オバマ政権に対する政策提起のIHT紙所掲文章(3)
 -「核兵器削減:核兵器を好きにならないように学ぶこと」-

2009.02.26

*この文章の筆者であるフィリップ・タウブマンは、かつてニューヨーク・タイムス紙のモスクワ及びワシントン支局長を務めた人物であると紹介されています。内容的には過去を引きずっています(朝鮮やイランに対する抑止力の有効性を認め、結論的には核兵器数の削減しか具体的内容がない竜頭蛇尾になっていることなど)が、核抑止論にしがみつく官僚機構を批判し、核兵器に関わる冷戦的発想をやめることを正面から主張している点は注目に値すると思います。長い文章なので要旨を紹介します。(2月26日記)。

オバマ政権は、ロシアとの関係を蘇生させる用意があるように見える。その中には核兵器削減交渉を再開することが含まれている。就任パレードが始まる前にも、ホワイトハウスのウエブ・サイトは兵器製造物質をより安全にすることから究極的な核兵器廃絶までの野心的な核政策目標リストを掲げた(「コラム」のhttp://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/267.html参照)。
 これは歓迎すべきニュースだが、それらの目標を実現するためには、ホワイトハウスは、核時代を想像し直し、再構築する用意、そして、強い反対に抗して、冷戦的発想を突き破り、アメリカが今日直面している脅威により有効に向き合う用意が必要だろう。
 (ブッシュが2002年にロシアとの核兵器削減協定を結んだのは、核兵器がアメリカの国防にとっての特効薬であるとしながらも、急速に変化しつつある脅威に対処するための核政策の再調整が必要という認識を示した2001年12月の核態勢報告に基づいていた、と指摘しつつ、そうした核兵器に関する)ブッシュのイニシアティヴは、アフガニスタン及びイラクでの戦争、テロリズムの脅威への没頭そしてロシアとの関係が徐々に壊れたことによって影を潜めてしまった。
 ブッシュのロシアとの協定は、…オバマ大統領の出発点だ。しかし、次のレベル(即応可能な兵器数1000があり得る目標だろう)について決めるよりも、ホワイトハウスは、核兵器戦略の全体的上部構造を再検討するべきだ。
 これは易しいことではない。核にかかわる官庁の役人は、様々な軍事的脅威に対する最終的防衛は精力的な核兵器庫であるという考えに立脚する念入りな抑止理論の虜になったままである。
 アメリカの核兵器は今なお北朝鮮や核武装に走るかもしれないイランのような国からの攻撃を抑止する希望を与えていることは確かだ。しかし、核兵器を作って、ニューヨーク、ワシントンあるいはロサンジェルスで爆発させようとする、捕らえにくい国家を持たないテロリストをどうしたら思いとどまらせるかとなると想像もしにくい。
 核抑止から離れるための挑発的なロード・マップは冷戦の指導者である側から出されている(キッシンジャーたちの提案を紹介)。この4人組ですら、「ゼロに行くこと」は極端にむずかしいだろうと認めている。しかし、今日における問題は、核兵器の廃絶が実行可能かどうかということではない。それは遠い目標である。
 実現可能な直近の目標は、米ロの核兵器保有量を、通常兵力を防ぐ防波堤となるのに必要とされるぎりぎり最小限にまで削減することでなければならない。これら二国がほとんどの核兵器を持ち続ける限り、アメリカが他の国に対し、彼らの保有量や核兵器開発努力について説教しても偽善に見える。米ロが保有するべき核兵器の最小限の数については、専門家の間でかなりの見解の違いがある。…その数を1000以下に持って行くには断固とした大統領のリーダーシップが必要だ。
 大統領の決意は、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する上院の批准のために彼がどれだけ効果的に説得できるかで計られるだろう。指導的な科学者たちによれば、過去10年間の技術的進歩により、この条約で禁止される地下実験を国際的なモニタリングが探知し、所在を突き止めることができるかについての疑いは払拭されたということだ。科学者たちによれば、地下実験をしないでも核兵器の有効性を維持する技術的エキスパティーズ及び手段をアメリカは持っているという。CTBT批准は、2010年のNPT再検討に向けたモメンタムを作り出すのにも役立つだろう。
 オバマと彼の国家安全保障チームが核兵器政策を重視し、冷戦時代の核神学特有の惰性から自由にしようとしているということは元気づけられる。今は、言葉を行動に移さなければならない。

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