小学生と考える「平和」教室(「人間の尊厳」って昔からあったの?)

2009.04.11

*中国新聞が発行している子ども新聞での「平和」教室第1回です(4月11日記)。

はるき・ミク:おじいちゃん、こんにちは。
祖父:こんにちは。今日は、この前話した『人間の尊厳』が広く認められるようになるまでにどれだけの時間がかかっているかということを見ておこうか。
はるき・ミク:なぜそんなことを見ておく必要があるの?
祖父:「一人ひとりの人間のかけがえのない大切さ」つまり「人間の尊厳」という考え方が当たり前として受け入れられるのに、とても時間がかかっていることを知れば、はるきやミクちゃんにもその考え方がとても大事だと分かってもらえると、おじいちゃんは思うからだよ。
「一人ひとりの人間のかけがえのない大切さ」ということが当たり前という考え方が受け入れられるようになるのは、1776年にアメリカが独立(注1)し、1789年にフランスで革命(注2)が起きた時にまでさかのぼるんだ。
はるき・ミク:それってどういうこと?
祖父:昔は奴隷がいたということは知っているよね?
はるき・ミク:ええ、知っています。
祖父:奴隷は、牛や馬と同じように売り買いされたし、人間として認められていなかった。
「はるきとミクちゃんの命はほかのだれによっても代わりが利かない大切なもの」、「この世の中に生まれた一人ひとりのどの命も要らないものはないということ」が当たり前のこととして認められるようになるまでには、200年以上の時間がかかっている。
はるき:もう少しくわしく話して。
祖父:1776年のアメリカや1789年のフランスでは、確かに「人間は平等だ」ということを宣言したんだけど、「人間」として認められたのはお金持ちで、白人で、大人である男性だけだったんだ。
19世紀に入ると、選挙つまり政治に参加する資格(注3)について、お金持ちであるかどうかで人間を差別するのはおかしいという考え方が認められるようになった。
そして20世紀に入ってやっと、やはり選挙について、男か女で差別があるのはおかしいという考え方が受け入れられるようになっていくんだ(注4)。
しかし、白人だけでなく、すべての人間は人間として大切に扱われなければならないという考え方が受け入れられたのは1945年に国連憲章という国際的にもっとも重要な条約ができてからなんだよ(注5)。
ミク:大人ではない子どもはどうなんですか?
祖父:いいところに気がついたね。そのことを考えるためには、「子どもの権利条約」(注6)のことを話しておく必要がある。
ミク:名前は聞いたことがあります。
祖父:この条約は、「子どもにとって一番いいことは何かということを考えなければならない」(注7)という考え方が中心にあって、それは子どもの「人間の尊厳」を大切にしなくてはならない、ということなんだ。
 日本の社会特に学校は、子どもの人間らしさを伸ばすことよりも、校則などで「あれもいけない」「これもいけない」と押さえつけることが多いと、おじいちゃんは見ている。
こういうことは、子どもの「人間の尊厳」を大切にしないことだ。だから、この条約の内容をしっかり実現する社会、学校にしていかなければならないと思うよ。
はるき:最近、障害のある人の権利についての条約(注8)もできたって、お父さんとお母さんが話していたのを聞いたけど。
祖父:そうそう。子どもの尊厳を扱っているのが「子どもの権利条約」であるように、障害のある人の尊厳を扱っているのが「障害者権利条約」なんだ。
子どもも障害のある人も、人間としてかけがえがなく、大切なことに変わりはないのだから、本当は条約を作るまでもないことだ、という考え方もある。
しかし、実際には「子どもだから」、「障害がある人だから」ということで人間扱いされず、差別されることが多いんだ。だから、こういう条約を作って、子どもや障害のある人の「人間の尊厳」を大切にしなければいけないし、差別してはいけないことをはっきりさせようということになって、この二つの条約ができたというわけなんだ。
はるき・ミク:うん、うん。
祖父:だから、「人間の尊厳」という考え方自体は、1945年の国連憲章で国際的に認められたのだけれど、その後も、実際には人間としての扱いを受けられない心配のある人たちについて、国際条約で「人間の尊厳」をしっかり守るための取り組みが行われてきているんだよ。
はるきとミクちゃんに覚えておいてほしい国際条約としては、子どもと障害のある人についての条約のほかに、女性についての「女子差別撤廃条約」(注9)があるね。
時間的にいえば、この条約がまずできて、その次に子どもの権利条約ができ、最近になって障害のある人についての条約ができたということだよ。
はるき・ミク:人はみんな大切という考え方が当たり前になるまでには、ずいぶん時間がかかってきたことが分かった感じがする。
祖父:それはよかった。
でも、この前話したように、社会にはまだまだいろいろな差別がいっぱいあり、「人間の尊厳」が奪われている人たちがたくさんいるのだから、みんなで差別のない社会を作っていく努力をしていかないとね。
 それでは、今日はこれぐらいにして、来月は戦争の問題について話すことにしようか。

(注:家族の方のために)
1 アメリカの独立宣言には「すべての人間は平等につくられている」という有名な下りがあります。
2 1789年8月のフランスの人権宣言の第1条は、「人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する」と定めます。
3 普通選挙権のこと。
4 図表参照(注:ここでは省略します。)。
5 国連憲章は、前文で「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し」と述べます。
 また第1条では、「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく」ことを目的として掲げ、植民地が独立する法的基礎を明らかにしました。
6 1989年に発効。日本は1994年に批准。
7 子どもの権利条約の前文は、冒頭で「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認める」と述べます。
そして第3条1では、「子どもに関するすべての措置をとるに当たっては、…子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする」として、子どもの人間としての尊厳が尊重されなければならないことを明らかにしています。
8 「障害のある人の権利条約」のこと。2008年5月3日に発効。日本はまだ批准していません。この条約の前文も「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利」を唱っています。
9 1981年に発効。日本は1985年に批准。

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