小学生と考える「平和」教室(入り口)

2009.03.15

*私は、2007年に高校生を主な読者と想定して「平和」をテーマにした本(『国際社会のルール① 平和な世界に生きる』)を出しました。その後、もっと若い層(小学生)を対象にして「平和」を語る機会がないかな、と漠然と思っていました。そうしましたら、中国新聞社の方から、小学生を対象に月1回発行している『ちゅーピー 子ども新聞』(無料で小学生及びその家族向けに出しているとのこと)で、「平和」をテーマにして1年間書かないか、というお誘いがありました。私としては、喜んで書かせてもらうことにしました。ということで、シリーズとしては4月からなのですが、3月号はその入り口として、「平和」とはどういうことなのかについてなるべく分かりやすさを心がけて書いてみました。実際に紙面化された表現は私の書いたものと違っていたところもありますが、ここでは私の原稿版を載せます。このコラムを訪れてくださる方も、お子さんやお孫さんに「平和」についてお話になることもあると思うので、軽い気持ちで一読して頂けたら、と思います(3月15日記)。

はるき:おじいちゃん、こんにちは。今日は、聞きたいことがあって、お友だちのミクちゃんと一緒に来たんだ。
ミク:こんにちは。おじゃまします。
祖父:よく来たね。おじいちゃんが答えられることなら、喜んでお手伝いするよ。
はるき:きのう、学校の総合学習の時間に「平和の大切さ」について、原爆の絵(注1)を見て学習したんだ。原爆の恐ろしさはよく分かったし、戦争はいけないことだと思った。でも、授業の終わりに先生が、だから「平和は大切」と言ったのがあまり分からなかった。
ミクちゃんに「先生の言った意味、分かった?」と聞いたら、「平和は大切って、よく分からない」というんだ。
ミク:私は、お母さんと一緒に原爆資料館(注2)に行ったこともあるし、昨日も原爆の絵を見たときに、「戦争はいけない」という気持ちになりました。
でも、「なぜ平和は大切なんだろう」と考えると、とてもむずかしいと感じてしまうんです。「平和」ということを毎日考えることもないし。
祖父:なるほど。たしかに、「平和」って言葉は、身の回りのこととは関係ないように見えるからね。「私は幸せです」とは言っても、「私は平和です」とは言わないよね。
 では、一つ一つ考えていって見ようか。
 人の命を奪う、殺すことはいけないことだってことは分かるよね。
はるき・ミク:分かります。
祖父:なぜいけないんだろうか?
はるき・ミク:人の命は大切だからでしょ?
祖父:そうだね。はるきやミクちゃんという命はこの世の中でたった一つしかない大切なものだよね。
 この地球上には、約66億1590万人(注3)の人々がいると言われている。そんなにたくさんの人がいるのに、誰一人として、はるきやミクちゃんとまったく同じ子はいないんだよ。このことって、とてもすごいことだし、すばらしいことだと思わないかい?
 つまり、はるきとミクちゃんの命はほかのだれによっても代わりが利かない大切なものなんだ。そして、この世の中に生まれた一人ひとりのどの命も要らないものはないということだよ。分かるよね。
少しむずかしいけど、一人ひとりの人間のかけがえのない大切さということを「尊厳」と言う。覚えてくれる?
はるき:そういうこと、今まで考えたことがなかったけど、たしかにすごいね。自分のことだけでなく、他の人たちのことも大切に思わなければいけないね。
ミク:私も、世界に66億もの人がいて、その一人ひとりがかけがえのない命、尊厳をもっているということを考えたこともなかったわ。
祖父:ところが、世界では今も各地で戦争が起こっていて、はるき、ミクちゃんとおじいちゃんがこうして話をしている時にも、多くの人々や子どもがかけがえのない命、尊厳を奪われているんだ。
 また世界では、貧しいために飢えて死んでいく子どもや赤ちゃんも少なくないんだよ(注4)。
はるき:そういえば、この前のテレビのニュースで、イスラエルの攻撃でパレスチナの子どもたちが400人以上殺されたって、お母さんが悲しそうにつぶやいていた(注5)。
ミク:私も、アフリカの戦争で難民になった人たちが食べるものもなくて、子どもや赤ちゃんが栄養失調になっているのをテレビで見て、とても悲しかった。
祖父:そういう悲しいことは決して人ごとじゃないんだよ。
 はるきもミクちゃんもテレビのニュースで見たことがあると思うけど、今世界や日本の経済がとてもひどいことになっているんだ。
日本でも多くの人が仕事を失って住むところも追い出され、こんなに寒い冬なのに、ホームレスになった人が増えているんだ(注6)。
 また、おじいちゃんよりもっとお年寄りの方(注7)や、障害のある人(注8)、交通の不便な農村に住んでいるお年寄り(注9)など、人間らしい生活を送ることができない人たちが数多くいることも考えないとね。
はるき:でも、日本は世界でもお金持ちの国なんでしょ。どうしてそんなことになっちゃうのかな。
ミク:私たちに何かできることはないかしら。
祖父:はるきやミクちゃんがそのように考えるってすばらしいことだと思うよ。一人ひとりの人間はみんなかけがえのない命、尊厳を持っており、その命、尊厳は大切にされなければいけない。
また、人間は誰も一人では生きていくことができない。だから、みんながお互いのことをいたわり、大切に思い合うことがとても大事なんだよ。
 そしてね、はるきもミクちゃんも、そして世界中の66億のすべての人々が幸せに生きていくこと、命、尊厳を全うできるようになることが、「平和」ということなんだよ。
はるき:そうか。原爆の絵を見て「平和の大切さ」を学んだことの意味が少し分かった気がする。
広島では1945年の終わりまでに14万人の人々が原爆で殺され(注10)、その後も今日まで多くの被ばく者が放射線のために癌などの病気で亡くなっているんだよね(注11)。
原爆が落とされなかったら、多くの人たちが命や尊厳を奪われることはなかったはずだものね。
ミク:そうね。原爆資料館を見たり、原爆の絵を見ることで、あのような残酷なことが絶対にあってはならないと思ったけど、それは平和が奪われることがあってはいけない、ということだったのね。
祖父:そのとおり。原爆(核兵器)は、人間の命、尊厳を奪い取る絶対にあってはいけない兵器だよ。
 しかしね、これまで話してきたように、人間の命、尊厳を奪うものは原爆(核兵器)だけではない。つまり、平和をこわすものはほかにもいろいろあるんだ。そういう問題についてもよく考えることがとても大切なんだよ。
 これから、はるきとミクちゃんと一緒に、一月に1回ずつ「平和」についていろいろ考えてみようじゃないか。
はるき:おじいちゃんの話しは分かりやすいので是非お願い。ミクちゃんはどう?
ミク:私もよい機会だから、お願いします。
祖父:よしよし。おじいちゃんも二人が分かりやすいと思える話を心がけることとしよう。
来月はまず、人間の命、尊厳が広く認められるようになるまでの歩み、歴史を考えてみようか。
はるき・ミク:お願いします。では来月また来ます。さようなら。

