朝鮮半島の非核化の条件:朝鮮の立場

2009.02.09

*朝鮮外務省は、1月13日に朝鮮半島の非核問題について朝鮮側の立場を明確にする談話を発表しました。その内容は、2005年9.19合意に基づく全朝鮮半島の非核化の枠組みのもとでおいてのみ(つまり南北双方の完全な非核化が実現する状況においてのみ)朝鮮の非核化は実現すること、朝鮮側に対して一方的に行われる検証要求は「行動対行動」原則にもとるものであって受け入れ不可能であること、そのことをまとめてもっと具体的にいえば、「米国の核脅威が除去され、南朝鮮に対する米国の核の傘がなくなるとき、われあわれの核兵器も不要となるであろう」という朝鮮の立場をきわめて明確に示したものとして、注目されるものです。
 これは、オバマ政権のもとでも、あたかも朝鮮の検証可能な非核化実現のみが問題のすべてあり、朝鮮が非核化に応じれば、アメリカの対朝鮮政策の見直しに応じるというような論調が横行していることに対して、9.19合意の原点(全朝鮮半島の非核化)を想起させることによって、そのようなアメリカ側の立場は9.19合意からの逸脱であり、朝鮮としては決して受け入れないという姿勢を改めて確認するものです。そして、アメリカ国内では、あたかも朝鮮の核保有が問題の出発点であり、その問題を解決することがアメリカの対朝鮮政策の転換(アメリカの最終的な対朝鮮敵視政策放棄、米朝平和条約の締結そして米朝国交正常化)を可能にするというような議論がまかり通っているが、それはまったくあべこべの議論であり、問題の根源にあるのは朝鮮戦争以来の60余年にわたる一貫した対朝鮮敵対視政策と核脅威であって、その「根源的な清算」がないかぎり、「100年を経てもわれわれが核兵器を先に投げ出すことはない」と念押ししています。
 オバマ政権がこのスポークスマン談話のメッセージを正確に踏まえた、つまり9.19合意に忠実な対朝鮮政策を採用するかどうかが今後の米朝関係、6者協議の行方を左右することは間違いないところだと思います。朝鮮はあくまで9.19合意に基づいた交渉を求めているのです。それはきわめて外交的に合理的であり、無理がありません。その点を私たちはしっかりと確認することが求められています。
 1月20日付の朝鮮新報のキム・ジヨン記者の記事は、外務省スポークスマンの談話の意味内容を理解する上で非常に参考となるものです。以下においては、朝鮮外務省スポークスマン談話とキム・ジヨン記者の文章を紹介しておきます(2月9日記)。

