)ではじめて市民向けに報告されました。
2 「きのこ会」については、例えば女優の斉藤とも子さんが書かれた『きのこ雲の下から、明日へ』(ゆいぽおと)を読んでみてください。
3 2008年7月24日付の中国新聞によると、「被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者の平均年齢が3月末時点で75歳を超えたことが23日、厚生労働省のまとめで分かった」とのこと。
4 原爆がどんなにひどくて残酷な被害を広島、長崎そして被爆者に押しつけたかについては、鎌田七男先生の『広島のおばあちゃん』、那須正幹先生の『絵で読む 広島の原爆』が易しい文章で詳しく説明しているのでお薦めです。平和記念資料館で求めることができます。
5 1945年9月から米占領軍が行った原爆関連の報道を厳しく取り締まったプレス・コードのこと。アメリカが原爆の放射線被害の恐ろしさを広く知られないようにするために取り組んだ実情については、広島平和研究所の高橋博子さんの『封印されたヒロシマ・ナガサキ』(凱風社)を読んでください。
6 現在主流の軽水炉型原子力発電所は、低濃縮ウランを燃料にしていますが、副産物としてプルトニウムを生み出します。
7 4月5日にオバマ大統領がチェコのプラハでアメリカの核政策について演説しました。
8 アメリカの「核の傘」という考え方です。

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