(注:家族の方のために)
1 『図録 原爆の絵』(岩波書店)がお薦めです。
2 正式の名前は「平和記念資料館」です。
3 国連人口基金が2007年6月に発表した世界人口白書2007年度版に載った数字です。
4 少し古い数字ですが、2000年の国連総会で採択された「国連ミレニアム開発目標」では、5歳未満の子ども約1000万人が防ぐことが可能な病気で毎年死亡している、という推定を行っています。
5 中国新聞によれば、2008年末から2009年1月19日までで、イスラエルの攻撃で約400人のガザの子どもの命が奪われました。イラク・ボディ・カウントが2008年12月15日に発表したイラク戦争による民間人の死者数は、最小で89,878人、最大で98,130人です。
6 派遣労働者の「雇い止め」の問題です。
7 後期高齢者医療制度で多くのお年寄りが十分な医療を受けられなくなっています。
8 障害者自立支援法によって、障害のある人たちが厳しい生活に追い込まれています。
9 多くの過疎の村では、多くのお年寄りが生活を満足にできない状況に追い込まれています。
10 鎌田七男『広島のおばあちゃん』は、原爆、核兵器の本当の恐ろしさを誰にでもよく分かるように書かれたお薦めの本です。
11 『広島のおばあちゃん』41ページに載っているグラフを載せておきます(浅井注:このコラムでは省略させて頂きます)。

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