オバマ大統領就任と日米中関係

2009.02.13

*毎日新聞の「新聞時評」に載せた短文の原文です (2月13日記)。

オバマの大統領就任演説及び就任早早の動きは、本紙をはじめ日本国内でも大きく取り上げられた。史上最悪といわれるブッシュ政権の内外政策(「対テロ戦争」、メルト・ダウンしたアメリカ経済など)、ブッシュが見向きもしなかった諸課題(地球温暖化、核軍縮など)の重みを考えれば当然の扱いだ。
 私が本紙をはじめとした各紙の報道を見ていて気づいた中で、ここでは二つ取り上げておきたい。
 まず、オバマ新政権発足を機に、日本がアメリカとどうかかわっていくべきかについての積極的な政策提言がほとんど見られなかったことは残念だった。私は、本紙、朝日、中国、長崎、神奈川、沖縄2紙及び赤旗を読んでいる。オバマ就任にかかわる社説・論説は各紙が出したが、明確に日米関係に言及したのは中国新聞(22日付。核兵器廃絶問題に絡めて)と沖縄タイムス(23日付。基地問題について)だけだった。日米関係、アジア太平洋情勢ひいては世界情勢に多大な影響を及ぼす日米軍事同盟についての論及が皆無だったのは残念だったし、異常ですらある。
具体的外交課題に深入りしなかった就任演説に対する評価である以上仕方ない、といえばそれまでだが、アメリカが未曾有の試練に直面している今、アメリカに引きずられて大不況に突入しているとは言え、世界第二の経済大国である日本が、ひたすらアメリカの出方を見守るだけ、というのはいかがなものか。しかも、オバマは、アメリカが引き続き世界をリードすると公言し、クリントン国務長官は早々と日米同盟は堅持といっている「旧思考」ぶりなのだ。
日米軍事同盟が潜在的脅威と見なすのは、米日が手放そうとしない台湾をめぐって戦争相手と想定する中国の存在であることは、専門家の間では常識である。オバマ新政権の政策アジェンダでも、上院外交委員会でのヒラリー・クリントンの発言でも、中国に対する根強い警戒感がにじみ出ている。
クリントン時代に始まり(ナイ・イニシアティヴ)、ブッシュ時代に推進された日米軍事同盟変質強化のプロセスは、オバマ政権のもとでも不変と見るほかない。しかし、警戒的な対中観、それを根底に置く日米軍事同盟及び日米中関係のあり方は、20世紀の冷戦思考の遺物であり、「変革」を掲げるオバマ政権のもとで根本的見直しが迫られていることを強調したい。
紙幅が限られたので、もう一つ気がついたことについて簡単に触れる。本紙は、9日(「世界を読む」)、10日(「米中国交樹立30周年」)、16日(中台の2人の学者の論考)、26日(中国国防白書に関する社説)、28日(中国の対米専門家の米中関係に関する見方)など、中国に関する報道に大きな紙面を割いていた。いずれもいたずらな決めつけ・偏見はなく、冷静に中国内政、中台関係、日米中関係を考える上で参考になる内容だった。
こういう中国関係報道が定着すれば、21世紀にふさわしい中国の国際的位置づけ、健全な中国観を育み、日米中関係で日本が積極的な役割を果たす前提になる主体的対中認識を養うことに役立つ。本紙には今後も、この種の中国報道に力を入れることを期待したい。

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