1.1月13日の朝鮮外務省スポークスマン談話

最近、米国で朝鮮半島非核化がまるでわれわれだけが核兵器を投げ出せば実現される問題かのように、世論をミスリードする誤った見解と主張が出てきている。
 朝鮮半島の非核化を実現して東北アジアと世界の平和と安全を守ることは共和国政府の終始一貫した政策である。
 われわれの誠意ある努力によって、2005年9月19日、6者会談において朝鮮半島非核化を最終目標と規定した共同声明が採択された。
 会談参加国間での自主権尊重と関係正常化を通じて段階別に朝鮮半島を非核化すること、これが共同声明の骨子である。
 6者は朝鮮半島の北半部ではなく全朝鮮半島を非核化することに合意し、このために米国はわれわれとの敵対関係を清算し核の不使用を保障し、南朝鮮に核兵器がないようにするということなどを公約した。
 われわれが9.19共同声明に同意したのは、非核化を通じた関係改善ではなく、まさに関係正常化を通じた非核化という原則的立場から出発したもの(強調は浅井。以下同じ)である。
 われわれが朝鮮半島を非核化しようとするのは、まず、過去半世紀の間持続されてきた、われわれに対する米国の核脅威を除くためである。
 米国の対朝鮮敵対視政策とそれによる核の脅威によって、朝鮮半島核問題が生じたのであり、核問題によって敵対関係が生じたのではない
 われわれが核兵器をまず放棄してこそ関係が改善されるということは、あべこべの論理であり、9.19共同声明の精神に対するわい曲である。
 共同声明に明示されているように全朝鮮半島の非核化は、徹底的に検証可能な方法で実現されるべきである。  米国核兵器の南朝鮮搬入と配備、撤収の経緯を確かめられる自由な現場接近が保障され、核兵器の再搬入や通過を正常に査察することのできる検証手順が用意されなければならない
 実践を通じて確証されたように、互いに信頼のない条件で9.19共同声明を履行することのできる基本方法は「行動対行動」の原則を遵守することである。
 検証問題でもこの原則が例外になりえない。
 「行動対行動」の原則にしたがって非核化が最終的に実現される段階に至り、朝鮮半島全体に対する検証が同時に行われなければならない
 米国の核脅威が除去され、南朝鮮に対する米国の核の傘がなくなるとき、われわれの核兵器も不用となるであろう
 これがまさに朝鮮半島非核化であり、われわれの変わらぬ立場である。
 米国の対朝鮮敵対視政策と核脅威の根源的な清算なしには、100年を経てもわれわれが核兵器を先に投げ出す事はないであろう。
 敵対関係をそのままにして核問題を解決するには、全ての核保有国が一堂に会して同時に核軍縮を実現する道しかない。

2.朝米「変革」のカギは同時行動 -オバマ政権の「非核化」の課題-

(2009年1月20日 キム・ジヨン記者)

 「変革」を提唱するアメリカに向かって朝鮮が同時行動原則を強調している。懸案である核問題について非核化実現の近道を提示している。

<検証問題の原則>

 オバマ政権の出帆を目前に控えて発表された朝鮮外務省スポークスマンの談話(1月13日)は、自主権尊重と関係正常化を通じた非核化を論じながら、「行動対行動」原則の貫徹を主張した。注目される内容は検証問題に関する立場の表明である。
 ブッシュ政権の末期の多者協議になった昨年12月の6者団長会談は、いわゆる核検証問題を取り巻く対立が原因で、非核化第2段階の完結時限を切ることができないで終わった。一部の参加国は、「試料採取」などを反映する検証議定書の採択を主張して、朝鮮に一方的行動を強要する旧態を繰り返した。
 一方、朝鮮側に膠着事態を傍観する意向はなかったようだ。自己に向けられた刃を反対につかみ、検証問題において逆攻勢を展開したのだ。外務省スポークスマンの談話は、全朝鮮半島の非核化は徹底した検証が可能であるように実現されなければならないと述べた。そして、ここでも「行動対行動」原則は例外にはできないと確言した。
 アメリカも検証を受け入れなければならないという論理だ。非核化の対象は北半分だけではなく、したがって「米国核兵器の南朝鮮搬入と配備、撤収の経緯を確かめられる自由な現場接近が担保」され、「核兵器の再搬入や通過を正常に査察」することができる「検証手順」が準備されなければならないと外務省スポークスマンは主張した。
6者団長会談においても、朝鮮は不当な検証要求を排撃し、「行動対行動」原則を固守した。新政権の出帆を前にした時点においてもその立場を再び強調した。6者の枠組み内において、朝鮮問題の関係国が一致した9.19共同声明(2005年)の合意精神を想起させたのだった。
声明は、核問題発生の原因が朝鮮とアメリカの敵対関係にあることを確認し、関係正常化を通じた非核化を問題解決の方式に定めた。交戦双方である朝米が同時行動を起こしながら段階別で信頼醸成と関係改善を実現することを確認した。

