小学生と考える「平和教室」(「「戦争」について考えてみよう」)

2009.06.20

*中国新聞が発行している子ども新聞での「平和」教室第2回(5月)です(6月20日記)。

ミク:人と人が殺し合う戦争は絶対にいけないことだと思う。
はるき:僕もいけないことだと思う。でも、世界中で戦争が起こっている。どうしてなんだろう。
祖父:ミクちゃんの言うことはとても素直な見方だと思う。でも、はるきくんのように戦争について迷ってしまう子もたくさんいると思うよ。今日も一つ一つ考えていこうか。
はるき:なぜ世界で戦争がなくならないのかな。
祖父:それを考える前に、「戦争」という言葉の意味について考えておく必要があるよ。
 昔は国際的な規則(注1)に従えば、どの国も「戦争」をすることはいけないことではなかった。この前も話した1945年の国連憲章ではじめて国として行う「戦争」が禁止されたんだよ(注2)。
はるき・ミク:そうなんだ。
祖父:しかし、どんな形の戦いもいけないと決めたわけではないんだよ。国際的な平和や安全を破壊したり、脅かすものに対しては、国連自身が軍事力を使って取り締まるという考え(注3)なんだよ。
ミク:それも戦争ということですか?
祖父:う~ん、そうは言わないね。例えば、日本の中で起こった事件を警察が解決するよね。国際的には、その警察のようなことを国連がするという感じかな。
ミク:つまり、国連は国際的な警察ということね。
祖父:そうだね。
国連がすぐに対応できないときは、攻められた国を守るために、その国や仲間の国が一緒になって攻撃してきた国に必要な反撃をすることも国連憲章で認められているんだよ(注4)。
はるき:それは戦争でしょう?
祖父:さっきも言ったように、国連は「戦争」を禁止した。しかし、自分の身を守るための戦いまでをも禁止したわけではない、ということだね。ただ、そういう場合でも、「湾岸戦争」(注5)のように、戦争という呼び方がされていることは、はるきくんの言う通りだな。
 また、世界のあちこちで同じ地域に暮らす民族の間で問題が起こって軍事衝突になってしまう。イラク戦争(注6)のように、世界一大国の米国が国連を無視して勝手に戦争を始めると、誰も止められなくなる。これらの場合にも戦争という言葉が使われているね。
 はるきくんが言う戦争とは、そういういろいろな形の軍事的な衝突のことを指しているわけだ。
はるき:で、どうして戦争がなくならないのかな?
祖父:戦争が起こってしまう原因はいろいろだ。貧しさとか、民族的、宗教的な対立とかね。そういう原因の一つ一つについて、話し合いで解決するための国際的な仕組みが十分にできていないんだ。
ミク:国連はそういう問題を話し合いで解決するためにあるのではないの?
祖父:そうだね。でも実際には、国連がそれだけの力を持っていないということだね。例えば国連の予算だけど、世界の国々が分担してお金を出すことになっているんだ。しかし、全部で70-80億ドルぐらいなんだ(注7)。
はるき:それは多いの?少ないの?
祖父:そうだね。普通の人にはとても多いお金に思えるかも知れない。それだけのお金で何ができるのか、なかなか考えにくいよね。一つ例を出して考えてみよう。
広島県の08年度の予算は96億ドル(注8)。国連の使えるお金は、広島県よりも少ないんだ。
これで世界のすべての問題に取り組むと言ったって、とても無理だって分かるだろう?
ミク:そうなんだ。もっと国連にお金がつくようにすればいいのに。
祖父:うん。確かに世界の軍事費が2007年度で1兆3390億ドル(約140兆円 注9)だから、途方もない額のお金が戦争のために浪費されている。その一部でも戦争の解決のために使うようにしていかなければならないね。
はるき:どうしてそんなにたくさんのお金が軍事費に回ってしまうの?
祖父:世界一大国の米国が世界の軍事費の45%を占めているんだ。そうなると、他の国々も何かあったときに怖いから、と思うようになるだろう。そういうことで、なかなか軍事費を減らそうということにならないのだよ。
ミク:それでは、これからも戦争はなくならないということなんですか?
祖父:そう簡単にあきらめないで。
 たとえば、国連のあり方は1945年に決まったまま基本的にあまり変わっていない。第二次世界大戦に勝ったときの大国だった米国、英国、フランス、ロシア、中国が特別大きい力を与えられている(注10)。
 しかし、この前話したように、国際社会は、人間の尊厳が本当に実現するように、少しずつではあるけれど、変わってきているし、これからも粘り強く変えていくようにしていかないといけないんだよ。
はるき・ミク:そうだね。分かりました。
祖父:人間の尊厳を奪いあげる戦争というものは、絶対になくさなければならない暴力だよね。国連憲章で「戦争」を禁止したことも、非常に大きな意味を持っているんだよ。
はるきくんやミクちゃんには、戦争がなくならないと、人類の明るい未来はないということをしっかり胸に刻んでほしいな。 では、次は核兵器の問題を考えることにしようか。
はるき・ミク:広島の子どもとして、ぜひ聞いておきたいです。

  (注:家族の方のために)

1 「国際的な規則」とは戦時国際法のことです。
2 国連憲章第2条4は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも…慎まなければならない」と定め、「戦争」を違法化しました。
3 「集団安全保障」といいます。
4 憲章第51条の「個別的及び集団的自衛権」のことです。
 日本の刑法が個人に正当防衛や緊急避難の権利を認めているように、国際法でも国家に自衛権があることを認めています。ただし乱用されてはいけないので、「急迫不正」の侵害がある場合、他に手段がないとき、必要最小限の範囲に限って対抗手段を取ることが認められます。
5 1990年にイラクがクウェートを侵略したことに対して、アメリカなどは1991年に集団的自衛権を行使して、イラクを撃退しました。
6 2003年にアメリカは、イラクが大量破壊兵器を保有しているという理由(事実ではなかったことが明らかになった)でイラクに戦争を仕掛けました。国連は、アメリカが軍事力を行使することを最後まで認めませんでした。
7 国連の予算は、通常予算と平和維持活動(PKO)関連の予算とから成り立っています。2009年度の通常予算は約29億ドルです。PKO関連の予算は年度によってばらつきがありますが、近年は40-50億ドル程度です。
8 広島県の平成20年度の歳入額は9427億円ですから、1ドル=98円とすると、約96億ドルになります。
9 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によります。
10 米英仏露中の5カ国は、安全保障理事会の常任理事国として、国際の平和と安全に関わる問題に関して拒否権という強力な権限を与えられています。どの一国が拒否しても国連としての決定はできませんし、5カ国が一緒に行動するとどんな決議でも作ることができるという極めて危険なことにもなります。

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