<核兵器放棄の条件>

 朝鮮が地下核実験(2006年10月)を断行し、6者会談が再開された以後も、ブッシュ政権は、対朝鮮対決強攻策で核問題を生じさせた。アメリカの責任をひそかに回避しながら、朝鮮側の行動に関心を集中させる世論操作を行った。朝鮮が動けばアメリカも行動することができるという論調を広めるための方便だったかもしれないが、その後遺症は大きかった。政権末期においては、核問題の直接的当事者ではない日本と南朝鮮が検証問題において朝鮮の一方的行動を要求し、障害を作り出したが、思い通りにすることはできず、非核化第2段階の仕上げにも失敗した。
 2009年に入って、朝鮮は非核化に対する意思を重ねて明らかにした。それは、3紙共同社説でも言及された。2012年に「強盛大国の大門」を開くという構想と結びついているとの観測も出ている。
 その間、6者会談の進展過程にも朝鮮の核兵器放棄意思を疑問視する論調はなかったわけではない。オバマ政権出帆を目の前にして発表された外務省スポークスマンの談話は、核兵器を捨てるための条件を明示した。「米国の核脅威が除去され、南朝鮮に対する米国の核の傘がなくなるとき、われわれの核兵器も不要になるだろう」という言明は、過去の6者会談における公式発言より一歩踏み込んだものだった。
 現在においても非核化第2段階完結の見通しは不透明であるが、協議が再開される可能性はある。
 外務省スポークスマン談話は、朝鮮側が検証それ自体を拒絶していないということを明らかにしているということだ。6者団長会談においては、第2段階すなわち核施設の無力化段階における検証手順に対する本格的な論議は時期尚早だという観点で協議に臨んだ。スポークスマン談話においては、「非核化が最終的に実現される段階」に行って、「行動対行動」原則に従ってアメリカ側が受け入れなければならないと主張する検証手順に対してもわざわざ言及した。
 一方、アメリカ側においては昨年末から朝鮮に対する特使派遣が取り上げられた。外交の方向の舵取りを行うことになるオバマ大統領もクリントン国務長官も、朝鮮との直接対話に否定的な立場をとっていない。

<アメリカの両者択一>

 「我が祖国は現在新しい飛躍の嵐の時代に入った。」2009年の3紙共同社説の冒頭の表現だ。朝鮮の最高指導者は、昨年末「強盛大国の大門」を開く「大高潮」を起こしていくことを全民に訴え、年初から全国各地の経済単位に対する現地指導を精力的に広げた。金日成主席の誕生100周年を迎える2012年を経済復興の時限に定めた最高指導者は、朝鮮半島非核化に関しても、それが金日成主席の遺訓であると公言したことがある。
 「変革」は、アメリカ政治家たちの専売特許ではない。
 検証問題をつかんだ外交的逆攻勢は朝鮮半島情勢の激動を予告している。「行動対行動」原則が貫徹される条件ならば、検証手順に関する論議に朝鮮側も応ずるだろう。問題は、「非核化が最終的に実現される段階」に行って適用されるようになる検証手順をどの時点において論議し、手順に対する合意が成し遂げられる場合にそれを行動に移す条件が備わっているかどうかだ
論理的な手順は、全朝鮮半島の非核化を実現する実質的な行動措置を前提にして、検証手順を合意することだ。朝鮮の立場においては、アメリカの対朝鮮敵対視政策が完全に放棄され、核脅威が除去されなければならない。現在は未だに非核化第2段階が仕上げられていない時点だ。非核化過程を膠着させ、第2段階完了以後、問題解決の段階別手順を長時間かかる長期計画に上程しながら「最終段階」の手順である検証問題のみ先に論じることは理屈に合わない。
 朝鮮が核兵器を保有していることは、否認することができない現実だ。オバマ政権が朝鮮の核保有を追認して現状維持を欲するか、関係正常化を通じた非核化を一気に実現しようとするかは予断することはできない。確実であることは、朝鮮側が敵対国のどのような選択にも対応する準備を整えて新政権の出帆を見守っているという事実である。

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